ダメ店主とヴァンパイア   作:丁太郎

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四話 鈍竜狩り-1

 戦争が始まった。

 ジヤマナ要塞から出撃した帝国軍はパサツイトル砂漠を横断し、皇国のムカエウツ砦を強襲。五万に対し、わずか三千人足らずの国境警備隊は壊滅的な被害を負ったものの奮戦し、見事に辺境伯そして国の援軍が到着するまでの時間を稼いだ。以降帝国軍も増員し戦線は停滞。未だ攻勢には出れないものの、進軍は食い止めている。

 

 

「……とまあ、今んところはそんな感じだ」

 

 

 一通り戦況を説明し終えたところで、ギルドは煙草を吸う。テーブルの向こうでは、呼び出された蒼太が「それ大丈夫?」とでも言いたげな表情をしていた。

 

 

「あちらさんは十万ぐらい兵士を投入しているらしいが、皇国は六万弱ぐらいで凌いでいる。兵士の数じゃ勝ってるから今はこれで十分な成果だろう」

「へぇー、ていうか詳しいですね」

「俺ら傭兵も結構な人員出してるからな。いざって時のために情報はしっかり貰ってんだよ」

 

 

 現在、傭兵組合の武闘派部隊は待機を命じられているため、代わりに働いているのは斥候部隊と組合員も駆り出されている輸送部隊だ。国中から糧食を集積地に運び、そこから前線へと供給している。一部の腕利きのみが、輸送部隊の護衛のために皇国全体に散り散りになっていた。

 

 

「……なるほど。今日呼び出されたのはミディを雇いたいってところですか」

「察しが早くて助かる。単騎であれだけの強さを誇る彼女なら護衛にちょうどいいからな」

「前線に出さないと約束してくれるなら俺としては問題ないです」

「もちろん約束する。地方から集めて来る部隊の護衛だから、魔物はともかく帝国軍に襲われることはないはずだ」

「なら後は本人に聞いてください」

 

 

 事情を慮った配属だ。であれば、ここから先はミディの仕事である。用件は済んだと考えて退室しようとする蒼太をギルドは呼び止めた。

 

 

「待て。実はお前にも依頼したいことがある」

「俺に? 軍需品になりそうなものでも欲しいとかですか?」

「あんなゴミいるか。そうじゃなくてな、国の研究所が魔力機関車の試運転できるやつを募集しててよ、うちに魔力量に自信のある奴を紹介して欲しいって言われてんだ」

「報酬とは別に飯代がそっち持ちならいいですよ」

「……いいのか?」

 

 

 蒼太が即答するとは思ってなかったのか、訝しげにギルドが聞き返す。

 

 

「実はですね、ミラさんからそういう話が来たら協力して欲しいって頼まれてたんですよ。今はテストパイロット、試乗する人も結構な人数いてチームに紛れるだけらしいから素性もバレにくいって言ってました」

「……極秘のはずなんだが、敵わんなミラには」

 

 

 ちなみにバレた経緯は、魔力トップの傭兵がやたらと羽振りが良くなったのを疑問に思ったミラが色仕掛けで尋問したからである。あっさりとゲロった。

 

 

「ついでにミラさんが仮の身分用意してくれるってとこまでは相談してたんです。なんで遠慮とか要らないですよ」

 

 

 規格外の魔力を持つため、帝国では日夜実験動物扱いされていた蒼太。先に別の傭兵を派遣し、募集が公開されてから話が来たのは、それなりに心情を考えていたためであろう。わかりやすい気遣いである。

 ギルドはバツが悪そうに頭をかきながら、引き出しからぶっきらぼうに書類を出した。

 

 

「こいつが募集文だ。マリーヨの奴に持っていけばすぐに案内するよう言ってある。奴が来次第向かわせるから、先にここで待ってな」

「了解です」

 

 

 

    *    *    *    *    

 

 

 

 渡された地図に書かれていた路地裏でしばらく待っていると、通りから金糸をふんだんに誂えた衣服を着た男が現れた。

 その男は遠目で一瞬立ち止まると、喜色満面で駆けつけてきた。

 

 

「相変わらず物凄い魔力をしているから一発でわかったよ! まさか君が来るだなんて!」

「ちょ、声! 声抑えてマリーヨ」

 

 

 路地裏で待ち合わせた意味が無くなるようなテンションではしゃぐマリーヨ・ク・オーイ。傭兵組合どころか、皇国全土でもトップの魔力量を誇る魔法使いである。

 と、同時に生粋の魔法バカでもあった。

 マリーヨは怪しく微笑み、防音結界を張りながらソータに話しかける。

 

 

「ところで、いつものやっていいかい? 君に会うのが久々で僕はさっきから疼きっぱなしなんだよ」

「もちろん嫌だけど」

「ハッハッハ、行け! 【トリア・イグニス】!」

「問答無用じゃん」

 

 

 魔法陣から火柱が3つ、螺旋を描いて放たれる。暗がりを赤々と照らしながら蒼太へと向かっていき、その体に触れるや否や余波もなく掻き消えた。僅かに温まった空気もすぐに散っていく。 

 渾身の魔法が効かず、マリーヨはわなわなと肩を震わせていた。

 そして、

 

 

「ああああああああ! またか!! まだか!! なんって未熟なんだ僕はあああああああああ!!!」

 

 

