綾小路清隆♀のどうにかしたい教室へ   作:ぱや

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コロナの後遺症で苦しんでたら10月になってたので初投稿です。
山内くん? ああ、あいつは良いヘイトグッズだったよ……。


3

「全部Bクラスに情報流れてたりして」

「ッ春樹! お前、自分が何言ってんのかわかってんのかッ!?」

「うわ……ッ! お、おいおい! ど、どうしたんだよ健! こん、こんなのただの雑談じゃねーか、なっ?」

 

 須藤に胸ぐらを掴まれたまま、へらへらとした表情で言う山内。

 どうやらこの男には、この場の空気が読めないようだ。

 男女ともに、クラス中から注がれる冷ややかな眼差し。

 

 【綾小路は神崎経由でBクラスに情報を流している】

 

 夜、池チームが見つけた食糧を使ったバーベキューの最中、そう言い放った山内の表情は悪意が滲んでいた。

 

 私は別に、クラスメイト全員から好かれているとは思っていない。

 人間である以上、好悪どちらも向けられるのは当たり前だと思っている。

 誰にでも好かれていると思われていた櫛田に対してさえも、苦手だと溢す人間がいるのだから。

 

 クラス内の貢献度が低く、内心では男より優れた女を嫌悪している山内からすれば、私の存在は最悪と言える。

 クラスへの貢献度が高く、山内よりは断然学力も高い。

 運動もでき、コミュニケーション能力もそう悪くなく、愛想は良いとは言えないが信頼されている。

 そんな私という女の存在は、表面はともかく心の中では受け入れ難いものだったのだろう。

 そしてそれに賛同しているクラスメイトも少なからず存在する。

 須藤に詰め寄られている山内を見て、そっと視線を逸らした男女数人をちらりと見て、その顔を覚えた。

 

 必死の抵抗ゆえか、声を荒げる山内の背後で、深いため息が響く。

 間もおかず口を開いたのは幸村だった。

 

「……情報を流しているのはお前なんじゃないか、山内」

 

 その瞬間、クラス内の空気ががらりと変わった。

 内心は私を嫌っているクラスメイトですら驚愕した目で山内を見る。

 私に対する山内の発言は、その実クラスメイトは一切気に留めてもいないのだろう。

 ほぼ難癖に近いことだと理解していたからだ。

 

 ── まさか、あの綾小路清隆が裏切るわけない。

 

 そんな確証のない信頼は、けれど、私が積み上げてきたこれまでの実績で肯定される。

 もっとシンプルに言えば、山内より私という存在のほうがはるかに信頼されているということだ。

 だから私への好悪がどうであれ、クラスメイトはそのあたりを注視していなかったのだろうな。

 しかしここにきて、私の裏切りを指摘した山内本人に裏切り疑惑がかけられた。

 当然、動揺するし、焦る。

 最初に詰られていた私が怯むことなく立っている事と対照的に、山内はひどく汗をかいて、とてもまともそうには見えないことも、クラスメイトの動揺に拍車をかけているのだろう。

 一瞬だけフリーズした山内が幸村に食って掛かるころには、クラスメイトの視線はさらに冷ややかなものへと変わっていた。

 

「は!? なん、なに言ってんだよ幸村!」

「Aクラスの生徒と接触してるって噂じゃないか」

「え……っは、な、なん、っだよソレ! デマだよ! だいたい、俺が、なんで!」

「ポイントを貰えるって言われたんじゃないのか? お前、カツカツなんだろ? 小野寺から聞いたぞ。探索中に(はぐ)れたって」

「それはたまたまだよ! なあ、そうだろ博士! ……なんで目ぇそらしてんだよ!」

 

 須藤も池も沖谷も、誰もが山内を助けようとしない。

 その様子に絶叫する山内を見て、耐えきれないと言わんばかりに平田が手を叩いた。

 

「みんな、落ち着いて。……山内くん、クラスの輪を乱すような行為はしないで欲しいな」

「な、だって、平田も知ってるだろ!? 綾小路のやつが他クラスのやつと仲良くしてんの!」

「他クラスに友人がいるのは僕も一緒だよ。つまり、僕も他クラスに情報を流してるって思われてるのかな」

 

