雷が効かない。
並の魔物なら即死し、強い魔物でも暫く動けなくなる程の雷を何度も食らっても、この黄金のライネルは平然としている。
最初こそ僅かに怯んだものの、まるで気合で耐えられる程度だと言うかのように、その後は全く動じなかった。
「全く、嫌になるね」
目の前に対峙するのは、黄金色をしたライネル。他にも魔物達がゲルドの街へと攻め込もうとしている。
イーガ団を含めて、今まで対峙してきたどの存在よりも強大な敵。
……幸いなのは、イーガ団まではそれに加わっていないという事だ。
ただ、それも分かってしまう。
イーガ団はガノンへの忠誠ではなく、ハイラル王家への恨みで動いている組織だ。
同じハイラル王家を敵とするところから、魔物達と繋がっている部分もあれど、それはそこまで太くない。
互いに距離を取って一息の間。
……こんな存在と共同戦線を張れるだなんて自信なぞ、誰だろうと持てないだろうさ。
悪趣味とでも言えそうな、黄金色に輝くその肉体。しかし、それを張りぼてだなどと言うような輩は一人足りとも居ないであろう、その存在感。
それでも、退くわけにはいかない。
きっとこの私が負けたら、隠れる場所が殆どないこの広大な砂漠においては、ゲルド族の滅亡にも繋がってしまうだろう。
雷に堪えないと言えど、ダメージが入っているのも、攻めあぐねているのも確かだ。こうして一息吐く時間があるのがその証拠だった。
どれだけ体力があろうとも。一撃たりとも喰らってはいけないとしても。
削り切ってやる。
雷が効かない。
距離を取ったそのゲルド族の長に雷の矢を放ってみれば、ただの矢を弾くかのように盾で弾くどころか、その直後に指をパチンと弾いたと思ったら、自分の頭上に雷が落ちていた。
……どうやらこのゲルド族は、雷を溜めて放つような能力を持ち合わせているらしい。
エレキリザルフォスのようなものだろうか? やっている事はそれよりも上等だが。
そう無視出来ないダメージではあるが、流石に無制限に放つような事までは出来ないようで。もしそうだったら、少しばかりでも焦っていただろう。
別の矢も持って来れば良かったか。
だが、そんな僅かな後悔で撤退などは微塵も考えない。
不用意な攻撃は全て弾いて反撃へと繋いでくる、その技量の高さ。
既に首下に紐で纏めていた髭はすっぱりと切り落とされていた。下手をすれば、次の瞬間には首を切られても全くおかしくない。
矢も直撃させられなかったら、手痛い反撃として返ってくる。
……これ程までに苦戦するような、生死にまで繋がるような戦いはいつ振りだろうか?
四足も含めた全身に血を運ぶ強靭な心臓が、久々に高鳴っている。
その首を刎ねたい。
そんな純粋な欲望に、ライネルは凶悪な笑みを隠せない。
さて、どう調理しようか。
呼吸を整えると、互いに駆け出した。
距離はすぐに詰まり、ライネルは肩を前に出してタックルを仕掛けた。
ざざっ!
それにすかさずウルボザは腹の下を潜り抜け、ついでにと一撃を食らわせる、が。
ゲルド族の技術の粋を集めた七宝のナイフであろうと肉の表面を多少傷つける程度の肉体の頑強さに、刃を振るう度に嫌になる。
最初の弾きから首へと届きかけた一撃も、直撃していたとしてもきっと、首を裂く事までは出来なかったのかもしれない。
そんな嫌な想像が脳裏に走る。
次の瞬間、ライネルが身を翻して、その七宝のナイフとはスケールの違う片手剣を振るって来る。
直線的な軌道に、盾を弾き合わせようとするが、それはピタリと弾く直前で止まった。
カンッ!