 頭を掻きむしり、髪を振り乱して絶叫した。

 それはいつもの事であった。初対面の時に半狂乱しながら魔法を放って来てからというもの、顔を合わせるたびに繰り返してきた。

 膨大な魔力を持つ蒼太に対し、生半可な魔法は抵抗(レジスト)されるまでもなく効果を失う。

 マリーヨはそのことを知ったうえで、自分の成長度合いを測るために蒼太に魔法を放っていた。

 そして魔法を無効化されるたびに、

 

 

「僕はまだ成長できるうううぅぅぅ!!!!」

 

 

 自分の至らなさに狂喜乱舞するのだ。

 もう奇行には飽き飽きしている蒼太が欠伸をし始めたころ、ようやく落ち着きが戻ってきた。

 

 

「ふぅ……そういえばこの間の『鳩狩り』の時も協力してたらしいけど、もう隠遁しなくていいのかい?」

「組合には世話になってるからな。こんな事態だし、少しぐらいは頑張らないとなって」

「そうか。確かに君の魔力を遊ばせておくのはもったいないだろうさ。それじゃ、案内するからついてきてくれたまえ」

 

 

 そう言うと、マリーヨは踵を返して通りへと向かう。去り際に軽く手を振ると、壁についた僅かな焦げ跡が消えていく。

 相変わらずの手際の良さに感心しつつ、蒼太はその後についていった。

 

 

「まあ案内するとは言っても、目的地はすぐ目の前さ。国の研究施設は君も知っているだろう?」

「あそこの四方が建物で囲まれているところでしょ。ていうかこんな近いのに待ち合わせする必要があった?」

「人員募集の紙は確認しただろう。そこにも書いてある通り、魔動機関車は軍事機密だから君のような素性不明の流人なんて本来門前払いになる。けど組合長の信頼も厚いし、魔力量は目を見張るものがあるから是非にと勧めたのさ。その関係で、僕と一緒に直接本棟に向かう必要があるってわけ。ほら、着いたよ」

 

 

 少し話している間にもう入り口に着いたようだ。建物の大きさとは不釣り合いなほど小さな扉が二人を出迎えている。

 

 

「ここから?」

「そうだよ。ただ、鍵がかかっていてね、ちょっと待っててくれたまえ」

 

 

 そう言ってマリーヨは懐から魔石を取り出してドアノブに嵌める。しばらくすると、ガチャリと音がして、扉が開いた。

 その向こうから、研究員らしき白衣をまとった男が姿を見せる。険しい目つきをした初老の男性だ。マリーヨを見るなり、皮肉たっぷりに声をかける。

 

 

「お待ちしておりました、マリーヨさん」

「すまないね、最終実験前に」

「全くです。……ところで、その方が?」

「ギルドさんの紹介で来ました、蒼太です」

 

 

 自己紹介を終え頭を下げる青太を、白衣の男はじろりと一瞥する。

 

 

「ふむ……てっきり傭兵の方がいらっしゃるかと思っていましたが、魔法を得手としているわけではないようですな」

 

 

 男は蒼太の格好の事を言っているのだろう。人ごみにいても気づかれないような、とても傭兵とは思えない一般的な服を着ている。隣にローブに杖と、見るからに魔法使いと分かるマリーヨがいるのだから、なおさら違和感を覚えるのだろう。

 

 

「ヘイ、ドクター。彼についての詮索はよして欲しいと言ったじゃないか」

「しかし、ただでさえ魔力を必要とする実験、魔法に心得のない方が参加されても」

「そこは僕の『眼』がばっちり保証しよう。魔力量に関して心配は要らない、大丈夫さ」

 

 

 自分の右目を示しながらマリーヨが自信たっぷりに告げる。彼の眼は魔力を直接みれるのだと、蒼太も知っていた。その効果はかなり高く、ミディが張っていた魔力を誤魔化す結界を容易く見抜くほどである。

 男はまだ疑わし気に蒼太のことを見ていたが、基準を満たす協力者を欲しているのだろう。根負けしたように謝った。

 

 

「……失礼いたしました、ソータさん」

「いえいえ、こちらもなにぶん貧乏でしてちゃんとした服が買えなくてですね」

「もちろん報酬はたっぷりとご用意しております。しかし、この実験は生半可な魔力の持ち主では話にならないほど過酷です。マリーヨさんですら実験後は悶えてばかりですから」

 

 

 蒼太は先ほどの絶叫を思い出していた。

 

 

「それはまた、大変な事で」

「君なら問題要らないさ。ドクターも早く中に入れてくれたまえよ」

「ではこちらに」

 

 

 またあの奇行を見せつけられるのかと思うと気が重くなるが、ここまで来て引き返すのもアレなので仕方なしに蒼太は歩みを進める。

 所内は暗く、不自然なほど人気がなかった。あたりを見てみると、窓がない。魔石の灯だけが、薄暗く通路を照らしていた。

 

 

「なんていうかいかにも研究施設って感じ」

 

 

 少しばかり嫌な思い出が蘇る。かつて囚われていた帝国の研究施設も同じような雰囲気だった。

 

 

「侵入されないようにするためには経路を減らすのが一番だからさ」

「理にはかなってるんだろうけど、俺だったらおかしくなりそうだ」

「ソータさん閉所苦手ですからね」

「いい思い出ないからなー。しかも暗いせいで空気も重く感じるし、息が詰まりそうで……ん?」

 

 

 非日常体験の最中、やたらと馴染みのある声がした。

 まさかと思った蒼太が慌てて振り返ると、そこにはミディがついてきていた。




男しかいない話とか書けないよう……
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