ダメ店主とヴァンパイア   作:丁太郎

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大変長い間更新期間が開いてしまい申し訳ありませんでした。
引き続き書いてまいりますので、お付き合いいただきますと幸いです。


四話 鈍竜狩り-5

 ヒガシノ辺境伯領シンジンブカ市。世界でも珍しい、結界線上や魔物除けが設置されていない地域外で発展した町である。その町は神獣ベヒンモスを中心とすることで魔物の襲撃から逃れていた。

 そんなシンジンブカ市から特書鳩が届いたのは異例の事である。

 辺境伯はすぐに派兵を決断。先遣隊をその日のうちに出立させた。

 

 

「……嘘、だろ」

 

 

 遠くからでもわかる甚大な被害状況を目にし、思わず隊長は手綱を取りこぼした。無理もない。なにせ自分の出身地が家屋が残らないほど壊滅しているのだ。

 市街地はまるで天災にでも襲われたかのようにそのことごとくが破壊されていた。大地すらも大きく抉られ、無造作に掘り返されたかのようだ。

 見るも無残な光景だったが、何とか奮起して先遣隊は市街へと辿り着いた。

 

 

 

    *    *    *    *

 

 

 

 

 鈍竜ベヒンモスの足止めは難航した。

 なにせ相手は全長100mを超える超巨大な魔物である。移動するだけで地震が起き、あまりの巨体故に生半可な攻撃ではぶ厚い表皮を突破することさえかなわないのだ。

 

 

「チッ……ほんっと、嫌になるわね」

 

 

 放った矢がまたしても効果を発揮せずに落ちていくのを見て、ヨンナは思わず舌打ちをした。

 魔力がほとんど尽きているため、サブウェポンの弓矢を持ち出しているのだが、やはりベヒンモスの巨体に効く様子は見られない。

 せめてもう少し魔力が残っていれば、と彼女は唇を噛む。魔力で強化した弓矢ならば、ベヒンモスに一矢報いる事ができただろう。

 彼女のように魔力を武器にも纏わせる技術を持つ者は多くない。遠距離武器がこの防戦に役立つことはなさそうだ。

 近くではマリヨ率いる魔法部隊が魔法を撃っていたが、こちらも同じ様に結果は芳しくなかった。

 

 

「参ったね、牽制程度の魔法じゃダメージを与えられてるのかすらわかんないや」

 

 

 ヨンナと比べればまだ余力を残しているとはいえ、いつものように高火力の大魔法を連発するような戦いはできない。

 せっかくの好きなだけ魔法を打ち込める相手を前に、マリヨもまた悔しそうにしていた。

 それを聞いて隣にいたニーバンは、悪癖が出るより先に釘を刺す。

 

 

「勝手に大魔法打つんじゃねーぞ。この距離じゃ何撃ったって大したダメージにゃならねえんだから」

 

 

 二人に限らず、魔法部隊が手にしているのは普段の装備ではなく、超遠距離専用の装備だ。放たれた魔法の威力減衰を著しく抑える効果がある。それによって普通ならばせいぜい数百mが有効範囲の魔法の射程を飛躍的に延ばすことが可能なのだ。これを用いることで、遠くから安全にベヒンモスを牽制するのが作戦の第一段階である。

 代わりに魔力の増幅効果などはないため、ニーバンの言うように威力という面では物足りない。

 

 

「わかってるさニーバン。けどかの神獣様に魔法を撃つ機会を逃すのがもったいなくってね」

「……この非常事態でも変わらないなお前は」

 

 

 マリヨの相変わらずの魔法バカっぷりに呆れるニーバン。空いた手には既に複雑な魔法陣が浮かび上がっているあたり、本当にわかっているかも怪しいところである。このような状況では、いっそ頼もしいと言えなくもない通常運転っぷりだ。

 だからだろう。その違和感に真っ先に気づいたのはマリヨであった。

 

 

「……なんか鈍竜というには動きが早くないかい? さっき見たときよりよっぽど大きく見えるけど」

 

 

 マリヨは照準器を覗き込みながら覚えた違和感を共有する。

 そんなはずはないと、何度か鈍竜を見たことがあるニーバンが確認すると、彼の想像以上にベヒンモスは大きく見えた。

 

 

「おいおいおいおい!? マジじゃねえか!」

 

 

 一流の傭兵たる者、対象との距離を見紛うはずがない。想定されていたよりも遥かに上回る速度で、鈍竜はこちらに迫って来ていたのだ。

 

 

 

    *    *    *    *

 

 

 

 様子見とはいえ、今もなお進撃を続けるベヒンモス相手には有効打になるような攻撃はなかった。

 サンボはそんな報告を聞いて、ため息をついた。

 

 

「せめて怯むぐらいはして欲しかったが、まさか気にする素振りも見せないとはな。流石に神獣と呼ばれるだけのことはある」

 

 

 やれやれ、とでも言いたげな様子なあたりまだ余裕が伺える。というのもサンボの立案した作戦は三段階であり、本命の作戦はここからだ。きちんと遂行さえできれば、鈍竜撃退という本懐こそ遂げられないまでも、被害を抑え込むだけの時間稼ぎにはなる。

 皇国軍総参謀長の肩書は伊達ではないのだ。

 彼の隣では引き続き副官が斥候部隊と連絡を取り合っていた。

 

 

「閣下! 報告によりますと、ベヒンモスの移動速度がこちらの予想を大きく上回っており、既にここから5㎞地点まで到達しているとのことです!」

「なんだと!?」

 

 

 切羽詰まった報告を聞き、サンボから余裕が消えた。

 鈍竜と呼ばれるだけあって、ベヒンモスの移動速度はそこまで早くない。だいたい時速にして10km弱だが、巨体から考えれば実に緩慢な速度である。今回、斥候の情報によって倍の速さで移動しているものと考えていたが、今の報告だとさらに想定速度の倍だ。

 

 

「……全部隊に撤収の準備をさせろ。それと市民を避難させるようカナメ子爵に伝令をだせ」

 

 

 一呼吸おいて冷静さを取り戻したサンボは、すぐに撤退の判断を下した。緩慢な鈍竜相手の作戦である以上、既に成立条件は満たせないからだ。

 撤退先に選ばれた地方の中核都市『カナメ』は、対帝国戦の物資や兵士が国中から集まっている。予想される被害は甚大だろうが、下手に防衛ラインを上げて突破されるよりマシだと判断したのだ。

 

 

「はっ」

「待て」

 

 すぐに伝令を出しに行こうとする副官を呼び止め、サンボはあるものを渡した。

 

 

「この階級章を持って行かせろ。偽の命令だと疑われている時間などなさそうだからな」

「はっ」

 

 

 その時だった。

 突如後方からけたたましい音をあげて、例の魔動機関車が姿を現した。

 そして、あっという間に彼方へと消えていく。

 まさかの出来事に二人は驚く間もなく、唖然としている。

 

 

「……とりあえず、お前は伝令に行け。今のは俺の方で調査する」

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