竈門炭治郎が栗花落カナヲに告白するまでの話   作:西尾和博

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竈門炭治郎が栗花落カナヲに告白するまでの話 4話

 街の下見を一通り終えた後、俺は家へ向かって歩いていた。

 既に日は沈み、目の前に広がる道は月灯りに照らされている。

 

 

「はぁ……はぁ……。思いの外、遅くなっちゃったな……」

 

 

 そう呟きながら、鉛のように重くなっている足を一歩一歩前に踏み出していく。

 自分の体が衰えてしまっていることは嫌というほど自覚していたけど、まさか数時間歩き続けただけでこんなに体が重くなるなんて……。みんな心配してるだろうか? 探しに来てたりしなかったらいいんだけど……。

 不安を感じながら歩き続けていると、ようやく俺の家がある山の麓が見えてきた。

 あぁ、よかった、ようやくここまで来れた……。あとはこの山を登るだけだ。と言っても、この山を登るのがなかなか大変ではあるんだけど……。

 そう思った瞬間。

 

 

「あ、こんなところにいやがった!」

 

「炭治郎!」

 

 

 唐突に聞こえてくる慣れ親しんだ声。

 声がした方向に目を向けると、こちらに向かって駆け寄ってくる伊之助と善逸の姿が見えた。

 

 

「伊之助! 善逸! 迎えに来てくれたのか!?」

 

「ああ。いつまで経っても帰ってこねぇから、何かあったんじゃねぇかと思ってな」

 

「禰豆子ちゃんも心配してたぞ。足でも痛めたのか?」

 

「うん……。疲れもあって、全然進めなくて……」

 

「そういうことなら俺が家まで運んでやる! 俺が一番体力あるからな! ほら、乗れ!」

 

 

 そう言いながら俺の前でかがむ伊之助。

 お言葉に甘えて伊之助の背中にのしかかると、伊之助は立ち上がり、俺の方に視線を向けた。

 

 

「よし、乗ったな! 落ちねぇようにしっかり捕まっとけよ!」

 

「うん。よろしく、伊之助」

 

「任せとけ! よっしゃ、行くぜぇえええええ! 猪突猛進!」

 

 

 そう叫ぶや否や、全速力で山道を走り始める伊之助。

 

 

「えっ!? ちょっ!? 伊之助!?」

 

「いや、何で全速力で走り出してんの!? そんな速さで走ったら、背中にいる炭治郎が酔うだろ!?」

 

「あぁ!? 禰豆子が心配してるんだから早く戻った方がいいだろうが!」

 

 

 そう言って、脇目も振らず一心不乱に山道を駆け上がっていく伊之助。

 ただでさえ揺れが激しいのに、地面に転がっている大きな石や凹凸を避ける度に、伊之助が跳んだり跳ねたりするから段々目が回ってくる。

 やばい……。これは家に着いた後、しばらく動けなくなるかも……。善逸も足が痛むのか、さっきから付いてこれてないし、一回止まってもらった方がよさそうだな。

 

 

「い、伊之助! 一回止まってくれ!」

 

「あぁん? どうした!? どこか痛むのか!?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだけど、善逸も付いてこれていないからちょっと待とう。禰豆子も俺達二人だけが帰るよりも、三人一緒に帰った方が喜ぶと思うし。それに、さっき伝えればよかったんだけど、善逸と伊之助に話しておきたいこともあるから」

 

「話しておきたいこと?」

 

「うん。詳しいことは善逸が来てから話すけど、大切な話なんだ」

 

 

 そう言うと、伊之助はしばし黙り込んだ後、納得したようにこくりと頷いた。

 そんな会話をしている内に善逸が到着。

 善逸は俺達と合流するや否や、恨めしそうに呟いた。

 

「何で一緒に迎えに行ったのに、俺を置いていくの……? 俺も足が痛いから早く走れないのにさぁ……」

 

「まぁまぁ、それは禰豆子を安心させるためだから。それにほら、こうしてちゃんと待ってただろ?」

 

「それはそうだけどさぁ……」

 

 

 腑に落ちないのか、不満そうに唇を尖らせる善逸。

 伊之助はそんな善逸を無視して、俺に問いかけてきた。

 

 

「それで? さっき言ってた俺達二人に話しておきたいことってのは何なんだ?」

 

「うん。実は、三日後にカナヲと遊びに行く時に、カナヲに告白しようと思うんだ」

 

 

 そう言った瞬間、善逸は俺がそんなことを言うなんて思いもしてなかったのか、目玉が飛び出すんじゃないかと思うくらい大きく目を見開いた。

 

