綾小路清隆♀のどうにかしたい教室へ   作:ぱや

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龍園さんって「おもしれー女っていうセリフが似合いすぎるよう実男キャラクター選手権」でNo.1じゃないですか(作者調べ) でもそれと同時に龍園さん自身がおもしれー男でもあると思うんですよね。とういうことで初投稿です。


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 龍園翔という男は、自分には【恐怖心】なんてものはないと思い込んでいた。

 その異常性に気づいたその日から、龍園の中には躊躇いと言う言葉も消えたのだろう。

 だが、人間とは── いや、生物とは、生まれながらに恐怖心を抱いている。

 それは理性的な話ではない。

 根本的なもの、すなわち本能によって刻み込まれているのだ。

 持っていないのではなく、まだ知らないだけ。

 一切の感情を持たない人間など存在しないのだから。

 

 それはオレも例外じゃない。

 あの特殊な環境で育ったオレに、感情を学習する機会はなかった。

 喜怒哀楽を文字列のみで理解し、しかしその表現方法を獲得できなかった。

 この学校に入って、オレはますます理解したよ。

 やはり、あの部屋の中にいては得られないものがある。

 あの狭い場所では知ることのできないものがある、と。

 

 龍園。

 恐怖心を理解できなかったお前にオレが機会を与えたように。

 オレは多分、お前から、恐怖心を学びたかった。

 

 だがあの3年間でオレは恐怖を真正面から学ぶ事はなかった。

 最期の一瞬、死の間際でさえ、オレに怯えはなかった。

 ただ死ぬことを実感し、向かいくる闇を受け入れる。

 味気ない人生だったかもしれない。

 意味のないストーリーだったのかもしれない。

 

 でも、得るものもあった。

 それはな、龍園。

 

 感情を理解できなくても。

 過程がどうだったとしても。

 

 最後に勝つのは『オレ』だと言うことだ。

 

 

 

 ─ 5 ─

 

 

 

「教えてくれよ綾小路。お前、どうやったんだ?」

 

 満席のカフェテリアで、許可も出してないのに相席した龍園を見つめ返した。

 この頃の龍園は、どちらかといえば小物感がすごかったな。

 みみっちいというか、爆発力はそんなに感じられなかった。

 でもこの男の真価は無人島試験で発揮される。

 泥に塗れ、痩せこけてでも仕込んだ巨大な罠。

 勝利するためならあらゆる労力を厭わないのが、この男の最も怖いところなのだ。

 

「あいにく、日本語が苦手なので。主語を入れてくれないか?」

「そういや帰国子女なんだってな? 日本での生活には慣れたか?」

「クラスメイトのおかげでなんとか。しかし、お前とは世間話をするような間柄ではなかったと思うのだが……龍園、くん」

「そう堅苦しいこと言うなよ。騙し合った仲じゃねえか」

「人違いじゃないか?」

 

 本当に人違いじゃないか?

 騙し合いではなかっただろう。

 少なくとも私は龍園に騙されていないのだから。

 

 それにしてもこいつ、1人か。

 この時期は石崎なりアルベルトなりを侍らせていた記憶があるんだが、珍しいこともあるものだ。

 

「つれないなあ、綾小路。天然か、それともわざとか……俺の建てたプランもそう悪くなかったはずなんだがな」

「やはり小宮たちのバックにいたのはお前なんだな」

「白々しい。わかってたんだろ? 俺の敗因があるとしたら、リサーチ不足だったな。お前の実力を測り損ねたことと、特別棟のセキュリティ更新を把握できなかったこと」

 

 おい龍園、私の頼んだスコーンを勝手に食べるなよ。

 

「そんなに睨むなよ。何も今すぐお前らを飲み込んでやろうって言ってるんじゃねえ。お前らは── お前は、最後に飲み込んでやるよ、綾小路」

「意味がわからない」

「わからなくていいんだよ、今は。ただ、お前らはターゲットになった。この俺の獲物になったって言ってんだ。喜べよ、綾小路? これからもっともっと、楽しくなるんだから。……な?」

