マキムラを先頭に、数名の兵士たちが、ロックの病室に現れた。
「ロックはまだ意識がない。このまま、運び出して連れて行くしかないか?」
ロックの部屋に戻ったジョシュアとアンは、その一団を見つけて驚いていた。
「マキムラさん?」
マキムラは、振り返って二人の姿を確認した。
「君たちか。探す手間が省けた」
二人は顔を見合わせる。
「アン、俺と一緒に来てくれ」
ジョシュアは、それには目を大きく見開いた。アンも、当惑している様子だ。
「アンを連れて行く? どこへ? なぜ?」
マキムラは、ため息をついた。
「ジョシュア……。君を残して行くと後が面倒そうだな。良いだろう。君も一緒に来てもらう。君のご両親には、後で連邦軍から連絡を入れておく」
アンとジョシュアは、目をパチパチとさせて、何が起こっているのか理解に苦しんだ。
「全然意味が分からないよ。せめて理由を教えてよ」
「これから軌道上の連邦軍の宇宙艦に乗って移動する。目的地に着いたら説明しよう」
マキムラは、ロックの肩を揺すった。
「ロックさん、本当は起きてるんじゃないですか?」
アンは、マキムラの腕を掴んで、揺すぶるのを止めようとした。
「ロックは病人なんだよ。そんな風に動かしちゃだめだよ」
そんなやり取りの中、ロック自身がぱちりと目を開いた。
「……」
マキムラたちは、おおと歓声を上げた。
「やっぱり。起きてましたね?」
「ロックさん、大丈夫!?」
「ロックさ〜ん!」
アンは、ロックにすがりつくと、泣きながらその名を呼んだ。
「マキムラさん、あなただったか」
「ええ。迎えに来ました」
ロックは、眉間にしわを寄せると、辛そうに上半身を起こした。アンは、心配そうに彼の背を支えた。
「まだ動いちゃだめだよ。私、お医者さん、呼んでくるから」
ロックは、走り出そうとするアンの腕を掴んだ。
「大丈夫。体力は充分とは言えないけど、もう大丈夫だから」
ロックは、布団をどけると、ベッドから足を下ろした。
マキムラは、ためらいがちに言った。
「あー、そのぅ、命令を受けているんだ。あの女、サンドラも連れて行く。それから、この二人と、アンの両親も」
ジョシュアとアンは、顔を見合わせて怪訝な顔をした。
それからしばらくして、惑星ディールからハイパードライブで数十光年移動した連邦軍の宇宙艦にて、ロックとマキムラは、スクリーンに映る初老の男の姿を見つめていた。
「久しいな、ロック。元気そうで何よりだ」
スクリーンには、地球にいる銀河連邦軍情報局長官バーンズの姿があった。
「バーンズ長官。確か……二〇年ぶりぐらいかな」
バーンズはスクリーンの向こうで頷いた。
「正確には一七年だ。私が長官に就任する前のあの案件以来だ。君が雲隠れした後、惑星ディールに移住したのを突き止めるまで、随分骨を折ったのだぞ」
「誰とも、しばらく会いたくなかったからね」
バーンズは、目を鋭くしてロックを見つめた。
「そうも言ってられん事態になった。君に頼ろうとしていることからも、かなり面倒な事になっていることを察してくれないか」
ロックは、やれやれと息を吐き出した。
「分かりました。お話を伺いましょう」
バーンズは、一呼吸置いて、再び口を開いた。
「……ラインフォールド事件を覚えているだろう。あの時に、ロックと我々は協力して事態の収拾にあたった」
それを聞いたロックは、何かに気付いたように、ピクリと反応した。
バーンズは、そんなロックの反応を注意深く眺めながら、過去の出来事を呼び覚まし、二人に改めて説明した。
「それでは、念の為おさらいをしておこう」
バーンズは、スクリーンに星図を示しつつ、語り始めた。
