綾小路清隆♀のどうにかしたい教室へ 作:ぱや
改造に改造を重ねた、TS小路さんの二度目の無人島特別試験、はっじまーるよー!
ということで初投稿です。
「神崎には色々と世話になった。……だから、迷惑はかけたくないんだ」
無人島特別試験が開始されてしばらく。
私は平田と共に、Bクラスと一之瀬と神崎と向かい合っていた。
【協力関係を結びたい】という一之瀬の申し出に対する答えを、求められているのだ。
これは前回とは違った流れだ。
前回も1年生の間はBクラスと協力関係にあったが、その始まりは須藤の暴力事件だった。
一緒に捜査していく過程で結ばれたもの。
しかし、今回は暴力事件より前に私がBクラスと接点を持っていたことで、明確な協力関係にまでは至っていなかった。
だが無人島試験が発表される前日、私は平田と共に一之瀬に呼び出された。
そこで打診されたのが協力関係── 同盟を組まないか、という誘いだ。
その誘い方も前とは状況が大きく異なる。
堀北とオレではなく、私と平田なのだから。
けど、それは大した問題じゃない。
それより重要なのは、同盟の提案を
私に視線を向けた平田は、苦笑いを浮かべながら一歩前にでた。
「正直、クラスメイトの交友関係を束縛する気は僕にもないんだ。どのクラスの誰であろうと仲良くしても良いと思うし、むしろするべきだと僕も思っているよ。でも、こういった試験では、時にはその関係性が火種になることもあると思うんだ。……それに、今回は僕らにとって初めての大掛かりな試験ということもあって、慎重にことを進めたいと思っている」
「もちろん、平田くんの意見もわかるよ。でも、これとそれとは違うんじゃないかな? それにほら、同盟さえ結んじゃえば仲良くしててもいい、って思わない?」
「その意見もあるね。でもごめん。僕らには今回その余裕がないんだ」
「どういうこと……?」
もう一度向けられた視線に頷き返す。
平田は申し訳なさそうな表情をしながら、一之瀬に向き合った。
「実は、今Dクラスの間で綾小路さんと神崎くんの交友関係が問題になっている。……綾小路さんがクラスの内情をBクラスに流してるんじゃないか、ってね」
驚きに目を見開いた神崎が私の名前を呼ぶ。
それに返す言葉もなく、私は頼りなさげに俯いた。
─ 2 ─
船内にアナウンスが鳴り響いた。
指定のジャージに着替え、最低限の荷物を持ったまま船から降りるというアナウンス。
私も着替えたあと、みーちゃんや佐倉たちと共にゆっくりと船を降りた。
さて、無人島試験に集中する前に、今回発生した須藤事件を振り返ってみようと思う。
前回とは異なる選択肢を選んだことで、いくつかイレギュラーなことや異なる結果になったことがあった。
須藤事件はその最たるものだが、何も全てが全て全く異なる結果だった、というわけでもない。
まずは前回との相違点だ。
一つ目。佐倉のカメラが須藤事件発生前に壊れたこと。
二つ目。それにより佐倉が特別棟で自撮りをしていないこと。
三つ目。事件発生の現場となる特別棟に監視カメラが新たに設置されていたこと。
四つ目。事件発生の少し前に設置されたことで知名度がそれほどなかったため、龍園も気づいていなかったこと。
主にこの4点が大きく異なる。
小さいもので言えば、私が堀北とそれほど接点がないため、堀北が須藤の重要性に気づくのにワンテンポ遅れたこと。
櫛田の協力よりも先に一之瀬に協力を得られたこと。
須藤の弁護に平田と堀北が参加したこと。
挙げればボロボロと相違点は出てくるが、それ以前から前回と選択肢を変えていることもあって、許容範囲内だろう。
須藤の暴力事件が発生するという大きな流れが変わっていない以上、瑣末なことだ。
この須藤暴力事件が発生したことで、選択肢によって変わる未来の法則が少しだけ分かった。
というのも、おそらく大きな事件はよっぽど選択肢を変えない限りは必ず発生する、ということだ。
須藤暴力事件で言えば、須藤の喧嘩っ早い性格を矯正する、レベルの選択肢の変更をしない限りは必ず発生するのだろう。
逆に佐倉ストーカー事件に関しては、勉強会のシステムを前回から変更したため、佐倉と櫛田の接触が早まった結果カメラ破損のタイミングが前倒しになった、と考えても良いかもしれない。