 山内が押し黙る。

 このクラスには私や平田以外にも、他クラスに友人を持っている生徒が複数人いる。

 バスケ部に所属している須藤をはじめとした部活所属組に、櫛田のように全クラスにある程度友人が散らばっている生徒もいるのだ。

 他クラスで仲良くしている相手がいるというだけで責められているなら、平田も、須藤も、櫛田も、条件は同じだ。

 

 シン、と静まり返ったクラスメイトを見て、私は口を開いた。

 今、この瞬間こそが、もっとも効果がある。

 

「……誤解させるような行動をしたのは申し訳ない」

「綾小路さん」

 

 頼りなさげに眉を下げた私の肩を、平田がそっとつかんだ。

 首を横に振って、こぶしを小さく握る。

 

「だが誓って言う。()()、このクラスを裏切ることはない。このクラスでAクラスに上がりたいんだ。そのために全力を尽くしている。けど……」

 

 視線を下に向け、手を振るわせ、私は言葉を吐き出す。

 

「すごく、すごく、ショックだ」

 

 その瞬間、鋭い視線が、山内を貫いた。

 

 

 

 ─ 3 ─

 

 

 

 山内春樹という人間に対して、もはや抱く情はない。

 オレだった時ははじめこそ友人という関係性ではあったが、時が経つにつれてそれもなくなり、体育祭の後からはただのクラスメイトに成り下がったも同然だと考えている。

 そもそも友人とはいっても、向こうからしたら自分より格下の男にやさしくしてやっていた、という感覚に近いのではないだろうか。

 つまり、自尊心を満たすためのただの餌というわけだ。

 そうであることが第三者にも露呈したのが、あいつが退学することになったあの特別試験に他ならない。

 坂柳にはめられた、という側面もあるだろう。

 だがしかし、そもそも山内には自制心も、他者を慮る意識も欠けていた。

 遅かれ早かれそういう結末にはなっていただろうし、その時、やり玉に挙げられていたのがオレだった、というだけの話なのだ。

 

 何が言いたいのか、まどろっこしくなってしまったがつまり── 私は、オレと同じように山内春樹を捨てるつもりでいる、ということだ。

 

「ああ……まさか、ほんとうにこんなことになるなんてね……」

「迷惑をかけてすまないな、平田」

「ううん。君のせいじゃない。クラスは40もの人間の集まり。それぞれがいろんな感情を抱えているものだから。……けど、参ったね。山内くんのこともそうだけど、正直、ほかのクラスメイトも……」

 

 表情を暗くした平田に同意するように、私は短くうなずいた。

 

 あの時、私の言葉の後。

 山内は視線に耐えかねたのか、俺は悪くない、と叫んで、おもむろに一人の生徒を指さした。

 

「俺は裏切ってねえんだ! 本当なんだよ平田ぁ……! 俺は、俺は、綾小路が裏切ってるんじゃないかって、そう言われて……なあ、そうだよな── 櫛田ちゃん!」

「えっ」

 

 櫛田桔梗が肩を跳ね上げた。

 まさかここで自分の名前が出てくるとは思っていなかったのだろう。

 そうだろうな、だってお前は、きっと山内は自分のことを隠し通してくれるだろうと思っていた。

 それだけの魅力と関係性がふたりのあいだにあるのだと、信じ込んでいた。

 ……まだ未熟だな、櫛田。

 人間なんて、追い詰められたら最後、何を口走るかなんてわからない、そんな生き物だと知っていたはずのお前が。

 山内が裏切り者であることが浸透しつつある中で贄に差し出された。

 お前が思っていた以上に、山内の中でお前の影響力はそう強くなかった。

 そしてお前が想定していた以上に、山内という男は自分の利益を優先するタイプの男だった。

 それだけのこと。

 

 しかし挽回のチャンスはまだある。

 言い訳は山のように用意しているはずだろ?

