ライネル快進撃!!   作:ムラムリ

2 / 10
リーバル

 きぃ、と黄金のライネルが小さく音を立てる。

 それは番えた弓矢を引き絞る音。

 待ち構えるリト族へ我先と駆けていく魔物の背後で、立ち止まり、静かに。

 聞こえるはずのない、そんな僅かな音。それを先頭に立つリーバルは、確かに聞いた気がした。

 魔物達とリト族達が衝突する寸前。狙いを定めた黄金のライネルに対し、悪寒が全身を襲う。

「伏せろぉっ!!」

 リーバルは叫んでいた。叫びながら身を屈め、先頭のボコブリンの首を足の爪で引き裂きながら。

 しかし、唐突なそんな命令に、誰もが従えた訳ではなかった。

 ボコブリンやモリブリン、リザルフォス達と武器が至る所でかち合わされ。

 それと同時にパァンッ! とそれをかき消す程の鋭い弓音が響いた。

 次の瞬間、戦場に一筋の空白が出来ていた。

 その射線。

 胴体を真っ二つにされたモリブリンは、削った木のバットに骨を紐で括り付けただけの乱雑なそれらしい得物を、目の前の大柄なリト族へと叩きつけていた。

 それを自慢の怪力で受け止めていたリト族も、胴体が千切れ飛んでいた。

 更にその後ろの数人のリト族も同じく、そしてその次のリト族は肉体を四散させる事はなかったものの、更に更に後ろの数人を纏めて吹き飛ばした。

「な、なんだ、あれは」

 リーバルはその馬鹿げた威力に驚愕しながらも、立ち止まらない。立ち止まれない。

 目の前から魔物は押し寄せてきていた。それに自身の身体を隠しながら的確に捌いていく。

 だが、一気に混乱する仲間達に、魔物達は仲間の犠牲など微塵も気にせず襲い掛かっていた。

 パァンッ!

 再びの音と共にまた、戦場に空白が生まれる。

 数匹の魔物の犠牲で、それの倍のリト族が一気に死んでいく。

 リーバルは叫んだ。

「ボクがアイツを引きつける! 後は頼んだっ!」

 そう言って、敵のど真ん中でリーバルは弓に爆弾矢を番え、上昇気流を引き起こし、跳ねるように大空へと飛んだ。

 そして、それと同時に爆弾矢を地上へと降らせ、魔物を纏めて吹き飛ばす。

 振り向けば、黄金のライネルと目が合った。

 舌なめずりをするそのライネルは負けるとは微塵も思っていなさそうで、それはリーバルの気に酷く触れた。

 

 その黄金のライネルは、片手剣よりも槍よりも大剣よりも、弓という武器を好んでいた。

 大した理由があった訳ではない。だが、長い歳月を費やして育まれたその腕前はハイラル全土を巡っても匹敵するものはほぼ居ないであろうものであり、また種族として元々並ぶもののない優れた肉体から更に鍛えられた背筋は何にも勝る。

 そのライネルが手に持つ弓は、他のライネルが持つ弓とは形こそ同じであれど、全く違うものだった。

 ライネルの弓は、基本、一本の矢を三本から五本に分裂させて放つ能力を持ち合わせている。

 しかしながら、その能力は敢えて捨てていた。

 その代わりに他の弓よりも更に威力を高めてある、自分の為に一から自分で作り上げた特注品だった。

 他の黄金のライネルでも、引き絞る事までは出来ても、狙いを定めるなんてどだい不可能な代物。

 ただの矢を放とうとすれば、飛ぶ前に真っ二つに分かれてしまうから、矢も金属製にした。それも二度は使えない、そんなどこからどこまでも手のかかる代物。

 だが、その威力は見ての通りだ。

 敵を貫通するどころか、その胴体を真っ二つにして尚も突き進んでいく。

 放ったと同時に、その射線には何者の存在も許されなくなるその光景は見て飽きるものではない。

 けれども、そんな見てから避けられるものではない速さの矢を、目の前のリト族は軽々と避けていた。

 ……目が良いから、で片付けられる問題ではない。

 外せば、反撃にと爆弾矢が自らに降り注がれる。

 一つ一つは大したダメージではないが、長続きすれば流石に黄金のライネルと言えど、無事で居る事は出来そうにない……が、そんな事よりも。

 ライネルの援護を失った魔物達がリト族に拮抗されようとも。

 自らの弓を避ける存在など、許したくはなかった。

 