 

「えっ!? えっ!? 告白すんの!? 炭治郎が!? カナヲちゃんに!?」

 

「うん。宇随さんに相談して、ようやく覚悟が決まったんだ」

 

「へぇ~、そっかそっかぁ! よかったぁ! 俺、二人の関係が全然進展しないから不安だったんだよ。もしかしたら、このままずっとこんな感じなんじゃないかって思ってさぁ」

 

 

 よほど心配だったのか、今にも涙を流さんばかりに顔を崩す善逸。

 善逸の頭をぽんぽんと撫でていると、伊之助が目を輝かせながら迫ってきた。

 

 

「告白するってことは、あいつとケッコンすんのか!?」

 

「結婚するかどうかはカナヲの気持ち次第かな。でも、俺自身は結婚したいって思ってるよ」

 

「へぇ~、そうかそうか! 頑張れよ! 応援してるからな!」

 

 

 興奮冷めやらぬという様子で腕をぶんぶん振って、俺を応援してくれる伊之助。

 三人で一頻り喜び合った後、俺は本題に入ることにした。

 

 

「ごめん、喜んでくれてるところ悪いんだけどさ。実は、本題はここからなんだ」

 

「何だよ、まだ何かあんのか?」

 

「もしかして、告白する時に手伝って欲しいことがあるとか?」

 

 

 口々に言葉を発する二人。

 俺はふるふると首を二回横に振った後、二人に向かってはっきりと告げた。

 

 

「俺は二十五歳になるまでに死ぬと思うから、俺が死んだ後、カナヲのことを託したいんだ」

 

「………………は?」

 

「………………え?」

 

 

 俺が言った言葉の意味を理解できないのか、困惑の色を見せる二人。

 二人が『冗談だろ?』と言いたげな目線を向けてきたが、俺の表情から事実だということを悟ったのか、伊之助はその場で震え始め、善逸は目に涙を浮かべながら問いかけてきた。

 

 

「な、何で……? 定期健診で何か悪い病気でも見つかったのか……?」

 

「ううん、そうじゃないよ。痣を出すと、限界以上の力を引き出せるようになるって話は二人も聞いてるだろ? あれは寿命を削ることで力を出してたみたいでさ。過去の記録だと、痣を出した人はみんな二十五歳になる前に死んじゃってるらしいんだ。だから、俺も他の人達と同じように死ぬと思う」

 

 

 そう告げると、善逸は何かを思い出したかのようにはっと目を見開いた後、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

 

「そうか……。炭治郎からずっと不安の音がしてたのは、それが理由だったんだな……」

 

「……気付いてたのか?」

 

「ああ。でも、炭治郎が話さないなら、何か深い理由があると思ったから気付かないふりをしてたんだ」

 

「そっか……。ごめん、心配かけちゃったな……」

 

「謝らなくていい。それとな、炭治郎。お前は何も心配しなくていい。禰豆子ちゃんもカナヲちゃんも、お前が大切にしてるものは、俺が絶対に守ってみせる」

 

「俺も同じだ! 俺達は家族みたいなもんだからな! お前の嫁だって言うなら、あいつも俺の家族みてぇなもんだ!」

 

 

 一切躊躇することなく、誓うように言葉を紡ぐ善逸と伊之助。

 そんな二人の姿を見た瞬間、心がすっと軽くなるような、救われるような感覚を知覚した。

 

 

「ありがとう」

 

 

 気付けば、その言葉だけが口から零れていた。

 言葉を尽くすこともなく、飾ることもなく、ただ一言だけ。

 きっと、俺の心がこの言葉だけで満たされているからこそ、他の言葉が出なかったんだと思う。人は爆発しそうなほど大きな感情を抱くと、言葉を失う生き物だから。

 そう思った時、ふと、縁一さんと炭吉さんの別れ際の記憶を思い出した。

 炭吉さんの一方的とも言える約束に対して、救われたような笑顔で、ただ一言、ありがとうと言った縁一さん。

 もしかしたら、あの時の縁一さんも今の俺と同じ気持ちだったのかもしれない。

 そんなことを思っていると、善逸が俺の肩をとんとんと叩いてきた。

 

 

「なぁ、炭治郎。さっきの話、禰豆子ちゃんはどこまで知ってるんだ?」

 

「寿命のことは知ってるよ。カナヲとの話は今からするつもり」

 

「そっか。なら、俺達は家に着いたら、先に風呂に行ってるからさ。禰豆子ちゃんとゆっくり話してこい」

 

「うん。ありがとう、善逸」

 

 