 

 そんなつもりじゃなかった、とか。

 自分もたまたま聞いた話で、とか。

 山内が信じるとは思わなかった、とか。

 

 それこそ、誤解させるようなことを言っちゃってごめん、と涙を流すかもしれない。

 上手くいけば悲劇のヒロインだ。

 山内は冗談も通じないやばいやつで、その罪を櫛田になすりつようとしている、とな。

 櫛田桔梗という女が積み立ててきた『信頼』という武器は、このクラス内では山内の存在価値よりも高いだろう。

 悲しそうな表情一つで、櫛田が信頼を勝ち取ることも無理な話ではない。

 

 でもそれは、相手が私じゃなければ、だ。

 

 私がオレだったころならクラスメイトはあっさり言いくるめられていただろうが、残念ながら、私には『平田洋介』と、その彼女である『軽井沢恵』という最高のカードがある。

 平田に関しては言うまでもない。

 参謀役であり、同志であり、友人である私の存在は、平田の中でかなり大きくなっている。

 誰よりもクラスの平穏、平和、調和、管理を優先し、望む平田洋介という男にとって、その望みを最適な方法で叶えられるだろう私は、有耶無耶にはできないほどの価値がある。

 軽井沢も似たようなものだ。

 彼氏である平田が信頼しているクラスメイトであり、クラスの女子カーストの中では結構な上位に入る私という存在を、軽井沢は、()()()()()()()絶対に無視できない。

 もし私と対立することがあれば、()()()()()()()()()()()は、きっと軽井沢を守らないと理解しているからだ。

 だから内心怯えながらも、常に私の利になるよう動いていくしかない。

 

 どう上手く言い訳をしようが、櫛田の信頼度は揺らぐ。

 下がらないにしても、容易には上がらなくなるだろうな。

 今は表面上たもたれていても、平田が、軽井沢が、その傷を少しずつ広げていく。

 

 感情が爆発しないようにするためか、櫛田は両手を強く握りながら、必死の弁明をくりかえす。

 多くのクラスメイトはなんとかその説明で納得しようとしていたが、当然、軽井沢たち一部の生徒は納得しない。

 

「櫛田さんさー、悪気がないのはわかったよ。いっちばん悪いのは山内くんなワケだし? でもさ、ちょっとやばいのは自覚したほうが良いと思う。うちのクラス、めっちゃ綾小路さんに助けられてんだから」

「……うん、わかってる、つもりだったんだけどね。本当にごめんね、綾小路さん。みんなも、かき乱しちゃって」

 

 櫛田は泣いた後だからか、目元を赤くして私に謝った。

 それに鷹揚に頷く。

 誤解させたこちらも悪かった、と安堵の滲むような声で返すと、櫛田は小さく笑った。

 

 だが、そのこぶしが強く握られていたことを、私は見逃さない。

 

 櫛田。

 お前の敗因が何か知りたいか?

 それは山内を駒に選んだこと?

 私をターゲットに選んだこと?

 私が裏切り者かもしれない噂を流したこと?

 その噂が想像以上に信憑性に欠けていたこと?

 

 ……いいや、違う。

 お前の敗因はひとつ。

 

 ()()()()()()だ。

 

 クラス内外の信頼度はもちろん。

 勉強も、運動も、私はしっかりとクラスに貢献してきた。

 オレだった時にお前が埋めていたいくつかの関係性を、お前が摘み取るよりも前に私が手中に収めた。

 今頃お前は、私が憎くて仕方がないのだろう。

 自分が立つはずだった場所に私がいて、自分が得るはずだったものを私が持っていて。

 そのことに激しく嫉妬しているはずだ。

 私という存在に危機感を覚え、恐れ、邪魔で邪魔で仕方ないと思っている。

 

 だがそれと同時に、こうも思ってるのだろうな。

 

『綾小路清隆という女がいれば、Aクラスまであがれる』

 

 と。

 いちばん憎いだろう堀北鈴音も秀才だ。

 彼女の能力はきっとこれからの試験に役立つだろうと櫛田も理解している。

 だがその理解を上回るほどの激情があって、それゆえに櫛田は堀北を排除しようとしているわけだ。

 これまではどうにか穏便に済ませる方法も考えただろうが、私がいれば問題ないことが分かった今、もう櫛田に迷いはない。

 