 ……掠りでもしたら、そこから体が引きちぎれそうだ。

 リーバルのすぐ隣を飛んでいく矢は、その衝撃波だけでもこの身体を破壊されそうであった。

 爆弾矢が効いているのか正直なところ分からない。

 頭に直撃させようとも、煙が晴れれば平然としているそのライネルを屠る為にはどれだけの物量が必要なのか、それは正直なところ、考えたくもない。

 だが、その矢を避け続けていれば、ライネルの顔は段々と余裕を失っていった。普通のライネルに良く見る、敵意、怒りを映し出すものになっていく。

 自分を放って他のリト族を襲うなどと言った事もする気配もなく、どうやらプライドはその派手な見た目に似合った程度に高いようだった。

 また、避けられている理由は単純だ。矢そのものではなく、放つ直前の狙いと引き絞る腕を見ているだけの事。

 リト族の目ならば、遥か上空からでもその情報を掴み取るのに苦労はしなかったし、またリーバル程の技量ならば、それに反応して身を翻させる事も可能であった。

 我慢比べといこうじゃないか。

 その間に、ボクの仲間達が魔物を潰しているからさ。

 それから皆と一緒に、じっくりと君を調理してあげるよ。

 ……そう思っていたのだが。

 ライネルは息を大きく吸い込むと、自分の周りに炎を吐いた。

「…………」

 その周りには、魔物の死体が転がっている。燃えやすい木製の武器も多い。火力の強いその炎を浴びて、一気に燃え上がった。

 段々と、多量の煙が立ち上っていき、ライネルの姿が見えなくなる。

 ……それはライネルも同じだ。

 だが、相手は一撃必殺。こちらは残りの爆弾矢を全て当てようともきっと、いや確実に足りない。

 当てずっぽうに、けれど見てから避けられず、掠っても死ぬであろう威力の矢が飛んでくる。

 ……ボクがすべきは、時間稼ぎだ。

 倒すのはそれからで良い。爆弾矢を一本だけ取り出して、ライネルに向けて放った。

 煙の中から矢があらぬ方向を飛んでいく。

 爆弾矢が着弾すると、その爆風で炎が吹き飛び、煙が晴れる。だが、姿が見えなくなるのを嫌がっているのが分かっているかのように、またすぐに炎を吐いて、出来た煙に紛れた。

「……チッ」

 すぐに、ではなく移動するワンテンポ遅らせてから爆弾矢を放つ。

 この黄金のライネルが勝利へと続く道をどのように描いているのか分からないが故に、反撃にも慎重になる。

 また、矢は当てずっぽうに飛んでいった。だが……その位置は、リーバルが元居た位置から動いた距離とほぼ同等だった。

 再び爆弾矢が煙を晴らす。

 ライネルのその顔からは怒りも失せて淡々と観察するようにこちらを見ていた。

 ……ボクの癖を読んでいるのか。

 そんなデカくて派手な図体をしている癖に、なんて嫌らしいんだ。

 三度の炎を吐いている間、ちらりと仲間達の攻勢を見る。

 まだ思った以上に時間は経っていないのか、魔物達の数は大して減っていなかった。劣勢ではないのだが。

 爆弾矢も手持ちはもう少ない。

 何度か補給しに戻る必要があるが、その一回の度に、確実に十人以上は死ぬだろう。

「クソッタレ」

 振り返る。

 すると、ライネルが既に矢を番えてこちらを狙っていた。

 ……は?

