それではどうぞ。
「蛙吹、からかうのはやめてくれ」
「相澤先生、わたし冗談で好きなんて言わないわ。」
「なおたちが悪いわ。」
「付き合ってとは言わないわ。梅雨って名前で呼んでちょうだい。」
高校2年のときの告白は一蹴されたわ。
代わりに名前で呼んでもらうことを約束してもらったわ。
ついでに私も相澤先生から消太さんって呼ぶことにしたの。
「梅雨、入賞おめでとう。」
「消太さん、ありがとう。約束よ。お付き合いしてもらえるかしら?ケロ?」
「そんな約束した覚えはない。」
「ひどいわ消太さん。体育祭で入賞したらお付き合いするって言ったじゃないの。」
「いつ言った。」
「ちゃんと一か月前から言ってるわよ?」
「...せめて卒業するまで待て。」
「ケロ!」
高校3年の体育祭では初めて入賞し、憧れの舞台でプロや一般の方たちに私の姿を見てもらうことができたわ。
そして卒業するときにお付き合いする約束もしたの。
闘いには負けちゃったけど、消太さんとの勝負には勝ったから十分思い出に残る試合になったわ。
「梅雨、卒業おめでとう。」
「消太さん、これでようやくお付き合いできるわね?」
「…忘れてくれているとありがたかったんだが。」
「自分で言ったことよ。忘れるわけないじゃない。」
「えらいのかえらくないのか…。」
「来月からリューキューさんのところでお世話になるの。」
「知ってる。お前が「梅雨よ。」…梅雨が進路相談してきたんだろ。俺を、名指しで。」
「だからお仕事の手が空いたら会いに来るわ。雄英高校に。」
「来るな。」
「そうでもしないと会おうともしないでしょ?」
「…。」
この問答の末、最低でも月に一度はデートをする約束を取り付けた。
高校生の時も何かにつけては消太さんのところに行って交友を深めようとしたわ。
そのノリもあって、私は月に一度とは言わず、休みが合う限り消太さんのところに向かったわ。
結果として、卒業後から半年後にはちゃんと向き合ってくれるようになったし、クリスマスにはキスもした。
私からだけど、ケロ。
それからは消太さんも甘えてくれるようになって、しばらくは平穏な日々を過ごしたわ。
でも二十歳を過ぎてすぐ、ヒーロー3年目になる目前で消太さんがヒーロー活動で大怪我をしてしまったの。
肝臓を刺されて血がいっぱい出てたわ。
でも、捕縛布で強盗を捕らえて事件は収束したわ。
その日はホワイトデーで3倍返しという人もいるけれど、彼女を心配させるホワイトデーなんかいらないわ。
「ヒーローとしてはすごい尊敬してるわ。消太さんがいなければ民間の人に死傷者が出ていたかもしれない。身を挺して人々を守る。かっこいい言葉だわ。でも、その人々の中に自分を入れてほしいの。私を心配させた今日のことはヒーローとしては正解かもしれないけれど、彼氏としては不正解よ。それこそ除籍レベルだわ。」
このときは体の水分がなくなるくらい泣いてしまったわ。
その時に私から言ったの。
結婚してほしい。心配する気持ちをちゃんと理解してほしい、って。
これは結婚したいからではなく、消太さんの考え方を変えるために結婚を道具に使ったと言った方が正しかった。
消太さんは逡巡したあと、自分のしたことを鑑みて結婚を許してくれたわ。
それから私は相澤梅雨になったの。
自分も、私も、町の人たちもみんな守るヒーロー、そんな人になってもらいたくて。
今となっては打算的だったと思うわ。
それは去年お茶子ちゃんの結婚式に参列してとても思ってしまったわ。
自分もウェディングドレスを着たいと思ってしまったもの。
打算的な結婚だったこともあり、結婚式はせず、籍だけ入れて、両家の家族を含めて小さな宴会を開いたくらい。
来月には爆豪ちゃんと響香ちゃんの、半年後には轟ちゃんと百ちゃんの結婚式があるからなおのこと『結婚式』というものを意識してしまっていたわ。
そんな思いを持ちつつ、隠しつつ、今日はお茶子ちゃんとカフェに行こうと誘われていて待ち合わせをしていたところなの。
