爪の甘い悪のカリスマ──にやたら甘い助手──と昼行灯ロボット転生者。   作:ダイコンハム・レンコーン

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ささやかな嫉妬

 よい狩人とは、鼻のよく効く狩人だ。獲物の臭いから彼らの場所や行動を掴み、川や山の臭いから嵐や雪の予兆を感じ取り、自らの臭いで体調を管理する。

 

 臭いと言っても、それは単純なモノの香りと言う訳でもない。それをより実感のある形で言うならば、それは雰囲気だ。

 

 つまり、優れた狩人は雰囲気を感じ取る能力が高い。

 

『……所で、今日の話し合いは穏便に済むのか?』

「済むなら猫の手を借りる必要もなかったんだがね」

『なるほど俺は猫の手。ああ()()()と言う哀しみか!』

 

 そう、この辺りに立ち込める悪寒や冷ややかな視線も感じている。ロボットは。金属とダストの構造物が。

 

『──D−』

 

 ニオは黙って取り出したメモ帳に書き殴った。ロボットには心なしか、インクに怒りの色が混ざっている様な気がしていた。しかしロボットにはこれがかつて()()()()()()()ジョークだったと記憶していたのだが、と困惑を隠さない。ただ開き直りはしてこう言う。

 

『どうやらお嬢ちゃん()()不評だったみたいだな』

「おいおい、ニオは甘過ぎる、Z -位が妥当だろう」

『俺、アンタの親兄弟の仇だったりする?』

「知らなかったのか? この世界じゃサムい洒落は極刑モノだぞ?」

『面白いジョークだな』

「……」

 

『……嘘だろ?』

 

 ローマンは唖然とするロボットを置いて先へ進む。次は無いぞと言われた様なものだろう。呆れとムカつきをないまぜにした顔持ちのニオからは()()()()()()のジェスチャーを向けられ、周りに味方が居ない事を彼は悟った。

 

『そんなに気難しい顔してると皺になるぞ! って聞いてないなこりゃ』

 

 しかし必要とされているにはされている以上、そっぽを向けて帰る事も無い。彼は急いで2人の後を追う。

 

 ──話は戻り、本題へ。

 

 どうやら話し合いはコンテナヤードからほどほどに離れた古いホテルで行われるらしい。

 

 ──ホテルまでは整備されていない山道、老朽化の進んだホテルに周囲を取り囲む木の群れ。

 

 ロボットはローマンから聞かされたロケーションを元に、何が起きるか、起きた時にどう対処するかを考えていた。

 

(何を考えてるのか、全く分からない……)

 

 ローマンの半歩後ろを歩くニオ、更にその後ろをとぼとぼと歩くロボット。ニオは先程とは打って変わり淡々と歩みを進めるロボットを訝しげに見ていた。

 

『……ホテルは木々に囲まれている。木を程よく切れば幾らでも武器は隠せるか。窓の位置にも注意すべきだな。ホテル自体を破壊する方法もある』

 

 故に、ロボットが小さく独り言ちていた言葉に目を丸くする。もっとも、それはマトモな考えも出来るのかと言うあまりにも見下しの入った驚きだったが。

 

 ニオは多くの場合、作戦立案には関わらずローマンの指示通りに作戦をこなす事に重きを置いている。それがニオにとっては合っていたし他人の口出しをあまり好まないローマンにも好都合だった。

 

 しかし、自ら考える()()が必要な事も彼女は心の底で理解していた。今のローマンが率いる徒党は言ってしまえばローマンのワンマン。ローマン自身が予測出来ないトラブルに直面した時、対応出来る人材が居てもそれが起きない様に立ち回る存在がまるで居ない。

 

『なぁ、ローマン。そもそもアンタはどうしてこんな見え見えの罠に突っ込もうとしてるんだ? アンタはそんな馬鹿にどうしても見えないんだよ』

「……なるほど、流石の電脳だけあって()()は良いらしいな」

 

 目覚めた直後のジェリ缶を浴びる様に呑みながらの横暴な態度。ただの雇われの人間ならば、1、2度は再起不能にされ冷たい路地に放り出されていただろう。

 

 しかしそうされていないのは、彼が簡単には壊れないロボットであった事、金銭的にも時間的にもコストを掛けていた事、認めたくはないが、無理矢理相手の懐に入るセンスがあった事だとニオは考えていた。

 

「俺は裏社会では大きな看板を持っている。しかし悪ガキ達は大きな看板にほど落書きをしたがる(たち)でね。奴らはいつだって寝首を掻こうと手ぐすねを引いて待っている」

『有名税、って奴か。つまり、舐められたら終わりって事だな、アイスクリームみたいに……跡形もなくなるまで舐め尽くされる』

「そう、一度舐められれば次から次へと図に乗って暴れ出す困ったちゃんが多いのさ、この世界には」

『ひゃ〜、おっかないおっかない。だから真っ向から罠を食い破って悪巧みする気概を削ぐって寸法か』

 

 現にローマンと()()()で真っ当に話し合えている。こんな事は滅多に無い。様々な仕事を共に成し遂げたニオは知っている。

 

 1番ローマンの側に居るのは自分だ。ニオにはその自負があるが、ローマンとマトモに話す事は少ない。あっても筆談やボディランゲージを交えたもので、裏を返せば言葉が無くとも通じ合えていると言う事だが、それはそれとして、だ。手話と言う手段もあるが、覚えるのがローマンの負担になる位ならと、ニオは提案せずにいた。

 

(私が話せていたら……)

 

 とっくの昔に割り切っていたつもりだった。理性ではこの流れを良い兆候だと感じている。彼女にとってはその筈だった。

 

 ただ思えばどうだろうか、()()()とローマンが会話しているのを見た時の様に、不安や嫉妬によく似た黒いものが湧いて来る。

 

 彼女はパンツのウエストをくしゃりと握る。悔しくて羨ましい。会って半日も経っていないのに、音が、言葉があるだけでどうしてこんなにも差が出来るのか、と考えた彼女の底に黒いものが溜まって行く。機械相手になんて嫉妬深い女なのだろう。などと考えれば考える程、黒く積もる。

 

 故に、黒に惹かれて来る者も来る。

 

 ──ザッ。

 

 踏み鳴らすは、四足の脚。

 

 垣間見えるは、赤の残光と白の仮面。

 

 後は、ただただ黒。

 

 獣は、風の様に飛び出した。

 

『真っ黒な獣!?』

「──違う、それは()()()だ!」

 

 それ(グリム)は、()()()()にニオへと向かって行く。ローマンとロボットは同時に駆け出す。ニオはすぐさま手元の傘、ハッシュを開こうとするが──

 

(──っ!? 体が動かない!)

 

 突如現れたグリムがニオを睨むと、彼女の動きはピタリと止まってしまう。

 

 そして──

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