 

 そう言ってスコーンをもう一つ食べる龍園。

 ここのスコーンは美味い。

 オレと龍園の思考は驚くほど似ていて、実は、食べ物の好みも広範囲で一致している。

 全く一緒というわけではないが、つまるところ味覚が近いのだ。

 私はここのスコーンが一番のお気に入りなわけで、それは龍園も同じだったのだろう。

 その証拠に3個目に手が伸びていたので、それをピシャリと叩いた。

 

「もう半分は私のだ」

「あ? ……くくっ、綾小路、お前……くっ、くく……」

 

 こいつ、意外と笑いの沸点低いのか?

 そういえばオレの時も変なタイミングで笑うことが多かったな。

 オレや葛城が普通のことを言っている時でも笑いが漏れてたのは、ひょっとしてこいつ、1人だけ漫才状態だったのか?

 そう考えると、お前──……。

 

「面白い男だな、龍園」

「そらこっちのセリフだよ、綾小路」

 

 笑いを噛み殺す龍園は、愉快そうな表情で私の胸ぐらを掴んだ。

 それからしばらく、私は龍園から視線を逸らすことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 龍園との遭遇から時を遡る。

 アレは須藤の一件が茶柱から伝えられた翌日。

 オレは朝のホームルーム前に平田を呼び出し、神崎や一之瀬たちから伝えられた話をした。

 CクラスがDクラスを罠に嵌めた。

 理由はどうあれ、須藤の無実が真実ならこの説は無視できない。

 

「そうか、Bクラスも……」

「神崎たちの話によると、今、Cクラスを率いているのは『龍園』という男らしい。そいつは有名なやつだって聞いたが」

「うん。噂程度だけど、僕も聞いたことがあるよ。どうも中学生の時から名の知れた不良だったみたいだね」

 

 龍園は粗暴な荒くれ者。

 目的のためなら手段を選ばない暴君であることは、Dクラス以外の他クラスは把握していたようだ。

 

「僕らはクラス内のことで手一杯で、情報が少ない。おまけに交流もない。仕方ないこととはいえ……出遅れた印象はどうしてもついてしまうね」

「ああ。でも、ここからいくらでも挽回できる。須藤の一件は確かに厄介だが、これを機にクラスがまとまったら良いと思うんだ」

「僕も綾小路さんの意見に賛成だよ。まだ須藤くんを受け入れられないクラスメイトもいるかもしれないけど、この出来事が良い方向に運べば、僕らのクラスはきっともっと、良くなる。……この件をみんなにも伝えようと思うんだけど」

「いいと思う。朝のホームルームで茶柱先生から時間を貰おう。放課後では遅いかも知れない」

 

 今後の方針を平田と決める。

 私もすっかり参謀役が板に着いてきたんじゃないか?

 今は平田をトップに置いているので実質的なNo.2になっているが、ゆくゆくは堀北を押し上げて、その下のNo.3くらいで収まりたいものだ。

 呼びにきた軽井沢とみーちゃんと共に教室に向かうと、堀北が私を待ち構えていた。

 傍らには須藤がいることから、須藤は散々考えて堀北に泣きつくことを選んだのだろう。

 いけすかない相手とはいえ、山内や池と比較したら比べ物にならないくらい頼れると思ったんだろうな。

 

「綾小路さん、話があるのだけれど」

「須藤、くんに関しての話なら、今日のホームルームで共有事項がある。それを聞いてから、私に話すかどうかを再考してほしい」

「……わかったわ」

 

 苦々しい顔で席に着く堀北。

 須藤は目を白黒させていたが、平田に促されると自分の席へと戻っていった。

 茶柱が来るまでせいぜい数分くらい。

 その間に済ませておきたいことが2、3件あったが、それは堀北によって再び中断させられた。

 

「あなた、何手先まで読んでるの?」

「……主語を頼む」

 

 と言っても、言いたいことは分かりきっている。

 須藤のことだろう。

 共有事項を聞いてから話せって言ったばかりなのに、こいつ聞いてなかったのか?

