爪の甘い悪のカリスマ──にやたら甘い助手──と昼行灯ロボット転生者。   作:ダイコンハム・レンコーン

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砕月と片道切符

 黒いインテリアを敷き詰めたローマンの部屋。

 

 そこに突然響くノックの音。

 

『失礼するぞ』

 

 のっそりと入って来たのは、ロボットだ。騎士の身格好をした彼が勝手知ったるが如く向かってくるのは、恐ろしい絵面である。しかしローマンは黙ってソファーに横になっていた。

 

『ローマン、起きてるか』

「……何だ、いきなり? 目覚まし時計にでもなったのか?」

 

 今は夕方、もうじき夜になろうと言う頃だった。

 

『なら後10セットか? 「ローマン、起きてるか」「ローマン、起きてるか」「ローマン──』

「壊れるのは後にしろ」

 

 頭頂に振り下ろされた杖。無機質な声を発していたロボットは頭を撫でながら机の上を見る。

 

 椅子に座るローマンの前には、幾つもの線を描いた地図と写真。彼はそれに気付いた様で、これを手に取ってまじまじと見ていた。

 

『この前の奴と、また見たことのない奴。随分と種類が多いな、グリムってのは』

「つい最近増えたからな。全くこれじゃ商売あがったりだ。つい最近、大きな出費もあったからな」

『その節はどうも、感謝しますよ、パパ?』

「やめろ気色悪い」

 

 そっと写真を置くと、ロボットは青い顔をするローマンへ向き直り、1つ言葉を投げかける。

 

『所でローマン、俺の事になるんだが、新しい武器が欲しいと考えていてな』

「武器? これ以上何をするって言うんだ?」

 

 ローマンはそんな提案に、不思議な物でも見るかの様な目でロボットを見ていた。彼はロボットがそこまで好戦的な存在でないと思っていたのだろう。だからロボットは言葉を改めた。

 

『まあ、武器と言うよりは道具か? 外付けのブースターになる様な代物が欲しい』

「まあ、その程度なら今までの出費に比べれば安いが……道具? そうだ忘れていた。これだ」

『うぉっと……これは』

 

 何か思い出した様子のローマンから彼の手元に投げ渡されたのは、赤の布。長さはロボットの背丈の半分程度だ。

 

「ダストを編み込んだ特殊布だ」

 

 それに加え防刃防弾機能もあると聞かされたロボットは、渾身の力で伸ばしたり、捻ったり、してはみてもビクともしない。ロボットが目配せすればローマンは頷き、それを見て彼はこれを左肩の装甲に巻きつける。銀の装甲に真紅のマント、より見た目は騎士のそれへと近付いた。程よい長さで動きを邪魔する事もない。彼には好感触だった。

 

 しかし、彼は少々穏やかではない雰囲気も感じ取っていた。

 

『……と言う事は、近々これが必要になる相手と戦う、って訳か』

「話が早いな。ただ少し違う」

 

 美しいマントに見惚れていたロボットは、その言葉にローマンを2度見た。どこからともかくニオまで現れてまた2度見た。

 

 何か嫌な予感がするぞ、とロボットは魂の肌で感じた。

 

()()()、だ」

『おい嘘だろ?』

 

 

 

 

 

 ──所変わって空の上。ローマンとロボットは夜の空に浮かぶ機体の中に居た。

 

 2発のジェットエンジンを備えた垂直離着陸機(VTOL)・ブルヘッドのコクピットに座すローマンの後ろに、ロボットは立っていた。

 

『まさかこんな飛行機まであるとは。中々のブルジョワジーじゃないの』

「まだ足りんさ、いつかこんな物が子供のおもちゃに見える位の高みに俺は立つんだからな」

『向上心の塊みたいな奴だな、心から尊敬するよ』

「心のないブリキ人形からの尊敬は必要ない。ただ費やした費用に見合った働きはしてもらうぞ」

 

 何か、線引きをする様にそう言ったローマンに、彼は無言で頷いた。

 