佐倉が早めに私にストーカー被害について相談したのも、ほぼこの変更点による影響だろうな。
さて話を戻すが、須藤暴力事件の前回と今回の違いについて。
発生するまでの流れや発生後の流れも違うとなると、当然結果も変わってくる。
まず監視カメラの存在によってCクラス側から呼び出した事実、Cクラス側から煽った事実が明らかになったこと。
また、須藤は確かに殴りはしたが、Cクラスが訴えるような怪我を負ったとは考えられないこと。
Cクラス生徒の怪我は、十中八九、龍園が負わせたと考えるのが妥当か。
誰がここまでの重傷を負わせたのかに関しては、さほど重要なことじゃない。
大事なのは処分の内容だ。
前回は監視カメラをでっち上げ、それを元にCクラスの生徒を揺さぶった。
もし事件そのものが嘘であればCクラスの3人は責任を取らされて退学になるだろう、と説得── もとい、脅したわけだ。
須藤もヤラかしたことは事実なので処罰を受けるに違いない、だから今回は事件なんてそもそもなかった、ということにしてしまおう、と提案し、ことなきを得た。
だが今回はCクラス生徒の停学処分という形に変わった。
監視カメラの映像という動かぬ証拠があるからな。
停学で済んだのは、須藤が殴ったという事実があるからだ。
前ほどCクラスとの話し合いが混み合っていたわけでもなく、Cクラス生徒が嘘を重ねる前に監視カメラで真実が露呈したのも大きい。
それに、今回痛手を負ったのはCクラスだけじゃない。
Dクラスも、須藤が部活動3日間停止の処分を受けた。
はめられたとはいえ、手を出した事実もまた、監視カメラの映像によって消せない事実だからだ。
しかしこれは仕方ない。
須藤にとっても、暴力事件を起こしたら部活ができない、という圧倒的事実を再認識させるのにうってつけの処分でもある。
これによって多少は拳を振るう前に考えるようになるだろう。
それに、なあなあで終えた前回と違って、今回は相手に明確なダメージを与えられたため、須藤自身の不満も前回ほどではないようだ。
堀北への信頼度も上がっているようだしな。
しかし問題はその後のCクラスだ。
Dクラスは平田がリーダーを務めているという印象は徐々に根付かせているが、その助言をしているのが私だという事実もまた、広まりつつある。
龍園は情報収集が得意なこともあり、今回、特別棟で私が迷子になっていたという事実はすぐに掴んだようだ。
カメラを設置したのは私ではないが、まあ、龍園にとっては誰が設置したのかは関係ない。
誰にせよ、それを利用したという事実は同じだと思っているのだろう。
私が設置した、と言ってもあながち間違いでもないから、そこら辺を突っ込む気は特にない。
だがあの須藤の一件以降、私や平田はCクラスの生徒にマークされることが増えた。
特に話しかけられたりとかはないが、行く先々にCクラス生がいるのは厄介だ。
一度神崎と勉強会をしている時に写真を撮られたこともあったが、これに関しても
けれど、この無人島試験では、これを逆手に取ろう。
「綾小路さん、これ……」
「予感が当たってしまったようだな、平田」
「うん。試験の内容がどうなるかは別として、みんなに落ち着くよう言ってくるよ」
「頼む」
そうして前回と同じように、Aクラス担任である真嶋から試験についての説明が行われる。
すっかりバカンス気分でいたDクラスはもちろん、他クラスも動揺を隠せない。
まあ、退学者を1人でも出さなかっただけで
Aクラスの生徒の中でも半ば本気で信じていた生徒がいたのは驚いたが、しかし最初の1週間もたっぷりと遊ばせてもらったことを考えると、それも仕方ないことか。
「どうすんのこれ! どうすんの!?」
「マジありえないんだけど。明日はプール入ろうと思ってたのに〜!」
「劇場予約しちゃったでござるが!? なけなしのポイント叩いたのに……もしかして返ってこない!?」
試験開始の合図が出され、各クラスが集まる。
Dクラスはご覧のとおり、阿鼻叫喚だ。
だが平田がパンパンと手を叩くと、その騒ぎも徐々に静まっていった。
