ソルドレークと名乗る少年は、ロックにデスクの前の椅子に座るように促した。部屋まで連れてきたマーク少佐は、一礼するとドアを閉じ、部屋には入らなかった。
ロックは、二人きりになり、辺りの様子を確かめた。殺風景な部屋で、デスクと椅子があるだけだった。ロックは、警戒しながら椅子に腰掛けた。
「来てくれてありがとう」
黙ったまま、ロックは彼の姿をもう一度よく確かめた。
以前出会った時のソルドレークは、二十代後半ぐらいの見た目だった。それに、髪の色も緑では無く金髪だった筈である。言われてみれば、確かにソルドレーク本人に顔は似ている気がする。
「僕は、前の君との戦いで、確かに君を消滅させた。君がソルドレーク本人であると、どうやって証明する?」
少年は、頭を振った。
「君がよく知っている方法で、この姿になった。髪の色は、以前は変えていたんだけど」
ロックは、相手の考えを読もうとした。彼は、テレパシーをブロックせず、開けっぴろげにしている。どうやら、嘘はついていないようだった。
「あの時、私は君に殺されたのは間違いない。だけど、その寸前に、私という存在を、別の人物……サムに一時的に転移させ、どうにか消滅を逃れた。そして……やり直したんだよ。知ってるでしょう?」
彼が考えていることが伝わり、流石のロックも驚いていた。
「やり直した……?」
少年は頷いた。
「君のせいで、前の肉体は滅びてしまったんでね。だから、一からやり直したんだ。赤子の姿からね。惑星ディールで私を育ててくれたのは、奇特な老夫婦だった。約一年前に二人とも亡くなってしまったけれど。私はこの姿になるまで、自分がソルドレークだと言う事をすっかり忘れていた。でも、マーク少佐がやって来て、お互いにすべてを思い出したという訳。だが、君が偶然にも惑星ディールに来たことは、私も想定外だったんだ。だから、君に見つかる前にマーク少佐に連れ出してもらった」
彼は、見せびらかすように、自分の緑の長い髪の毛を弄った。
「もう、分かったでしょう?」
ロックは、まさかと思っていた。そんなロックの思考を彼は読んでいたかのように言った。
「その、まさかじゃないかな。私は、君と同じ不老不死の超人で、君の親戚なのかも知れない」
不信感を顕にしたロックに、更に少年は説明した。
「君は、何度も何度もやり直しをしてるんだろう? あれは、繰り返せば繰り返す程、以前の記憶が薄れてしまうらしい。君自身、自分が何処から来た何者なのか、もはや覚えていないのではないか? だって、私もそうだから」
ロックは、黙っていた。嘘をついている可能性を考えてみたが、彼のオープンな思考は、真実を語っているようにしか見えない。
二人の間に、長い沈黙の時間があった。
「君という存在は、この宇宙に一人ぼっちな訳じゃない。しかし、私と違って、君は何度も表舞台で活躍し、伝説の超人として歴史に名を刻んで来たよね」
ロックは、ため息をついた。
「いいだろう。君の話が真実だとして、いったい何が目的なんだ?」
少年は、足を組んで、椅子の背もたれに深く寄り掛かった。
「銀河連邦では、ラインフォールド事件と呼んでいるようだけど」
少年は、記憶を辿ろうと、天井を見上げている。
「銀河連邦……帝国時代もそうだったけど、我々のようなエスパーは、軍に体よく利用されて来た。その一方で、一般市民には忌むべき者のように扱われて来た。エスパーというのは、普通の人より優れた能力を持っていて、尊敬され、敬ってもらっても良いと思うんだけどね。例えばそのような扱いに抵抗するため、これまでも立ち上がった者たちが何人もいた。しかし、銀河連邦は、秩序を乱す行為としてそのような試みを潰してきた。私は、不遇な孤児のエスパーたちを集め、彼らが誰からも干渉を受けず、自分らしく生きられる国を作ろうとしただけだ。けれども、軍に一方的に攻撃され、やむを得ず反撃したら、一般市民が死傷してしまった。その結果、私は、人々を洗脳して悪の道に導いた極悪人として喧伝されることになった。そして、最後には君が軍に利用されて派遣され、ラインフォールドの孤児院は潰された」