 堀北を退学させてしまおう。

 

 退学させてしまっても、ほら、クラスには平田もいて綾小路もいる。

 問題ない、堀北がいない程度で、クラスは止まらない。

 

 そう知ってしまった。

 気づいてしまった。

 

 あの握られていたこぶしには、そんな歓喜も混ざっていた。

 櫛田はこれから、私をいったんターゲットから外すだろう。

 逆に、私と仲良くしようと常に側に居座られるかもしれない。

 表面上でみれば、傷つけてしまった私への罪滅ぼし。

 だが内心は違う。

 堀北を確実に屠る算段を、私のそばで弾き出そうというわけだ。

 

「これから荒れるな」

「だろうね……なんとか、平和的に解決したいよ」

 

 回想から現実に戻った私の言葉に、平田のため息が重なる。

 まだ無人島試験は始まったばかりだったが、早くも、平田クラスは混沌に落ちていく予感がした。

 

 

 

 

 

 あれから三日が経過した。

 予定通り、いや、()()()平田クラスからリタイアが出ていた。

 食糧探索を任せていた高円寺が、点呼時刻まで戻ってこなかったのだ。

 体調不良によるリタイアとして報告されたが、私も、そして平田も真相はわかっている。

 というより、高円寺は私がリタイアするよう誘導したようなものだ。

 

 前回の無人島試験。

 結果としてDクラスは、他クラスの策略を逆手にとって高ポイントを勝ち取った。

 端的に言えば、リタイアの仕組みを使っただけなのだが……今回もそれと似たような作戦をベースにすることにした。

 前は堀北をリーダーに、あいつをリタイアさせることで『必然』のリーダー交代を引き起こした。

 リタイアにはペナルティがつくが、しかし、リーダーの交代条件を違和感なく成立させることができるメリットがある。

 しかし、この無人島試験において大きな意味を持つポイントを、おいそれと消費することはできない。

 クラスメイトにも後々この作戦の意味とポイント消費の正当性を主張しなければならないし、消費分を別のことで補えればそれが比較的楽にこなせる。

 そのため、この作戦と同時進行で各スポットを積極的に占有することにした。

 幸い、私の頭の中にはこの島の地図がある。

 平田たちにとっては初めての無人島試験だが、私にとっては過去にすでに攻略したステージだ。

 すでに把握したスポットの位置を、初日から自由にさせている高円寺に占有させる。

 高円寺は不幸にも体調不良に陥ってしまったからな。

 そうなるまでに役立ってもらった。

 占有後は8時間ごとの更新が必要となるが、高円寺リタイア後はリーダー役を引き受けた私がそれを担当。

 積極的に動いていくことでリーダーはバレやすくなるが、カモフラージュとして堀北を動員することで表面的な誤魔化しは利く。

 とはいえ、本当は元から誤魔化そうとも思っていない。

 バレてしまっても問題はないし……D()()()()()()()()()()()()()への餌としては、十分といえるだろう。

 

 そう、私は、いや、私たちは今回、伊吹を受け入れない。

 もちろん心優しい平田は受け入れも考えるだろうが、ただでさえクラス内で山内や櫛田という不安要素を抱えている今、積極的に受け入れようとは思わないだろう。

 櫛田とて、一度クラス内で心象が悪くなってしまったからには、ホイホイと提案もできない。

 なぜなら櫛田には、伊吹が、もっというとCクラスが何をやろうとしているのか、うっすらと理解できているはずだからだ。

 伊吹は必ずやらかす。

 そうなった時、招き入れた者にはクラスメイトからの疑いの視線が注がれる。

 これ以上疑われるわけにはいかない櫛田は、一体どうするんだろうな?

