ダメ店主とヴァンパイア   作:丁太郎

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四話 鈍竜狩り-2

「どうしてミディがここに!?」

 

 

 確かギルドが別の仕事を斡旋していたはずである。

 

 

「変えてもらっただけですよ。こちらの方は戦場までの輸送も担当するとお伺いしましたから」

「え、そうなの? 俺聞いてないんだけど」

「君の持っている募集文、ちゃんと確認したかい?」

 

 

 マリーヨに言われて蒼太は渡された書類を確認する。しっかり目を通していたはずなのだが、

 

 

「あ、二ページ目にも書いてある……」

 

 

 ちょうど切りよく収まっていたため気付かなかったが、二ページ目にも募集要項が続いていた。そこに実用にこぎ着けた時のことがきちんと書いてあった。

 いまさらそんなことに気づいた蒼太へ、呆れたと言わんばかりの視線が集まる。特に研究員のそれは目つきと相まって非常に居心地が悪い。背中に嫌な汗をかきながら、急いで目を通していく。

 

 

「……ここか。えーっと『実験結果が良好の際は、直ちに輸送部隊と合流し実用性の調査に移行する』」

「一応説明しますと、我々が研究開発している魔動機関車は一台で非常に多くの物資を輸送することが可能となります。現在、ムカエウツ砦によって戦線が動かない今のうちに、魔動機関車の実用化計画を進めていく必要があります」

「は、はい、ちゃんと読んでおきます」

 

 

 説明の最後に睨みつけられて、すっかり委縮する蒼太。流石に戦争に関わる研究だけあって厳格である。

 ため息をついてから、研究員はミディの方へと顔を向ける。意図を察したミディが先に答えを返した。

 

 

「私は確認してきたので説明は不要です」

 

 

 いつもどおりの冷ややかな対応だが、こちらの態度の方が彼の気に召したらしい。

 表情は変わらないものの、軽く頷いて再び三人を先導する。

 

 

「マリーヨ」

「なんだい?」

「魔動機関車の実験なのになんで室内でやるの?」

「さあ? かくいう僕も実物を目にしたことはないからね。いつも魔力を抜き取られて休憩して抜き取られて解散さ」

「なんだよそれ」

 

 

 マリーヨの話を聞いて蒼太は落胆する。てっきりもう乗り回しているものだとばかり思っていたのだ。どうやら実用化まではまだまだ遠いようだ。

 そんな会話をしているとすぐにドアの前に着いた。今までの部屋とは違い、鉄扉である。

 

 

「では、こちらの部屋に入ってお待ちください。ミディ様はドアの手前で待機して頂きます」

 

 

 研究員はそういってドアを開けて二人を中に入れた。

 部屋は中央に置かれた灯り一つで四方の壁がわかる程度の広さだ。既に先客が三人座っている。

 二人が入ってきたのを見て、その中の一人がぶっきらぼうに声をかけた。

 

 

「ようマリーヨ。そいつが新入りか」

「そうだよ。みんなにも紹介しようソータくんだ」

「どうも蒼太です。お世話になります」

 

 

 反応は寂しい物だった。特に歓迎されている様子もなく、大半はじっと観察するように蒼太を見ている。

 意外なことに、最初に声をかけてきた男が気さくに話しかけてきた。

 

 

「話は聞いてるぜ。組合長の知り合いなんだってな」

「ギルドさんには色々お世話になってます」

「俺はニーバンだ。ソロで傭兵をやってる。よろしくな」

 

 

 蒼太はその名前に聞き覚えがあった。

 

 

「もしかして、ニーバン・メニオーイさんですか?」

「ん? 俺のこと知ってんのか」

「皇国の東部で一番強いと言われている傭兵の方ですよね? 噂はギルドさんから何回か聞きました」

「ハッハッハ。俺も随分と名が売れたもんだ。まあ、西部一の傭兵は二人いるもんなあ、マリーヨ」

「……エースは僕だけさ」

 

