超昂大戦 二次創作SS 虜囚の花嫁! エスカチーム、明日へのブーケトス 作:環 藍河
※シリーズ構成上、この第2章は「溜めて引く」の「タメ」部分、つまり鬱展開になります。
「…痛っ、んもう、デートのエスコートもまともにできないの?」
強がるアメイズが目覚めたのは、結婚式場のドレッシングルーム。純白・ピンク・オレンジ・ライムグリーン…眼前に並べられるウェディングドレスを纏うマネキンは、いずれも色鮮やかなジュエリーを散りばめていた。
ティアラ・ネックレス・コサージュ…一体、合計で何百カラットになるだろうか。
さらにその前にはショーケースが調えられ、美しきエンゲージリングが何十、何百と輝きを放っていた。いつか、この一つ一つの輝きの数だけ、伴侶への永遠の誓いが捧げられるのだろう。
「ふう…ん? どういうつもりかなー? 私、宝石にはちょっとうるさいのよ?」
だが次の瞬間。
暗転した衣装室、宝石の輝きは、その最悪のルーツをアメイズに映し出す。
「…!!」
ティアラとネックレスのダイヤは、独裁国家で女子や幼子を徴用し、深く暗き鉱山で粉塵にまみれ、塵肺を患いながら掘り出された、コンフリクト・ジュエル。出口なき内戦に徴用されたこの国の父親が命からがら自宅に戻ると、迎える妻子は漏れなく血の痰を吐き、あるいは落盤事故で手足を失い、少なからず命を落としていた。
ブリリアント・カットの煌めきを引き立てる、エンゲージリングのピンクゴールドは、廃液を垂れ流す工場で精製され、下流地域の住民は神経障害や骨不形成・胎児畸形に喘いでいた。
《エスカ・アメイズ! いや、多国籍複合企業NAUの長・雪城エリーよ! お前もまた、この血塗られた輝きに手を貸した、咎人であろう!》
「!! …否定はしないわ…。」
かつて、エリーが承認した、NAU傘下ブランドのジュエル調達計画書。功を焦った幹部社員が、出所の怪しい宝石に手を染めてしまったことを、他の幹部全員が見落とし、決裁してしまった。
皮肉にも、この年に発表したモードは大反響。
独裁者の国庫と武器商人、それに公害の元凶を大いに潤してしまった。
《はははっ、笑わせる! お前たち魔女もまた、血塗られた金で生き永らえる、罪深〜い外道どもの集まりではないかあ!》
「…う、ううっ…!!」
取り返しのつかない過去の誤ちに、エリーはうつむき、自らの不徳と屈辱を噛み締めるしかなかった。
…
……
「…ぐえ〜っ、最悪…、てゆーか悪趣味…」
コマンダーの罠に嵌められて落とされたにしては、明るく楽しく朗らかな、結婚式場の託児室。ベビーベッドから積み木にジグソーパズル、絵本からジュブナイルまで、子どもを数時間寂しがらせないためのアイテムをふんだんに揃えた、現状とのギャップが激しすぎる一室。
「…! 懐かしい〜っ!」
トパーズが手に取ったのは、10年ほど前のヤルトラマンシリーズ作品、ヤルトラマン・エトスのグラビア本。うららの幼少期にヒーローへのリスペクトを決定づけた、彼女のバイブルであった。
だが。
「なっ…、何よっ、この、鬼畜外道のエンディングはーーーーーっ!!」
うららがボロボロに擦り切れるまで読み返し、その都度胸と目頭を熱くさせたエトスの英雄伝説・ヒロイックサーガは、そこには無く。
エトスが編み出した必殺技はことごとく敵に解析され、総て破られる。膝を地に付けるエトスは怪人に蹂躙され、遂に胸のタイマーをもぎ取られ、いばら状の拘束帯でその四肢を十字架と伴にする。
この日、地球人類は終焉を迎えた。
「…っ、ああっ! …、こっちも、これもっ!! 嘘っ、嘘だっ、違うっ、こっ、こんなのってーーーーーっ!!」
メタルヒーローは、人類の科学技術の粋であるコンバットスーツの制御回路図を内通者に売り渡され、侵略者のコンピューターウイルスに侵され機能停止、暁の採石場で哀れにも敵幹部のレイピアに胸を貫かれ、絶命。
スーパーヒーロー戦隊は、敵の狡猾な罠により分断され各個撃破。ブルーが光線銃に倒れ、イエローが電磁鞭に手足をもがれ、ブラックとピンクはソニックブーメランに二人抜きされ、天国での再会を誓うように折り重なり、散った。四人の復讐を誓うレッドもまた、誇りのソードを無慈悲に叩き折られ、人類最後の希望ごと、袈裟懸けに断たれた。