 その様子を見てみたい気もするが、今回はパスだ。

 私は伊吹を受け入れない代わりに受け入れ先を提供することにした。

 

「平田、先ほど見つけた伊吹についてだが」

「うん。綾小路さんの提案通り、受け入れてもらおう── Bクラスに」

 

 オレだった時は『お互いのリーダーは指名しない』協力関係にあったBクラスこと、一之瀬クラス。

 だが私は協力関係を結ぶことなく、積極的にリーダー指名もするつもりだ。

 しかし最初から敵対意識を向けるのは、のちの行動に差し障る。

 だから表向きは協力し合いながら、徐々に、一之瀬クラスを毒していくつもりだ。

 そんな一之瀬クラスはすでに金田を受け入れている。

 スポットの占有更新のカモフラージュをしに行った堀北から、その報告をすでに受けていた。

 私と平田は話し合いの末、拾った伊吹を一之瀬に受け入れてもらうことにした。

 

「うちで、かぁ……」

「かなり難しいぞ、一之瀬」

「そうだよねえ……もう金田くんいるし……でも同じクラスだから、できるだけ一緒に保護したほうがいいんだろうけど。平田くんたちのクラスじゃ、難しいのかな?」

 

 当然の問いに、平田が申し訳なさそうな表情で謝った。

 

「できることなら僕らのクラスで受け入れたいんだけど、反対意見がどうしても多くてね。それにちょっと、クラス内が荒れたばかりで……一之瀬さんたちに弱みを晒すようで情けないんだけど、正直、余裕がないんだ。だから一之瀬さんたちに伊吹さんを託したい。もちろん、ただでとは言わないよ。僕らの知っている食糧供給ポイントの一つを提供する。それでどうかな」

「食糧の……それは結構大きいね。うーん……私としては受け入れても良いと思うんだけど、神崎くんはどう?」

 

 神崎の表情は固い。

 それはそうだろう。

 金田を受け入れていることで、一之瀬クラスは決して余裕のある生活が送れているわけではないはずだ。

 これ以上の負担を回避したいという神崎の考えは、至極真っ当だ。

 しかし、だからこそ食糧供給ポイントの提供は、生活に余裕を持たせるためには必要なことだということもまた、理解している。

 

「受け入れよう。食糧共有ポイントのことを知れば、反対する者もいないはずだ」

「よし、決まりだね! 平田くん、綾小路さん、大丈夫だよ。伊吹さんは私たちに保護する。ただ約束通り、供給ポイントだけよろしくお願いします!」

「ありがとう、一之瀬さん、神崎くん。僕たちもこれでようやく肩の荷が降ろせたよ。伊吹さんとの対面は、供給ポイントを教えてからの方がいいよね? 僕が案内するよ」

 

 嬉しそうに頷いた一之瀬が、神崎を引き連れて平田と供給ポイントへと向かう。

 私は伊吹の引き渡しが決まったことをクラスメイトに報告するため、ひとりスポットに戻ることになっていた。

 その去り際、神崎が私の方を振り向く。

 何か言いたげなその顔は、多分、神崎の方にも山内がしていたようなあの噂が届いたからだろう。

 だがそれには気づいていないように振る舞いながら、私は神崎に小さく手を振った。

 

 さて、クラスの方は今どうなっているだろうか。

 受け入れはしないが、見つけたからには放置できないという理由で、一時的に伊吹をスポットに招いている。

 あと少ししたら一之瀬クラスへと移動させたいことは、事前に伊吹に伝えていた。

 だから伊吹には時間がない。

 合流できない上に、すでに金田が忍び込んでいる一之瀬のところに送られるのはあまりにも無意味だ。

 一体どうしたら良いか。

 無人島内での動きで、リーダーは堀北か私のどちらかであることは絞り込めている。

 あとはキーカードの写真を撮るだけ。

 どうしても写真を撮りたい伊吹は、この短時間の間にひと騒動起こそうと企むだろう。

 その駒として最適なのは誰だ? 山内だ。

 試験開始と同時にやらかしたことで、表面上は無人島試験前と変わらないように見えても、山内への視線は冷ややかなまま。

 それに対して決して居心地が良いとは言えない山内は、自分の環境を変えるために熱心に伊吹に話しかけ、関心を持たれようとしていた。

 そのことに気づいてしまえば話は早い。

 言葉巧みに山内を操り、誰がクラスのリーダーなのか、復讐したくないのかと煽っていく。

 やがて山内はちょっとした出来心で、私がカモフラージュのためにスポットに隠したキーカードを伊吹に渡してしまうだろう。

 リーダーが当てられたことでペナルティを受けた時、内心で私を馬鹿にしたいという一心だけで。

 たったそれだけのことで、山内はどんどん自分を追い詰めていくのだ。

 

