風の惑星   作:とも2199

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本作は、超人ロックの二次創作小説です。


風の惑星16 来たるべき……(最終回)

 惑星ディールでは、それまでの強風が嘘のように収まっていた。

 ロペスとその家族は、一家で新たに与えられた農地の土壌を作るべく、トラクターに乗り、土を掘り返していた。彼の妻や、ジョージも、同じように汗を流して働いていた。ちょうどジョシュアは、街へ買い物に行かせていて、ここには居なかった。

 それもこれも、今から来年に向けて、作物が育つ土へと土壌を今から準備しておく為だ。一からやり直すのは、はっきり言ってかなり辛いし厳しい。

 ひと休みしたロペスは、額の汗を拭った。

 強風が収まった事で、この季節にこのような事が出来ている。風が止んだことで、惑星の気候が大きく変動することは無いと、惑星ディールの自治政府から聞いているが、それが本当かどうか、ロペスはまだ半信半疑だった。

 そこへ、遠くから近付いて来る車を見かけて、そちらをロペスは注視した。いったい誰だろうと彼が考えていると、車は農地の外にあるあぜ道に停車した。降りてきたのは、この土地を確保するのに尽力してくれたマキムラという連邦軍の男だった。

 マキムラは、その場で大きく頭を下げた。

 それを見たロペスも、戸惑いながらも会釈を返した。

 ロペスはそこで悟った。ロックは、ここを出て行くつもりなのだろう。

 彼は、私たち家族を守ろうとしてくれていた。それなのに、冷たい態度をしていた事を、一言謝罪したかったのだが、それも叶わぬらしい。

 マキムラは、言葉を交わす事なく車へと戻り、再びあぜ道を去って行った。

 そよ風がロペスの頬を撫でて行く。

 これなら、もう一度豊かな作物を実らせる日も遠くないだろう。

 ロペスは、額の汗をもう一度拭うと、重い腰を上げた。

 

 その頃ジョシュアは、街外れの宇宙港でアンと会っていた。

 そのアンは、ある一つの決意を両親へと話していた。両親から、過去の事件の事を聞き、悩みながら様々な事を話し合った。難しい話し合いではあったが、両親は最終的に包み隠さず真実を教えてくれた。アンは、それを受けて決意した事があった。

「ジョシュア」

「アン、元気そうで良かった」

「そっちこそ」

 二人は、宇宙港に入ってくる船、出て行く船を見上げていた。

「怒るかな」

「怒られるでしょ」

「だよなぁ」

 アンは、悩むジョシュアに微笑を向けた。

「無理しなくていいんだよ?」

「し、心配だから」

「誰が?」

「アンが!」

 アンは、くすりと笑った。そんなアンに、ジョシュアは罰が悪そうに俯いた。

「……心配なんだよ。ほっとけないよ」

「そっか」

 それから、二人は互いを見つめ合った。

 

 連邦の宇宙艦は、艦隊を引き連れて惑星ディールを遠く離れていた。そこで、再び地球へと連絡をとっていた。

「また君に銀河が救われたようだ」

 通信機のスクリーンに映るバーンズ長官は、にやりと笑っている。ロックは、マキムラと共に、そのスクリーンと対峙していた。

「あなたは、知っていたのか?」

 バーンズ長官は、肩をすくめた。

「まさか。だが、その兆候はあった。だから、信憑性が薄くても、戦力を整えるべきだと私は考えた。君の力も借りて」

 ロックとバーンズ長官は、暫く互いを睨み合った。

「銀河間戦争などおとぎ話だ。そう思う連邦政府にどれだけの労力をかけて働きかけたと思う? 結局、信じては貰えなかった。とても長い年月、我々はこの銀河の中での争い事にかまけて、団結することが出来なかったのだ。今度こそ、私は政府を説得してみせる」