「ラインフォールド事件とは、銀河連邦に対する反乱組織の活動、そしてその殲滅までの一連の出来事を指している。孤児院と偽り、エスパーの養成を行っている施設が辺境の植民惑星ラインフォールドにあった。そこには、多くの親を無くした子どもたちが連れて行かれていた。連れられた孤児たちは、みな超能力者としての素養があった事が、後の調査で判明している。孤児院と称するその組織が活動を始めてから約五〇年。我々は、そこで多数の強力なエスパーを従えた軍隊が結成されており、銀河連邦への大規模な反乱を企てている……との情報を掴んだ。確認に我々が動いた時には、既に千名を超える洗脳されたエスパー部隊、そして百隻以上の戦闘艦を組織は抱えていた。
通常の諜報活動では事件解決は不可能と判断し、我々は艦隊や軍のエスパー部隊を派遣して組織の壊滅を計った。しかし、派遣した艦隊は返り討ちにあい、しかもこちらのエスパー部隊の中には、洗脳されて奴らの仲間になってしまう者が続出した。ここに至って銀河連邦軍は、もはや戦争状態にあると判断し、大規模な艦隊を派遣した。
それでも苦戦を強いられ、これらの軍事行動とは別に、我々情報局は密かに君の所在を探した。なんだかんだ文句を言いながらも、君は手伝ってくれることになり、最終的に事件を無事に解決出来たという訳だ。組織の首領ソルドレークはかつて無い程強力な超能力者だったが、最後は君の手で奴は消滅した。ソルドレークを倒した後、投降した者は逮捕、抵抗を続ける者は全滅させた。洗脳されていた者たちも、何とか無事に元に戻す事が出来た。
こうして君の活躍で再び銀河に平和が戻った……と言う超人伝説のネタがまた増えたという訳だ」
ロックは、顛末を話すバーンズの顔を見ず、目を伏せて考え込んでいる。マキムラは、そんなロックの顔色をうかがっている。
ロックは、当時のソルドレークとの戦いでのやり取りを思い返していた。
彼は、今は連邦軍と戦う意思などなかったと主張していた。一方的に軍に攻め込まれ、やむを得ず応戦しただけだと。しかし、孤児を強引にエスパー部隊にすべく洗脳していた事実は変わりなく、激しく抵抗する彼を消滅させるまで戦いを続けるしかなかった。死の間際、彼は自身を殺した事を、いつか後悔するだろうと語っていた。
ロックは、頭を振ると、再びバーンズの話に意識を集中させた。
「我々は、この事件の後、エスパー部隊の強化に乗り出した。ソルドレークのような、一騎当千の強力なエスパーが戦局を大きく変える度に、君の力に頼る悪しき習慣を絶つことが目的だ。
そこで、ラインフォールド事件で孤児院にいた者たちの中から、強力なエスパーを選抜し、軍に勧誘した。だが、ソルドレークのような力を持つ人材は確保出来なかった。
そんな時、ラインフォールド事件当事の孤児院の子供たちに注目した。それぞれ、辺境の孤児院にバラバラに引き取られた子供たちの行方を捜索中に、強力な力を秘めた者を見出した」
ロックは目を細めた。
「それがサンドラだね?」
「ご明察」
バーンズは、スクリーンにサンドラの画像と共に、彼女の個人情報を表示した。
「我々は、一年前に軍だと名乗らずに、密かに彼女に接触し、いくつかのテストを行なった。天真爛漫な彼女は、孤児院で退屈に過ごしており、何か面白い事が起こるのを待っていたそうだ。事前の調査によれば、彼女は他人の超能力のコピー能力があった。試してみると、あっと言う間に、軍の最強レベルの能力者と同等の力を身に着けさせる事が出来た。これは行けると我々も考えた訳だが、そこまでだった。あのソルドレークのような能力を身に着けさせるには、ソルドレークに匹敵するような強力なエスパーの力をコピーさせる必要があった」
ロックは、明らかに不愉快な表情になった。
「天真爛漫と言えば聞こえは良いが、彼女には善悪の教育が明らかに不足している。……それで、彼女を海賊の一員にして、僕の名を語らせ、僕を引きずり出そうとした訳か?」
バーンズは、あっさりと頷いた。
