爪の甘い悪のカリスマ──にやたら甘い助手──と昼行灯ロボット転生者。 作:ダイコンハム・レンコーン
かつて、世界は光と闇から生まれた。
世界には最初、朝と夜のみがあった。
その地に言葉を持つ生物が現れ、朝と夜の間にそれぞれ名前を付けた。
朝焼けと夕焼けが生まれた。
彼らは過ぎゆく気候の移り変わりにも名前を付けた。
春、夏、秋、冬。
現象には名前が与えられ、名前は意味を持った。彼らの名もそう。
ローマン・トーチウィック。
ニオポリタン。
ヤン・シャオロン。
ブレイク・ベラドンナ。
──そして、名もなき彼。
この場にて名を持たぬ彼は、未だ意味の無い存在だ。
ただそこにある現象。
彼が生まれた意味、ローマン達と出会った意味を求めて彷徨うならば、それを定めない事には、きっと始まらない。
「……強盗の次は誘拐? いい加減懲りたら?」
「生憎、これ以上の生き方を望んじゃいなくてね! だからとっとご退場願おうか!」
背負っていたニオを木に預け、ローマンは挑発ついでに杖を回す。ヤンはそれを見て、手加減無しで行くと意気込んだ。
彼女が両腕に巻いた黄色のブレスレットが展開し、前腕を覆うガントレットへ変形する。銀のバレルが手の甲の側から伸び、それが
「そりゃお断り!」
それに向かって迷わずヤンは吶喊する。獣の直感が如き選択の早さだ。
彼我の距離は一瞬にゼロとなり、ローマンの振るう杖──メロディック・カジェルと、ヤンが装備するガントレット──エンバーセリカが激突し、火花を散らす。
ヤンはそのまま近接戦闘に持ち込もうとするが、杖のU字型の持ち手に引っ掛け、巧みな杖捌きでこれを
──エンバーセリカ、双射程散弾籠手たる所以は2種の弾丸を扱う事にある。赤のショットシェルは炸裂弾、橙のショットシェルは散弾──
「さっさと消えて貰おうか!」
杖を振るい距離を取ったローマンが石突きの
「そのまんまお返しするけど!」
ヤンは拳を振りかぶり、拳を打ち抜く加速を乗せて籠手から赤の炸裂弾を放つ。
──直後、爆発が空気を歪ませる。2人の間で激突した炸裂弾が生む爆炎が夕闇を暴いた。
一瞬の休息、2人は選択する。ローマンは杖を横に構えて待ち、ヤンは飛び立つ鷹の様に背後へ向け両手を広げ、炎の向こうを睨み据えた。
「はぁぁっ!」
更なる炸裂──彼女は飛んだ。そして爆炎を貫いた。
ローマンもそれを予感していた。因縁浅からぬ
「っ! ハンターなんか辞めてサーカス団で働いたらどうだ! ──火の輪潜りのライオン役で!」
爆炎の紅い空気を線形に棚引かせ、若き龍は邪悪に相対す。
「こんっのぉぉぉ!」
そしてまた──閃光が瞬く。
──時を同じくして、ロボットとブレイク・ベラドンナもまた、戦いの火蓋を切ろうとしていた。
「……貴方、名前は?」
『……』
隣に繁く煌めく爆炎も、今は2人の視界に入らない。
黒いリボンの少女、ブレイクは、その騎士の呼吸のない佇まいに何か既視感を覚えていた。
ロボットは、その片手に握る刀と拳銃の性質を併せ持つ武器、ガムボール・シュラウドに目を奪われていた。
(片刃の剣……いや、刀。……この世界にもあるのか)
刀の鞘もまた、厚い刀身を持った肉断ち包丁の様な刃を持つ。──しかし、この武器はこれだけで終わらない。
刀身が拳銃部に沿う様に折り畳まれたガムボール・シュラウドが
『……!』
──飛んだ。
ロボットは咄嗟に身を屈め、飛んでくるそれをやり過ごす。
投げられた、のではない。ガムボール・シュラウドのまたの名は、可変弾道鎖鎌。拳銃の反動を利用し空中で加速する鎖鎌でもあるのだ。
ロボットは既に彼女と言葉を交わしていた、昼のテラス席で。その驚きを口にすれば声で正体が割れてしまう。それを危惧したロボットは飛んで、戻ってを繰り返す鎖鎌の回避を寡黙に行う。
「攻撃しないのなら──」
『……!』
足元を刈る軌道の鎖鎌を跳んで避けた刹那、進行方向へと拳銃が火を噴き、軌道が反転する──
(おい……なんだそのふざけた動きは)
しかし、ここで倒されでもすればローマンに言った事を反故にしてしまう。ロボットは、その性分は認められない、そんな事は。
(まだ、始まったばかりだろう)
身動きを取れない空中に於いても、尚彼の手札には、それを打開する策がある。
両脚のスラスターが蒼炎を蒸す。その勢いで彼は後方へ宙返りし距離を稼ぐ。しかし、まだ鎖鎌の弾倉には弾丸が残っている。
(分からないまま終われるものかよ!)