すると、ただぶつかるだけ。ライネルは姿勢も崩さない。
……これだよ。
一度目以降、攻撃を弾く事すら容易には許してくれない。
触れたところで、ライネルは盾ごと押し倒すように片手剣を押し付ける。
ウルボザはその勢いを逆に利用して身を翻し、回転しながらその腕を切り付けた。
だが、怒張した筋肉は腹よりもまるで刃すらも弾かれる程の硬さを誇っており、血の一滴も流れなければ、その腕の毛がはらりと飛ぶばかり。
特にライネルの筋肉に至っては、七宝のナイフ程度では傷つけられないと踏んだ方が良さそうだった。
タイミングを多様にずらしながら剣と盾を振るい、弾かれるのを防ぐ。
他にも体躯の違いを押し付けたり、時に掴みや蹴りと言った搦手も織り混ぜながら多種多様に攻め立てる。
だが、どれもこのゲルド族の長には通じなかった。
踊るかのようにくるくると舞いながらその盾で受け流し、すかさず反撃へと持っていく。
本当にそれは、まるで掴み所のない蝶のようだった。
黄金になっても馬鹿なところを見せる弓の同胞が、蝶を捕まえようと半日以上その巨体を跳ねさせていたのを思い出す。
最終的に怒って、その弓の衝撃波で粉々にしていたな、あの時は。
……小回りの効く相手は苦手だ。
魔物の中でもモリブリンならば、黄金であれど大抵のライネルにとっては相手にもならないだろう。
だが、もしボコブリンが回避に徹したのならば、下手なライネルは捕まえるのにも時間を掛けてしまう。
上達したリザルフォスになど、逆に首に刃を突きつけられる事だって全くおかしくない。
四足と両手を併せ持つ種族としては仕方のない事なのかもしれないが、黄金へと至ったのならばそれを正面から砕きたくて堪らない。
……が、これはもう種族として仕方ないのでは? と思う部分も出てきてしまう。
本当に、どれもどれもが通じる気配を微塵も見せない。
剣撃も、体術も、弓術もそのどれもが、小回りの効かない弱点を突かれて届かない。
長い、長い時間を掛けて僅かな傷を積み上げられて、屍を晒すのは自分になっても全くおかしくないと、そうも感じていた。
長い切り結びの果てに、ふと、何かを確認したくなったかのように、再びライネルが距離を取った。
弓矢も手にしないその動きに、ウルボザは追撃をやめた。
疲労が、激しい。
肉体も、精神も。少なくない血を流させたはずだ。雷だって何発も当てた。それでも、ライネルの動きはいつまで経っても衰えない。
そんなライネルは、一向に仕留められない事に苦い顔をしながらも、一度調子を再確認するように、自分の体を撫で回していた。
その様子には、これまで与えたダメージに堪えるような素振りなど微塵もなく。
「終わりは……いつ、だ……?」
せめて、せめて半分は削ったと言ってくれ。
そう思いながら、べったりと七宝のナイフについた血脂を拭い取り。
微かながらもその身に伝わった違和感に、冷や汗が一気に吹き出した。
戦況は……どうなっている?
思わず一度周囲を見渡せば、騒ぎを聞きつけてか、モルドラジークすらもが参戦していた。敵も味方もごったがえしながら、本能のままに獲物を腹に収めようとしている。
せめて、せめて敵でも良いからこっちに来てくれないか……? そうも思うが、そのモルドラジークですらライネルの気配を感じてか、こっちには近寄って来る様子はなかった。
仕方なく向き直る。
ライネルも一度その様子を見ていたようで、同じく首が動いていた。
目と目が合う。
一層落ち着いた様子を見せるそのライネルは、攻め方をがらっと変えて来る予感がした。
「……厳しい状況だねえ、本当に」
七宝のナイフはもう長くは保たない。替えの武器もここで戦っているだけじゃあ、期待出来ない。
盾サーフィンも学んでおくべきだったろうか。七宝の盾でそんな事はする気にもなれなかったが……。
ライネルが片手剣を持ち直すと、息を吸った。
「グオオオオオッ!!」
ここまでビリビリと振動が伝わって来る、その咆哮。
何か、してくる。
盾を強く構えると、ライネルはぐっと四足を深く沈み込ませて、ウルボザへと高く跳躍してきた。
……何か、何かとんでもない事をしてきそうだ。
直感がそう告げ、後ろを振り向きながらもウルボザは全速力で逃げる。
そして、ウルボザが元居た位置にライネルが着地、それと同時に片手剣を突き立てたその瞬間。
激しい爆発が巻き起こった。
「うおおあああっ!!??」
直撃には巻き込まれなかったものの、ウルボザは吹き飛ばされ、砂の海をごろごろと転がった。
「あ、あれが奥の手って訳かい」
ふらふらとしながらもどうにか起き上がれば、上から爆熱に晒された砂が雨のように降ってくる。
だが、それすら気にしている余裕もない。ライネルは冷徹に弓を取り出し、そして雷の矢を番えていた。
視界も不明瞭、体もちゃんと動いているか怪しい。
どざぁっ、どざざっ!
ライネルが砂地を駆けながら矢を放ってくるのを、それでも身を翻して避けた。
それは最早偶然だった。更に、水平に、遠くへと飛んで行った矢は、雷を溜めさせるつもりも無いと言っているよう。
明らかに、仕留めに掛かられていた。今までが余興だったと言わんばかりだ。
距離が詰められ、流れるように持ち直された片手剣がウルボザへと振るわれる。
躱した。今となっては弾ける自信もなかった。直前で止められるようなフェイントを織り交ぜた猛攻を凌ぎ切れる気もしなかった。
それを理解してか、二撃、三撃と連続して、強く踏み込みながら振るって来る。
落ち着け、落ち着け!