伝説の少女戦士たちは、一人は護るべき人の心の暗部に毒され、自らを闇に堕とす。今一人は愛した友の変心を受け容れず、現実から逃亡。残された一人は、支え合った二人の瓦解に挫けず、自らを鼓舞し健気に戦場に立つも、本来の力には程遠く、ここに伝説は幻として潰えた。
…この本も。あの漫画も。
トパーズが次々に手に取る、ヒーローたちの栄冠の軌跡だったはずの聖典は、改竄を経て闇の経典と化していた。
《はーっはっはっ、どうかねトパーズ、貴様の求めるご都合主義の勧善懲悪ヒーローより、よほどリアリティがあろう!?》
「こっ…このゲスめーっ! 出てきなさいよっ、子どもの夢を汚い爪で穢した罪、その身であがなえっ!!」
《夢を? 穢したぁ? 俺がぁ? トパーズちゃんよお、そいつは違うぜえ。俺は近く貴様に訪れる、現実を見せてあげたまでさあ!》
「?! 現実?」
《おうよ、そいつらと同じ惨殺死体になる、お前達の心の拠り所・レジェンド戦士どもの現実だよおー! 見よ!》
突如落とされる照明。
代わってプロジェクターが結ぶ像は、本来なら子どもたちが心を一つに、ヒーローの一挙手一投足にエールを送るものだったろう。
だが、そこには。
黄昏の空にどす黒く浮かぶ、三つの十字架。
いずれも手首足首は無骨な鉄枷に捉えられ、もはや絶命へのカウントダウンを受諾するのみ。
「斉射隊、構えー!」
エスカレイヤーに、ハルカに、エクシールに、ガトリング砲が向けられる。
「ルビー…ごめんね」「サファイア…無念です」「トパーズさん、アメイズさん…泣かないで、天に還るだけだから…」
「放てーい!」
無慈悲に響く銃声と薬莢の弾け飛ぶ乾いた音が、先輩の最後の言葉をかき消す。
「…エスカレイヤー…さん…っ!」
「ハルカさんっ、ハルカさあーん!」
「エリス師匠ーーーっ! ちくしょう、ちくしょおーーーっ!」
「…救えなかった…。私たち、無力だ…」
大空のスクリーンに浮かぶ、憧れ追いかけた希望の、血塗られた末路。救助行動が叶わなかったエスカ・チーム四人の悔恨の嗚咽は、茜空に溶けて消えた。
…
《我等アルダークは、必ずや貴様ら超昂戦士の心をへし折ってくれよう! あらゆる邪道と非道を駆使し、何度でも蘇り、最後に必ずその命脈を断ってやるわあ!!》
「…あはっ…はははっ…」
コマンダーのディープフェイクムービーは、弱ったトパーズの心を根底からえぐり。
キッズルームには、乾いた笑いがこだました。
…
……
(…学校の視聴覚室か…会議室?)
幽閉された暗室で、サファイアは現場の状況を把握しようと、五感を研ぎ澄ませた。
20人も入るかわからない程度の空間に、椅子が一つ。正面にはプロジェクターとスクリーン、左右には音響機器が備えられた、試写室であった。
《それではこれより、新婦・加古野ヒビキ様の生い立ちを振り返るスライドショーを上映いたします。》
コマンダーの、悪意を隠そうともしないナレーションと共に、部屋全面に映し出されるヒビキの幼少時代。
「なっ…こんな写真、どこで…!!」
兄・ハガネに甘え、父に抱き着き、母の膝で眠り…今の凛々しいヒビキからは想像もつかない、あどけない稚児。
(あのヒビキちゃんがねえ…)
(ほんとに立派になったよ…)
本当にヒビキの結婚披露宴でこのスライドショーが上映されたら、参席者一同から、感嘆の声が漏れたであろう。
だが、優しき画はここまで。
暗転の後にこれでもかと壁いっぱいに投影されたのは。
模擬戦で打ちのめされ、龍輪功の適性もゼロ、過去最低の烙印を何度も焼きごてで刻まれた、閃忍試験での惨めなヒビキの姿。
ハガネの凶刃に倒れし前頭領・戦部タカムネの亡骸と遺言、跳梁跋扈する滅忍衆を操る兄の影と、地に堕ちた加古野の家名。
ディープフェイクで合成された、上弦衆重鎮たちの悪意に満ちた陰謀が、試写室を生臭く包む。
(後継は他におらぬのか!? あの愚息と、あの能無し娘など、家督図から消してしまうのだ!)