「みんな、聞いてほしい。まさか無人島サバイバル、になるとは思わなかったけど、試験があるんじゃないかっていうのは気づいていた。入学してからまだ3ヶ月ちょっとだけど、みんなも、この学校が普通じゃないっていうのは、もう分かっていると思う。そんな学校が、退学者が出なかったからって3週間も僕たちを遊ばせる、とは思えなかったんだ。だから船に乗ってからの1週間、あたりの景色を確認してもらっていた。気づいている人ももしかしたらいるかもしれないけど、船はこの無人島に到着するまでの間、島の周りをゆっくりと遊覧していたんだよ。……そうだよね、綾小路さん」
「ああ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! それって学校側が生徒に気付かせようとしていた、ってことか?」
「多分そうだ」
私が肯定すると、声をかけてきた幸村が顔面蒼白のまま叫んだ。
「どうしてそれをもっと早く言ってくれないんだ! 気づいていたんだろ!? 教えてくれていたら事前に打てる手もあったかもしれない!」
「幸村くん、どうか綾小路さんを責めないでほしい。僕も、クラスを混乱させたくなくて彼女に黙っているようお願いしたんだ」
平田が間に入るも、幸村はまだ何かを言いたげに口をパクパクとさせていた。
すると女子の塊から声が挙がる。
軽井沢だ。
「でもさー、無人島で試験あるかも! って言われて、へえそうなんだって納得できる? それに、島の周りぐるぐるしててもさ、何をどうすんの? スポットの存在とか、島見てただけじゃ予測できないしさ」
「島の形を撮影したり、覚えたりできるだろ……!」
「スマホもカメラも持ち込めないのに、撮影してどーすんの。それに覚えるったって……誰か、島の形ずっと覚えてられる人いるー? それとも何、幸村くんは島の形を把握した上で、どこに何があるのかわかるってこと?」
ここで幸村が押し黙った。
本人も無茶を言っているのは分かっているのだろう。
おそらく幸村がここまでヒートアップしているのは、幸村自身がこの1週間何にも気づかずに過ごしてきた、という自覚があるからだ。
試験の存在を教えてくれてたら何かできた、いいや、
定期テストの件から、幸村は自分がどうやったらクラスポイントを稼げるのか考えている。
だがコミュニケーション能力が高いわけでもなく、また、この時点では作戦の詰めが甘い幸村では、色々と厳しいものがある。
全てを自覚している訳ではないが、本人にも多少思うところがあるのだろう。
変わろうともがいて、変わりきれないことに焦っているのだ。
このまま無人島試験に入っても良い結果になりそうにない、という意味を込めて平田を見ると、こくりと頷きが返ってきた。
「落ち着いて2人とも。幸村くんがクラスのことを考えてくれているのは分かっている。そんな幸村くんと同じように、僕も綾小路さんもクラスのことを考えているんだ。試験があるかもしれない、と綾小路さんが気づいた時から、2人でいろいろなパターンを想定してきた。無人島サバイバルは流石に考えてなかったけど……さっきの試験内容の説明を聞いて、綾小路さんがいくつか策を考えてくれたみたいなんだ。それをみんなに説明したいんだけど……ここじゃ他のクラスもいるから、まずは移動しよう」
平田に促される形で移動を始めるDクラス。
その最後尾に立ちながら、私は平田に声をかけた。
「ここから南にまっすぐ行ったところに洞窟のようなものがあるのが見えた。まずはそこにいってみよう」
「── 綾小路、島の形を覚えたのか?」
驚いた表情で振り返った幸村に頷き返した。
すると近くで聞いていた須藤が「すげえ!」と声を挙げた。
「どうしたら覚えられんだよそんなん。もう綾小路がいりゃ楽勝なんじゃねえか? なあ、堀北!」
須藤の呼びかけに堀北は嫌そうな表情で背を向けた。
「昔から何かの形を覚えるのは得意だったんだ。……だが、悠長にしていられないな。私が島を見ていた時、実は近くにAクラスの生徒もいたんだ。もしかしたらその生徒も形を覚えるのが得意、という可能性もあるだろう。それに……」
「それに? それに、なんだ綾小路。隠さないで全部言ってくれ!」