 ロックは、ため息をついた。

「それがいい。ソルドレークは、遠ざけた方がいいと勝手に判断させてもらった。彼を拘束するのは、容易ではないと思う」

 バーンズ長官は頷いた。

「君の判断を支持する。ところで、私は、彼は君の遠い親戚ではないかと想像しているのだが……。君はどう思っているのかね?」

 ロックは、暫くの間、黙って考えを巡らせていた。

「少なくとも、僕はこの銀河で過ごした記憶しか無い」

 マキムラは、そう話すロックの横顔を恐る恐る横目で見た。まだ考え込む彼自身も、今回のことに疑問符がついているのは間違いなさそうだった。

 バーンズ長官は、最後にロックに尋ねた。

「それで、君のその……鏡はどのぐらい時間を稼げる?」

 ロックは、少しだけ間をおいてから言った。

「普通の人間なら脱出は不可能だ。しかし……彼ならいつの日か脱出してくるだろう。それが百年か、千年かは僕にも分からない」

「そうか……。なら、直ぐに出てくる可能性も無いとは言えないと言う事だな。意外と時間が無いかも知れんな。我々は取り急ぎ準備を整えなければならん。私が政府を説得している間、君には将来有望なエスパーの教育を依頼したいのだが、頼まれてくれるかね?」

 ロックは、はたと気が付いた。

「サンドラのことだね? 元々そうするつもりだった」

「なら、話は早い。君に匹敵するレベルのエスパーは、一人でも二人でも多い方がいい」

「どうかな。彼女はまるで幼児だ。まずは、その教育から始めなきゃならない」

「それでも頼みたい。私も、出来るだけの事はする。他に有望な人材が見つかったら、直ちに君に連絡しよう」

「……約束は出来ないが、努力しよう」

「頼む。またいつか会おう」

 ロックは、彼が生きている間に会えるかは疑問に思っていた。だから、それには答えられなかった。

 

 ロックは、宇宙艦から出ると、曳航してきた海賊船に移動した。この船を、連邦軍から譲渡してもらったのだ。

 ロックは、通信機のスクリーン越しに、マキムラと別れの挨拶を交わしていた。

「本当に、乗組員はいらないのかい?」

「少し忙しくなるけど、なんとかなるさ」

「本当に大丈夫かい?」

 ロックの背後から、サンドラの姿がちらりと見えた。

「乗組員なら、あたしがいるじゃんか! 師匠、さあ、何か指示してくれよ。ちゃんと役に立つからさ!」

 マキムラは、申し訳無さそうに頭をかいた。 

「だからこそ心配なんだがなぁ」

 ロックは、くすりと笑いを漏らした。

「僕も、そう思うよ。だけど、何とかなるさ」

 マキムラは、急に敬礼の姿勢をとった。

「少々心配はありますが、ここでお別れです! サンドラの事を、よろしくお願いします!」

「ああ、また」

 ロックは、そう返事をして、通信を切断した。

 バーンズ長官とはもう会えないと思っていたが、まだ若い彼とは、もう一度会うことがある気がした。

 艦橋の窓の外では、マキムラらの連邦軍の艦隊が、一斉に方向転換してハイパードライブで消えて行った。

 そこには、ロックとサンドラの乗る元海賊船だけが漂っていた。

 ロックは、ロペスや、ジョシュアとアンに別れを告げずに来て良かっただろうかと少し思い返した。

 これまでも、様々な事件に巻き込まれ、挨拶もせずに世話になった人々から去った事は何度もある。そのような別れを何度も体験してきた彼にとっても、引っ掛かりがないわけでは無かった。

 自分よりも先に亡くなる人々との距離感は、これだけ長く生きていても、未だに掴めずにいた。

 考えていても仕方がないと、そうロックは自分に言い聞かせた。

「……じゃあサンドラ、少し、遠くへ行こう」

「了解!」

 サンドラは、艦橋の座席に座ると、ロックから聞いたやり方通りに、エンジンの始動操作をした。

 エンジンの振動が僅かに艦橋まで伝わってくる。

「目的の座標を設定。これよりハイパードライブで現地へ向かう」

「ん?」

 サンドラは、座席の端末で点灯する警告灯のランプに気が付いた。

「師匠、これ何だ?」

 サンドラの指す指の先の警告灯は、艦の予定重量オーバーを示していた。

 ロックは嫌な予感がしていた。

「……ちょっと待っててくれ。船倉を見に行ってくる」

「あっ、あたしも行くぞ!」

 