撃発を起こし追尾する鎖鎌を振り切るために彼は両足を地面に着けたままスラスターのみで不規則にホバークラフトの様に動き、弾倉が切れるまで逃げ切った。
「……アトラスの機械義足?」
ヒリつく空気が刺し、ブレイクの肌が粟立つ。彼女の鋭い視線の先には、息一つ乱さない
しかし2人の間にはかなりの戦闘経験の差があった。ブレイクはそも、ハンターになる前から武器を手に取り戦って来た叩き上げ。比べるのもおこがましい。
(よく分からない事ばかりだが。今はどうでもいい。二言は、無い)
──それでも、彼には尽きる事を知らない手札があった。まだ、使い方も分からない力が。
「でも、遅い!」
猫の様に一瞬身を屈めたブレイクは、前方へ跳躍。鎖鎌は瞬時に刀へと変形する。
対しロボットは右手を握り込み、地面を強く叩いた。
(何を……!)
ガシャン、何かの外れる音。ブレイクの鍛えられた動体視力はすぐさまそれを捉えた。
──右前腕から伸びるワイヤーに繋がったくの字型の刃。
ロボットは、右腕で振り払った。手の届かない、明らかな遠間のブレイクを。
しかしそれは叶えてくれる、右腕のガントレットを模した装甲、その下の隙間から溢れ出した──
(鞭?! 違う、剣!)
空中で咄嗟に刀を盾にしたブレイクは、迫り来る剣の欠片によって吹き飛ばされる。それでも致命傷は避けた。彼女は周囲の木を足場に、勢いを殺して軟着陸する。
そして彼女は見る。騎士の周囲に飛び散った剣の欠片、ワイヤで繋がったそれらを。
そしてロボットが僅かに右肘を引くと、伸び切ったワイヤは巻き取られていき、シャン、シャン、シャンと金属音を立てながらくの字の凹と凸を合わせ、1本の剣に収束した。
柄のない、右腕の装甲と直接繋がった剣は、ロボットの理解する新たな力。
(……何か、嫌な予感がする!)
ブレイクが感じたのは、ここに来て初めての悪寒。
(ローマンとの約束は破らない、だが俺には今、目の前のお嬢ちゃんを傷つける理由もない……なら)
ロボットはもう一度右腕を振るう。剣は解かれ、蛇となる。
空気を滑り、遠隔の斬撃はブレイクへ向かう。ブレイクは刀でそれを弾こうと試みるが──
(──今!)
ブレイクの刃とロボットの刃が交わる瞬間、ロボットは放ったワイヤを巻き取る。
──彼の思考は今、ひどく奇天烈で明瞭となっていた。
「なっ!」
巻き取られゆく蛇に振り下ろした刀もまたその流れに巻き込まれる。くの字型の刃は掴んだ刃を逃さない。まるで──蛇が噛み付く様に。
ブレイクは否応なしに刀を手放さざるを得なかった。そしてそれは、ロボットの目論見通りである。
刀に喰らい付いたままの蛇腹剣はそのまま収束を続けるが、刀が邪魔になり、剣になれずにいた。ロボットがもう一度右手の拳を握り締めると、蛇腹剣は万力の様な力でもって刀身を真っ二つに噛み砕いた。
「……ウソ」
折れた残骸は、方々へ散った。その内の1つは、彼女の近くにも。
この瞬間、彼はこの剣の名を決めた。
『──ファング・ソード』
その腕は切り裂く
「この、声は」
ブレイクには、4つの耳がある。彼女はファウナス、獣の特徴をその身に1つ持つ種族だった。彼女の場合は、猫の耳。人の耳も併せ持つ彼女の耳に間違いはない。彼女が昼、テラスで時間を共にしたローブ姿の男だと。
『騙し討ちみたいな事して、悪かったな』
「どうして……貴方は人を探していたんじゃないの?」
『そうだ。探していたのは、ローマンだ』
ロボットはそれ以上を語らない。それ以上を知らないからだ。
だが今知った事もある。
『……猫の耳、か』
「えっ……」
彼女は慌てて頭に手を伸ばす。頭の黒いリボンが解け、髪色と同じ黒の三角の耳が露わとなっていた。恐らくは、砕かれた剣の欠片がリボンを切り落としたのだろう。
「……」
ファウナスについてもう一つ。ファウナスは、多くの人間から差別対象とされている。ブレイクは、また醜いなどと罵詈雑言を投げられると覚悟した。
『またえらく可愛らしいな』
「? 貴方……ふざけてるの」
『……? 何だ、何かおかしな事言ったか?』
ブレイクは困惑した。何も言わないならまだしも、可愛い。ファウナス同士でしか褒め合う事のない身体の部位を人から褒められるなど、まず無いのだから。
「貴方、まさかファウナスなの?」
『ファ、ファスナー? 何て言ったんだ? ……もしかして社会の窓が開いて……って今は何も履いてなかったな』
生後1祝日も経っていないロボットは当然何も知らない。ナチュラルな態度はブレイクにも伝わった。だがそれはブレイクの困惑を更に加速させた。
(まさか、ファウナスすら知らない? なのに可愛らしい? なに、何なのこの男は……)
戦いの雰囲気も薄れようとしていたその瞬間。
『──っ!
──ブレイクの背後に、影が立った。
このロボットが誰と交流するのかは未定です。
ある程度決まってきたらタグに増やすかも。
今のところ主人公はガリアンソード持ったドムみたいなモンです。