勢いよく猛然とダッシュしたアンは、光の剣を作ろうとしているサンドラに飛び掛かった。倒れ込んだサンドラに、アンはのしかかる。
「ちょっ! ずるいぞ、まだ剣が出来てないってのに!」
「だからこうしたの!」
二人は、その直後にテレポートして艦内から消えた。
ラズリが床に落とした銃を取り戻して、急いでサンドラに向けようとしたマキムラは、既に二人が消えた事に気付いた。
「あ、あれ?」
その時、艦橋に武装した兵士たちが雪崩込んで来た。
既に、元凶となったサムとラズリは床に倒れて気を失っており、暴れ出したサンドラは艦から姿を消していた。辺りをキョロキョロとする兵士たちは、途方に暮れている。
「緊急事態と聞いて駆けつけましたが」
マキムラは、頭をかいて彼らを眺めた。
「あー、皆すまん。少しだけ遅かった。取り敢えず、怪我人を医務室に運んでくれ」
絡まった状態で海賊船の船内の中空に現れたアンとサンドラは、ちょうどマーク少佐の立っている場所に現れた。
「な、何だ!?」
マーク少佐は、突然アンとサンドラが落ちて来て、持っていたESPジャマーを取り落した。
ジャマーの効果から解放されたロックは、肩で息をしながら、膝を付いた。そして、彼は現れたアンに気が付いた。
「アン!? いったいどうしたんだ?」
「ロックさん! この女と私の両親が急に暴れだして」
アンは、暴れるサンドラを懸命に押さえ込んでいる。
「くそう! 離せよ!」
ロックは、立ち上がって揉み合う二人に近づき、サンドラの顔に手をかざした。ロックの手の中には、光の球が生まれていた。
「やっ、やめ……!」
手の光が一瞬眩しく光ると、途端にサンドラは気を失って大人しくなった。
「あ、あれ? 何をしたの?」
アンは、気を失ったサンドラの体を揺すって、まだ息があるのを確認した。
「大丈夫。気を失わせただけだ」
ロックは、マーク少佐の様子も確認してみると、彼もまた、先程二人と衝突した際に意識を失ったようである。
その後、アンとロックは、マーク少佐、サンドラ、そしてソルドレークと名乗った少年の体を、川の字に並べて部屋に寝かせた。
「ロックさん。いったい何が起こってるんですか?」
「……」
ロックは、暫し思案した。
連邦の宇宙艦で起きたアンの両親やサンドラのこと、そしてこの船で起きたことを考えた。
「……ロックさん?」
ロックは、そこでやっと何かに気が付いた。
「あの風……」
「風?」
「向こうに戻ってから、皆に話そう」
連邦の宇宙艦では、リーダーを失った海賊船に投降せねば撃沈すると警告し、船を曳航する事に成功していた。
マキムラは、ロックらと艦内の作戦会議室へと場所を移して話し合っていた。
「……という事で、海賊船にいたソルドレークは偽物だった。本物の彼は、何処からか、かつて自分の支配下に置いていたマーク少佐やアンの両親、そしてサンドラを操っている」
「何だって今になって?」
ロックは、少し言い淀んだ。だが、マキムラとアンは、ロックの答えを待っている。
やむを得ず、ロックは説明を始めた。
「……彼は、何処かに潜んでいる。恐らく、自分に協力させられる人々を操って何かしようとしている」
マキムラとアンは口を揃えた。
「いったい何処に?」
ロックは、確信を持って言った。
「惑星ディールに戻って欲しい。本物のソルドレークは、あの惑星に潜んでいると思う」
ロックは、一人惑星ディールの軌道上に静止する宇宙艦から、大気圏内へと落ちて行った。
雲を抜け、やがて惑星の強風で煽られながら、ロックは海に浮かぶ小さな島へと自由落下した。眼下に見える島の周囲の海面は、強風に煽られて荒れ狂って波打っている。