焦りすぎだ幸村。
この堪え性の無さが、幸村の欠点の一つかもしれない。
「……島に、いくつか開けた場所が見えた。おそらくだが──」
「それってス──……! っいや、それ……す、スポット、なのか……?」
周りにまだ他クラスがいると思い出したのか、小声で聞き返した幸村。
その隣を歩きながら、私は「その可能性もある。詳しくは洞窟で話す」と返した。
それから洞窟に着くまでの間、幸村は静かにしていたが、洞窟に着いたタイミングで再び私の名前を呼んだ。
「どうしてお前は、Dクラスなんだ……?」
その苦悩に満ちた表情は、かつての堀北によく似ていた。
「── というわけで、この試験で僕たちDクラスが勝つためには、ポイントをできるだけ多く残すか、もしくはリーダー当てやスポットの占有で稼ぐか、になる。……そうだよね、綾小路さん」
「ああ」
洞窟に着いてから約1時間。
そもそも試験の概要について理解しきれていない須藤や池、山内らに簡単に解説し直した後、Dクラスに取れる戦法を説明した。
……平田が。
平田はクラスメイト全体に向けて「無人島サバイバルは想定外」だと言っていたが、これは嘘だ。
私は結構早い段階で平田に試験の話をしていて、無人島に着く可能性もあることを示唆していた。
そして無人島試験になった場合、どのような試験内容になるのかパターンをいくつか提示。
もしクラスポイントの増減方式になっていたとして、Dクラスのポイントはごくわずか。
守りよりも、クラスポイントを増やす方向で戦略を立てた方が良い、とは話してあった。
それを、無人島特別試験の内容を教師から説明された後、平田なりに噛み砕いだ結果がこの説明だったのだろう。
正直驚いた。
平田は元々素質のある生徒ではあるが、前回の無人島試験ではクラスメイトの和をとる事を優先して、戦略を立てるというところまで行っていなかったからだ。
あの頃は自分1人で和を保たなければならない、という思いでいっぱいいっぱいだったのだろう。
だが今は私がいる。
戦略の骨組みを私が立てていることで、平田は精神的負担が減っているのだろう。
良い傾向だ。
平田のリーダーシップもいい方向で発揮できているし、それに── 櫛田を大人しくできる。
櫛田桔梗という生徒は、他者から信頼を得ることに優越感を覚える人間だ。
そのためなら自分を偽ることすらする。
信頼を重ねることで自負が生まれ、それを盾にすることで安心できる。
だが、もし自分以上に信頼されている人間がクラスにいたら、櫛田はどうするだろうか?
平田は今、櫛田以上の信頼と信用がある。
定期テストの勉強会を提案し、須藤暴力事件では矢面に立って須藤をフォローし、そして無人島試験。
状況を的確に分析して説明できるというだけで、クラスメイトの安心感はずいぶん違う。
こいつになら、平田洋介になら任せられる、平田洋介について行けば大丈夫という感覚をクラスメイトに与えられるという強み。
もしこの時点で櫛田と平田が敵対したら、櫛田の首が締まっていくだけだ。
だから櫛田ができることは
この無人島試験中は。
「それで、僕らがとるべき戦略について、みんなに意見を聞きたいんだけど……」
「── 俺は『リーダー当てとスポット占有でポイントを稼ぐ』方向で良いと思ってる。……なんだ、その意外そうな顔は」
「ああ、ごめん。気を悪くしないで欲しいんだけど、僕はてっきり、幸村くんはクラスポイント保持派なんじゃないか、って思ってたんだ」
「……正直、悩んだ。無人島試験が始まった直後だったら、間違いなくポイント保持の方に回ったと自分でも思う。だけど、今は攻めるべきなんだと思ってる」
ちらりと私を見た幸村は、でもすぐに視線を逸らして平田に向き直った。
その横顔は悔しそうでありながら、しっかりと前を向いていた。
「うちには綾小路がいる。島の地形を覚えている綾小路が。平田はこの言い方は好きじゃないだろうが、あえて言わせてもらう。使えるモノは使うべきだ、と」
洞窟の中で一塊になっているクラスメイトを眺めた後で、幸村はさらに言葉を重ねる。
