ダメ店主とヴァンパイア   作:丁太郎

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四話 鈍竜狩り-3

「いくらなんでもトントン拍子過ぎない?」

 

 

 魔動機関車で東部戦線へ向かいながら蒼太が愚痴る。

 なにせ最終実験を行ったのは僅か三日前だ。こんなにも早く実用化されるとは微塵も思っていなかった。おかげでまたも店を閉める羽目になってしまった。

 

 

「どうせ閉まってるのも気づかれてませんよ」

「……それは言わないで欲しかった」

 

 

 文句のついでにミディの辛辣な突っ込みを思い出し、蒼太は恨みがましい視線を車両前方に送る。

 そこには元凶である皇国軍総参謀長サンボ・ウチョウがふんぞり返っていた。

 

 

「使えると分かったのならば躊躇う理由などないからな!」

 

 

 愚痴が聞こえていたらしい。高笑いしながら答えられた。

 

 

「そうは言っても事故のリスクとか、実際に運用するためのコストとか色々あると思いますけど」

「実践投入は私が直々に実験に参加して決めたことだ。それに、試験運用するならば戦局に余裕があるうちにすべきだろう。今ならば万が一事故が起きても影響は軽微、しかし成功すれば兵站に多大な恩恵がもたらされる。なればこそ、早ければ早い方が良いというものだ!」

 

 流石に宮廷で雷迅卿と呼ばれているだけのことはある判断の速さだ。

 実のところを言えば、その判断で割を食ったのは蒼太達ではなく、その部下である参謀本部の面々である。何せ事前に概要は知らされていたとはいえ、中二日で輸送隊との連携、護衛の増員、魔動機関車のルートの選定まで行ったのだ。サンボを除く全員が色濃い隈を拵えて見送りに来ていた。蒼太が愚痴を漏らしたのも、その光景を目にしたからである。

 とはいえ彼の言っていること自体は一理あるように思えた。

 

 

「でも俺達の魔力が全快するまでは待って欲しかったですがね」

 

 

 疲労が隠せない顔色でニーバンがそう言うと、他メンバーも同調したように頷いた。なにせ短時間で限界まで魔力を絞られたのだ。回復にも相応に時間がかかる。

 たっぷりと余力を残している蒼太もそうだそうだと言わんばかりに頷いた。

 

 

「ふむ、通常運転の際は増員必須ということか」

「……この人、戦争の事しか考えられないんじゃないの?」

 

 

 抗議の声はサンボに全く響いてないようだ。暖簾に腕押しとはこのことである。ヨンナの嫌味も効いてないだろう。

 

 

「しかし実に惜しい事だ。君たちが軍に所属してくれれば機関車の魔力源について悩む必要なないのだが、どうだ?」

「遠慮させてもらうよ」

「「同じく」」

「勘弁してください」

 

 

 サンボの勧誘を傭兵達は即座に断る。サンボはそう返ってくると分かっていたのか、苦笑いしてそれ以上言葉をかけることはなかった。

 そして、そのことでちょっと困ったのは蒼太の方であった。なまじっか同じように返事してしまったため、どうして国の勧誘を断ったのか聞き辛くなってしまったのである。会話自体も終わってしまい、実はふざけて答えましたとも言いにくい。

 そんなこんなで蒼太はそわそわしていたのだが、それをどう感じ取ったのか、護衛隊室からするりと影が伸びる。いうまでもなくミディの影である。

 

 

「少なくとも彼らは傭兵生活で十分なお金と名誉を得ていますから、いまさら軍に所属するメリットがありません。あの人もそれをわかっているようです。それと、皇国への貢献という意味でも魔物を狩ったり戦争に協力したりしていますから、無理強いはしないでしょう」

(確かに)

「ですが傭兵組合に所属している人達全員がそう考えているわけでもありません。中には収入の安定した常備軍を志望する方もいますし、実力ある方も地位次第では引き抜かれるでしょう。……なんですか。今、大事な話をしているので話しかけないでください」

(……さてはまたコミュ障発揮してるな)

 

 

 部屋の隅で一人でいるのが目に浮かぶようである。

 最後にまた気になることが発生したが、ひとまず蒼太が知りたいことは教えてもらうことが出来た。

 役目を終えたためか、それとも怪しまれないようにするためかミディの影が戻っていく。

 

(まさか攻撃用じゃないよな……)

 

 隣の部屋の事は考えないようにしつつ、蒼太は暇つぶしに周りに話しかけようとする。

 だが、そんな元気のある者はおらず、すでに全員が辛そうに魔力の吸収に耐えていた。

 わかりやすく例えるなら長距離走のような物だろう。序盤こそ話が出来ても、負荷が蓄積されるにつれてそんな余裕がなくなっていく。現に、キャラ変してうるさかった参謀総長もふんぞり返りながらじっと汗を流していた。

 そこで蒼太は少し考えを巡らせる。

 この様子では万が一の時に魔力が底をついてしまうかもしれない、と。

 