その僅か一〇キロ四方程度の島に降り立ったロックは、あまりの強風にその足取りも重い。しかし、まっすぐに目指す座標へとゆっくりと足を進めた。島内は無人で、小さな山に無数の木々が生えている。その全てが、酷い強風に煽られて波打っていた。巻き上げられた砂や枯れ葉が、ロックの体にまとわりついている。
島を歩き続けてしばらく経つと、山の中腹に洞窟があった。
「反応があったのは、ここか」
ロックは、なんの躊躇いもなく、中へと足を踏み入れた。
外の強風とは打って変わって、その洞窟内は驚くほどの静けさだった。
ロックがしばらく歩いて行くと、かなり洞窟を進んだ更にその奥に、目的の場所をようやく発見した。
洞窟内で少し開けたそこは、ライトで照らさずとも白い光に包まれている。
「やはり」
ロックの眼前に、石で出来た祭壇のような物があった。その上に、繭のような物に覆われた物体が鎮座しており、無数の蜘蛛の糸らしきものが洞窟内に張り巡らされている。白い光は、その物体全体から放たれていた。
――ここを見つけるとは。
ロックの脳内に、その声が聞こえて来た。
「ソルドレークだな」
ロックの言葉に、その相手の感情が僅かに揺れ動いた。
当たり――。
光が急に強くなり、辺りは真っ白に輝いた。ロックは、手のひらをかざして目を覆った。
やがて、光が収まると、繭の隙間から手足が覗いた。
そして、ゆっくりと、人の姿をした物がそこに現れると、祭壇に腰掛けた。
全裸の少年は、先程海賊船で出会った少年と瓜二つだった。彼は、緑色の長い髪の間から、大きく開いた口を覗かせると、あくびを漏らした。
「いつからここに?」
少年、ソルドレークは、遠くを見るような顔つきで考えているようだった。
「この惑星に銀河連邦が植民する前から」
「ラインフォールド事件の時もここに?」
ソルドレークは頷いた。
「あの時の私も、さっきの海賊船にいた私も、私のマトリックスを写した他人だよ」
ロックは、僅かに後ろに下がると戦いに備えて身構えた。
ソルドレークは、手でそれを制した。
「ずっと眠っていたんだ。これが力を使う時の私のやり方なんだけどね。生身の私が、君と争う気は無いよ」
「惑星ディールの季節風の正体は、君の力のせいだ。そのおかげで、この位置が特定出来た」
「私のバイオリズムが、この惑星の気候に影響を与えていたのは知ってるよ」
のんびりと話す彼には、敵意は無いように見える。それでも、ロックは戦う姿勢を止めずにいた。先程のような騙し討ちに合うことを警戒しての事だ。
「今度こそ、本当の事を話すんだ」
ロックは、鋭い眼光で瞬きもせず、彼から一瞬たりとも視界から外さないようにしていた。
「やれやれ。君は相当、心配性らしいね」
「当然だ」
ソルドレークは、肩をすくめた。
彼は、笑みを浮かべるとふふっと笑った。
「私はね……」
その瞬間、ロックの体は宇宙を飛んでいた。
「な、何を……!」
物凄い勢いで、星々が流れて行く。
あっという間の出来事で、気がつけば、遠く銀河系を俯瞰できる彼方へと到達していた。
ロックの直ぐ側に、ソルドレークも浮かんでいる。
「君を監視する為に私は派遣されたんだ」
ロックは青ざめた表情で、ソルドレークの方を見た。
「君は……」
ロックには、この情景がソルドレーク自身が過去に実際に見た光景だと悟った。その光景を、ロックは強制的に見せられていた。
「私のいた世界では、エスパーという言葉は存在しない。その言葉は、超能力を使えない人々と、使える人々を区別する為のものでしょう? 誰もが超能力を扱える世界では、そんな区別は必要ないから」
ロックは、戸惑いながらも、彼が話すのを黙って聞くことにした。