 そんな会話を交わした後、三人で五分ほど歩いていくと、ようやく家が見えてきた。

 玄関先には、心配そうに周囲をきょろきょろと見回している禰豆子の姿が。

 

 

「禰豆子! ただいま!」

 

 

 そう声をかけると、禰豆子が俺達に気付き、慌てて駆け寄ってきた。

 

 

「お兄ちゃん! 大丈夫だったの!?」

 

「うん、大丈夫だよ。ごめんな、心配かけて」

 

「ううん、お兄ちゃんが無事でよかった。善逸さんも伊之助さんも、お兄ちゃんを迎えに行ってくれてありがとう」

 

 

 禰豆子がお礼を言うと、善逸は「いやいや、俺は禰豆子ちゃんの頼みならどこへでも行くから」と鼻を伸ばし、伊之助は「いいってことよ!」と胸を張った後、二人揃って一足先に家の中へと入っていった。

 多分、さっき言っていたように、俺と禰豆子を二人っきりにするためにお風呂へ向かったんだろうな。ありがとう、二人共。

 心の中で感謝の言葉を告げていると、隣にいた禰豆子が俺の服をちょいちょいと引っ張ってきた。

 

 

「ねぇ、お兄ちゃん。晩ご飯はもう食べてきたの?」

 

「いや、まだだよ。本当はもっと早く帰ってくるつもりだったから」

 

「あ、そうなんだ。じゃあ、すぐに用意するね?」

 

「うん、ありがとう。でも、その前に大事な話があるから聞いてくれるか?」

 

「大事な話?」

 

 

 きょとんと目を瞬かせる禰豆子。

 俺はこくりと頷いた後、禰豆子の目をまっすぐ見つめた。

 

 

「先週、カナヲに告白しない理由について話したの、覚えてるか?」

 

「うん。先が長くないし、カナヲちゃんのこととか子供のことを考えたら、他の人と結婚した方がカナヲちゃんのためにも良いと思うから、っていう話だよね?」

 

「うん。あの時の俺は本心からそう思ってたんだけど、やっぱり心のどこかでカナヲと結婚したいっていう気持ちがあってさ。今日、街で宇随さんに会った時に、そのことを宇随さんに相談してみたんだ」

 

「へぇ~、そうなんだ! 宇随さんは何て言ってたの?」

 

 

 興味深そうに問いかけてくる禰豆子。

 俺はさっき交わした宇随さんとの会話を、一言一句間違えることがないように、禰豆子に伝えた。そうすることで、俺がどれだけ宇随さんの言葉に感銘を受けたか伝わってくれるだろうし、いつか禰豆子の知り合いに俺と同じような境遇の人が現れたら、今度は禰豆子がその人を助けてやれるかもしれないから。

 そう思い、話すこと約五分。

 全てを伝え終わったところで、禰豆子がぽつりと呟いた。

 

 

「宇随さんはかっこいいね……」

 

「うん、俺もそう思った。俺が宇随さんの立場だったら、あんな風に言えなかったと思う」

 

 

 そう言うと、禰豆子は目に涙を浮かべ、申し訳なさそうに俯いた。

 

 

「ごめんね、お兄ちゃん……。先週、お兄ちゃんがその話をしてくれた時に、私が宇随さんみたいに『私に任せて』って言えればよかったのに……」

 

「ううん、謝ることじゃないよ。それよりも、俺が死んだ後、禰豆子にもカナヲのことを任せたいんだけど、お願いしてもいいか?」

 

「うん、もちろん! お兄ちゃんは今までずっと私のために頑張ってくれたもん。今度は私がお兄ちゃんのために頑張る番だよ」

 

 

 そう言って、満面の笑みを浮かべる禰豆子。

 そんな禰豆子のことをぎゅっと抱きしめると、禰豆子は照れ臭かったのか、恥ずかしそうに顔を赤らめたけれど、すぐに「えへへ」と頬を緩ませ、抱きしめ返してきた。

 

 

「ちなみに、他に何かして欲しいことはないの?」

 

「うん、もう大丈夫だよ」

 

「そっか。じゃあ、あとはカナヲちゃんに告白するだけだね」

 

「うん。三日後に買い物に行くことになったから、その時に告白するよ」

 

「そっか。頑張ってね、お兄ちゃん!」

 

 

 そう言って、先週と同じように、両手で握りこぶしを作る禰豆子。

 俺はカナヲとの買い物に向けて、準備を開始した。




読んでいただきありがとうございました。
4話目です。次が最終回になるかと思います。
感想や評価などいただけると非常にありがたいです。
よろしくお願いします。
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