 

 フン、と不機嫌そうにマリーヨは鼻を鳴らす。

 皇都のある西部は対称的な二つのパーティが鎬を削っており、事実上Wトップなのだ。その片方のリーダーが彼である。

 予想外の大物に蒼太は驚きを隠せなかった。それと同時に疑問が浮かぶ。

 なにせ彼ら二人だけでその魔力量は魔法士一部隊に匹敵しているのだ。にも関わずあと四人も揃えるあたり、魔動機関車の消費魔力が膨大なのは伺える。その燃費では実用化できるはずもない。

 

 

「ねえ」

 

 

 蒼太が内心面倒だと考え始めたところで、はす向かいに座っていた女から声がかけられた。

 

 

「あたしのことは何か聞いてないの? ヨンナっていうんだけど」

「ヨンナさん……? いやーちょっと記憶が定かじゃなくて」

「あっそ」

 

 

 ヨンナと名乗った女性は、もう興味がなくなったのか視線をそむけてしまう。

 蒼太がどうしたものか困惑していると、マリーヨが小声でフォローしてきた。

 

 

「気にしなくていいよ。彼女も一級傭兵だから自分の知名度には自信があったのさ」

「そういえば聞いたような気が……」

「世辞は要らないよ」

「すみません。全く覚えがありません」

「なんなんだ、あんた……」

 

 

 くだらないやり取りではあるが、やや毒気を抜かれたヨンナの雰囲気が和らぐ。

 最後の一人は無表情な男だった。蒼太が視線を向けても何の反応も見せなかった。

 

 

「彼は国に所属している騎士だよ。無口な男で僕たちも名前は知らないんだ」

「へえー」

 

 

 気難しい男のようだ。マリーヨたちはそれなりに実験に参加していたようだが、それでも名前を知らないというのがそれを物語っている。

 ともあれ参加者の面通しを行うことができたところで、蒼太は肝心の質問をした。

 

 

「で、今から何すんの?」

「ただ座ってるだけだよ。勝手に魔力が抜かれていって限界が来たら休憩」

「この中で? えっ、どれくらい?」

「うーん、魔力を抜かれるペースもまちまちだから何とも。一番きつかったときは一時間ぐらいだったかな」

 

 

 充分長い。知らない人間と何もない小部屋で一時間弱は蒼太にとっては長すぎる。しかもそれ以上の可能性もあるのだ。

 助けを乞うようにミディの姿を探すも、残念ながら部屋の外である。

 

 

「ま、辛いのは底が尽きて来る最後らへんだけだ。途中までは適当に喋ってりゃあっという間よ」

 

(それが辛いんだわ)

 

 蒼太の不安に気付いたのか、ニーバンが声をかけて来るも懸念しているところはそこではないのだ。

 彼にとってこういった交流の場は初めてである。学校生活も記憶の彼方だ。どの程度の距離感で行けばいいのかすらわからないのだ。そのうえ、秘密にしていることも多いと来ている。

 どうしようかとしどろもどろになっていると、魔力が抜かれ始めた。

 

 

「始まった感じですか」

 

 

 とりあえずしばらくは実験の話で場を繋ごうと二―バンに話しかける。

 

 

「……今日は、また随分と」

「……尋常じゃないペースだね」

 

 

 本当に余裕がないのか、その会話を最後に部屋は静寂に包まれた。どうやら相当な量の魔力を持っていかれているようだ。

 蒼太は少し集中して自分の中の魔力を感じ取ってみる。

 

(血を抜かれないだけいつもより楽かな)

 

 もとよりイカレた魔力量の蒼太からすれば、なんとなく減っていることは分かってもまだどれくらい減ったか計れるほどではない。

 だが、他のメンバーはそうもいかないようだ。マリーヨとニーバンは早くもサウナ室のおじさんの如き覇気のなさ、ヨンナの辛そうな姿はちょっと色っぽく、騎士の男も無表情ながら額に汗をかいている。

 蒼太は空気を読み、タオルを頭に被った。

 

 

 

    *    *    *    *

 

 

 

(たまには揚げ物でもいいよなー、豚カツとか食べたいし……お?)