ロックは、反論しようと口を開きかけた。
少年は、手を胸の前に上げた。
「言いたいことは分かる。千名以上のエスパーの軍隊や、百隻を超える軍艦を揃えていた事が、連邦の秩序に対する脅威だったと言うんでしょう? だが、それらはいざと言う時の自衛を目的としたもの。これが私から見た真実だよ。ラインフォールドから解放された孤児たちは、連邦軍に洗脳を解くと称して記憶を上書きされてしまった。マーク船長しかり、君が乗ってきた船にいるサムとラズリの二人もそうだ。記憶を上書きすると共に、超能力を封じるよう頭を操作されている」
ロックは、彼を睨んだ。彼の言っている事は、幾ら思考を覗き見ても真実だった。そして、いかにも軍がやりそうな事でもあった。
「理解してくれたかな? そう、銀河連邦は腐っている」
ロックは、頭を振った。
「ある程度は理解した。だが、その時代時代の政治や権力が腐敗するのはいつの世も同じだ。それでも、ある程度の秩序を保ち、人々がささやかな幸せな暮しを営むには、連邦のような枠組みがあった方が望ましいと過去の経験から学んだ。普通の人もエスパーも、その秩序の中で共存しようと長い間努力し続けている。決して、君の言うような悲観的な状況ではない」
少年は、がっかりした様子で、大きく息を吐き出した。
「残念だ。私の知る限り、過去には私のような者に味方した事もあっただろうに。君は、その時々で矛盾した行動をとっている。違うかい?」
ロックは、過去の様々な歴史的な岐路に立ち会って来た事に思いを馳せた。
「僕だって、一人の人間だ。時に誤りも犯す。君の言う事は間違ってないかも知れない。それでも、その時々で一番良いと思う選択をしてきたつもりだ」
少年は苦笑している。彼は、詭弁だと考えているようだった。
ロックは、今度は自分から先に質問した。
「……肝心な事を君は隠している。君はこれまで表舞台に立つことはなかった訳だ。しかし、ラインフォールド事件で急に表舞台に立った。それは何故だ?」
少年は、笑顔を向けた。
「さぁ? 君のような英雄になってみたかったのかもね」
「はぐらかすのか」
「本当さ。理由がなきゃいけないのかい?」
ロックはうつむいてため息をついた。
「やれやれ。なら、最初の質問に戻ろう。結局、何が目的なんだ?」
少年は立ち上がった。部屋の中をゆっくりと歩き、ロックの目の前に立ち止まるとデスクに腰掛けた。
「前回の私の計画は失敗に終わった。だから、今度は君と友人になりたい。私と君となら、もっとより良い方法で、理想を実現する方法が見つかるかも知れない」
ロックは、彼がまだ何か謀略を巡らせている可能性を考えた。しかし、彼の心の内は澄み切っており、微塵もそのような考えは見当たらない。
ロックは、暫し思考を巡らした。
少年は、余裕の笑みでロックを見下ろしている。
しばらく考えているうちに、ロックは一つの結論に達した。
「暗示か……」
ロックは、ソルドレークを――そう名乗る少年を睨んだ。
「君はソルドレークじゃない。別人に暗示をかけ、自分をソルドレークだと信じさせ、思考を読まれても良いようにしている。本当の君は何処に居る?」
少年は、呆気に取られた表情になり、やがて大きくため息を吐いた。
「まったく……」
途端に、少年は糸の切れた人形のようにその場で崩れ落ちた。ロックは、慌てて彼を抱き止めて、床にそっと寝かせた。
その時、突然ドアが開くと、そこにはマーク少佐が立っていた。彼は、その手に握られた携帯型ESPジャマーの引き金を引いた。
「うああ!」
ロックは、ジャマーの効果で苦しみだし、動きを封じられた。