待ってる間、消太さんとの思い出を振り返っていたらあっという間だったわね。
駅の方からお茶子ちゃんが走ってきたわ。
「梅雨ちゃーん!ごめーん!遅れてもうたー!」
「そんなに待ってないから大丈夫よ、お茶子ちゃん。」
――――――――――――――――――――――――――――
「いよいよ爆豪くんと響香ちゃんの結婚式が近づいてきたね~」
「そうね…。幸せな二人を見るのが楽しみだわ。」
「梅雨ちゃんは結婚式しないの?相澤先生も梅雨ちゃんも共働きだし予算とかは大丈夫だと思うけど、やっぱり忙しいの?」
「言うほど忙しいわけじゃないの。でもほら、私たちは籍を入れてだいぶ経っているし、消太さんもあまり気にしてないと思うの。だから私も特にやりたいと思っているわけではないのよ。」
チクリと胸が痛んだ。
本当は結婚式をしたい。
ロマンチックなプロポーズをしてもらいたい。
「そうなんか...。でも、もし結婚式が執り行われるとしたら、どんなのがいい?妄想くらいはしたことあるんやないの?」
「そうね。妄想はしたことあるわ。想像だけでとても幸せになれる、だって大好きな人の一番かっこいい姿をみんなに自慢できるんだもの。人生最大の惚気を盛大にぶつけるもの、それが結婚式だもの。みんなに『私たちはこんなに愛してるわ』って姿を見せられる結婚式をしてみたかったわね。」
「ずいぶんアグレッシブな妄想やけど...梅雨ちゃんも女の子やん。やっぱり結婚式したいんじゃないの?」
「もう、お茶子ちゃんたら強引ね。でも、そうね。夢だけは見させてもらってもいいかな、とは思っているわ。」
そう、夢でいい。
純白のドレスを着て、白いタキシードに包まれた消太さんにお姫様抱っこをしてもらって、誓いのキスをする。
愛してるを最大限に表現した結婚式を夢見たいわね。
「梅雨ちゃん。夢じゃなくて現実でも結婚式、したくない?」
「できるなら、ね。」
「なら、梅雨、結婚式をしよう。」
「え?」
振り向いたら今日は家で休んでる、と言って置いてきたはずの消太さんが、スーツを着て、花束を持って、そして小さな箱を持って現れたわ。
向かいに座っているお茶子ちゃんはしてやったりのにやけ顔でこちらを見ていたけれど、久しぶりのお誘いは消太さんが関係していたということかしら。
「梅雨、結婚して4年が経った。いや、4年も経ってしまった。とても、待たせてしまった。」
待ってなんかいない。
そう言おうとしたけれど言葉は出てこず、口からは空気が漏れ出るだけだった。
「最初はあまり愛想がよくなくて悲しい思いもさせた。3年前の事件では心配もかけた。改めて、すまなかった。」
「緑谷たちの結婚式に参加して、そういえば、とは思っていたんだ。なかなか言い出せず、すまん。」
「でも、俺は梅雨の幸せな姿を自慢したい。ウェディングドレスを着た梅雨を見たいしその姿を見せつけたい。」
「だから、やろう。結婚式。」
いつの間にか涙があふれていたわ。
もう言葉も出ないくらい。
「ケロ。ケロ。」
頷いて鳴くので精いっぱいだ。
「そして、できなかったプロポーズをここでやらせてくれ。もう、結婚してるから本来のとはちょっと違うけどな。」
「蛙吹梅雨さん、俺と結婚してくれてありがとう。これからもよろしくお願いします。これからの夫婦の幸せの誓いとしてこの指輪を受け取ってください。」
「ケロ!」
ああ、消太さんはやはりかっこいいわ。
私の消太さん、ありがとう。
こんな素敵な思い出、とても嬉しいわ。
幸せをかみしめながら指輪をはめてもらった。
婚約指輪。
結婚指輪よりもあとにもらってしまったわね。
ありがとう、消太さん。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次は尾白と葉隠を書きます。
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