 スポットに戻った時、さりげなく周りを見渡す。

 食糧を調達するために出払っているクラスメイト以外はほぼ揃っている。

 いないのは伊吹と── 山内だけ。

 

「伊吹と山内は?」

「水を飲みに行っているわ。最初は私たちで川に案内しようとしたんだけど、山内くんがやるといって聞かなかったのよ」

「まあ春樹のやつもクラスの役に立とうとしてるんだろ。あいつがやらかしちまったのはダメなんだけどよ、ま、あいつなりにどうにかしたいって気持ちがあるんじゃねーか?」

「そうかしら? 事情を知らない伊吹さんへの下心があるように見えたけれど」

 

 どうやら堀北は山内のことを完全に見放しているようだ。

 勉強会での態度も納得いっていなかったようだし、元から燻っていたものが決定的になったというところか。

 ひとまず2人のことはおいておいて、私はその場にいるメンバーに伊吹に関する話をした。

 Dクラスには置けないため、一之瀬率いるBクラスへ託すこと。

 その見返りとして食糧供給ポイントの一つを手放すこと。

 クラスメイトから反対意見は出なかった。

 うちのクラスが今、伊吹を受け入れるのに適していないことは、他のクラスメイトもわかっていたのだろう。

 一之瀬が迎えに来るので、それまでの間は伊吹を預かることを伝え、私はその場を後にした。

 伊吹にこのことを伝えるためだ。

 2人は川辺へと向かったそうだが、おそらくいないだろうな。

 キーカードを隠している小箱は確認しなかった。

 わざわざ開けなくても、2人があの場にいなかったことが、答えの全てだったからだ。

 

 

 

「……さて、伊吹は無事一之瀬たちに合流できただろうか」

 

 予想通り伊吹も山内もいない川でひとりつぶやく。

 サラサラと流れる川の水は冷たく、暑い季節には有難い。

 私は今、川で汗を流していた。

 どうせ()()()()()川だ。

 クラスのために西へ東へと走り回った私は汗だくで、少しくらいの休憩なら許されるはずだろう。

 ジャージは濡れないよう少し離れた位置に置き、水の冷たさに身体を預ける。

 束の間の休息といったところだが……まあ、これも想定内。

 というよりは、よくも顔を出せたな、と思わなくもないが。

 普通、女子が水浴びをしていたら遠慮するだろう。

 

「いーねえ。いい眺めじゃねえか、なあ? 綾小路よぉ」

「……龍園」

 

 いや、この男に普通を求めること自体が間違いか。

 私の背後でにやついた笑みを浮かべた男がひとり、好戦的に水飛沫をあげた。





無人島試験における龍園さんのサバイバル行動、思い出すたびに「セルフ苦行じゃねえか」と思って笑っちゃいます。
龍園さん、一体どんな気持ちでサバイバルした挙句綾小路くんの手のひらでコロコロされてたんでしょうね。

それはそれとして次回。
水浴びTS小路さんの元へのこのこ現れた龍園さん!
一体これからどんな少年漫画的ラッキースケベが発生しちゃうの!?
この後この川に平田くんと神崎くんも来る予定(ネタバレ)で修羅場の予感!
でも龍園さん、ここを耐えれば、TS小路さんとのフラグは強固になるはずなんだから!

次回、城之内、死す!

デュエルスタンバイ!


ところでTS小路さんのエッッなネタのSSも書きたいと思ったんですけどどうやら作者にしか需要がない気配があるのでひとりでシコってます。エッッやよう実以外にネタとかあったらこちらにどうぞ→ お題箱

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