一方その頃、連邦軍の宇宙艦では――。
アンの両親は、何かに弾かれたように反応し、無表情になった。母親のラズリは、それまでアンを抱いていた腕を離すと、突然マキムラに襲いかかった。
「な、何だ!?」
マキムラは銃を抜こうとするが、間に合わずに押し倒され、ラズリに銃を奪われた。
「止めろ! いったい、どうしたって言うんだ!?」
アンは、呆然としていたが、気を取り直して叫んだ。
「お母さん! どうしたの!? 止めてよ!」
父親のサムは、ラズリに動きを封じられたマキムラの体を調べて、ポケットから電子錠の解除装置を取り出した。
「あっ、それは……!」
「お父さん!?」
サムが電子錠の解除スイッチを操作すると、サンドラに装着されていた手錠が外れた。
それまで静かだったサンドラは、顔を上げると凶暴な笑みを浮かべていた。
「ふ……ふふふ。あはははは! あたしも、暴れても良いって事だよね?」
宇宙艦の艦長は、慌てて指示を出した。
「保安部! 緊急事態だ! 大至急ブリッジに武装した兵士を配置してくれ!」
そうしている間にも、サンドラは両腕を上げ、頭上に光の剣を作り出そうとしていた。
「じゃあ、壊しちゃっても、いいよね!?」
マキムラは、アンの両親に押さえつけられて、床に這いつくばっていた。
「さ、サンドラ! 駄目だ! そんな事をしたら、皆死ぬぞ!」
サンドラは、にやあと気味の悪い笑顔でマキムラを見た。
「そうだなぁ。でも、エスパーは、船が壊れたぐらいじゃ、死なない!」
「く……!」
サンドラは、大きな笑い声を上げながら、更に光の剣を大きくし、やがてそれを完成させた。
「ばいばい」
サンドラは、大きく振りかぶると、光の剣をブリッジの窓に放った。絶望的な表情をしていたマキムラは、お終いだと悟って、ぎゅっと目を閉じた。
しかし、光の剣の飛んだ先には、アンが立ち塞がっていた。
消えろ……!
念じるアンの目前で、一瞬で光の剣は消滅した。サンドラは、驚いたような顔をしてアンを見つめていた。
アンは、渾身の力を込めてサンドラを睨んでいた。そして、彼女の体の周囲は、空間が波打つように歪んでいる。
その時、マキムラから奪った銃を構えたラズリが、銃口をアンに向けた。それに気付いたアンは、目を丸くした。
「お、お母さん!?」
「何をするんだ! 君の娘だぞ!」
マキムラは、立ち上がろうともがいたが、サムに組み伏せられていた。
しかし、ラズリは直ぐには銃撃せず、震える手で銃を構えている。
「……!」
苦しそうな表情をしたラズリは、照準を合わせようとしつつ、それに母親の本能が抵抗しているようだった。しかし、抵抗も虚しく再び彼女は無表情になった。そして、引き金に掛けた指をゆっくりと引いた。
「アン!」
ラズリとアンの射線に、駆け込んできたジョシュアが割り込んだ。
「あああっ!」
肩を撃ち抜かれたジョシュアは、アンに折り重なるように倒れ込んだ。
「ジョシュア!?」
アンは、肩を押さえて苦しむジョシュアの体を抱き寄せた。
「ああぁ……!」
ラズリとサムは、突然呻き声を上げると、二人で苦しみだし、やがてその場に崩れ落ちた。
「な、何だ? いったい、どうしたって言うんだ?」
マキムラは立ち上がると、動かなくなった二人の様子を確認した。
「アン! 大丈夫だ。気を失っているだけだ」
アンは、少しだけほっとするとマキムラに叫んだ。
「マキムラさん、ジョシュアをお願い!」
アンはそっとジョシュアの体を横たわせると、気を取り直して立ち上がった。
サンドラとアンは、その場で睨み合った。
「……あんた、ESPのキャンセルまで出来るのか。ワクワクさせてくれるじゃん。でも、そんなの長続きするのかなぁ?」
サンドラは、けらけらと笑いながら、再び光の剣を作り出そうとしていた。
続く…
本作は、私のブログ、pixiv、ハーメルンで同一作品を投稿、またはその予定があります。