 【わかった】って言ってたのはなんなんだ。

 

「須藤くんの一件。正直にいえば私にとってはどうでもよかったわ。だって彼の自業自得だもの。クラスメイトに責められるのだって当然よ。定期テストで謝ったことを悔いるほどには私も憤っていた。変わる気がないなら見捨てるしかないとも思っていたわ」

「その口ぶりだと、考えを改めたようだが」

「ええ。正しくは変えさせられた、だけれど」

 

 茶柱が教室に入ったと同時に携帯の画面が明るくなる。

 通知1件。

 ……どうやら一之瀬は早速仕事をしてくれていたらしい。

 

「諸君、おはよう。さて、特に連絡事項はないので、挨拶程度に今日はこれで終わりにしようと思ったが──……平田、そして綾小路。クラス全体に向けて話があるようだな?」

 

 平田の名前だけを呼べば良いものを。

 私が協力的に振る舞っていたから茶柱もちょっかいをかけてこないと思っていたが。

 おそらく、近々呼び出されるだろうな。

 さて、今回は何を盾に脅されるのやら。

 

 内心でそう思いつつ、私は立ち上がった平田に続くように教壇へと移動した。

 

「須藤くんの件に関して。みんな、思うところはあると思うけれど、僕は、少なくとも僕と綾小路さんは須藤くんの無実を信じることにした。みんなに伝えたかった話は、まずはこれが一つ。二つ目は、僕らが須藤くんを無実だと思う根拠だ」

 

 平田の視線を受けて一つ頷く。

 

「実は昨日、Bクラスから有力な情報を教えてもらえたんだけど、どうやらCクラスは以前、Bクラスにちょっかいをかけていたらしいんだ」

「何それ、どう言うこと?」

「自習の妨害や付き纏いなど、Cクラス全体でBクラスの生徒に嫌がらせをしていたみたいだね。Cクラスの今のリーダーは龍園くん。あまりいい噂を聞かないけど、その周りにいるクラスメイトも武闘派が多くて、彼自身は好戦的なタイプのようだ」

「でもさ、Cクラスが格上のBクラスを突っつくのはちょっとわかるんだけど、ほら、あたしたちってCクラスよりもポイントとか少ないじゃん? なんで、あたしたちなわけ? それに、須藤くんに返り討ちにされる可能性あるんだから、狙わなくない?」

 

 やはり軽井沢は、場の空気を作るのがとてもうまい。

 平田の説明に口を挟む軽井沢は、さしずめクラスの代弁者とも言える立ち位置だ。

 でも決して平田の説明を妨害しているわけでもない。

 むしろ平田が話しやすいように話を広げているのだから、大したものだ。

 

「……今回の件は、まさに、軽井沢がいった通りのことを逆手に取られたんだ」

「どゆこと、綾小路さん」

 

 平田からの視線を受けて話し始めた私に、クラス中の視線が向く。

 私を見ていないのなんて高円寺くらいで、クラスのほぼ全員から見られることになる。

 居心地は決して良くないが、まあ、気にしている場合でもないか。

 

「おそらくCクラスは、【こいつなら本当にやっててもおかしくない】っていう人選をしているんだと思う」

「あー……ま、須藤くんならやりかねないってのはあたしもちょっとわかるかも」

「んだそれ!? やんねーよ!」

「なによ。でも今までの須藤くんの態度なら疑いたくもなるでしょーよ」

「あのなぁ……!」

「まあまあ、落ち着いて、軽井沢さん、須藤くん。綾小路さんも軽井沢さんも、もう須藤くんがそんなことをするような人だとは思ってないから」

 

 須藤の弱点は、この激昂しやすい性格にあるとしか言いようがない。

 こればかりは本人の天性の性格や生活環境によって積み立てられていくもので、変えるのは容易なことではないからな。

 でも須藤はこの弱点を克服できるようになる。

 堀北という存在を自身の心の門番とし、怒りを、感情をコントロールできるようになるのだ。

 そうなるためには、この一件は必要なプロセスと言える。

 

