爪の甘い悪のカリスマ──にやたら甘い助手──と昼行灯ロボット転生者。   作:ダイコンハム・レンコーン

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太陽と夜

 港、それはあらゆる文化のクロスポイント。人の運命が交わる暗喩としても数多見られるその表現の通り、そこには様々な人が集う。

 

 左手には海、右手には人垣。港町といえば……な風景がそこにはある。

 

 ここは大陸サナスの北西の沿岸部。温順な環境により、北から南のものまで多くの魚介が水揚げされる。そんな豊かな漁場に面したこの場所は多くの旅人の目を楽しませ胃を満たす癒しの地でもある。

 

 ローマン一行は昼下がりの中、熱気漂う人混みの中を歩いていた。目立ち過ぎるロボットは、茶色い合羽の様なローブに身を隠している。

 

「全く、騒がしい街だ」

 

 道ゆく人々に魚を買っていけと声を掛けるのは、正に海の男と言った風な褐色肌で筋骨隆々の男達。筋肉街道のむさ苦しさにはニオも若干ゲンナリとしていた。

 

 しかしまた仕事の始まりを待つのみであった彼らは、なぜまだ明るい街に出ているのだろうか。

 

「急な話にも程がある。いきなり会って話がしたいとはな」

 

 答えはシンプル。取引相手が前もって話をしたいと連絡を寄越したからだ。ローマンにとってはリスキーだったが、この取引は大規模なものとなる為、みすみすチャンスを見逃して他の同業者に付け入る隙を与える事も出来なかった。

 

 故に、先程言質を取ったロボットも護衛として昼中に連れて──

 

「ん? 待て、ニオ。あのブリキ人形はどうした」

「……? ──!」

 

 ──来たのは間違いだったと、ローマンは悟った。

 

 先程まで3人並んで歩いていたと思ったのは過去の事。振り返れば茶色の影はすっかり消え、いつもの2人だけ。早速問題発生だ。

 

「あまりにも信じがたいが……」

(──ウソでしょ?)

 

 2人の脳裏に浮かんだのは──迷子。

 

 この港町で、活気溢れる港町で、イカれたロボットが迷子になっている。突拍子もないし常識も無い話だ。ローマンは頭を抱え、ニオは唖然としていた。

 

「あのポンコツめ……」

 

 しかし、彼らは待ち合わせの時間に遅れる訳にはいかない。悪のカリスマは時間厳守。規範の無い悪はただの蛮行、そこに得られるものは一時の悦びだけ、彼らはそれをよく理解している。

 

 さて、逸れロボットはどこに居るのやら。

 

 

 

 ──✳︎──

 

 

 

「それでアタシは釣り上げたイカを皆に振る舞ってこう言った。『このイカ、()()が?』ってねアハハハッ!」

「……えっと。ヤン、これ以上喋るのはやめて」

「何で!? まだレパートリーは100個以上あるのに」

『ワカサギ釣りでもする気か?』

 

 ──ここに居た。ここは同じく港町。獲れたての魚を焼いたソテーが名物料理の店、そのテラス席だ。席を囲むのは、長くウェーブした金髪の少女、ヤン・シャオロンと頭に黒のリボンを結ぶ黒髪の少女、ブレイク・ベラドンナ、そしてロボット。

 

「いや普通に酷くない? で、おじさん、何で迷子になってたのさ?」

『実はな、ちょいと珍しい釣具があってな。それに気を取られていたらいつの間にかツレを見失ってたんだよ』

「ツイてないわね」

「ツイてない……迷子だけに、()()ていかなかったから……」

「やめてヤン、これ以上寒冷化を進めようとしないで」

 

 2人とロボットの出会いの経緯はこうだ。

 

 まずロボットが迷子になったと気付いたのが事の始まり。当然ながらローマンも入りたての新人に取引場所を教える事はない、故に現地にて合流も難しく、なんとかローマン達を見つけようと街を練り歩いていた。

 

 そんな時出会ったのがこの2人だ。正確には困り果てていたロボット──彼女達から見れば茶色のローブを着た大男──を見かねこのテラス席から声を掛けて来たのだ。飯もどうかと誘われたが、彼は遠慮した。

 

 2人の事を気になったロボットが話を聞くに、彼女達は『ビーコン・アカデミー』と言う教育施設で『グリム』なる人を害する存在から人々を守る『ハンター』を目指していると彼は知った。また思ったよりもこの世界は平和ではないのだな、とも彼は思った。

 

 そんな守りし者を目指す彼女達の善性に拾われたロボットは、ある提案を受ける。

 

「良かったら、その人探し手伝うよ」

 

 会ったばかりの名も知れない奴に有り難い申し出だ、とロボットは思いながらもこう返す。

 

『いや、俺1人で探すさ』

 

 ローマンは悪党だ。少なくともロボットには分かりきった事で、それを善性に満ちた彼女達が知れば、余計な揉め事になる可能性がある。いや、もうなっているかも知れない。彼には彼女たちと戦うローマンの姿がありありと想像出来た。

 

 加えて人探しには特徴や名前を伝える必要があるが、下手にローマンが指名手配などにでもなっていれば他人の空似では済まされないだろう。

 

『でも感謝してる。ありがとよ、未来のヒーローのお嬢ちゃん』

 

 だから、彼女達とのやり取りはここで終わり。ロボットは席を立ち、2人に会釈して店を通って出て行った。

 

「……不思議な人だったわね」

「迷子なのに妙に落ち着いてたり、案外大物だったりして」

 

 残された2人は、彼への率直な感想を語っていた。

 

 ──それから少しして。

 

「えっとお会計は──」

「それならば、お連れの方が既にお支払い済みです」

「連れ? 連れはブレイクだけ……」

「まさか、あの人が?」

「あっ、ああ! ならお金返さないと!」

「無理よ、もうどこに行ったかも分からないもの」

 

 ……しれっとお代を払っていた彼に、「やはり大物なのではないか」と2人は疑いを強める事となる。

 

 

 

 ──✳︎──

 

 

 

 結局、ロボットはローマンと合流する事が出来た。幸運にも話し合いの前にだ。

 

「……話をする前に合流出来たのは良いが、一体どこで油を売っていた?」

『申し訳ないが、面白い話はこれっぽっちもなかったな。道に迷いっぱなしで。後はちょっとした美人さんとお茶でも』

「もういい」

 

 鷹揚としたロボットの態度に呆れ果てたローマンはいよいよ話し合いの場へと向かう。その前に一言。

 

「いいか、今度迷子になってみろ、次から出歩く時は首輪を着けて歩いてやるからな」

『肝に銘じておくさ』

(──刻む肝が無いでしょ)

 

 ニオは内心で嘆息した。

 

 ──そうして、夜は登り始めていく。

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