「「ええええ!!?」」
ミディの申告に二人が揃って驚きの声をあげた。
「本当に!? 本当に追いつけるのミディちゃん!?」
流石に信じられないようで、ミラがものすごい勢いで肩を掴んで確認する。
やや気圧されながらもミディはハッキリと答える。
「いつでもってわけじゃないですし体調次第ですけど……追いつけると思います」
その返答を聞いてみるみる青ざめて行ったのが蒼太である。
早い早いとは思っていたが、まさかそんな速度だとは露にも思っていなかったのだ。
「待って待って、ミディそんな速さでいつも飛んでたの!?」
「だからいつもじゃないですよ。調子がいい時ぐらいです」
つまりたまにはジェット機並みの速度で飛び回っているということでもある。
「あの、次からはもっと遅くなってもいいからゆっくり飛んでくれません? 飛行機レベルは俺には怖すぎるよ」
なんともみっともない話である。が、影で覆われているとはいえ感覚的には生身一つだ。
運ばれている身で図々しいとは思いつつ、蒼太は情けなく頼み込む。
「別に構いませんけど、帰るの遅くなりますよ? ソータさん割と時間はしっかりしているので早い方が良いと思っていましたが」
「どうせ早く帰ったって店番だし、それで怖い思いするぐらいなら俺はミディとゆっくり帰った方が万倍有意義だね」
「そ、そうですか。なら次からそうしましょうか」
「ねえ、私いいこと思いついたんだけど」
ふと、黙って考え込んでいたミラが妙案を思いついた。
彼女の提案は確かに対処法として有効であったが、それを聞く蒼太の顔はみるみる青ざめていくのであった。
* * * *
翌日。作戦実行直前にも関わらず、いまだ異議を唱えているヘタレがそこにいた。
「この作戦には俺たちの意志が著しく軽視されていると思うんですけど」
「国の存亡だからな。すまんが他に打てる手がない以上、お前にはいろいろと頑張ってもらいたい」
「頑張れって言われたって……」
背中を叩いてくるギルドを恨めし気に見ながらため息をつく。
ミラが思いついた妙案、その内容自体は単純なものだった。
囮として特書鳩を飛ばし、ミディが護衛に付く。鳩狩りが現れ次第捕獲もしくは討伐。ただそれだけの話だ。問題なのは、魔力補給要因として蒼太が同伴させられることである。
彼としてはただでさえ鳩に追い付くような速度での飛行は遠慮したいところ。そのうえ、ミディの飛行速度維持のために魔力、つまり血を提供するために影で連れて行ってもらうことができない。ではどうするのかというと、
「ミディちゃんに担いでいってもらえばいいじゃない」byミラ
これが蒼太にとってなによりもネックだった。気恥ずかしいし絵面が嫌だし、なけなしの沽券にも関わる。視界がクリアなのも怖い。
そんな思いがあってこのヘタレは未だに抗命を続けているのである。
蒼太がしつこい抵抗を続けているところに、ミディがミラと共に現れた。それを見て加勢が来たとばかりに、同意を求めに行く。
「ミディも人を長時間持つのは嫌でしょ? 飛べないから役に立たないしさ」
俺を、と言わないあたりにメンタルの弱さが垣間見える。
一緒に難色を示してくれるだろうと踏んでいた蒼太だが、
「いえ、むしろ普通に飛ぶより心強いぐらいですが」
あっさりと反旗を翻したミディによって孤立してしまった。
これにより作戦阻止は不可能となった。そしてミディはさらに追い打ちを仕掛ける。
「そんなに私と飛ぶの怖いですか?」
「そりゃあ、高いし早いし……」
「……何があっても絶対にソータさんを落とすようなことしません。それでも信用できませんか?」
(そういうことじゃないんだよおおおおおおおおおお!!!!)
頭を抱えたい思いでいっぱいなのだが、幸いというべきか高いところは苦手というだけで恐怖症という程ではない。全力で勘弁してほしいところであったが、ミディにそこまで言われては断る方がかえって沽券に関わるというものである。
「もちろんミディのことは信用している! いっそどこまでも飛んでって行くか!!」
というわけでより複雑な思いを抱きながらも、蒼太は作戦を受け入れることにした。
「はいそれじゃミディちゃんの後ろに立ってー」
「え、後ろ?」
「ベルト着けるわねー」
「ちょっと待って!!!」
やたらとミラが手際よく二人の腰にベルトを回す。結び付けられる直前になって全てを理解した蒼太がその手をなんとか押しとどめた。
この期に及んで……と言わんばかりの呆れた表情でミラが説明した。
「ソータくんの安全のためにやってるんだけど。こうしとけばミディちゃんの手も空くじゃない」
「それはありがとうございます! でもインストラクタースタイルがいいです!」
「いんす、なんだって?」
「えっと、俺が前でミディが後ろで抱えるというかそんな感じです」
「それじゃ槍が振り辛いでしょ。前も見えにくいし。却下」
「……あ、なら背中合わせとか」
「しがみつけなくなるけどいいの?」
「却下します」
「なんでミディが……怖いから俺的にもなしだけど」
「いっそ向かい合わせはどうだ?」
「却下に決まってんだろ!!!」
ニヤニヤしながら最悪の案をぶっこんでくるギルドを睨みつけて、蒼太は頭を抱えた。
確かにそれしか方法はないのだが、いかんせん素直に受け入れるには蒼太は純情すぎるのだ。
悩みながら一瞬ミディに視線を向ける。彼女と一緒に暮らすようになって早三年。必死に意識しないようにしていたが、目も眩むような美少女なのだ。当然憎からず思っているわけで、下心だって沸くというものだ。そしてそれがどうしても申し訳なく、さりとて言うわけにもいかずヘタレは苦悶していた。
もっともそんな悩みは大人組にはとうに見抜かれているのだが。
気配を殺して距離を詰めたギルドが蒼太に手刀を入れる。
「アヘッ……」
崩れ落ちる前に体を支えてミディに近づけると、ミラが手早く二人を結び付けた。
ついでに気を利かせて、蒼太の腕を首に回してウインクする。ミディは顔を伏せたが、真っ赤になっているのはバレバレだ。
そして、いつのまにか特書鳩を用意していたギルドが合図と同時に鳩を放った。
「鳩狩り狩猟、開始!」
瞬く間に見えなくなっていく鳩と二人を見送りながら、ギルドとミラは言葉を交わした。
「上手くいくといいですね」
「大丈夫だろう……ん? どっちのことだ?」
「どっちもですよ」
「あの様子じゃあなあ……。そういえばお前らなんで遅れてきたんだ? あいつよりも早く起きたんだろ?」
「一緒にお風呂入ってたんです」
「なるほどなぁ」