ひたすらに後ろに下がりながら、ウルボザはどうにかリズムを戻そうとするが、爆風を浴びた砂の、砂漠の熱より更に比にならないような熱を浴びた全身はもう悲鳴を上げていた。
五撃。
そのままライネルは大きく両腕を広げて、片手剣と盾の刃でその肉体を両断しようと、更に更にと前へ踏み込もうとし。
……どちらかを弾いても、体は千切り飛ばされる。
後ろに跳んでも、横に跳んでも、もう間に合わない。上に跳んでも、タイミングをずらされたら一巻の終わりで。
前に逃げるしかなく。
それなら首にナイフを突き刺してやると、両手でナイフを構えて足を踏み込んだその瞬間。
ライネルはその構えを解いて、再び吼えた。
「グオオオアアアッ!!」
「うっ、ああっ!?」
先ほどより遥かに至近距離の、そして更に強い雄叫び。それは思わず耳を塞いでしまう程であり。
辛うじて武器こそ落とさなかったが、気付いた時にはライネルはもう跳躍していた。
咄嗟に雷を落とそうともそれは止まらず、その切先は無情にも地に降りてくる。
「……おひいさま」
ウルボザはライネルの奥の手を、まともに食らった。
空高く舞い上がり、そして落ちてきたそのゲルド族は、辛うじてまだ息があるようだった。
ただ、四肢の大半は千切れ飛び、その全身は真っ黒に焼け焦げていた。
「……ぅ……ぁ……」
体を起こしたライネルは、その目の前に立ち、黒焦げになっている肉体を片手で持ち上げた。
……結局、武術で上回る事は敵わなかった。
これがライネルとしての限界なのだろうか。小さき者達の極めた武術には、ライネルとしての武術では敵う事が出来ないのだろうか。
そうは信じたくなかった。
……誇って良いぞ。
そして首を刎ね、それからモルドラジークの方を見る。
アレには、他の魔物……ライネル達も手を焼いているようで、更にどちらかと言えば魔物達の方が犠牲が大きく。
「グルル……」
それがなければ、こう決着を急ぐ必要も無かったのに。
憎々しげに唸るライネルは、刎ねたゲルド族の長の首を腰に据えると、駆け出した。
モルドラジークに知性というものは殆ど存在しない。
ハイラルにてほぼ唯一砂の中に生息するその種には、危機感というものにも欠けていた。
黄金のライネルとウルボザの方へと行かなかったのは、単純にその二体しか獲物が居なかったからであり、新しくこちらへと駆け寄ってくる巨大な肉体を持つ何かにも、新しい獲物が来たと歓喜する程であった。
そして、その真っ直ぐな駆け足に合わせて地中から飲み込もうとし、しかし、直前で止まったそれに空振った事を理解し。
ぐ、と拳を構えているその黄金色をしたライネルは、どうしてか憤怒の表情をしていて。
落ちるのに合わせて、その拳が目玉へと吸い込まれていった。
「ミ゛ィア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛??!!」
潰れた目玉、奥へ、奥へと入ってくる太い腕。未知の痛み。
ぐっ、ぐぐっ。
貴様のせいで切り上げて来たんだ。この糞野郎が。
黄金のライネルは、そのままその腕を肩まで捻じ込んでいき、その無能な脳味噌を見つけると容赦なく握り潰した。
ぐぢゃっ。
「ミ゜ッ」
跳ねたのを最期に事切れたのを確認して、ずぼっ、と手を抜けば血みどろになっていて。
汚いなと思うも、洗うような水などこの砂漠にはどこにもなく。
疲労感ばかりが後からやって来た。
「グァ」
一言と、溜息。
後はどうとでもなるだろうから任せたと、来た道へと身を翻して、とぼとぼと歩き始める。
呆然とする魔物達も、長が敗北した事を知りつつあるゲルド族達も放って、一匹ばかりで、いつまでもつまらない顔をしながら帰っていった。
七宝のナイフ:
攻撃力: 32
耐久値: 60
黄金のライネル:
体力: 7500
原作で考えると半分どころか1/3も削れてませんね。
っていうか、一つでライネルを屠れる武器って、クリティカルや耐久力が減らない攻撃を含めなかったら、覚醒済みマスターソードしか無いっぽい。
因みに、今回に関してはウルボザには勝機があったり。
最後の剣の叩きつけをパリィ出来れば、そのまま首に攻撃を叩き込めたと思う。
爆風はパリィ不可攻撃でも良かったと思う。リンクは当然のようにパリィするけど。
もうちっとだけ続くんじゃ。
1話か2話か。
黄金のライネル(槍):
近距離: 3位
遠距離: 2位
ムスッとしてる。
偏差射撃が得意。
黄金のライネル(弓):
近距離: 4位
遠距離: 1位
おバカ。
ただ、距離を取られたら他の黄金のライネルも含めて誰も太刀打ち出来なかったり。
黄金のライネル(大剣):
近距離: 2位
遠距離: 4位
残忍。
意外と策略とか考えたりする。
黄金のライネル(片手剣):
近距離: 1位
遠距離: 3位
生真面目。
教育とかもぼちぼちする。
黄金のライネル
-
槍
-
弓
-
大剣
-
片手剣