爪の甘い悪のカリスマ──にやたら甘い助手──と昼行灯ロボット転生者。   作:ダイコンハム・レンコーン

2 / 11
ロボットはポロポロと語る

 この世には不可思議が首をもたげて常識を嘲笑っている。例えばセンブランス、魂の力と言う曖昧極まるものによって現れる特異な能力。

 

 時に奇跡を、時に悪夢を生み出すそれを、ローマンは信じない。

 

 人には既に機知や経験と言うものによって形作られている。それは黄金率で、何人も否定し難い事実だ。センブランスは余計な付加物に過ぎない。基本的には。そうローマンは考えている。

 

 それに加え、あまりにも都合が良過ぎるものを彼はいつも目くじらを立てて疑う。その在り方も。センブランスの場合、戦いにしか役に立たないものも多い。あまりにも限られた用途にはローマンをして、何かの大きな作為を感じられずにはいられなかった。

 

「……何故、お前は自由意志を持っている」

『さぁな、マスター。どう言う訳か俺には脳もないのにアンタが一眼見て胡散臭い小悪党だってのが分かるし、そっちのお嬢ちゃんが今に俺をスクラップにしたいって気持ちもよく分かる。へいマスター、ジェリ缶お代わり』

「俺は、酒場のマスターじゃないぞ」

 

 時に、これも。

 

 騎士の姿を模した歯車の塊が、ステンレスの椅子に腰掛け、浴びるように頭部から燃料を呑んでいる。甲冑の兜をモチーフにしたスリットから溢れる呑みきれなかった燃料の滝に潔癖症のきらいがあるローマンは苦虫を噛んだ様な顔をしていた。

 

「ああ……汚い」

『ん?』

 

 ギシギシと悲鳴をあげる椅子を見るに、この機械に無機物を思う心は無いらしい。ローマンは手元に愛用のステッキ、メロディック・カジェルを握り、苛立つ気持ちを鎮めようとする。ローマンの考えを占めるのは、「せめてこの理不尽に対する答えだけで寄越して貰おう」、ある意味で意地になっていたが故に、今こうして対話の場が生まれていた。これもある種奇跡だ。

 

(しかし、まさかもまさかだ)

 

 全くの想定外。それを予想出来なかった自身にローマンは腹を立てるが、どだい無理な話だろう。単なる暴走ではなく、新たな人格の獲得を起動時に成し遂げてしまうロボットがいるなど、少なくとも彼の機知や経験の外にある出来事だ。

 

 手元のキルスイッチを押そうと思えば押せた。だが、それはローマンの癪に触る。

 

(俺がただの機械が1人でに喋っただけで怯える? 下らない! 実に不愉快だ!)

『……悪いな』

「? どうした、いきなり」

 

 そんなローマンの姿に、ロボットは何かを思ったらしい。飲みさしのジェリ缶を床に置いて、謝罪する。

 目の前のロボットは自身の言い分も聞かず破壊するか、それとも話の通じる相手かを見極めようとしていたのだろうと即座にローマンは理解した。

 

『どうやらアンタは小悪党だが、小心者ではないらしい。少し試して悪かったな』

 

 ローマンの背後で愛用の傘、ハッシュを握るニオは、その物言いに抗議の意を示す。──彼は小悪党じゃない! 世界で1番のワルなの! と。口には出せず、どこからか取り出したノートに書かれていたが。

 

 しかしロボットは分かっていて無視をした。ローマンを話し相手に務める。ニオは更に憤慨した。

 

「試していた? お前が、俺を? ふん! 笑わせるな」

『その割には眉の角度がキツいぞ?』

「はっ、流石ロボット、冗談の1つも分からないか」

 

 ──分かってるさ。そう言って席を立ったロボットに、2人は杖と傘を構える。

 

「お前を強制的に停止させるスイッチは俺が持っているんだ。逆らうなんて事は考えない方が良いだろう」

 

 続けてそう言ったローマンは、ロボットの前で赤いスイッチを取り出した。ロボットも流石にこの行為には文句をつける事はない。身動きしていない相手を脅すかどうかだけを先程は見ていただけだからだ。寧ろ今になっても尚何もしなかったならば、今度はローマンをロボットが警戒心のない間抜けと罵っていた事だろう。

 

 対して目の前のロボットは、甲冑のヘルメットを模した頭を振り、自らを指差した。

 

『それも分かってる。ただ1つ分からないのは。……なんで俺が生まれたかって事だ』

 

 生まれた訳。

 

 そんなもの単純明快、必要とされたからだ。ローマンの頭脳は解を出す。が、答えとしてそれを出す事はなかった。

 

 ロボットならば、きっとそう。

 

 ──ただ真っ当なロボットでないのならば。

 

『俺はどうやら運命を信じたいロマンチストらしい。血液型占いとかな』

「運命か、運命なんてのを信じるのは恋をした時だけで良い」

『ま、そうかもな。俺だってそれに振り回されてばかりはゴメンだ』

 

 ──だけどな? そう続く言葉。運命がもしあったのならば、ロボットはどう考えるのか。ローマンは内心、興味を引かれていた。その事を察してか、ニオもロボットを睨みながらも、決して手を出す事はしない。ローマンには忠実たれと自らに定めているから、ローマンの指示無しに動かない。

 

『もし運命があるなら、俺がここに居る意味がある。それがきっと本当の生まれた訳だ。アンタに必要とされて俺が出来たんじゃないってのは、アンタ自身がよく分かってるだろう?』

 

 ローマンは返事を返さない。ロボットはそれを肯定として受け取った。カチャリカチャリと音を立て、外へ続く出口へとロボットは向かう。

 

『だから、俺は決めた。俺はアンタに従う。……いや、アンタの手伝いをする。初めて会った人間がアンタたちなら、アンタたちとの関わりの中で生まれた訳を見つけるのが筋ってものだろう』

「ハッ! 回りくどい命乞いだな?」

『生憎、命は惜しいもんでね。アンタだってそうだろう?』

 

 そう言いながらロボットは、ローマンからニオの方へ首をチョイと傾ける。

 

 ローマンはロボットの見透かした様な動作に舌打ちをしたが、事実、ニオがローマンの生きる意味の1つであるのは彼自身認められる事だった。口には出せない、煮えた鉄の様に熱く重い感情だが。

 

「だが良いだろう。このローマン・トーチウィックは寛大だ。僅かな失言には目を瞑ろう。勿論、その対価は成果で払って貰うがな。今日の仕事は密輸ダストの受け取りだ。お前の価値を見せてみろ」

 

 そう言ってローマンは部屋を出た。ニオもそれに続く。が、閉められようとした扉からニオは顔だけ出して睨みながら舌を伸ばす。どうやら随分と鬱憤が溜まっていたらしい。ロボットは妙に笑いたくなった。

 

『……サー、イェッサー、マイマスター』

 

 ──愉快な場所に来たもんだ。ロボットは痒みもないだろうに頭を掻き、後に続く。

 

 ……彼らが向かうのは港、コンテナヤードだ。

 

 

 

「──ねぇ()()、流行りのシーフードレストランって本当にここなの?」

「あれ? 多分ここだと思うんだけど。あ、もうちょっと先かも!」

「ここから先はコンテナヤードしか無いわよ? ああ、これなら前もって誰かに聞いておくべきだったかしら……」

「大丈夫だって()()()()! これを見越して朝早く出たんだからさ!」

「そんなに自信満々に言える事なの……?」

 

 ただし、稀な悪事にはヒーローの姿が付き物なのだが。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。