 ロックとサンドラは、船倉でライトを照らしながら、質量オーバーを検知した場所を探していた。

 すると、積載している荷のコンテナがガタガタと揺れているのを見つけた。

 サンドラは、ヒソヒソとロックに話し掛けた。

「ヤバイぞ。あれに何か変なものが入ってるぞ。出てくる前に破壊するか?」

「いきなり破壊しちゃ駄目だ」

「で、でも師匠」

 ロックは、静かに揺れるコンテナに近付き、そこで待った。

 すると、暫くして大きな音を立てて、コンテナの蓋が跳ね上がった。そして、そのコンテナの中から、二人の男女が現れた。

「ぷはーっ!」

「せ、狭かった……って!」

 ロックは、二人の目の前に立っていた。

「う、うわああ!」

「も、もう見つかった!」

「あ、あれ? コイツラは……」

 サンドラも不思議そうに出て来た二人を見つめていた。

 ロックは、大きくため息をついた。

「ジョシュア、アン。また君たちか。どういうつもりかな?」

 二人は、罰が悪そうに苦笑いを浮かべている。

「ロックさん、ご、ごめんなさい」

「アンが、ロックさんに着いていくっていうから、僕も着いて来ちゃった……」

 ロックは、困惑している。アンは、しどろもどろになりながら、説明をしなければと考えていた。

「あ、えっと……。ごめんなさい。あんな事があったから、両親から事件の事を教えてもらったの。あんな事が、二度と起こらないように、私にも何か出来ないかなって思って。私、結構役に立つと思うんだけど……駄目?」

 アンは、上目遣いに、ロックをチラチラと見上げた。

「やれやれ……」

 ロックは、困り果てた様子で、頬をかいている。

「ぼ、僕は、エスパーじゃないけど、農業とかなら手伝える……よ?」

「まあ、確かに、別の惑星に行ったら自給自足の為に、農業はするつもりだったけど」

「じゃ、じゃあ!」

 ロックは、皆の姿を改めて眺めた。

 どうやら、かなり決意は固いらしい。サンドラは、アンと再戦したいと思っているようで、目をギラつかせている。

「あたしも、コイツとは、決着をつけたかったんだ」

「駄目だサンドラ、ここで暴れたら、ご飯抜きだ!」

「ええっ、し、師匠、それはヤダぞ!」

 三人は、目をキラキラさせて、ロックを見つめている。

「ジョシュアとアンは、流石に連れて行けない。ご両親に、これ以上ご迷惑は掛けられない」

「じゃあ、少しの間でもいいから! 何か、ロックさんの役に立ちたいの」

 アンの瞳は、真剣そのものだった。

「う、うーん」

 ロックは考え込んでいた。

「お願いします!」

 三人から頭を下げられたロックは、これ以上の抵抗は出来ないと根負けした。

「わかった……」

 ヤッターと喜ぶアンとそれを一緒に嬉しそうにしているジョシュアの姿。サンドラも嬉しそうに目を光らせている。

 ロックは、もはや微笑むしかなかった。

「やれやれ……」

 

 彼らを載せた元海賊船は、暫くして、その宙域を離れると、ハイパードライブで宇宙の彼方へと消えて行った。

 

 ロックは、来たるべき銀河間戦争へ至る未来に思いを馳せた。そして、緑色の髪の少年が、結局何者だったのか、それをぼんやりと考えた。

 彼はゆっくりと思考を巡らす事に決めた。

 彼にはとても長い長い時間があるのだから。

 

 

超人ロック 風の惑星 完――。

 

 




本作は、私のブログ、pixiv、ハーメルンで同一作品を投稿、またはその予定があります。
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