爪の甘い悪のカリスマ──にやたら甘い助手──と昼行灯ロボット転生者。 作:ダイコンハム・レンコーン
グリム、それは人類種の天敵。人の心の闇に惹かれる悪辣な獣は、いついかなる時も人々の安寧を脅かしていた。
太古から現在に至るまで、人が本来の平和を手に入れた事は無い。
故に、武器が必要だった。
故に、盾が必要だった。
故に、力が必要だった。
全ては、いつか来るその時までに。
──ガチン!
硬質な音が空間を突き抜ける様に響く。
ニオは、恐る恐る反射的に閉じた目を開いた。そこには、2人が居た。
『轡にしちゃ、ちと大きかったか?』
獣の口に鋼鉄の脚を咬ませるロボット。
「獣の躾にはそれで十分だろう」
愛用する杖、メロディック・カジェルの石突きをグリムの懐に突きつけるのは、その瞳を鋭くさせたローマン・トーチウィックだ。
「勿論、躾で済ませる気は無いがな」
彼は間髪入れず持ち手のスイッチを押す。すると石突きの底が開き、照準に変わる。杖は殺傷の道具としては力不足、裏を返せば殺す気ではない、と言う事。
ならば今構える杖、否、
トリガが引かれる──鈍い音が響く。
撃発の音と、くぐもった断裂音。グリムの懐に放たれた弾頭はそのまま食い込み赤く光る。今から爆発するぞと熱烈に主張している。
「ニオ、下がるぞ」
『ちょっ、コレヤバいんじゃない?』
未だに脚を咥えられたままのロボットは焦りを顕にするが、次の瞬間、
『これは……!』
中から2門の丸型のスラスターが姿を現す。
『──エンジン全開!』
重厚な金属の円陣に軽やかな蒼炎が点る。点の光は線の光へ、爆発にも似た瞬間的な加速は、グリムの咬合力を振り切って弾き飛ばす。
『ぶっ……飛べ!』
振り切った脚は勢いのまま地面に弧を描く。夜に浮かぶ月の様なズタズタの半円だ。そしてロボットが回転を止めると同時、グリムのハラワタに突き刺さった弾頭が爆発し、衝撃波がロボットや木々に強く打ち付けた。
爆炎の跡ににグリムの姿は無かった。
「──やぁ、ブリキ君、元気そうじゃないか」
『……信頼が無いのは分かってるが、ありゃないぜ』
「無いのは信頼だけだと思うか?」
ロボットの背後から、堂々たる歩みでやって来たのはローマンだ。この戦いにおける致命打を放ったのは事実だが、その態度には釈然としないものをロボットは感じてしまう。
『ああそうだな、俺とアンタ達との間にはまだまだ足りない物が多いよな、まずはお互いの冗談の文化の理解とか──って、何でお嬢ちゃんを抱っこしてるんだ?』
しかし、ローマンの腕に抱えられるニオの姿に、ロボットは先程の事も忘れて心配を向けた。彼女は冷や汗をかいて魘されている。
ニオの身体はやたら小さく、ロボットの身体は大の男ですら敵わない長身だ。それこそ彼女は子供の様に見える為、ロボットは守らないといけない気がしていた。
「……どうやらあのグリムの仕業らしい」
『グリム、って言うのはさっきの仮面付けた妙ちきりんな奴だな。それは後で聞くとして、まずお嬢ちゃんに何があった?」
「彼女が気を失う前に、こんなメモを残した」
ロボットの手に、一枚の紙切れが押し当てられる。
そこには彼女の文字でこう書かれていた。
『──目を合わせるな?』
「どうやらあのグリム、特殊能力を持っていたらしい」
──恐らくは、
『まるで神話に語られる──』
「ゴルゴーン、か。中々に的を射た事も言えるな。ただ不思議なのは、俺やお前がアレと目を合わせてもニオの様にはなっていない事だ。……まあ、概ねアタリをつける事は出来る」
『勿体ぶる事はねぇだろう? 俺とアンタの仲だ』
いつからそんな仲になったんだ、と返されるがロボットは何も言わずに話を聞く。ローマンは茶化したいのか真面目にやりたいのか問い詰めたい気持ちに駆られそうになったが、それを抑えて続けた。
「
──オーラ、それは魂の力の発現。人の生命力、身体能力を強化するそれは、ハンターが武器の一本でグリム達に渡り合える力を齎してくれる重要な物。ローマンからざっくりと聞いたロボットは、ニオが思ったよりも危機的状況にあるのではないかと察した。
『アンタの話し口からして、あのグリムはお嬢ちゃんのオーラに干渉して体調不良を起こした、って聞こえるな。だがオーラは魂の力なんだろう? もしそれに影響を与えられたら不味くないか?』
ローマンは、黙って頷いた。更にローマンは言葉を重ねる。
「そんなグリム……仮の名前としてゴルゴーンと呼ぼう。アレは新種のグリムで、しかもこんな場所を都合よく徘徊しているなんて話、あまりにも出来過ぎだ」
罠。その可能性を悟った瞬間、ロボットは頭を抱えた。まさか人の天敵を人が野に放ったのか、と。
──⬛︎⬛︎は愚か。
思考に一瞬ノイズが走った様な気がしたロボットだが、そのまま話を続けていく。
『もしそうなら、ここから逃げるのも一筋縄じゃいかないぞ』
「そうだろう。彼女の力を知っているならこのやり口も納得だ。全く忌々しい」
ローマンの中に渦巻く怒りは、ニオに手を出された事も多分に含まれているのだろうとロボットは思ったが、今茶化す必要もないとやめておく。実際それは正しい選択だ。今のローマンは少々どころではなく気が立っていた。
『で、俺達はどうする? 気絶してる人間1人抱えたままお礼参りは難しいだろうが……』
「何もかもがイレギュラーだ。ひとまず拠点に引き返す──」
──焦りを含んだローマンの声を遮る様に、エンジン音が鳴り響く。
「全くなんだ次から次へと……!」
「またアンタの仕業? ローマン。隣の
「……その背負っている子をどうするつもり?」
バイクのハイライトを背後に、2人のシルエットが浮かび上がる。
少なくとも、彼らにとって最悪の状況、最悪のタイミングでやって来たのは──
「チッ……カウガール気取りと獣風情と来たか、ヒーローとやらはいつも遅れてやってくるんだな!」
ヤン・シャオロン。
ブレイク・ベラドンナ。
──チームRWBYのハンター2人だった。