昨夜、風が弱まった収まった頃合いを見て、家を出ようと約束したロックとマキムラは、農作業の疲れから、泥のように眠りに落ちた。
いつものように、早朝に目覚めたロックは、ベッドから出ると、カーテンを開けて外の様子を見た。相変わらず、激しい風が吹き荒れている。数日前に隣家のロペスの自宅に呼ばれて一緒に食事をした時に聞いたところでは、時々、家が飛ばされそうになるほどの風が吹くということだった。こんな状態が、来年の春まで続くという。外を吹き荒れる風が、そのどのレベルに相当するのか、彼には判断出来なかった。
ロックがベッドルームを出ると、隣の客室から、マキムラのいびきが響いているのが聞こえた。
くすりと笑ったロックは、顔を洗いに洗面所へ向かった。洗面所で歯磨きをしていると、ドアを叩く音が響いた。彼が、口にハブラシを咥えたまま玄関に行くと、そこにはジョシュアとアンの姿があった。
ロックがドアを開けると、二人は転がるように家の中に入って来た。
「助かったー」
「危なく、体ごと吹き飛ばされるとこだったよ」
ロックは、風の力で、ドアが思うように閉じず、懸命に力を込めてドアを閉じようとしていた。家の中に侵入した風は、テーブルに置いてあった、請求書等の軽いものを宙に舞わせていた。それに気が付いた二人も、慌てて立ち上がって一緒にドアを閉め出した。やっとのことでドアが閉じると、三人は床にへたり込んだ。
「どほした? ふはりとも」
ハブラシを口に咥えたまま、ロックは二人に尋ねた。
それに慌てたのがジョシュアだった。
「何のんきなこと言ってるんですか! 急いで残りのトウモロコシの収穫に行きますよ」
「そうだよ! 早くしないと駄目になっちゃうよ」
ロックは、大きく頷くと、取り敢えず洗面所へ向かった。口をゆすぎ、顔を洗ったロックは、タオルで顔を拭きながら戻って来た。
「それなら、もう大丈夫。そこで寝てる人に、昨夜手伝ってもらったから」
ジョシュアとアンは、きょとんとした顔をしている。
「せっかく心配して早朝から来たのにさ。そりゃあないよ」
アンが悪態をつく。
「ごめん、ごめん」
ジョシュアが皆の為にコーヒーを淹れて、リビングのテーブルに戻って来た。
「それで、しばらく留守にするって話でしたけど。何処に行くんですか?」
そこに、ようやく起きたマキムラが現れた。
「ん? お客さん?」
ジョシュアとアンは、現れた男が連邦の制服を着ているのを見て、目を丸くした。
「連邦軍の人?」
マキムラは、頷いた。
「ま、そんなとこだ。今日からロックさんを借りるよ」
アンは、目を細めてロックの顔を覗き込むように窺った。
「……どういうこと? ロックさんって何者?」
何と説明するか迷ったロックは、苦笑いして頭をかいた。
「前に縁があってね」
そこで、マキムラが助け舟を出した。
「何、ちょっとしたIDカードの手続きさ。前にロックさんがいた星で不手際があってね。終わったらすぐに戻ってくるから」
「ふぅん」
アンは、あからさまに疑惑の目を向けている。
コーヒーを飲んで、軽い朝食を食べた後、マキムラは、荷物をまとめてロックに声をかけた。
「じゃあ、ロックさん。行きましょうか」
「わかった」
ロックは、二人を追い立てるように立たせると、四人で家の外に出た。ロックとマキムラは、風に逆らって懸命にドアを閉め、鍵をかけた。
強風で飛ばされそうになりながら、四人はそれぞれの車に向かった。
「じゃあ、ロックさん。戻ったら連絡下さいね!」
ジョシュアの声に、ロックは笑顔で了承の返事をした。
ロックとマキムラが乗り込んだ車は、風に若干ふらつきながら、家の前の砂利道をゆっくりと走り去った。
ジョシュアは、アンを連れて、父のトラックでここまで来ていた。
「アン。市街地の君の家まで送っていくよ」
ジョシュアは、ロックを乗せた車の後を、同じ様にゆっくりとトラックを走らせた。アンはといえば、助手席で難しい顔をして前を走るロックの車を目で追った。
「ね、ジョシュア。後をつけてみよっか」
「駄目だよ、そんなの」
アンはため息をついた。
「おかしいじゃない。外惑星から来て、こんな辺ぴな星で農夫をやってるなんて。きっと、連邦軍のスパイか何かだよ。真実を突き止めなきゃ。ロペスおじさんが何か狙われているのかも」
「父さんが? まさか。父さんこそ、ただの農夫だよ」
「それを確かめにいくの」
ロックを乗せた車は、宇宙港へやって来た。
「あの船です」
マキムラが指差す先に、少し大き目のシャトルがあった。物資を載せたコンテナが、後部の開口部から続々と運ばれている。
「これから何処に向かうんだ?」
マキムラは両手を広げた。
「私も分かりません。まずは、軌道上の軍の船に行きます。そこで海賊の目撃情報を集めているはずです」
宇宙港を出発したシャトルは、惑星ディールの軌道上に向かうと、そこで連邦軍の宇宙艦が待ち受けていた。シャトルは、その側面のシャトル格納庫にゆっくりと進入した。
シャトルを降りて、宇宙艦の艦橋にやって来たロックとマキムラは、最新の情報がないか艦長に確認した。
艦長は、星図を示しながら説明をした。
「ここに海賊が逃げ込んだという目撃情報があります。ここから十光年離れた星系です。現在、この第四惑星エピリアを、植民惑星候補として整備計画を立案中です。よって、今は誰も住んでいません。ここへ艦を向かわせようと考えています」
マキムラは頷いた。
「よし、行ってみよう」
ロックは、黙って星図を眺めていた。
艦長の男は、ちらとロックの姿を窺った。
「分かりました。十分後にハイパードライブに突入する。発進準備!」
「艦長」
艦橋にいた士官が艦長に話し掛けた。
「格納庫で、予定重量オーバーを検知しました。誰か確認に向かわせます」
ロックは、マキムラの顔を見た。
「何となく嫌な予感がする。僕らで見に行ってみよう」
マキムラは、不思議そうな表情で、首を傾げた。
「艦長、俺たちで見に行ってくる。そのまま発進準備を進めてくれ」
「分かりました」
格納庫にやって来た二人は、1メートル四方ぐらいの沢山の小型コンテナが並んでいるのを眺めた。黙ってコンテナの脇を歩いて、様子がおかしなコンテナが無いか観察した。
すると、その一つが、がたがたと小刻みに揺れていた。ロックは、マキムラと顔を見合わせると、頷き合ってそのコンテナのそばに寄った。コンテナは、益々ゆらゆらと揺れている。マキムラは、銃を抜いてコンテナに向けて構えた。
すると突然、コンテナの蓋が勢いよく開き、格納庫の床との間にで、金属が触れ合う大きな音がした。
「ぷはー!」
コンテナから、勢いよく、二人の人間が転がり出てきた。
「狭かったー」
マキムラは、その二人に向けて銃を構えて言った。
「膝をついて両手を頭の後ろに」
驚いた二人は、マキムラを凝視して慌てて言われたように膝をついて並んだ。
ロックは、「やれやれ」と呟きながら、ため息をついてマキムラが向けた銃を遮った。
「どういうつもりかな? ジョシュア、アン」
「ロックさん!」
二人は、ロックの姿を見て、助けを乞うような目を向けていた。
続く…
本作は、私のブログ、pixiv、ハーメルンで同一作品を投稿、またはその予定があります。