「遠い昔、私たちは、超能力を使えない人々がいる世界もあると知った。そして、同じ民族同士で大きな争いが起きている世界があることも。ここは、正にそういう場所だった。だから、そういう世界がどのような運命を辿るのか、他の世界に悪影響を与えることはないのか、私たちは途方も無い長い年月をかけて監視を行ってきた」
そこで、ソルドレークは言葉を切って、ロックの顔色を伺った。
「そこに、君が現れた」
ソルドレークは、背後の銀河系を消すと、遠い昔、ロックが表舞台に初めて現れた時の様子を映し出した。
「不老不死の超人。強大な力を持った超能力者。世界の運命を左右する程の存在。この銀河に、そんな種族は後にも先にも存在していなかったからね。君は、とても注目されていたんだ」
ソルドレークは、手をかざして、背後の映像を消した。
「君を包含する銀河連邦がどの程度の存在か。私たちの銀河への脅威となりうるのか。それを調べるのが、私がここにいる目的の一つだよ」
ロックは、目を細めて彼の姿を見つめた。
「それで? 君の結論は?」
ソルドレークは、大きな声で笑った。洞窟内に、乾いた笑い声が反響した。一頻り笑った後で、彼は急に真面目な顔をした。
「このまま放っておけば、君たちはやがて他の銀河へも進出を果たす事になる。好戦的な君たちの事。他の銀河が戦乱に巻き込まれる未来が見える。今のうちに殲滅した方がいいと報告すべきと思っている」
ロックは、黙って両の手のひらを合わせて、手の中に光球を作り出した。次第にそれは大きくなって行った。
「私を殺すのかい?」
「たったそれだけの情報で、そんな重大な結論を下すのはおかしい。むざむざと君にその報告をさせ、銀河連邦に脅威が迫るのを黙って見過ごす訳にはいかない」
「君のせいなんだよ?」
「は?」
「君が現れた事により、脅威度は大幅に引き上げられた。だから、君の存在を消すか、無力化するのが私の役目なんだ。それも不可能と判断したら、私の立場では、そう報告するしかない」
「買い被り過ぎだ。僕一人の力はちっぽけなものだ」
ソルドレークは、恐れるでも無く、命乞いをすることもなく、ただ冷静だった。
「やれやれ……。私を殺せば、君は後悔することになるよ?」
ロックは光球を更に大きくさせた。そこでようやく、ソルドレークは、少し焦ったような様子を見せた。
「待て! 私が死ぬと、自動的に報告が上がるようになっている。それでも、私を殺すのかい?」
ロックは、そこで初めて動きを止めた。
自身と似たような力を持つ彼を拘束し続けるのは困難だろう。暫くすれば、再び同じ様な騒ぎを起こされるのは目に見えている。しかし、今の話しが本当であれば、殺す事も出来ない。
ロックは、ソルドレークを睨んだまま、暫くして光球を消した。
「それなら」
ロックは、あっという間にラフノールの鏡を作り出し、ソルドレークを中に閉じ込めた。
「こっ、これは何だ!? こんな物で私を閉じ込めたつもりかい?」
「何重にも鏡を被せておいた。その中から出る事は、そう簡単じゃない筈だ」
ロックは、テレポートして、鏡と共に島の上空へと一瞬で移動した。
「どうするつもりだ!?」
「その中で、暫く大人しくしていてもらう」
「こんなことをしても意味が無い。私なら、時間をかければこの中から脱出することは不可能じゃない」
ロックは、手を鏡にかざして、内部に力を加えた。
「分かってる」
ソルドレークは、意識を混濁させ鏡の中で意識を失った。それを確認したロックは、ラフノールの鏡に閉じ込めたソルドレークを、そのまま上空へと放り出した。
「だが、時間稼ぎは出来る」
鏡は、そのまま惑星ディールの大気圏を突破し、宇宙へと飛び出した。
やがて、それは宇宙の彼方へと消えて行った。
続く…
本作は、私のブログ、pixiv、ハーメルンで同一作品を投稿、またはその予定があります。