(ちょっとだけ俺の魔力を流すかな)

 

 

 

    *    *    *    *

 

 

 

「何してるんですか!」

 

 

 休憩と後続の合流を兼ねて魔動機関車が停まる。

 乗員がわらわらと降りる中、蒼太を見つけるなりミディが駆け寄ってきた。いきなり小声で叱りつけられるが、蒼太も身に覚えがあるのか、ばつが悪そうに彼女に引っ張られていく。

 マリーヨが二人を気まずそうに見送っていた。

 

 

「そりゃ、そうなるさ……」

 

 

 怪しまれないようさほど離れていない木陰に引っ張り込み、念のため影で自分たちを覆ってからミディは蒼太を問いただした。

 

 

「なんで機関車からソータさんの魔力がはっきりと感じ取れるようになってるんですか!?」

 

 

 彼女の言う通り、本来なら供給している全員の魔力がごちゃ混ぜになるため魔動機関車から個人を特定することはできない。さらに二人にとって朗報だったのは、そんな魔動機関車の魔力によって中にいる人間の魔力は認識しづらくなる効果もあった。

 にもかかわらず、今は蒼太のそれだと明確に感じ取れるほど魔力が単一の物に染まっている。

 幸い魔眼持ちのマリーヨと魔法なしで魔力を識別できるヴァンパイアのミディ以外にはバレていないが、探知魔法を使われれば一発でわかるだろう。

 蒼太は申し訳なさそうに目を伏せながら、理由を説明した。

 

 

「みんなしんどそうだったからちょっと肩代わりしようと思って……」

 

 

 その何とも言えない理由に少しだけミディの気勢が削がれる。

 

(全く……これだから……)

 

 人を慮ることそのものを責めるつもりはないが、もう少し自分の力を省みて欲しい物だ。そんな感じで説教してもいいのだが、事情を知っているだけにあまり強く言う気にはなれないでいた。

 一方、既に緩んだ雰囲気のミディとは対照的に蒼太はひたすら自己嫌悪に陥っていた。

 

(どうして、こうなったら危なくなることぐらいわからなかったんだ……)

 

 今更ではあるが、蒼太の魔力コントロールは稚拙の一言に尽きる。弱と強の二段階でせいぜいだ。強出力を使う機会がほとんどないことを考えると、実質弱一択、それですら普通なら手に負えないレベルの魔力量だ。故に魔力を用いた失敗は多々あり、その度にミディがフォローしてきた。

 万が一のことよりも、こうなる可能性の方がよっぽど高い。そんなことすら気づかなかった至らなさを恥じ入るばかりである。

 そして、後始末をミディに頼ってしまう自分の未熟さを悔いた。

 

 

「……とりあえず血を頂きますね」

「うん……え?」

 

 

 吸血、つまり蒼太の血を以てミディの魔力を補充するつもりなのだろうが、出発前にこっそり行ったばかりである。護衛室に吸魔石はないため、魔力は減っていないはずだ。彼女の意図がわからず、蒼太は疑問の声を上げる。そんな心情を察してミディが理由を述べた。

 

 

「あまりいい手ではありませんが、私が全力で魔力を上書きします。及ばないとはいえ、薄めることはできれば、あとは残りの方の魔力と混ざって誤魔化せると思いますが……どうですか?」

「そういうことね……ありがとう」

「いえ、では頂きます」

 

 

 体が近づき、肩に手が添えられる。

 蒼太は吸血を嫌がったわけではない。ミスしたのにいい思い(・・・・)をすること、そう思っていることが嫌だったのだ。

 そんな心情だけは知らないミディは、嬉々として蒼太の首筋に噛みつく。なにせ今朝の吸血は魔動機関車のために遠慮していたのだ。今なら多少吸い過ぎても大義名分がある。

 彼女は今朝の分と合わせて心ゆくまで二人の時間を堪能した。

 

 

 

 一方そのころ。

 

 

(ミディくんの魔力がイキイキとしている……魔法を使っているとはいえ大胆過ぎないかい!?)

 

 

 影で覆われていようと、魔眼を持つマリーヨには魔力の様子が筒抜けだ。彼の眼は、感情によるほんの些細な揺らぎも識別できるのだ。

 即ち、蒼太からは羞恥と罪悪感と僅かな快楽。ミディからは高揚と快楽。透視ではない以上、ナニをしているかはいつも推測している。そしてこれらの感情からは邪推するほかなかった。

 その後、若干顔を赤らめた二人を見て自分の考えが正しかったことを確信する。

 

 

(冷たいふりしてあの娘割とやるもんだね)

 

 

 いやはや女性というのはわからないものだ、とマリーヨはミディへの認識を改めた。

 ちなみに作戦は成功し、魔動機関車にミディの魔力が注がれ蒼太のモノを薄めることができた。が、すっからかんになった彼女にもう一度吸い取られる一幕があり、マリーヨが(まだヤるのかい!?)と驚愕したのは言うまでもない。




私、待~つ~わ
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