「俺は正直、綾小路には勝てない。このクラスで一番頭が良いのも、戦略に優れてるのも綾小路だと思う。試験に真っ先に気づいたのも……悔しい気持ちがないわけじゃないが、それと同時に、綾小路と同じクラスだったことにホッとしている自分もいるんだ」
「わかるわー。ね、佐藤さん、篠原さん」
うんうんと頷く佐藤たちを横目に、幸村は話を続けた。
「綾小路の記憶があれば、スポット占有はもちろん、どのクラスがどのスポットを占有しているのか、把握することもできると思うんだ。リーダー当てに関しては、方法はこれから相談していきたいが、各自スポットに待機して占有の瞬間を確認することだってできるかもしれない」
スポットに待機することに関しては、やれなくもないが効率的とは言えない。
それに、他クラスへの暴力行為は即失格のペナルティがあるとはいえ、その目に遭う危険性が全くないわけじゃないからな。
各スポットにクラスメイトを配置するのは効果的とは言えないだろう。
しかし、私の記憶を頼りにスポットを特定し、他クラスの動向を監視するという行為自体は間違いではない。
ポイントを減らさないようにする方法はスポットの位置を知らなくてもある程度できるが、ポイントを増やすには島の地形、地理情報を無視することはほぼ不可能といえる。
地理情報に関してはスポット以外にも、食料を得られる地点を特定するのにも役立つ。
どうするか、私に視線で尋ねる平田にまた頷き返して、私は口を開いた。
「リーダー当ての方法については再考すべきだと思うが、スポットがどこにあるかを把握することは、きっとクラスにとっても有利に動くと思う。それに、私もポイントを稼ぐ方針に賛成だ。正直、現在のクラスポイントに対して300ポイント丸々追加できたとしても、A、B、Cが持ちポイントを増やしてきた場合は……」
「格差が縮まることはない、か」
「そうだ。だから、必要ポイントは消費しつつ、それ以上にポイントを稼いでいく方針が望ましい、と思う。……覚えている限りの地形を、描き下ろす。それをベースに、食料のありそうな地点と、他のスポットの視察を、手分けしてやりたいと思うんだが、どうだろう、平田」
にっこりと笑った平田が、クラスメイト全員の顔を見渡した後に頷く。
無言の「いいかな?」に対して、反論する生徒はいなかった。
誰がどこにいくか、何から優先して探すか、そのチーム決めを平田が始めると、私の出番はここで一旦おしまいだ。
事前に噂話として【池はキャンプ慣れしてる】という情報を平田に吹き込んでいることもあり、うまい具合に池のことも活用してくれるだろう。
体力に自信のある須藤や小野寺も動員して、定期テストでは活躍できなかったメンバーに達成感を与える。
それもまた、この無人島試験で行うべきケアであり、それが学力特化の生徒に対して後々に有効に働くはずだ。
私は図面を描き下ろすことを理由に洞窟の外に出る。
学校側から配られていたカタログに付属している、メモ用紙数枚を全て使って描き進めた。
しばらく描いていると、洞窟から一つの影が伸びた。
「……高円寺。話し合いは終わったのか?」
「いいや? いまだに誰がどこへいくべきか、額を突き合わせて悩んでいるようだよ。まったく、愚鈍だと思わないかい?」
「そうか。じゃあ、高円寺も戻ってくれないか?」
愚鈍かどうかには触れず、高円寺に戻るよう促すと、高円寺は前髪を整えながら平然とのたまった。
「ハハハ……もちろん答えはノーだよ、綾小路ガール」
前回と変わらず自由人の高円寺は、おそらく今回もリタイアするだろう。
それに関しては仕方がない。
そもそもこの男を縛れるとは思っていなかったからな。
だが、いつまでもこいつだけを自由にさせておくと、後々面倒でもある。
こちらにはみーちゃんがいるので、最終的には役割を果たしてくれるとはいえ── 前回よりももっとスムーズに高円寺を活用したいものだ。
だから、しばらくは自由を許容する。
釣り合いの取れない【義務】だけを果たしてもらい、あとは本人の自由にさせるのだ。
そこから徐々に負担を増やし、つける鎖を重くする。
途中から気づかれたって構わない。
気づかれたって、高円寺はその鎖を甘んじて受け入れるほかないだろうから。
「高円寺ならすでに理解できていると思うが──