「須藤、くん」

「……なんだよ」

「Cクラスの、真の目的はまだ不明だ。でも、私たちは、君は嵌められただけだと思っている。……いや、そう思いたいし、信じたい。だからこの質問には、嘘偽りなく、答えてほしい」

 

 須藤、お前はここから変わる。

 ここがお前の転換期であり、お前の新しい出発地点だ。

 

「須藤、くんから呼び出したわけじゃ、ないんだな?」

「だからそうだって言ってんだろ! 俺は呼び出されただけなんだよ!」

「……わかった。平田」

「うん。須藤くん、僕らは君のその言葉を信じるよ。君は呼び出され、煽られ、ついカッとなって手が出てしまった。そうだね?」

 

 そうだ、と胸を張って頷く須藤に対して、待ったをかけたのは幸村だった。

 

「でも、本当にそうだという証拠はない」

「そうだね、現時点ではそうだ。でも、僕らも何も無策で言ってるわけじゃないんだよ」

 

 幸村も昨日、平田と共に茶柱に話を聞きにいった一人だ。

 だからCクラスの生徒が何を訴えてきたのか知っている。

 その上で茶番を演じているのだから、こいつもなかなかの演技派だよな。

 

「Bクラスの一之瀬さんを知ってる人はいるかな? ……うん、有名人だから知ってる人も多いよね。その一之瀬さんから協力を取り付けたんだ。僕らのように大事にはならなかったけど、実はBクラスでも類似する事件が起きかけたらしい。今回須藤くんに殴られたと主張しているメンバーとは別だったそうだけど、人目のつかない場所に呼び出され、罵倒されたと訴えられたそうだ」

「殴る蹴るの暴行はなく、罵倒の証拠もなかったから事件にはならなかったようだが……須藤、くんの一件に似てるとは思わないか」

「確かに……妙ね。立て続けにCクラスの生徒が被害に遭っているということだもの」

「そうなんだよ、堀北さん。被害が一クラスに集中しているのは不自然だ。だからってこれが証拠になるわけでもないけれど、糸口にはなるはずだよ。まずは目撃者がいないか探して、それと並行してCクラスの動向を探ろうと思うんだけど」

 

 平田が教室をぐるりと見回す。

 まだ須藤に半信半疑な生徒は多い。

 そりゃそうだ。

 信じる根拠と平田は言ったが、一切根拠になるような説明はされていない。

 信じたいと思いたい理由だけを(あげつら)っているのだから。

 しかし他にも被害を受けているクラスがいるという事実は結構大きく、それが根拠云々に関する意識を逸らしている。

 それに須藤が激昂しやすく、直情型の人間であることはすでに知られている。

 その須藤がここまで必死に否定し、そしてその否定をクラスのリーダーである平田が信じている以上、反論しようにもできないはずだ。

 ちょっと前までなら反論をいの一番に口に出すはずの幸村も、今はこちら側にいる。

 意見を求めているようで、この場はただの確認作業に過ぎないことを、私も平田も理解していた。

 特に誰も反対意見を出さないことで、平田がにっこりと笑ってホームルームを締め切る。

 

「近々、須藤くんの一件でCクラスの生徒と話す機会があるんだ。もちろん先生立ち会いの下だから安心してほしい。そこには同行者を2人まで連れて行けるってことで、僕と、あともう1人連れて行こうと思うんだけど、誰か一緒に行ける人いるかな?」

「綾小路さんが一緒に行くんじゃないの?」

「私はうまく弁論できない。だから今回は資料作成に注力する」

「うん。だからあと1人必要なんだけど、どうかな」

「あ、じゃあ私が──」

「私が行くわ」

 

 ちなみに弁論ができないから参加を見送る、というのは帰国子女の設定上は仕方ないことだ。

 別に面倒だから行かないわけじゃないぞ、違うからな。

 

