気づいた頃には路地裏の外だった
血だらけのボロボロのワイシャツ、大量の汗、そしてそれに似合わない無傷の体
燦々と輝く太陽が目に入り、さっきの出来事が白昼夢か何かだったのかと思うほどに
「何が…」
「おい、お前サン」
振り返ると自分と同じ顔、でもその様子は少しおかしい
喋る言葉は全てが棒読み、フードを被り、顔には無数の目、本来の目の位置には布があり目を見ることはできない
「なんだよ!君は!」
『うるさいぞ、お前サン』
「でも、なんで僕は生きてるんだ!」
『うるさいと二度も言わせるな、人間が見てるぞ』
見渡せば、歩行者が皆チラリとこちらを向いては目線を逸らしている
少なくてもまともな人だとは思われていないらしい
『お前サン、ついて来い』
「…分かったよ。あと待て、僕の名前は吉だ!」
『…吉、ついて来い』
ーなんなんだろう
少なくてもいい気分では無い
自分が死んだ様な白昼夢を見せられたかと思いきや、それは現実で、何も状況が飲み込めない
「これは…!」
『さっきの人間…いや、悪魔だ』
向かった先はあの路地裏だった
血飛沫と僕が持っていた菓子パンと飲み物、そして自分の爪で引っ掻いたのか、引っ掻き傷だらけの悪魔の死体が散らばっている
『これで、理解できたか』
「分かるか!?そもそも、なんでも僕は生きている?!お前が僕を助けたなら…一体何の契約をしたー」
『うるさい』
口を手で押さえられる
ひたすらに冷えた声だった
なんの情緒も感じられないまるでロボットの様な声
『一つずつ説明する』
そう言ってフードの男は壁に寄りかかる
そうかと思うと、すぐに腰を屈めこちらに目を向ける
『まず、"何故生きてるのか"についてだ。』
「う、うん。そうだ。なんで僕は殺されたのに今は無傷で生きているんだ?」
あの時確実に殺された筈なのだ
体に無数の穴を開けられて、脳から心臓、腸に至るまで…
ーうッ…気持ち悪くなってきた
『それは、俺とお前が同一化したからだ。』
「は?それは一体どう言う…」
『分からないか。噛み砕いて言うならお前サンの体の足りなくなった部分を俺が埋めた…これでいいか。』
「嘘だろ…」
ーあり得ない
ー僕とこの悪魔が同じ体になったと言うわけなのか
『その通りだ』
「…考えがわかるのか?」
「それはそうだ、俺はお前サンで、お前サンは俺なんだから」
「悪夢だ…悪夢だと言っておくれ…」
ー路地裏、僕は一人虚しく絶句していた
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外は夏の太陽と、ごった返す都会の人間によって地獄が作り出されているが、僕たちのいる店内はクーラーにより涼しく感じられる
僕たちはあれから数分、とある衣服店にいた
「取り敢えず、服を着替えないと…!」
無数の穴が空いている服なんて、着ていられない
他人の視線がひたすらに痛い
『そんなもの適当でいいだろう』
「うるさい、僕の好きにさせろ」
適当なTシャツを一枚買って着替える
フードの男…いや"人の悪魔"は、腕を組んで外で待っている
ー一体どうしろって言うんだ
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『次は契約内容だが、』
ーそうだ
"悪魔との契約"それは、悪魔と人間の対価の交換により行われる儀式
人間は悪魔に"自己を構成する何か"を差し出し、対価として悪魔は人間に力を一部貸し出す
僕も彼と契約したと言うことは何かを差し出さなければならないのだ
「何を出せばいい…!家族か!友人か!言っておくが、"やらないぞ"それなら僕の命をー」
『うるさい、何を言っているんだお前サン』
「は?」
静まり返る
その声は静かながらまるで、相手を呆れているかの様な、"何を言っているんだ、お前は"と言っている様だった
「だって、僕は対価をー」
『そうだ。だけど、俺はそんなものいらん』
驚きだ…まさに驚愕だ
悪魔が人を求めないなんて
悪魔が血を求めないなんて
「じゃぁ…君は何を…?」
『俺の要求は一つだけ』
「一つだけ?なんだい?」
『俺に正しい人間を教えてくれ』
その顔は無表情ながら、どこか虚しく悲しさを感じた
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『早くしろ、Tシャツに着替えるだけでそんなにかからんだろ』
カーテンを開けると、フードの男
「…取り敢えず、帰ろうか服も着替えたことだし」
財布の中には1000円札が2枚だけ
少なくてもここにいる理由もない
『わかった』
僕の隣にいる悪魔は誰にも見えないらしい
人とぶつかっても、まるで幽霊の様に透過してしまう
ー僕はどうすれば良いのだろう
『どうした、お前サン』
「…もう良いよ、あと、僕の名前は吉だ。人間についてだっけ?まず人間はあまり遠くまで歩きたがらない」
『ほう…じゃぁ、どうするんだ』
「それはー」
駅に向かう足止まりは、街の喧騒に消えていく
やる気はどこまで続くでしょう★