「……フフ、それで? 私は何を?」
「話が早くて助かる。……そうだな、実は、一つだけ思い出せない食料の供給地点があるんだ。その捜索と、それから、スポット占有を頼みたい」
「私はリーダーではないんだがねえ」
「いいや、お前はリーダーだ。お前が、リーダーだ。……今は」
高円寺が高笑いをする。
「まったく、面白いな、綾小路ガール。その大胆さは私好みだが、残念。怪物は対象外なんだ。諦めてくれよ、クレイジーガール」
「……なんで私がフラれたみたいになってるんだ」
再び高笑いをした高円寺が、私に背を向けて歩き出そうとした。
その背に向けて、私は一つだけ交換条件を垂らす。
「食料を探して、スポットも占有して。高円寺はとても苦労するだろうな。きっと明日には疲れ果ててしまうだろうから……明日の夜は船に戻っても、仕方ないな」
「……そうだね。風邪を引いて、とてもじゃないが試験続行できる状態には、ならないかもしれないねえ?」
今度こそ用はない、と言わんばかりに高円寺は木に飛び乗り、猿かと見紛うほどの身軽さで去っていった。
「綾小路さん、こちらはチーム分け終わったよ。大きく4チームに分ける、ってことでよかったんだよね?」
「ああ。ありがとう、平田。地図も描き上がったところだ。配布されたメモ用紙がもう少しあればさらにチーム分けできるんだが、洞窟内の準備をする人手も必要だから、ちょうどよかったのかもな」
描き下ろした地図の内容を説明したあと、チーム分けについて教えてもらった。
4チームのうち、リーダーは池、須藤、堀北、小野寺で分けたようだ。
キャンプ慣れしている池は食糧供給地の探索チーム。
飲み水の確保も仕事の一つだ。
須藤チームと堀北チームはスポットの確認が主な仕事。
スポットにすでに他クラスがついていた場合、須藤には何もせず帰ってくることを言いつけ、堀北には可能な限り観察することを言いつけた。
最後の小野寺チームは周辺に他クラスがいないのかの確認を頼んだ。
他クラスがいたら、地図上に時間と、どのクラスがいたかの情報を書き込んで撤退。
ある程度チェックが終了したら、池のチームに合流して食糧運搬を手伝ってもらう。
洞窟内にももちろん人手は残す。
力自慢の三宅には、ポイントを消費して購入することにしたテントなど、洞窟内の設置作業チームのリーダー。
軽井沢には得られる食糧で何を作るか、みーちゃんたち文系の生徒と相談してもらう。
平田は洞窟内の設置作業チームに入ることになり、私はカタログなどの備品の管理を行うことになった。
ちなみに櫛田は小野寺のチームに振り分けたそうだ。
小野寺は扇動されてもそれを鵜呑みにするようなタイプでもないし、同じチームの長谷部は私への好感度がやや高い。
山内は簡単に手のひらで転がされそうだが、これは想定内だから構わない。
他のメンバーも、松下はいざという時の勘は良いから、櫛田か私かを天秤にかけた時、どちらの方がAクラスに上がる確率が高いか考えるだろう。
その場合、学年内でも上位の成績を有するだろう私が欠けるのは、松下としては望ましくはないはずだ。
だからこちらも問題ない。
上手いチーム分けだ、と思いながら平田に共有事項を伝える。
「明日の夜、高円寺が抜ける」
「……それは」
「ペナルティは30。だが挽回できない数字ではないし、それに、ちょうど良い」
「どういう……」
戸惑いの表情からすぐに真剣な表情に切り替えた平田に、私はリーダーの仕組みを語ろうとして、やめた。
こちらに向かってくる足音が聞こえたからだ。
「おー、いたいた! 綾小路さん、平田くん! Dクラスはこっちにいたんだねー!」
「……一之瀬さんに神崎くん。2人とも、どうしたんだい?」
にこやかに対応しながらも、平田は持っていた地図を隠した。
流石にバレるわけにはいかないと思ったのだろう。
賢明な判断だ。
「にゃはは、昨日のことでちょっと、ね。まさか同盟を申し込んだ翌日にこれとはねー」
そして、話は冒頭に戻る。
「── 綾小路さんは、うちのクラスの参謀ともいえる役割を担ってくれている。彼女が揺らぐのは、僕らクラス全体の問題なんだ。神崎くんが悪いわけじゃない。もちろん2人の間にやましい取引があるとは思っていない。でも……でも、今はタイミングが悪すぎるんだ」