 

 蒼太が晩御飯を考えているうちに、抜かれていた魔力が止まった。

 結局、半時間程度だろうか。マリーヨの言っていた時間よりもはるかに早く実験が終わったようだ。

 顔をあげると、疲労困憊といった様子の面々が椅子にもたれかかっていた。

 

 

「お疲れ様です」

 

 

 ドアの向こうからミディが労いの言葉をかけてきた。

 一瞬、晩御飯の話をしようとしたところで思いとどまる。

 

 

「いやー、ガンガン魔力持ってかれたよ」

「外からでもかなりの魔力が動いているのがわかりました。大丈夫ですか?」

「えーっと、死ぬほどしんどい、かな」

「かなって、あんたねえ……」

 

 

 息も絶え絶えにヨンナから突っ込みが入る。確かに死ぬほど疲れてる人間の会話ではない。

 

 

「それはほら、あの、かっこつけというか、無理してるんすよ」

 

 

 思わず口をついて出てしまった言い訳。言い終わってから失言したことに気づいた。

 

 

「「「ほほう?」」」

 

 

 魔力が尽きているくせに、にやりと口角を上げる傭兵トリオ。

 全員一級傭兵でギルドとは直接話す機会もあるだろう。まず間違いなく喋られる。

 

 

「最悪だ……」

「魔動機関車最終試乗実験は以上で終了です。ご協力していただいた皆様はしばしご休息ください」

 

 

 蒼太が頭を抱えていると、最初とは違う研究員が実験の終了を告げた。

 

 

「え、実験ってこれで最後なの?」

「……そうだよ。今日の結果次第で実践投入されるかどうか決まるらしい」

 

(とてもそこまで進んでいるようには見えないけどなぁ)

 

 

 どんな実験をしたかは定かではないものの、蒼太達は部屋で魔力を吸い取られただけだ。魔力の貯蓄は魔石でしかできない以上、これだけの魔力を何かに充填させただけとは考えにくい。

 

 

「僕も気になってるけど、最後はちゃんとどんな実験してたか教えてくれるらしいから」

「ま、こんなキツイ目にあわされただけの物ができてりゃいいんだけどな」

「しょぼかったら承知しないって言ったら自信満々にしてたわよ」

 

 

 やはり他のメンバーも魔動機関車の実態については良く知らない様だ。

 そこに蒼太の耳にそっと影が差し込まれる。ミディの影だ。 糸電話の原理で影のイヤホンから彼女の声が聞こえてくる。

 

 

「……この建物全体にかなり巨大な幻影結界が張られているようです。他にも様々な魔法が使用されているように感じました」

(なるほどね)

 

 

 なにやら相当大掛かりな仕掛けが行われていたようだ。魔法の使えない蒼太が見抜けなかったのも無理はないだろう。

 傭兵たちは誤魔化されているのを承知で参加していたらしい。道理で実用化に疑問を持っていないわけだ、と蒼太は一人納得していた。

 

 

「……えっ」

 

 

 唐突にミディの驚いた声が聞こえてくる。

 何があったのか聞きたいところだが、影電話は一方通行だ。

 

 

「……ちょっと詳しいことはわからないですけど、ギルドさんがソータさんを推薦した理由はわかりました」

(魔動機関車ってどんなんよ……)

 

 

 

 

    *    *    *    *

 

 

 

 結論から言えば、実際に現れた魔動機関車は蒼太の想像をはるかに超えていた。

 

 

「この建物全部が荷台だったの!?」

「正確にはこの棟だけです」

 

 

 研究員の訂正があってもなお、蒼太の驚きは変わらなかった。

 とはいえ、地球の技術を知っている彼だからこそ驚きの声をあげられるだけで、他のメンバーは絶句していた。

 外に案内された彼らの前に現れたのは、研究棟という投影が解除された全長20mにも及ぶ巨大な魔動機関車だった。

 

