ダメ店主とヴァンパイア   作:丁太郎

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三話 鳩狩り-6

「狙撃したってことか……」

 

 

 ようやく地面に着き、蒼太はミディが射出した槍を眺めていた。

 サイズは実際の弾丸よりもはるかに小さい。仕留めるには急所を確実に狙う必要があった。距離もあり強風吹き荒れる高空、さらにマッハを超える生き物を一発で捉えるとは、卓越した射撃の腕前だ。

 発想と精密さに感心していたところで、ミディに欠けられた言葉を思い出した。

 

 

「そういえば俺のおかげって言ってたけど、銃の話なんかしたことあったっけ?」

「いえ、この世界よりもすごい火器があるのは聞きましたが、具体的に教えて頂いたことはありません」

「だろうね。人に話してあげられるほど詳しいわけじゃないし。やっぱり魔力?」

「それと精密さがあれば破壊力はいらないということに気づかせてくれました」

「あの突っ込み代わりのあれのことか……」

 

 

 失言する度に突き刺さる影の事である。思わず脳裏に感触がよぎり、背後を確認してしまう。

 

 

「お? あれじゃない?」

「ですね」

 

 

 ちょうど視線の先には撃ち落された『鳩狩り』の死体があった。

 もはや動いてはいないが、地竜の一件もある。念のため魔力探知を使いながら慎重に近づく。

 

 

「魔力反応はもう見られません」

「流石にもう死んでるか。……こりゃまた綺麗にぶち抜いたね、脳幹部分をドンピシャだ」

「練習しましたから」

「……俺には向けないでね。にしても本当にただの鷹にしか見えないのに、なんであんな早いんだ? 特書鳩もそうなんだけどさ」

「ご存じなかったでしたっけ? 伝書鳩は元がリョコウバトの魔物ですよ」

「そうなの!?」

 

 

 蒼太は今まで当たり前のように怪物=魔物と認識していたため知らなかったが、人・亜人を除く魔法を扱う生物という定義が一応がある。中でも強大で魔法に長けた魔物に魔力核が生まれるのだ。

 鳩、一般的には伝書鳩だが、彼らはリョコウバトが魔力を操るようになり、種族として独立した鳥類である。とはいえ、魔力を操るという点以外ではほとんど同じ生物であり、飛行能力以外で魔力を活用しているわけでもない。ちなみに特書鳩はより強い魔力を持ち巧みに魔法を操る一部の鳩を示す。

 

 

「……というわけでリョコウバトの繁殖力の低さがそのまま伝書鳩の生産数の少なさに繋がります。特書鳩なんて年に一羽生まれるかどうかですから、それを狩られると通信以前に取り返しがつかないんです」

「なるほどねぇ。でも魔物なのに魔物よけには引っかからないけどそれはなんで?」

「えっと、確か人への殺意が基準だとか。だからお腹が空いただけの魔物とかはすんなり入ってこれるみたいです。伝書鳩は人懐っこいですから結界には引っかかりませんよ」

「人懐っこい、ねぇ」

 

 

 かつてミディを真似て撫でようとしたら、穴が開くほど突かれた経験がある身としてはにわかには信じがたい。とはいえずかずかと頭頂部に立ち入る姿は、そう言えなくも無いか、と蒼太は在りし日の鳩丸を回想していた。ミディも同じような光景を思い浮かべていた。

 ふと物悲しさを覚えた二人だったが、仇を討つことはでき、帝国の妨害もできた。これ以上ない成果と言えるだろう。

 

 

「帰ろう」

「はい」

 

 

 短いやり取りを交わして、二人は帰り支度を始めた。

 蒼太は地面に座り、ミディはベルトを用意する。

 

 

「ん?」

「なんで座ってるんですか?」

「いや、だってもう全速力で飛ばなくていいでしょ。いつも通り帰るんだよね?」

「はい。いつもの速さで帰るつもりです」

「だから影で包みやすいように座ったんだけど……」

「ちゃんといつもみたいに帰りますよ?」

「そうね、いつも通りね」

「ならこっち来てくれないと困りますよ」

「ん?」

 

 

 先に述べておくが、ミディは意図的にとぼけている。

 

 

「落ちたら危ないですし、ベルト巻かないと」

「あの、いつも通り……」

「大丈夫ですよ。さっきみたいな速さでは帰りませんから。時間はかかっちゃいますけどゆっくり帰るつもりです。さあさ、早くベルト巻いて帰りましょう。ミラさんにもお世話になったお礼をしないといけないんですから」

 

 

 ここへきて鈍い蒼太もようやく気付いた。

 

(さては、影には入れるつもりないな)

 

 そこにしか気づいていない。鈍い男である。

 そんな鈍い男でも何が自分にとってまずいのかは理解している。例えば美少女と長時間密着する、とかだ。

 とはいえ午前中、この手の問答は散々行っている。そして一度背に乗った以上、理由もなく断わり続けるのは難しい。どうしたものかと蒼太が頭を捻っていると、妙案が浮かんだ。

 

 

「ほ、ほら俺は鷹の死骸持ってるし汚いじゃん? だから影で移動したほうが」

「ではその袋だけ影に入れます」

 

 

 『鳩狩り』が入った袋を掲げた途端、間髪入れずに影に奪い取られた。

 

 

「でも触っちゃったし」

「私は気にしませんが、手を洗うなら水出しますよ? 先ほど魔力を頂いたばかりですから、どうぞ遠慮なく」

「……ありがとうございます。あ、手が濡れ、はい、自分のハンカチ持って来てます」

 

 

 差し出されるハンカチを断りながら、尚もなにか逃れる方法はないかと思案する蒼太だったが、ミディの次の一手で負けが決まった。

 

 

「ベルトを付けないなら私が抱えるしか……」

「ごちゃごちゃ言ってすいませんでした。安全飛行でよろしくお願いします」

 

 

 こうしてミディにしがみついて帰ることとなった。

 往路では味わなかった離陸時の加速にビビり、強く抱き着いてしまったのは言うまでもない。

 

 

 

    *    *    *    *

 

 

 

 その帰路の途中のことであった。

 

 

「ミディ」

「なんでしょうか」

「多分だけど、この鷹は鳩丸を殺した奴じゃないよ」

「……どうしてそう思われるんですか?」

「鳩丸はうちと皇都の間で襲われてたけど、今回はかなり東に飛んでからこいつが現れたでしょ? いくらなんでも一羽でカバーできる範囲じゃない……って思うんだけど、ミディはどう思う?」

「でしたら二羽でしょうね。特書鳩は鳩丸以外にも二羽だしたそうですが、どちらもきちんと往復した、とギルドさんが言っていました。それにこの速さの生物を量産できているのなら、普通の『鳩狩り』をあんなに投入する必要はないでしょうし」

 

 

 あえてミディは口にしなかったが、技術の問題もある。一度成功したからと言って、そう何度も同じものが作り出せるとは限らない。生物であれば猶更である。だからこそ特書鳩は貴重なのだ。

 

 

「これ、きちんと報告書にしないとダメだろうなあ。なんて書こう」

「大丈夫ですよ。情報の精査をするのは上の人の役目なんですから、そのまま書けばいいんです」

「けどなー」

「別に私が書いてもいいんですけど、その時は代わりに別の仕事をしてもらいますよ」

「うん? なんかあったっけ?」

「お店の帳簿記入です。たまにはご自分で0を書いて猛省したらいかがですか」

「すいません、ちゃんと報告書を書きます」

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