 見ていたのは一瞬のはず。それも、ライネルが炎を吐き終えるまでの間を狙ってのはずだ。

 その弦を支える腕がぴくりと動いたのを見て、リーバルは咄嗟に動いた。

 間に合った……と思うも、ライネルは弦を離してはいなかった。

 背筋が凍る。

 そして、咄嗟に動いたのに無理が祟ったその瞬間、矢が放たれた。

 無理に動くも、ヂッ、とその翼を矢が掠る。

「うぐっ、あっ!?」

 それだけで、羽が幾枚も捩じ切られた。引き連れる衝撃波が全身を襲い、体のバランスが一気に崩れる。

 炎を吐いている間も、傍目でずっとこちらを観察していたのか? その執念を舐めていたのか?

 黄金のライネルと言えど、たかが魔物だ。そんな油断がどこかにあったのかもしれない。

 疑念、後悔。

 だが、無情にも次の矢を番えて狙いを定めるライネルに、それをするのはもう遅過ぎた。

 二度目。フェイントを警戒したリーバルに、今度は素直に狙い撃つ。

 ヴゥンッッ!!

 まるで矢が放つ音とは思えない、その音、衝撃波が頭のすぐ傍を通り抜けた。

 直撃は辛うじて避けたものの、今度は後頭部に束ねた髪が一気に引き千切られ、弾け飛ぶ。

 頭が激しく揺れて意識も失せてしまい、体はくるくると空に舞いながら、弓すら手から零れて落ちてしまう。

 そして後は、一直線にと落ちていくだけ。

 ひゅううう…………がつっ!

「……えっ? あっ……?」

 気付いた時、そこはライネルの腕の中だった。

 両腕と両足は掴まれて、びくともしない。

 じゅるり、と音がした。舌なめずりをするライネルの顔と、目と目が合う。

 絶句。

 もしかして、あの顔は好敵手としてのではなく、単純に、ボクが美味そうだからと?

 ぽた、ぽたりと唾液がリーバルの胸へと垂れてくる。

 また、その親指が首を何度か撫でる。まるで、毛を逸らして肉質を確かめているようで。

 そして、ぐあ、と開けられた、牙の生え揃った大きな口が近づいて来た。

「やっ、やめろっ! 嘘だっ、こんな、こんなっ、このボクがっ!?」

 がぶり。

「あがっ」

 ぶち、ぶちぶちっ、ばり、ぼりりっ。

 みちゃっ、みちゃっ、ばりゅっ、ぼりゅっ。

 ……ごくり。

 

 食い千切って離れた頭だけは残したまま、残りの身体を両手で貪り食う。

 防具を引きちぎり、胸から両腕、腰も、そして足先までの全てが、瞬く間にその腹へと収められていく。

「……グフゥ」

 やはり、リト族は食すに値する。

 腹を撫でる。幾多の爆弾矢を身に受けて、少しばかり空腹を覚えていたこの体もすっかりと充足したようで、軽い心地良さを覚えていた。

 さて。

 この群れの頭と思わしきその首だけは持ち帰る事にして、口と手を軽く拭う。

 少し離れた戦場では、リト族との戦闘はまだまだ続いていた。魔物達の方が劣勢か。

「グルゥ」

 全く。

 仕方ないと言わんばかりに弓矢を手に取り、空へと向けて放てば、空中から爆弾矢を放っていたリト族の数人が一気に血の雨を降らす。

 それからリト族が敗走するまでは、十分も掛からなかった。




空を飛ぶリーバルを一体のライネルがどう倒す? と考えた結果、ライネルが特殊個体になったけど、まあ、黙示録の二刀流ライネルが回転して空を飛ぶなんて事してたよりははっちゃけてないはず。

獣神の覇弓:
ライネルの中でも 弓に長けた個体のみが持つ 他の弓のように複数放たれる事はないが 威力はそれらを束ねても及ばない 衝撃波だけでも敵を吹き飛ばし また何体をも貫通する 専用の矢を必要とする
威力: 200

5連よりも強いという事にしたので32 * 5 = 160より強い...キリ良く200だな! と。
対物ライフルみたいなもの。

ライネル

  • 通常
  • 青髪
  • 白髪
  • 白銀
  • 黄金
  • 怨念
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。