 

「俺たちはこれを動かしていたのか……」

 

 

 ようやく我に返ったニーバンが感嘆の声を上げる。馬鹿みたいに魔力を吸われるのも納得のでかさだった。

 驚きから立ち直ったのを見計らってか、研究員が今回の実験結果を伝えてきた。

 

 

「えー、今回は最大積載量まで載せた魔動機関車を悪路で走行しました。横転、転落防止のための足場生成魔法は無事発動を確認。魔力量はこちらの計算範囲内に収まっています」

「それ本当に収まってんのか?」

「実際に行ったのはコースアウトではなく、崖からの脱輪です。これに耐えた以上は、多少コースアウトしても走行を続けられるでしょう」

「……無茶なことさせるわね」

 

 

 なんとも大掛かりな実験を行っていたものである。

 とはいえ、ヨンナの愚痴に力はない。なにせ未だに目の前の衝撃が抜けきっていないのだ。

 研究員は恐らく実験の仔細が記されたであろう書類を抱えて、無口な騎士の元へと駆け寄った。

 

 

「……問題はなさそうだな」

「はい!」

「では改めて魔動機関車を用いた作戦を発令する」

「ははっ」

 

 

「なあミディ」

「はい」

「多分だけどあの騎士サマ、自分が偉い立場だって言うのサプライズにしたかったんだろうね。ちょっとこっち気にしてるし」

「だと思いますよ」

「でもこれの後じゃあ微妙な反応しかできないよね」

「可哀そうですけどね」

 




おまけ


「で、それがそのトンカツですか」
「……はい」

 文明の利器なしで料理するのは至難の業だ。ましてや調理経験が浅ければなおさらである。にもかかわらず、衣つけて揚げるだけだとトンカツに挑んだ蒼太が作り上げたのは、は脱皮した上に外は焦げ中は生の豚肉だった。
 ミディは元居た世界の料理だと聞いていたため口出しはしていなかったが、どうみても失敗作だった。
 魔法による保存技術があるとはいえ、それでも生肉は安いものではない。流石にやらかしを自覚した蒼太は平身低頭する他なかった。

「……無理してでも食べたかったんですよね」

 怒るかと思われたが、意外なことにやさしく言葉が掛けられた。顔を上げずに蒼太はうなずく。
 ミディはため息をついて立ち上がった。

「少し待っててください」

 蒼太が言われた通り土下座して待つこと十分。

「なんでその体勢で待ってるんですか」

 顔を上げると、ミディが呆れ顔でテーブルに皿を並べていた。
 上には少し記憶されていた物とは違うが、紛れもなく豚カツが乗っていた。


「……ありがとう、ミディ」
「作り方は見てましたから。あとは少し工夫しただけです」

 焦げたところを綺麗に切り、ついでに肉全体を一口大に細かくし、見様見真似で衣をつけて揚げたのだ。
 いわゆる一口カツだ。
 もう一度ミディに感謝を述べてから、蒼太は箸をとる。ソースがないため塩を振り、豚カツにかぶりついた。
 荒めのパン屑にさくりと歯が立ち、肉に到達するや否や温められた肉汁が舌を潤す。しっとりとした肉と柔らかい脂が衣についた塩気と一緒に口に入る。

「自分で作っといてなんですけど、美味しいですね」

 ミディも同じタイミングで食べ、豚カツに舌鼓を打っていた。
 蒼太は無言でガツガツと食べすすめていく。あっという間に食べ終わってしまった。

「本当にありがとう、すごい美味しかった」
「多分ソータさんが知っているものとは違うかもしれませんけどよかったですか?」

「これが俺の豚カツだよ、ミディ」


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何ぞこれ

冗談はさておき、閑話にするほどの文量にはならなかったためこういった形で出させていただきました。
よろしければご意見いただければ幸いです。
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