爪の甘い悪のカリスマ──にやたら甘い助手──と昼行灯ロボット転生者。   作:ダイコンハム・レンコーン

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前話のおまけより前の話かもしれない。


閑話:悪党と助手と賑やかし

 悪のカリスマの朝食は早い。ローマンは猜疑心の塊で、特に同業者から出された食べ物は決して口に入れない。またある種の潔癖であり、外食に行く際はよく調理場が見える場所へ通っている。そんな彼の食事事情を知ったロボットは、つい質問した。

 

『でもアンタ、小悪党界の大物なんだろう? 顔もすっかりバレちまってるんじゃないのか?』

 

 ロボットはつい疑問が湧き、部屋の中だと言うのに帽子をつけたままソファーに腰掛けるローマンへと話しかける。

 

「顔がバレた所で些事な話だ」

 

 しかしローマンは、そんな事毛程も気にしていないと言う風である。何か策でもあるのかと思い……すぐ閃いた。

 

『なるほど、悪党と言えば変装だな!』

「お前は……妙な所で察しが良いな」

『で? どうやるんだ?』

 

 ワクワク、と背後に擬音が浮かんできそうなほど身体を揺らしてローマンに近付くロボット。ローマンは迫る彼の頭部を押し退けると、ソファーを立ち、最後の同居人たる彼女の名を呼んだ。

 

「すまないニオ、ここへ来てくれないか!」

 

 普段の慇懃無礼は鳴りを潜めた、どこか優しい声だ。とロボットは内心でニヤリと笑っていた。勿論、顔が変わる訳でもないから誰も気付きはしない。その事が少し寂しく思えるロボットでもあった。

 

 ──ドン! ガラガラ! ガッシャン! 

 

 しかし、そんな感傷的な雰囲気も、ドアの向こうから噴き出す騒音にかき消される。

 

「ニオ?! どうした!」

 

 ローマンは慌ててドアを開く。

 

 するとそこには、頭から倒れ込んでピンクの寝間着をはだけさせたニオの姿があった。成人でありながらも幼い少女が如き背丈と顔立ちの彼女からは、倒錯的な美が齎される。

 

「っ、いや! すまない!」

 

 やや扇状的なニオの姿を見たローマンは初心な少年の様に、帽子のツバを押さえて目を隠した。当然ロボットは察しているが、そこは黙るのが大人なマナーだと沈黙を保つ。

 

『ルォーマン、ちょいと上着を借りるぞ』

「おい、何を勝手に……」

『お嬢ちゃん、今のカッコはちょ〜っとこの子には刺激的過ぎるみたいだ。これでも着てな』

 

 起き上がったニオに彼はローマンから剥ぎ取った白いジャケットを羽織らせた。文句を言おうとしたローマンも、流石に何も言えない。これは一見、何気ない行動にも見えるが、その裏には彼の神算鬼謀が隠れていた。

 

 ローマンの白い上着に身を包んだ彼女は、服の襟を掴んでより深く服の中へと潜り込む。寝ぼけているのだろうか、今にも眠ってしまいそうな柔らかな目尻はロボットが昨日見たニオとは似ても似つかない雰囲気だ。

 

 対してローマンはこの光景に、予想だにしない心の昂りを感じていた。見てはいけない様な、ずっと見ていたい様な、割り切れず沸き立つ気持ち。それは言わずもがな、彼女への想いと今の甘い空気のせいだろう。

 

 ──そしてロボットは、2人を前に新たに機能を解禁した。

 

(聴こえるぞ、ローマンの高鳴る鼓動が!)

 

 心拍センサー。心臓の拍動による特殊な振動を感じ取り、対象の方角を識別する高感度センサーだ。愉快な男、ローマンのドギマギを耳で楽しもうと決意した魂が、ロボットの身体から知識を引き揚げたのである。ナンセンスがここに極まっている。

 

「んっん! に、ニオ……今日は一体どうしたんだ? 珍しくこんな時間まで寝ていて」

 

 空気を誤魔化す為、似非の咳をしながら話しかけるローマン。こんな時間、とは昼前を指す。別に特別な用事が無ければ無理に起こす気も無いのがローマンだった為、彼女は今まで眠っていた訳だが。

 

「……」

 

