「ロックさん! 待ってくれ」
すたすたと宇宙艦の通路を行くロックに、マキムラは焦った様子で謝罪を続けていた。
「すまない、本当に俺は知らなかったんだ」
ロックは、急に立ち止まると、マキムラの顔を無表情にじっと見つめた。何を言われるのかと戸惑うマキムラは、戦々恐々とした状態で、ロックに怒鳴られるのを待った。
ロックは、そんなマキムラの様子を見て、ため息をついた。
「あなたの考えている事は、先程すべて確認させてもらった。あなたも、バーンズ長官の被害者なのは分かっている」
マキムラは、怒られるんじゃなかったのかと、ほっと胸を撫で下ろした。
「だが、連邦軍の勝手な都合で、僕や、僕の関わった人たちを巻き込んだ事は、はっきり言ってかなり不愉快に感じている」
マキムラは、やっぱり怒ってる……と、青くなった。
「しかし……」
ロックは少し考え込んで言葉を切った。
「ラインフォールド事件の顛末を知る者として、ソルドレークが生きているという情報は、どうしても無視する事が出来なかった。しかし、この情報自体が、連邦軍の更なる罠かも知れないという可能性は否定出来ないがね」
マキムラは、真剣な表情でロックに約束した。
「そんな事になったら、今度こそ長官に怒鳴り込みに行き、俺は連邦軍を辞めます!」
あまりの真面目な顔にロックはくすりと笑った。
「ロックさん……?」
ロックは、この気のいい男に好感を持った。恐らくは、彼だけは信用出来るだろう。
「なら、その時は、僕も一緒に怒鳴り込みに行かせてもらおうかな」
辛そうにしていたマキムラの顔は、急にぱっと明るくなった。
「その時は、是非! あのジジイをとっちめてやりましょう!」
ロックは、微笑を浮かべて止まっていた足を進めた。
「早くアンとジョシュアに、説明してやらないと。それに、サンドラにも」
「ええ、もちろん!」
二人は、艦内の通路を進み、エレベーターに乗った。
その後、艦はハイパードライブでマーク少佐の指定した座標に急行していた。その座標は、惑星ディールにほど近い、同じ星系内を指している。
ロックやマキムラを始め、アンとその両親とジョシュア、そしてサンドラは艦橋に集まり、窓の外で高速に流れる星を眺めていた。
「ごめんなさい、アン。あなたに昔の事を秘密にしていて」
「お前には、普通の人生を送ってもらいたかっただけなんだ」
「私、嫌われちゃったのかと思って凄く不安だったんだよ」
アンは、両親に囲まれ、二人に抱きしめられていた。
二人がかつてエスパーだったことや、忌まわしい事件の被害者だったことを初めて知らされたアンは、ようやく安堵することが出来ていた。その様子を見守っていたジョシュアも、ほっと胸を撫で下ろしていた。
それを近くで聞いていたサンドラは、ESPジャマーが組み込まれた手錠を着けられていた。
「なんだよ、さっきは、あたしを殺そうとしてたくせによ……」
ロックは、悪態をつこうとしたサンドラの背後に回ると口を手で塞いだ。
振り返ったサンドラは、矛先をロックに変えた。
「師匠! 何すん……!」
ロックは、超能力で無理矢理口を開かないようにした。
「むぐぐ……!」
手を離したロックは、口元に人差し指を立てた。
「少し黙っていてくれないか」
「むぐぅ!」
サンドラは、口を開けられないまま、文句を言っているらしく、顔を真っ赤にして憤慨している。
「それにしても。まさか、あのソルドレークが生きていたなんて」
「どうしても、私たちも一緒に行かなければいけませんか?」
マキムラは、不安がるアンの両親、サムとラズリに説明した。
「ロックさんと一緒の方が、寧ろ安全だと判断しました。ここにいるサンドラと関わったことで、アンさんも強力な能力を持っている事を敵に見られましたから」
ロックの代わりに、D弾の爆発による熱線や放射線を遮断した能力は、サンドラにも引けを取らないものだった。
アンは、当惑して怯えた顔をして震えている。
「アン」
ジョシュアは、アンの手をそっと握った。そして、彼女ににこりと笑いかけた。
「大丈夫。ここには君の両親も、ロックさんも居る。それに僕だって……」
「ジョシュア……」
アンとジョシュアは、いつしか見つめ合っていた。
「おい……」
アンの父親のサムは、二人の間に割って入って、二人を引き離そうとした。
「馴れ馴れしくうちの娘に触るんじゃない」
目を丸くしたアンとジョシュアは、サムの方を凝視した。
「あら、良いじゃない。ジョシュアくんなら、お似合いじゃないかしら」
アンの母親のラズリは、自らの夫の肩を掴んで離れさせた。
「野暮は止めて。あの子には、彼みたいな普通の子がそばにいた方がいいのよ」
「しかしだな、アンはまだ子供だ」
「あら。私が、あなたとお付き合いを始めたのは、今のアンと同じぐらいの歳の時だったと思いますけど」
ロックとマキムラは、その様子を苦笑いで見つめていた。
「俺にも、離婚した前の妻との間に同じぐらいの娘がいるんだ。サムの気持ちはわからんでもない」
ロックは、マキムラの小さな秘密を知り、くすりと笑った。
ハイパードライブを抜けた連邦軍の宇宙艦は、滑るように宇宙を漂っていた。
「マーク少佐の指定した座標に到着しました」
艦長が、マキムラに説明している。
「近傍の空間には、この星系の第四惑星がありますが、人が住むには適していません。……あ、ハイパードライブの反応あり! 付近に、間もなく船が現れます」