 それより今は堀北だ。

 もう1人同行者を求めるタイミングで、櫛田を押し退ける形で名乗りを挙げた。

 櫛田がこのタイミングで名乗りを挙げようとした理由は簡単だ。

 

 【ここで同行者になることでクラス内での評判が上がるから】

 

 何せ櫛田はここまで空気だったからな。

 明るくて優しくて頼れるみんなの櫛田さんであれば、須藤の件は最初から首を突っ込んでいそうなものだが、櫛田は堀北の監視に気を取られてしまいすっかり私や平田との接点を無くしてしまっている。

 もちろん、誰にでも分け隔てなく優しい櫛田さんならば、途中から合流することだって可能だったはずだ。

 都合の良いことに平田もまた分け隔てなく優しい男で、協力者は多ければ多いほど良いと思う性質。

 でも櫛田が欲しいのは中途半端な頼られ方ではなく、依存に近いほどの高評価。

 合流するにしても、一番好感度が上がるタイミングをずっと狙っていたのだろう。

 

 堀北が名乗りを上げなければ、私が間に入って堀北を指名する予定だったが、その手間が省けて何よりだ。

 

「言いそびれていたけれど、私、須藤くんから既に相談を受けているの。だからCクラスとの話し合いがあるのならそこに同席したいわ」

 

 そう言う堀北だが、残念ながら彼女に対するクラス内の信用度は低い。

 なぜならこれまで不遜な言動が多かったからだ。

 定期テストの折、堀北は須藤への暴言に近い発言を謝罪している。

 だが、だからと言って堀北のこれまでの態度が無に返った訳ではない。

 信頼、信用は日々の積み重ね。

 櫛田か堀北かで言われれば、櫛田の方が穏便に話し合いを終えそうだ、という信用があるのだ。

 だから躊躇っている平田に、私はそっと耳打ちした。

 

「平田。堀北、さんは勉強会でも積極的に動いていたし、弁論にも強そうだ。堀北、さんが適任だと思う」

「そうか……うん、そうだね。それじゃあ堀北さん、当日はよろしくね」

 

 あっさりと不安感を払拭して頷く平田。

 

 堀北、これが信用テクニックだ。

 私と平田はもはやマブに近い関係性。

 やはりボディランゲージ、ボディランゲージは全てを解決するのかもしれない。

 

 これで今度こそホームルームは解散だ、と告げると、クラスメイトたちは緊張が解けたように各々くつろぎ始めた。

 だが私は見逃さなかった。

 一瞬だけ俯いた櫛田が、忌々しそうに堀北を睨みつけていたのを。

 

 

 

 

 

 

 さて、結論から言うか。

 

 須藤の一件は無事に解決した。

 

 方法?

 なんてことはない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()しただけだ。

 何? 特別棟のあの場所にカメラなんてついてなかっただろって?

 いやいや、ついている。

 正確には、新しく設置されたんだ。

 ダミーのカメラじゃ映像なんて撮れない、もちろんそれはわかっている。

 でも映像は撮れていたし、全員で確認もできた。

 どうやって、って、簡単なことだ。

 本物のカメラがついていた、それだけのことだ。

 

「よかったよ、カメラがついていて」

「それなあ! ったく、学校側も新しいカメラがついてたことくらい把握しとけよな!」

「まあまあ。でも容疑も晴れたし、これで一安心だよ」

「……まーな。あっちが停学程度ってのは、ちょっと納得いかねえけどよ。あー、でもわかってるぜ、俺が殴っちまったのもいけないんだってわかってっから。だからそんな目で俺を見んなよ堀北!」

「どういう目かしら。わかってるとは思うけど、二度目はないわよ」

「わーってるよ! ……堀北、平田、それから綾小路。世話んなったな。この借りは必ず返す!」

 