「その通り。我々は、過去の経験からも、君が素直に我々に協力するとは思えなかった。だから、君には申し訳ないと思っているが、我々の味方にも極秘でこのような手段を取らせてもらった。海賊船も我々が運用していた。海賊船による数々の悪行を喧伝させていたが、君の注目を引こうという目的であり、実際には、海賊船による死傷者は一人もいない」
ロックは、怒りを顕にした。
「惑星ディールに落としたD弾もそうだというのか!? あれのせいで、ジョシュアの家族がどうなったか、知らないとは言わせない!」
バーンズは頭を振った。
「それでも君の尽力で幸いにも死者はでていない。我々自身も、有人惑星にD弾を撃ち込んだのは想定外だったのだ。どうか、私を信じて欲しい」
遠く地球にいるスクリーン越しのバーンズの心の内を確認する術は、流石のロックにも無い。ロックは、隣にいたマキムラを振り返ると、鋭い目つきで睨みつけた。
「ちょ、ちょっと、待ってくれ! 俺もつい最近まで、海賊船が軍のものだとは知らなかったんだ」
ロックは怒り心頭な様子で、マキムラの心の内を丸裸にしようとした。
「……あなたの方は、嘘はついていないようだね」
不快な表情のまま、ロックは再びバーンズに目線を戻した。
「あなたが本当の事を言っているか確信が持てない以上、僕に信じろというのは無理がある」
バーンズは、悪びれもせず、両腕を広げて釈明した。
「それはすまない。だが、信じて欲しい。その証拠と言ってはなんだが、被害を受けたご家族の方々には、我々が責任を持って生活回復までの保証にあたるつもりだ」
「金銭だけで済む問題じゃない」
ロックとバーンズは、しばらくの間、互いに睨み合った。
少し表情を和らげたバーンズは、情報を補足した。
「因みに、君が面倒を見ていたアンという少女だが、その両親がサンドラと同じようにラインフォールド事件の被害者だった。あの事件のあと、超能力は失われたらしく、惑星ディールでひっそりと暮らしていたらしい。彼女の超能力が発現したのは、恐らく両親からの遺伝なのだろう」
またしても、ラインフォールド事件が関係していることに、ロックは不思議な因縁を感じていた。彼女に超能力の才能を見出したことは、自身の失態だったと後悔した。
「……とにかく、問題はここからだ。海賊船を任せていた船長のマーク少佐は、かつて軍のエスパー部隊に所属していたこともある優秀な人間だ。他は軍の人間では無く、マークがあちこちの惑星で調達した荒くれ者たちだがね。マークは、テレパシーを受け付けない体質で、今回の極秘任務には最適な人材だった。だが、D弾を有人惑星に落とす暴挙に及んだ後、行方不明になったことから、改めて経歴を確認した」
バーンズは、今度はスクリーンにマークの経歴を表示した。
「マークは、ラインフォールド事件で、一度は敵に洗脳された軍のエスパー部隊の一員だった。あの事件の後、洗脳が解けて軍に復帰したが、テレパシーに反応しないだけでなく、超能力が使えなくなっていた。その為、宇宙艦隊に所属を移し、そちらで真面目に勤務していたようだ」
バーンズは、真剣な表情になった。
「そのマークから、昨日連絡があった。ソルドレークは生きていると」
ロックは、怪訝な顔をして、バーンズを睨んだ。
「確かに、彼は消滅したのを確認した」
「分かっている。君が嘘をついているとは思っていない。我々は、この連絡の真偽を確かめるべく動き始めたが、平行して、かつてのラインフォールド事件の被害者たちの保護を進めている。再び洗脳されて敵勢力に落ちるのを防ぐ意味もある。私からの説明は以上だ。マキムラには、マークが指定した座標にこれから向かわせる。本当にソルドレークが生きているならば、もう一度君の助力が必要かも知れない。いろいろ思うところはあるだろうが、今しばらく、我々にご協力を頂けないだろうか?」
ロックは、眉根を寄せてため息をついた。
続く…
本作は、私のブログ、pixiv、ハーメルンで同一作品を投稿、またはその予定があります。