ダメ店主とヴァンパイア   作:丁太郎

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三話 鳩狩り-7

 『ジヤマナ要塞に5万の軍』

 

 その報せが東の国境警備隊から来たのは、ミディと蒼太が『特書狩り』を討伐した二日後である。

 

 

「帝国の連中がわざわざ鳩狩りをしたのはコレのためだろうな」

 

 

 既に同じ文を持った鳩が王宮にも届いている。半ば予想していたとはいえ、面倒ごとの到来にため息をついた。

 当然、この文を額面通りに受け取るようなことはしない。

 

 

「バーツ」

 

 

 同室で仕事をしていた男を呼ぶ。バーツというその男は傭兵組合の№2、副組合長である。

 

 

「はい。折しも先日鳩商達の護衛についていた傭兵たちが報酬を貰いに来ているそうです。いかがいたしますか?」

「そうだな……そいつら含め六級以上の傭兵達の受注は黄紙に限定させろ。依頼の等級判断はお前に任せる。国からの対応は俺がやろう」

「承知いたしました。それではそのように手筈致します」

 

 

 ガド帝国が国境付近に大軍を集めて軍事演習、と考えるわけがない。

 戦争の到来を予見しながら、彼らは慌ただしく自分の仕事に取り掛かるのだった。

 

 

 

    *    *    *    *

 

 

 

「へえー、傭兵って言っても戦争時に駆り出されるわけじゃないんだ」

「地方にいる大人数の傭兵団はそういう契約で領主に雇用されているそうですけど、皇都にいるのは狩人メインの人たちですね」

 

 

 しばらく空けていたため、風通しとついでに大掛かりな掃除をしながら、蒼太とミディは雑談を交わしていた。言うまでもないが客はいない。

 この世界に来て三年ではあるものの、交流を避けているせいか蒼太はヴァルラヘイムの常識には疎いのだ。そのためか、こうしてミディに物を問うことも多い。

 

 

「なら戦争に行かされることは無さそうだね」

「私達は組合に所属しているわけではありませんから。それにギルドさんが事情を知っているので大丈夫だと思いますけど」

「それもそうか」

 

 

 ミディの説明を聞いて蒼太は胸をなでおろした。隙あらば帝国の寝首を搔こうとは思っているものの、実際に戦争に行くとなるとやはり恐怖の方が強い。

 そんな蒼太とは逆に、ミディは顎に手を当てて何かを考えていた。

 

 

「……もしかして参戦しようとしていない?」

「いえ、戦場でどうやって立ち回れば戦況が有利になるか考えていたところです」

「いえ、じゃないじゃん。想像が具体的過ぎるでしょ。ていうかダメだからね?」

 

 

 想定よりも一歩先を行っている考えを制止する。意外と彼女の血の気は多いのだ。

 

(ヴァンパイアなのに……)

 

「何か失礼なこと考えてますね」

 

 

 蒼太のくだらない感想を抱いていると、ミディがそれに鋭く気付いた。

 非常に鋭利である。

 突きつけられた影の針の痛みを蒼太は良く知っていた。

 

 

「ノ、ノー、サーあ痛っ」

 

 

 白を切るも当然見抜かれて制裁を受ける。せめてサーではなくきちんとマムと答えられていればまだ救いはあったのだが、それを知る由はない。

 刺された眉間をこすりながら、蒼太は話を元に戻した。

 

 

「ま、まあ直接参戦しなくても、今回みたいに何かしらの形で帝国の邪魔はしていきたいとは考えてるから、その時は協力してくれると嬉しいですハイ」

「……構いませんが、ソータさんも無理は絶対にしないでください」

 

 

 ミディの言葉の裏には、先日帰還した際に起きたある出来事があった。

 あの日、帰路の道半ばといったところで蒼太の意識が飛んだのだ。無茶をしていたのはミディだが、蒼太も同様に限界を超えて血液を供給していたためである。それと密着による緊張と高所への恐怖もあった。ともかく、気絶したことを受けてミディは全力で集会所へと帰還し、蒼太は宿直室へと担ぎ込まれ深夜まで目を覚まさなかった。

 未だ鮮明に白く冷え切った手の感触は残っている。もうあんな時間はごめんだと、ミディは強く思っていた。

 

 

「……ミディもね」

 

 

 同じようなことを蒼太も思っていた。限界を超え続けたせいか、ミディは日常生活すらままならない痛みに悩まされたのだ。普段変化の少ない表情だからこそ、辛苦に耐えているのは分かりやすく、ついには見かねた蒼太がベッドに叩き込んだ。結果、名乗りをあげたミラによって二人ともしっかり看護されたのである。一日ゆっくり休養したためか、もう動きを疎んじる様子はないが、それでもぎこちなさは見て取れる。今なお忸怩たる思いが燻っていた。

 

 

「約束ですからね。ちなみに破ったら針千回刺しますから」

「……ちょっと俺が知ってるのと違う上に本当にやり兼ねない気がするんだけど」

「守ればいいんです。もしかして破る気だったんですか?」

「いーや、男たるもの約束は守りますとも。ていうか俺としてはミディのほうが不安なんだよね、実動役だし」

「なら私が破った時はどうしますか?」

「え!? えーっと、どうしよっか……やばい、なんも思いつかないんだけど」

「……。」

「じゃ、じゃあその時次第で」

 

 

 冷ややかな視線に耐えられなくなったのか、逃げの一手を打つ。

 わずかに距離が縮まったのは、気のせいだったようだ。

 




できることならちゃんと昨日のところも小説にしたいです。



……好きな子だったら針千回刺されても気持ちいいと思いますよ。
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