 頭を下げた須藤を見つめる平田の目は温かい。

 さながら保護者のような目だ。

 平田にとってはクラスメイト全員が自分より格下……いや、この表現は少し違うか。

 でも似たようなものだ。

 自分がコントロールしなくてはならない存在であると思っている。

 この場にいる堀北も、きっと私もその対象だ。

 それは平田の過去に原因があるわけだが── いずれそれを紐解いてまた立ち直らせる必要があるな。

 前回の平田は山内の退学を受けて塞ぎ込み、半ば廃人のようになっていた。

 だが今回はその(いとま)を与えるつもりはない。

 平田、お前はこのクラスのリーダー的ポジションになるんだ。

 立ち止まって俯くことは、私がさせない。

 こいつには早い段階で成長してもらう必要がある。

 そしてその成長の場はクラスメイトの退学ではなく、もう少しで行われる無人島試験で果たされるだろう。

 

 

 

 

 

「……綾小路さん、ちょっと待ってもらえる?」

「なんだ?」

「答え合わせがしたいの」

 

 今更定期テストの? なんていう茶番は不要か。

 堀北の背を追いかける形で歩く。

 辿り着いたのは特別棟だった。

 

「あなた、何手先から読んでいたの?」

「だから主語をつけてくれないか? 私はエスパーじゃないからな」

「須藤くんの一件よ。あなたには最初から結果が見えていたんじゃないの?」

 

 まさか、ととぼけて否定するのは簡単だ。

 でも今回は、そうだな、匂わせておくか?

 

「須藤、くんがやっていないことを信じていただけだ。それに対して必然の結果がついてきた」

「はっきり言って、須藤くんの素行を見ていたらどんなに言葉を重ねていても信用なんてできないものよね?」

「それは偏見では?」

「言葉が悪かったのは謝るわ。でも信用に足りる人物かと言われたら、私以外にも首を傾げる人間は多いでしょうね。須藤くんはそれだけ素行が悪かった。それをあなたは、証拠も何も出てきていない段階から彼を信じていた。もう正直に言うわ。これ、あなたが仕組んだんじゃないでしょうね?」

 

 なるほど、須藤とCクラスの諍いの段階から私が関わっていると思っているのか。

 それは大胆というか、無謀な考えというか。

 堀北の発言は、クラスの根本を揺るがしかねないものだ。

 今のDクラスは、平田をトップに置いてその補佐役、参謀役に私を置く体制になっている。

 小テスト以前、Sシステムの仕組みを早い段階で考察し見極め、看破した私の発言力と、それを聞き入れてクラスメイトの8割以上をコントロールしてきた平田の統率力。

 それによって率いられているDクラスに於いて、私を疑うのはかなりリスキーと言えるわけだが。

 

「そう発言するに足る根拠はあるんだろうな。そうでなければ、これは無用な争いなんだが」

「……根拠も証拠もないわ。率直に言って、これはただの勘。愚かよね、直感だけでものを言うのは。それでも言わずにはいられなかった。あなたの行動を見て、その視点の高さを見せつけられるたびに── あなたはあまりにも、知りすぎている」

「あなたが知らなすぎるだけ、という可能性は考えないんだな」

「な……ッ! ……いいえ、よしましょう。そうね、その可能性もある、あったのかもしれない」

 

 お、と私は軽く目を見開いた。

 驚いたな、堀北からこんな謙虚な発言が飛び出すとは。

 

「兄さんとの対話で、あなたが間に入ってきた時、思い知ったのよ。あなたは学力でも身体能力でも洞察力でも、私のはるか上をいっている。悔しいけど、認めるしかない。私はあなたより劣っているという事実を。それと同時に受け入れるしかなかったわ。私に欠点があり、それゆえにDクラスにいるのだという、忌々しい現実を」

 

 堀北という生徒は、オレから見てもポテンシャルの高い存在だった。

 初めはただの駒の一つだと思っていたが、その成長過程を見るのが3年間の楽しみの一つだったと言っても良い。

 だが序盤の堀北は本当に厄介で動かし辛い駒でしかなかった。

 おまけに櫛田という爆弾付き。

 だが、堀北は成長の積み重ねさえさせればとんでもないものに化けると思っていた。

 だからこそ、あいつへの助言は惜しまなかったんだ。

 

