最近長良さんは少し変わったような気がする。いや、確実に変わった。何回見てもそう見える。……筈なのに。
「長良さん最近変わったよね?」
「? 変わってないだろ?」
「? いつも通りだと思うが……?」
「? 何も変わってないと思いますよ?」
「? 長良さんはいつも通りじゃよ?」
「あれー?」
「長良さん最近変わった……よね?」
「? 変わってませんよ?」
「? いつも通りだと思いますよ?」
「? 何も変わってないと思いますけど……?」
「? 長良さんはいつも通りじゃないの?」
「あれー……?」
少なくとも十駆と十七駆の子達はそんな風に見えてないらしい。あれ? 何で? おかしいな……。
「阿賀野ちゃん聞きたいことって何?」
「那珂ちゃん、長良さん最近変わったよね!?」
「? 長良ちゃんはいつも通りじゃないの?」
「あれあれー!?」
那珂ちゃんに聞いても同じ答えが返ってくる。え? 何故? どうして???
「え!? でも長良さん確かに変わって……」
「変わったって……具体的にどう変わったの?」
「具体的……?」
「うん」
「え〜と……」
改めて考えると何が変わったのかいまいち上手く言葉に出来ない。けれど私の目には何回見ても最近の長良さんは今までの長良さんとは違って見える。みんなは違うみたいだけど。
「……なんか……『良い感じ』に変わった……」
「……『良い感じ』?」
「上手く言えないんだけど……、でも長良さん絶対変わったよね!?」
「……那珂ちゃんは変わったように見えないけど……」
「何で〜……」
再度那珂ちゃんに聞いてみても返ってくるのはさっきと似たような答え。私の言い方が分かりづらかったのもあると思うけど、ここまであっけらかんと言われてしまうとちょっと自信が無くなってくる。
「……ねぇ阿賀野ちゃん。長良ちゃんが変わったように見えるのはさ、阿賀野ちゃんが長良ちゃんと一緒にいることが増えたからじゃない?」
「え?」
「ほら、一緒にいる時間が増えたから今までと印象が変わって、それを長良ちゃんが変わったと思ってるんじゃない?」
「そっか……それもあるのかな……?」
那珂ちゃんの言うことは一理ある。長良さんは私が旗艦を務めた戦隊の前任者で、いわゆる先輩後輩みたいな関係なのだが一緒に行動するようになったのはつい最近。それまでは出撃、遠征、演習、鎮守府での生活でも私と長良さんは目を合わせることすらほとんど無かった。
そんな状態から一緒に行動することが増えれば確かに今までと変わったように見えるのもかもしれない。
「……本当にそれだけなのかな……?」
でも私にはどうしても長良さんの変化はそれだけじゃ説明できないレベルの変化に見える。
「……阿賀野ちゃん、そんなに気になるなら隣の本人に直接聞いたら良いんじゃないかなぁ……」
「え?」
那珂ちゃんの言葉に思わず隣を見ると、長良さんが腕を組んで立っている。
「うわ!? 長良さんいつの間に……」
「ちょっと前からいたよ」
「ちょっと前って……具体的にいつから?」
「阿賀野が何か考え込んでるあたりから」
「全然気づかなかった……」
「阿賀野が『長良さん最近変わったよね』って聞いて回ってるって駆逐艦の子達が言ってたから探してたの」
「あ、聞いたんですか……それ……」
「別に長良はいつも通りだよ」
「え〜……長良さんもそれ言うんですか……」
「だって本当に何も変わってないし……」
「…………」
どうしよう。話終わっちゃった。本人にこんなにもキッパリと否定されるとこれ以上何も言えない。言えないのだが……。
「……長良さん髪切ったんですか?」
「え? 切ってないけど?」
「……じゃあ髪染めたりとかは……」
「すると思う?」
「ですよね……まさか……カラコンとか?」
「入れると思う?」
「う〜ん……、じゃあなんだろう……服はいつもと一緒だし……」
「……どうしたの阿賀野?」
「だって長良さん最近ちょっと変わったから……」
「だからいつも通りだって……」
「……でも私には変わったように見えるんです」
「変わったって……、具体的に長良の何が変わったの?」
「それはその……上手く言えないんですけど……ちょっと『良い感じ』に変わってます……」
「……『良い感じ』?」
よく分からないといった様子で長良さんが首をかしげる。それもそうだろう。言ってる本人でさえよく分かってないのだから。
