彼女は、微睡みの中にいた。
気持ちのいい眠りの中で、身体が浮遊するような感覚を味わっている。
このまま、ずっとこうしていたい、と彼女は思っていた。
その快楽から現実に引き戻そうとする何者かがいた。
ふざけるなよ……。誰だよ、あたしを呼ぶのは……。
「……ドラ」
彼女の瞼が微かに動く。
「サンドラ!」
突然、目を見開いた彼女は、起き上がってその何者かの胸ぐらを掴んだ。
「何だよ、うるさいなぁ!」
それは、海賊船の船長、マークだった。不快感を露にした彼は、彼女から目を逸らして、掴まれた手を払った。
「そろそろ起きてくれ」
サンドラは、舌打ちをして、ベッドから立ち上がった。
そこは、彼女に与えられた個室だった。部屋の中をぐるぐると落ち着かない様子で彼女は歩き回った。
「いつまであたしはこんな所に居ればいいんだ?」
マークは、大きくため息をついた。
「お前が、連邦最強と言える程強くなるまでだ」
サンドラは、歩き回るのを止めて、目を吊り上げた。
「あたしは、今でも充分強い」
「そうだな。だが、我々が希望しているのは、連邦、いや、銀河最強と言える程の強さ。それが必要なのだ」
サンドラは、呆れたように、両腕を広げた。
「よくわかんないな。あたしに何をさせる気なんだよ。正直さ、海賊とかやる意味もわからない」
マークは、持っていた携帯端末を操作して、部屋の中央に立体映像を表示した。映し出されたのは、先程サンドラが連邦軍の宇宙艦に侵入した時のものだ。
映像の中のロックは、頭上にサイコスピアを作り出そうとしている。
「さっきの奴か。あいつ強うそうだったな。死んでなきゃいいけど」
マークは、映像を停止させた。映像の中のロックも、サイコスピアを投げるところで静止している。
「我々が探していたのはこの男だ。ようやく、誘き出すことが出来た」
サンドラは、そこで初めて船長の言う事に興味を持った。
「誰なんだい?」
「伝説の超人だよ」
サンドラは、目を丸くした。
船長のマークとサンドラは、海賊船の艦橋へと上がっていた。
そこで、マークはサンドラに説明をした。
「多くの説明は不要だと思う。彼が伝説の超人と呼ばれる人物だ」
艦橋のスクリーンには、過去に撮影された様々なロックの姿が映し出されている。
「本当に実在したのか……」
マークは頷いた。
「先程、お前が戦った相手が、その人物、ロックだ」
サンドラは、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「そっか。そうだったのか。もう一度、戦ってみたいな」
マークは、真剣な表情で彼女を見つめた。
「サンドラ、我々は、海賊を名乗り事件を起こし、しかもお前に首領の超人ロックだと名乗らせたのは、彼を誘き出す為だ。彼を乗せた軍の船は、惑星エピリアに墜落したが、彼は無事だ。お前には、もう一度彼に近付き、戦ってもらいたい」
「望むところだ! じゃあ、その惑星エピリアに降りればいいんだな?」
そこでマークは、再び大きなため息をついた。
「お前が、船に戻って眠ってから、もう一週間が過ぎている。とっくに連邦軍の救助がやって来て、彼は帰還したよ」
「んだと。そんなにあたしは寝てたのか……。じゃあ、見失ったのか?」
「何度も起こしたんだがな。まぁ、問題無い。密かに追跡しているので、居場所はすぐに判明するだろう」
サンドラは、不敵に笑った。
「楽しみだな。でも、何の為にこんなことをしてるんだ」
「ロックと戦って、お前が充分な成果を得たら、教えてやろう。我々も、慈善事業をしている訳ではない」
彼女は、マークの心を読もうと試みた。
しかし、いつものように上手く行かず、彼女は、がっかりしていた。それに気が付いたマークは、彼女に諭した。
「……私の心を読もうとしても無駄だということは分かっているだろう? 生まれつき、そうなんだ。だから、私がこの役目に選ばれた」
サンドラは舌打ちして、悪態をついた。
「わかったよ。少し、楽しみに取っておくことにするさ」
海賊船は、エンジンを始動して、その星系を抜け出すべく出発した。そして、ハイパードライブで星の海に消えて行った。
続く…
本作は、私のブログ、pixiv、ハーメルンで同一作品を投稿、またはその予定があります。