艦長の説明した通り、正面にハイパードライブから抜けた宇宙船が現れた。
「む……!」
サンドラが、真っ先に反応したが、むぐむぐと声を出せずにいた。
「ごめん、忘れてた」
ロックは、サンドラが口を閉じるようにしむけていた力を緩めた。
「ぷっ、ぷはっ! 師匠、忘れてたなんて酷いぞ!」
「ごめん、ごめん」
サンドラは、艦橋の窓に走り寄ると、手錠をはめられた腕を前に伸ばし、宇宙船に指を指した。
「あたしの乗っていた海賊船じゃないか!」
確かに、そこに現れた一隻の船は、海賊船と言われていた船と同じもののようだった。
「ぐぐぐ……!」
サンドラは手錠を壊そうと腕に力を込めている。
「ちくしょう! 能力が使えない……! この手錠を外せ! あたしにあの船の船長をぶっ飛ばしに行かせろ!」
「落ち着け、サンドラ。それが出来ないのなら、その手錠は外せない」
マキムラは、ため息混じりに言った。
「むぐぅ……!」
その時、艦長がマキムラに伝えた。
「海賊船から通信が入っています。繋ぎますか?」
「構わん。繋いでくれ」
艦橋のスクリーンに、先方の海賊船の船内の映像が映し出された。そこには、一人の男の姿が映っている。
「マーク少佐だな?」
マキムラとロックは並んでスクリーンの前に立った。
スクリーンに映る男は、無表情だった。
「そうだ。……ロック、あなたも来てくれたんだな? ならば、一人でこちらの船に来てくれないか? 直ぐにソルドレークに会わせよう」
ロックとマキムラは、顔を見合わせた。
「分かった。なら僕が一人で行こう」
「いや、危険だ。俺も一緒に……」
「駄目だ。あなたは、ここにいる皆を守ってくれ」
ロックは、サンドラに声を掛けた。
「サンドラ、僕の居ない間に、敵が攻めてくるような事があれば、君が皆を守って欲しい」
サンドラは、不貞腐れている。
ロックは、サンドラの肩に触れた。
「僕に協力してくれるなら、すべて終わったら君の訓練に協力すると約束する」
サンドラは、現金にも、にぱぁと表情を明るくした。
「ほ、本当だな? 約束だぞ?」
ロックは頷いた。
そしてロックは、マキムラの方を向いた。
「行ってくる。危険を感じたら、僕に構わず船をこの宙域から離脱させてくれ」
「分かった……くれぐれも気を付けてくれよ」
アンとジョシュアは、不安そうにロックの方を見ていた。
「ロックさん……」
「大丈夫。すぐ戻る」
その瞬間、ロックの姿は消えた。
ロックは、一瞬で海賊船のマーク少佐の目の前にテレポートした。そこは、海賊船の艦橋だった。
「やっと、本人に会えた」
ロックは油断なく相手を睨みつけた。
「マーク少佐。どういう事なのか説明してもらおう」
マークは、踵を返すと艦橋の後部ドアに向かった。
「私に着いて来こい」
ロックとマークは、エレベーターで階下に降り、更に通路を進んだ。
「……説明しよう。私も、途中までは軍の上の指示通りに任務を果たしていただけだ。最初は、孤児院で燻っていたサンドラを拾い、彼女の訓練に協力した。そして、君を誘き出す作戦を命じられ、海賊船の人員を確保し、運用を始めていろいろな星系へと君を探し回った。そんな時、私は惑星ディールでソルドレークに再会したのだ」
ロックは、目を丸くした。
本当の事を言っているのか、マークの心の内を知ろうと試みたが、それは果たしてロックにも出来なかった。
「ああ、私には超能力への耐性がある。だから、私にテレパシーは通じない」
ロックは、諦めて口頭で確かめる事にした。
「惑星ディールと言ったな。いつ、どこで?」
「半年程前。ちょうど、君があの星に到着して直ぐ、農家をやろうとし始めた頃だ。君を発見して、連邦軍へその報告しようとした時、私に接触して来た者が居た。驚いたことにその人物は、自らをソルドレークと名乗った」
ロックは、そんなに早いうちから見つかっていた事に驚き、黙って続きを聞いた。
「そこで、彼から精神融合でいろいろな事実を知らされた。話を聞いた私は、君の所在の報告を止めて、彼の言うとおりにする事にした」
「なるほど。連邦軍を裏切ってでも、言う事を聞くべき内容だったのか?」
マークは立ち止まって、両腕を広げた。
「思い出したんだよ。連邦軍は、ラインフォールド事件の時に私が洗脳されていたとしているが、実際はそうではない。彼の話を聞いて賛同していたんだよ。それに、事件の後で洗脳が解けたのでは無く、連邦軍に新たな記憶で上書きされて忘れていただけだ」
「しかし……どちらの記憶が本当か、確かめる術は無いんじゃないのか?」
マークは、なるほどと思ったのか何度も頷いていた。
「直接、ソルドレークと話してくれ。そうすれば、君にも分かる」
マークは、立っている目の前のドアの横のパネルを操作した。
「ソルドレーク様、ロックを連れて来ました」
「通してくれ」
ドアが横開きで自動的に開くと、部屋の内部が見えた。その奥のデスクの椅子に座っている人物がいる。
ロックは、足を部屋に踏み入れると、その人物が前に見たソルドレークとはかなり印象が異なっていることに気付いた。
「久しぶりだね。ロック」
その人物は、一五歳前後の少年だった。その緑色の長い髪の毛が肩まで伸びていた。
続く…
本作は、私のブログ、pixiv、ハーメルンで同一作品を投稿、またはその予定があります。