 目の前に立っている堀北は、オレの知る堀北よりは遥かに未熟。

 でも、向上心は同じくらいあるし、隣の席に自分よりも見識のある同性がいることで、堀北のライバル心に火がついたようだ。

 あえてコミュニケーションを取らないという選択肢が、こういう形で結果を出すとは思わなかった。

 いい傾向だ。

 早く成長して、私を楽させてくれよ、堀北。

 

「綾小路さん。私には目的があって、そのためにAクラスに上がりたい。本当は1人でも上がるつもりだったけれど、それが現実的でないことは、流石に理解できたわ。だから、このクラスでAクラスに行くしか他に方法がない。いいえ、このクラスでAクラスに上がってみせるわ」

「……そうか」

「あなたも、そして平田くんもAクラスに上がるつもりがある、そう受け取るけど、間違ってないわよね?」

 

 私はそのつもりだ。

 だが平田は……あいつはまだ、クラスの和睦を取るだろう。

 しかしそれを馬鹿正直に話す必要はない。

 私は神妙な顔で頷き、言葉を重ねるだけ。

 

「私は友達のために努力は惜しまないし、出し惜しみもしない」

「それが聞けただけで十分よ。……悪いけど、平田くんとの繋ぎ役をお願いしたいの。つまりどういうことかっていうと、私もクラス運営に携わらせてほしい。メンバーに入れたことを決して後悔させはしないわ。もし今後も勉強会をするというのなら、講師役だって引き受けてみせる。だから……」

「決定権はリーダーである平田にある。橋渡しはする」

 

 十中八九、平田は堀北を受け入れるだろう。

 それに関しては問題ない。

 徐々に堀北の影響力も強くして、いずれは平田とツートップに押し上げてみせる。

 私は2人を繋ぐ参謀役をこなしながら、選択肢によって変わった未来を楽しませてもらうとするか。

 

「……綾小路さん。最後に、一つだけ聞かせて」

 

 もう解散か、と思って堀北に背を向けると、階段の踊り場で立ち止まった堀北が口を開いた。

 私はそれに振り向くことなく、なんだ? と聞き返す。

 一瞬だけ間を空けた堀北は、意を決したようにまた私の名前を呼んだ。

 

「綾小路さん。須藤くんの一件をあなたが仕組んだとはもう思わないわ。でも、一つだけ、これだけがどうしても気になるの。この監視カメラ、設置されたのはここ2ヶ月の間だそうね。なんでも生徒から陳情があったとか? ここで生徒が迷子になっていたらしくて、ただでさえ人気(ひとけ)の少ない場所だから防犯の観点からもよくない、って話になったそうよ。それをね、()()()()()一之瀬さん経由で知ったのだけれど── あなたが陳情したの?」

 

 堀北よ、もしそれに対して私が「そうです」などと言ったら、もう答えだろ?

 仕組んだとはもう思わない、のではなく、仕組んだと勝手に確信しているだけだ。

 内心笑いを噛み殺して、私は振り返り際に首を傾げた。

 

「どう思う?」

 

 考えろ、堀北。

 今回のお前のスタートは、ここだ。

 

 

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

「……ああ、もう部屋に戻った。……うん、……うん。ああ、須藤の一件はどうにかなった。お前たちが協力してくれたおかげだ。……謙遜しないでくれ、お前たちがいなかったらもっと詰まっていた。特にお前には感謝してるんだ。アレがなかったら勝ち目なんてなかったからな。……それにしてもタイミングが良かった。まさか特別棟にカメラが付けられていたなんて……でも先生から聞いたぞ。お前が先生に陳情してくれてたんだろ? ── 神崎」

 

 そして時は流れ、無人島試験が、始まる。





おい!龍園さんに海外在住あるあるスキンシップが取れてねえ!
仕方ねえ、無人島試験前のクルージングで綾小路さんに水着を着てもらうしかないです。
待ってろ、おもしれー男・龍園さん!!!!

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