「……とにかく! 私には長良さんが変わったように見えるんです!」
「だから変わってないって!」
「いやそういう意味じゃなくて……そういう意味なのかな……? 分かんなくなってきた……」
「ちょっと待って、じゃあ今も変わって見えてるってこと?」
「うわちょっと!? 何で近づくんですか!?」
「よく見えるかなと思って……」
いきなり距離を詰めてきた長良さんに圧されて思わず仰け反ってしまう。けれど長良さんの顔がよく見えるようになったのも確かだ。
「…………」
近くで見てもやっぱり変わってるように見える。長良さんは軽巡の中でも幼い顔立ちでどちらかと言えば可愛らしい印象だ。けど今私はそんな長良さんが何故か、本当に何故か分からないけどかっこよく見える。出来ればしばらく眺めていた……。
「いや無い! それは無い! 無いはず!!! それじゃあ私がまるであの……その……みたいじゃん!!」
「!? 急にどうしたの!?」
「もう降参ですよ長良さ〜ん、どこが変わったのか教えて下さいよ〜」
「だから変わってないって!」
「うっそだ〜」
「嘘じゃない!」
物事は当事者達の視点より側から見ている第三者の視点で見ている方が簡単に把握できることが往々にしてある。今の阿賀野ちゃんと長良ちゃんみたいに。
「なるほど〜……」
どうやら那珂ちゃんが言った予想は大体当たってたようだ。やっぱり変わったのは長良ちゃんじゃなくて阿賀野ちゃん自身みたい。ただ阿賀野ちゃんの変わり方は予想と違っていた。
阿賀野ちゃんの頬がほんのり赤らんでる。それにさっき長良ちゃんを見てた阿賀野ちゃんの顔は観察してるんじゃなくて見惚れてるといった方が正しい気がする。少なくとも那珂ちゃんにはそう見えた。
長良ちゃんは阿賀野ちゃんの変化に気づいてるのかな? こういことには鈍そうな印象があるけど。それと阿賀野ちゃんは自分の違和感の正体に気づいてないのか、それとも本当は気づいていて認めたくないのか。
「……ねぇ阿賀野大丈夫? 顔赤いよ? ひょっとして何かの病気なんじゃ無い?
「え、うそ? ほんとですか?」
「明石さんに診てもらった方が良いんじゃない?」
「……熱とかは無いんですけど……」
「阿賀野だけ変な風に見えてる原因も明石さんに診てもらえばそれの何か分かるかもしれないし……」
「そうですね……じゃあちょっと明石さんのところで診てもらってきます……」
「長良も付き添うよ」
あー、二人とも全く気づいてないっぽいねこれ。
「異常無しだって」
「だろうね」
阿賀野ちゃん、本当に明石さんに診てもらったんだ。で、当然異常無しと。
「長良さんも異常無しだって」
「長良ちゃんも診てもらったの!?」
この場にはいないけど長良ちゃんも診てもらったらしい。で、当然だけど異常無しと。
「明石さんでも分からないとなると長良さんが変わった原因と本当に何なんだろう? 那珂ちゃんはどう思う?」
「さぁ? 那珂ちゃん分かんなーい」
「あれ? 那珂ちゃん何か急に投げやりじゃない……?」
「みんな変わってないって言うんだから阿賀野ちゃんだけで考えた方が良いんじゃない?」
「あれ? 今日の那珂ちゃん何か冷たい……」
「……大丈夫だよ阿賀野ちゃん。変わったって言っても見た目だけで行動が変わった訳じゃないんでしょ?」
「う、うん……」
「じゃあ焦らなくて良いよ。ゆっくり分かっていけば良いんじゃないかな?」
「……そう……かな……」
「そっちの方がきっと『良い感じ』だと那珂ちゃん思うな」
「……そうだね」
阿賀野ちゃんの違和感の正体をここで言うのは簡単だけど、今は阿賀野ちゃん一人、ひょっとしたら長良ちゃんと二人で探した方が良い気がする。
阿賀野ちゃん、前は長良ちゃんのこと苦手って言ってたのにここまで変わるなんてびっくり。
「長良ちゃんは?」
「? 演習だけど……」
「ならその演習に参加すれば何か分かるかもね」
「えー……何それ……」
「ふふ」
でも一番びっくりしてる、いや、びっくりするのは今の違和感の正体に気づいた阿賀野ちゃん本人なんだろう。阿賀野ちゃんの話を聞くのはきっとその時が一番良いタイミングなんだと思う。
「長良さんとは普段から演習してるし今更分かることなんて無いと思うけど……」
「アハハそうなんだ! へぇ〜普段から演習とかするようになったんだね〜」
「…………?」
だから今は何も言わなくて良い。まだまだ時間かかるだろし、気長に待っていよう。