(……思ったよりグッタリしてるな。ノンキに外出してたのが悪い気がして来た)

 

 ──無断外出の後めたさ故である。謝ればつけ入られると分かっていた彼は何も言わないロボットであった。

 

 そんな中、続いて作戦内容が展開される。

 

 1つ、目的地は大陸の北東に位置するヴェイル王国、その北端まで続く路線を走る貨物列車。

 

 1つ、目標はそこで掠奪を行っているファウナスのテログループ、ホワイト・ファング。そのヴェイル地域リーダー、アダム・トーラスの捕縛ないし殺害。

 

 1つ、目的地への侵入はブルヘッドからの強襲降下によって行われる。

 

 1つ、この作戦中ローマンはブルヘッドの中から支援を行う。

 

 それら作戦内容を反芻し、ロボットは疑問を投げかけた。

 

『今回も俺たちだけか?』

「今回は列車の上が戦場だ。下手な人員を送った所でただでさえ狭い空間の邪魔にしかならない。まだ案山子の方が役に立つ」

『なら、相手は掠奪者って話だが、正義の味方に目覚めちゃったとかは……』

「ない」

『だよな、うん』

 

 ローマンは言い切った、さも当然の様に。ブルヘッドの操縦桿をタンタンと叩くその姿はどこか愉しげだ。これから始まるどんちゃん騒ぎに思いを馳せているのか。彼のみぞ知る事だ。

 

「俺は自他共に認める臆病な人間だ。だがそれは嘗められても構わない、なんて意味じゃない。裏切りには報復を、当たり前の事だ」

 

 ロボットは何も言わない。ただそれを黙って受け入れた。相手も同じ穴の狢ならば、そうなる事を考えに入れてそうしたのだろう、ならば、容赦のしようもない、と。

 

『今回ばかりは血は避けられないな、躊躇えばこっちが危ない』

「お前のその割り切りは悪くないな。精々期待させてくれよ? ここ最近は期待外れの連中ばかりに当たってきたからな」

 

 ロボットは返事の代わりにカンカンと胸を叩くとコクピットから後部の貨物庫へ向かう。そこにはニオが足を組んで座っていた。目を瞑り、精神統一をしていたのか、彼が来た事に反応する事もない。

 

 彼もまた、右腕から蛇腹剣を出し様子を確認したり、マントの張り具合を見ていた。

 

 それから間もなく。叢雲に覆われた宵の空の中を駆け抜け、彼らは眼下に伸びる線路を捉える。山と川の間を削り拓いた微かな道を行く列車もだ。

 

 機外を打ち付ける雨音の中、つんざく様な汽笛が貨物庫を揺らす。遠くでは雷鳴が轟き、山からは獣の嘯きが尽きず絶えず木霊(こだま)する。

 

 ──今、貨物庫のハッチが開く。

 

 ハッチが切り取った景色の中には、宵闇の中にでもはっきりと分かる黒煙を噴き上げる列車と、白い粒の様に見える人影の群れが見えた。

 

『ヘイロー、HALO……アレの最新作はどうしたもんだったけな』

(……お先に失礼)

 

 意味を成さない事をぼやくロボット──を無視しニオが勢いよく飛び出した。傘を開き、ゆらゆらと降りて行く。

 

『兎にも角にも、やる時は……やる』

 

 ロボットも覚悟を決め、貨物庫のハッチから飛び立つ。

 

 ──すると。

 

(月が、破れてる)

 

 落ち行くロボットの目に、雲間に漂う赤い砕月が見えた。

 

 半分を粉々に砕かれた月は、彼の知るものとはまるで違う。

 

 そして、今宵に限って稀な赤月。

 

 ──きっと月は彼に教えているのだろう。

 

 

「……敵襲か」

 

 

 挑む者は心せよ。待ち構えるは、紅蓮の髪の修羅なり──と。




中々安定して投稿するのが難しい。亀更新でごめんね。

ps.悪役同士の戦いは勝敗が読めないから好き。
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