どうかわかってほしい、と平田が神崎を見つめる。
神崎はまだ戸惑ったままだったが、
「悩ませて申し訳ない、綾小路」
「神崎のせいじゃない。こちらこそ、不要な心配をかけてしまって、申し訳ないと思ってるんだ。誤解は必ず解く。その時にまだ、Dクラスと同盟を組んでくれるというのなら──……」
「うん。その時は僕たちの方から、Bクラスに同盟の申し入れをさせて欲しいんだけど、いいかな?」
「私は全然オッケーだよ! 神崎くんは?」
「……俺も問題ない。それより、綾小路も、あまり気にやまないでくれ……俺は、その、本当に気にしてないんだ」
「……ありがとう、神崎。お前は本当に優しいな。Bクラスで初めてできた友達が神崎で、私は恵まれている」
そういって軽くハグをすると、一拍置いて神崎が抱き返してきた。
初めてスキンシップをとった時よりはスムーズになっている。
慣れてきたのだろう。
元々順応力の高い男だ。
積極性さえあればAクラスに振り分けされていただろう。
だが前回の神崎は1年生時は消極的で、変わることに、変えることに臆病だった。
しかし一つ変化を受けれてしまえば、誰よりも力強く前に踏み出すことができる男でもあった。
「綾小路さん、そろそろ」
「……ああ。それじゃあ、神崎、一之瀬」
「うん! こういうのも変かもしれないけど、お互い頑張ろうね!」
平田と共に頷き返して、私たちは洞窟へと戻る帰路についた。
「断ってしまってよかったのかな」
ポツリと平田が漏らした。
正直いって、Bクラスとの協力関係は有利に働くこともあるにはある。
一之瀬という信頼・信用の天才とも言える存在が近くにいるだけで、得られる情報の信憑性は保証されたも同然だ。
だが、逆を言えばそれだけだ。
Bクラスは一之瀬の存在感が特筆しているだけで、その他の生徒の影は薄い。
体育祭で活躍する柴田のような生徒もいるが、ほんの一部だ。
リーダー役である一之瀬の存在感が大きすぎることもあり、平凡平穏にまとまりすぎたクラスとも言える。
それを改革しようとした神崎や姫野のことを考えると、その苦労は筆舌に尽くし難いだろう。
しかし乗り越えることができれば、どのクラスよりも頑強で、かつ怖い存在になり得るかもしれない。
でもそれはもしもの話だ。
可能性があったとしても2年生。
1年生のいま、Bクラスと組むメリットは少なすぎる。
「神崎とのことが噂されているのは本当だ。残念だが、強い影響力を持っている櫛田が、他の人に話しているのを聞いてしまったからな。櫛田からすれば世間話程度だったかもしれないが、受取手がどう考えるかは別だ」
「そうだね。櫛田さんは単なる噂だと思っていても……噂というのは尾鰭背鰭、つくものだから」
ちなみに櫛田が噂していたのを聞いたというのは真っ赤な嘘だ。
……いや、あながち嘘でもないか。
そう、今夜にはおそらく、噂が広がっているだろう。
そして噂の発信者は── 山内だ。
ドラゴンボーイさん大興奮の綾小路さんの水着姿ですが、原作4.5巻みたいな番外編って形で無人島試験後に投稿していこうと思います。代わりに神崎くんにスキンシップ取ってもらったのでこれで勘弁してクレメンス!
TS小路時空の別視点で気になるものあったらポチっとな
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哀れTS小路の手駒・平田くん
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哀れTS小路の友達・神崎くん
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哀れTS小路被害者・堀北さん
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哀れTS小路被害者・櫛田さん
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哀れTS小路の類友・龍園さん