 普段ならばメモなり指文字なりでメッセージを伝えるニオも、今はダンマリを決め込んでいる。困惑するローマンを見かねたロボットが部屋の隅まで肩を組んで連れていく。

 

『なぁ、察してやれよローマン、どう考えてもふて寝だろう?』

「ふて寝? 何が? 嫌な事でもあったのか?」

『……嘘だろ? おい冗談キツくないか? あんなに良いとこ無しで終わったら誰だって凹むに決まってるだろ!』

「いや、そんな事は無い。ニオにはいつも助けられているし、それを考えればこんなのたかだか一回のミスだ。それなら何十回もミステイクを繰り返してる俺は一体何になる」

 

 上機嫌だったロボットの気分指数は下り坂に入った。

 

(あの嬢ちゃんはローマンを支えてやらないと、と思ってるみたいだが、ローマンからすればニオちゃんは強く賢い女の子、って事か? まだお嬢ちゃんの力は知らないが……お嬢ちゃんが支えれば支える程、ローマンの恋のハードルは跳ね上がりそうだな。主に釣り合いが取れてるかの自認のハードルがな)

 

 ローマンは上を目指そうとする人間だった。もしそんな彼が本気で惚れた相手が居たなら、きっと彼女はローマンからすれば高嶺の花(上の存在)。対等になれるまで頑張ろうとするし、それまでは気持ちを封じようとするだろう。ローマンは弱者に足を引っ張られるのを嫌う人間でもある、自身が弱者としてそんな思いを惚れた女にさせる程、ローマンは男気を捨ててはいなかった。

 

(そんな……所か?)

 

 勿論、昨日会ったばかりのロボットが察するには難しい事だが、少なくともそれに近い考えを思い付いているあたり、彼の魂も似た様な所があるのだろうか。

 

『……そうだ!』

 

 ひとしきり呆れ果てたロボットは、何を考えたのかローマンを連れてニオの前に戻って来る。そして彼女の目の前で仰々しく語り出す。

 

『聞き給えニオ! こちらに座すマスター・ローマン・トーチウィックは前夜散々だった貴女に寛大な処遇を下そうとしている!』

「おい、いきなり何を……!」

 

 ロボットはローマンに振り向き、数秒黙ったと思ったら何事も無かったかの様に話を続ける。

 

『だが私には全く解せない! あれだけ昨日頑張った私が約束のジェリ缶ドリンクバーに誘われる事もなく! 貴女は今の今まで惰眠を貪る! ああ嘆かわしい!』

「そんな事一言も言ったつもりはないが?」

 

 まるで、いや演説そのものな語り口は薄気味の悪い迫力を以って2人に問いかける。あなたはそのままで良いのか、と。

 

 ニオの目線が、上がる。

 

『だからこそ、ローマンに代わって私が貴女に処遇を言い渡します』

「お前、いい加減に──」

 

 

 

『貴女は今から、ルォーマン! トゥォーチ! ウィッッ! クと特訓して頂きましょう!』

 

 

 

 畳み掛け、静止するローマンを振り払い、ロボットは強引に2人の距離を縮めていき、2人の手と手を繋がせる。ニオの顔は凄まじい『赤』だったが、ローマンはロボットの傍若無人な振る舞いに気を取られ、それどころではない。

 

「っな、そんな時間は……」

『知ってるんだなあこれが。アンタは今回の件でデカいツテを無くして暫くの間、潜伏するつもりなんだろう?』

「……いつそれを?」

 

 ──じゃあ知ってるか? ロボットは寝ないんだぞ。……そう語るロボットの顔には、表情も無いのにニヤけた面があった気が、彼にはした。

 

「聞かれていたか。俺とした事が、少し気を緩め過ぎたらしい」

『まあ良いじゃないの、()()()()の家族サービスだ』

 

 ロボット渾身の台詞。僅かに出てきた悪戯心が、つい余計に言葉を紡いでしまった。しかしローマンは難しい顔をして

 

「……? どう言う意味だ?」

 

 などと言ってのけた。『あぁ、こりゃ長そうだな』──ロボットは天を仰いだ。




この2次創作はルビチビの誇張マシマシなキャラの性格をベースに作ってるので基本コミカルです。ニオは謎のプラカードを持ち出すかもしれませんし、ローマンは世界中のコーヒー豆を盗もうとしているかも知れません。
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