マキムラから海賊船の行方が分からなくなったことを聞いたロックは、ひとまず惑星ディールでそのまま過ごすことにした。そのマキムラはといえば、「また連絡する」と言い残して、再び連邦軍の宇宙艦に戻って行った。
マキムラは、怒りをあらわにした状態で艦長に詰め寄っていた。
「おい、どういうことなんだ!?」
「な、何の事ですか?」
マキムラは、焦りの色を隠せない彼に捲し立てた。
「ロックに聞いたぞ! 撃沈された艦は、無人だったそうじゃないか!」
艦長は、怪訝な表情をしている。
「そうですが……何が問題なんでしょうか?」
マキムラは、拍子抜けして、怒りの矛先の向けどころに困った。
「そうですがって? お前、知ってたんだな?」
「もちろん。艦隊の指揮を任されていますから」
マキムラは、益々困惑していた。
「近年、遠隔操作可能な無人艦隊を使うことが増えてきています。ご存知ありませんか?」
言われてみれば、確かにそのような話は彼も聞いていた。
「D弾を使うような凶悪な犯罪者を相手にしようとしていたのにか?」
艦長は、大きく頷いた。
「上からの指示です。そうは言っても、たかだか一隻の海賊船相手に、軍はそんなに人員を裂けませんから」
マキムラは、仏頂面になって、艦長に背を向けた。
どういう事だろう――。
重要な任務だと長官に指示されて、こんな連邦の外れの辺境の星系までロックを探しに来たというのに。相手は、強力なエスパーで、ロックでなければ、解決が難しいかも知れないから、彼の支援を仰ぐようにも言われていた。
変だな……。
その割には、脆弱な艦隊しか与えられていなかった。それに、軍のエスパー部隊もいないようだ。
「……本部の情報部に連絡をとりたい。繋げてくれないか」
艦長は首を振った。
「この辺境では、連邦本部まで接続可能な通信リレーが設置されていません。それには、この星系から少し移動する必要があります」
マキムラは、彼に聞こえるように、ため息をついた。
「やってくれ」
「と、言いますと?」
マキムラは、急に大声を出した。
「通信出来るところに行ってくれ!」
その頃、一方のロックは、退院したジョシュアとアンの手を借りて、既に収穫していたトウモロコシの出荷を行っていた。まとまった売上を手にした彼は、ジョシュアとアンを食事に連れて行ったが、そこでアンのたっての希望で、彼女に超能力のレクチャーをすることが決まった。ロック自身も、彼女の能力がどの程度か気になっていたので、快く了承したのだった。
翌日から、都市の屋内運動場の一室を借りて、軽い訓練が始まった。ロックが想像していたより彼女の筋は良く、二日目にして、思った通りに物を浮かせたり、飛ばしたりといった簡単な念動力を会得していた。
「わぁ、止めてよ!」
アンは、遂には一緒に見学していたジョシュアの身体を持ち上げようと試みた。運動場の隅で座っていたジョシュアの尻が、微かに浮き上がっている。
「う〜!」
顔に力を入れていたアンは、自身の髪の色のように、真っ赤な顔をしている。
「そんな風に、力を入れる必要はないから」
ロックは、その様子を見て笑っていた。
「力を抜いて、精神を研ぎ澄ますんだ。彼が浮くのを、強くイメージするだけだ」
「わ、分かってるけど!」
アンは、苦労して顔に力を入れるのを止めると、静かに目を閉じた。
彼女は、そのまま静かに、彼が宙に浮くイメージを続けた。時間にして五分ぐらいそのまま静寂が続いた。我慢出来なくなったジョシュアが、何か喋ろうとするのを見たロックは、口元で人差し指を立てて制した。
すると、再びジョシュアの身体が宙に浮き上がった。最初は静かに、そして、突然勢いよく天井に向かって飛んで行った。
「うわぁ!」
ジョシュアの叫び声を聞いたアンは、はっとして目を見開いた。彼女が見上げると、一気にジョシュアの身体が天井付近から床へと落下した。
「ああっ!」
既に、彼女の力では、再び浮き上がらせることは出来なかった。それを確認したロックは、瞬時に彼の落下地点に走って移動し、ふわりと彼の身体を受け止めた。
静かに、降ろされたジョシュアは、憤慨している。
「僕で試すのは止めて!」
「ごめん、ごめん」
アンは、にかっと笑いながら謝った。
ロックも、苦笑しながらも、彼女の能力に感心していた。
「さて、じゃあ、二人とも、もう帰ろうか」
「えぇー。もうちょっと!」
「そんなに焦る必要は無いよ。ゆっくり休んで、また明日ね」
ロックはにこやかに言った。一方のアンは、ふくれっ面で明らかに不満そうだった。
「けち」
「でも、凄かったよ、アン。ちょっと僕、尊敬しちゃうかも」
「そう?」
先程までの不満は何処へやら、彼女はジョシュアに笑顔を向けていた。
続く…
本作は、私のブログ、pixiv、ハーメルンで同一作品を投稿、またはその予定があります。