(養子縁組できる閃忍を、いち早く探さねば…!)
(加古野は罪深き子らを成したものだ…)
「…めろ…。」
《おやあ? 新婦様、なにかご不満でもぉ?》
「やめろおお!! 兄の愚行と私の無能は、加古野の血とは関係ない! 父を…母を…愚弄するなあああっ!!」
《ふははははははあ! 事実だろうが! 恨むなら自身の不運を呪うのだなあ! なまじ、代々が伝説級の閃忍を輩出した名家になど産まれたが故に、貴様は一生涯、悶え苦しみ続けるのだ!》
「黙れ下郎が! 私は…加古野家に生を受けたことを、誇りこそすれ、後悔などしていない!」
色をなすサファイアの叫び。
だが、それをも嘲り笑うコマンダーは、挑発を止めない。
《百歩譲って、貴様がそれで良しとしようと、貴様は結婚相手にも、いつか孕むご子息さまどもにも、その烙印を刻み付けるつもりかあ!?
無能の母からは、やはり無能のガキしか生まれぬ!
二つ名は頭領殺しの義弟に甥姪! 因循姑息の上弦衆どもだぞ、汚名は消えぬ、末代まで断じて消えぬ!
貴様が祝言を上げる時、それは同じ煩悶を舐め合う、未来無き不孝者を増やす愚挙なのだ、ああん!?》
「ぐっ…ううう〜っ!!」
…
……
閂市郊外、高台にそびえ立つ、瀟洒な結婚式場。
街を一望できる、永遠を誓う二人の船出の地は、今やイデアの壁に呑み込まれ、エスカ・チーム4名を精神攻撃で翻弄する。
あわや、陥落か。
時を同じくして。
さやかの解析結果を受けたトキサダが即座に立案したエスカ・チーム救出作戦が、ダイビート史上最大規模で、極秘裏に進められていた。
『はいはーい、只今おかけの発信元番号は、私の知ったこっちゃないヤツでーす。乙女にオレオレ詐欺たあ、いい度胸だコラあ。』
「…ダイビート長官の戦部トキサダだ。君に是非とも、園崎アカリくんの救出のため、力と人脈を借りたい。」
『えっ…ひゃあっ!? 長官さんっ!! さ、サーセン…!!
…って、アカリがっ!? 救出って、アカリがピンチなのっ!?』
「だからこそだっ。いいかい? 君に頼みたいのは…」
…
……
『おっしゃああっ! まっかせなさいっ、このアタシが声をかければ、百が千でもお茶の子さいさい!』
〘あー、それはアカリっちの人脈であってだな。なぜお主が自らの功績と胸を張るのか、甚だ疑問なのだが?〙
「ああ、君もいたのか。僥倖だ。では、手分けしてその方々に依頼を。集合時間と場所は…」
通信回線切断を待たず、トキサダが司令端末に必要情報を入力。
《入電、入電。ロジスティクス部隊に臨場要請。臨時編成されたエスカ・ルビー救出隊員を8小隊に分け搬送せよ。合流ポイントはエリアKG2P。
なお特記事項。隊員は平服で作戦参加せよ。繰り返す、隊員は平服で作戦参加せよ!》
こんばんは、作者の環です。
そんなわけで、アメイズ・トパーズ・サファイアの3人が宗教裁判にかけられる第2章となりました。作者も自分で書いていて、陰鬱な気分になります…が、これも次章のカタルシスに繋がりますので、読者の皆様におかれましては、どうか今しばらく我慢めされよ。
解決編・第3章はまた明晩。
それにしても救出部隊…ダレデショウネー?(すっとぼけ)