巨大な地竜の解体はさすがに骨が折れる作業だ。二人係で行っていたが、到底さばききれるものではない。鉱石を使った異常な硬さなどはないものの、鱗や甲殻の堅牢さはそのままというのもさらに労を要する。
だが、そんな中でも役に立つものはあった。
そう、ひのきのぼうである。
「いやー本当に盲点だったよ。柔らかいうちに削って硬さと鋭さを両立するだなんて。おかげで鱗が落ちる落ちる。しかも刃こぼれしない! これは売れること間違いなし! でしょ、ミディさん」
「……そうですね」
やけにテンションが高い蒼太に話しかけられるも、素っ気ない相槌を打つミディ。だが、それは先ほどまでの落ち込みとは既に関係のない物だった。
長い解体作業を通し、蒼太はミディの探知能力が低下した理由を説明した。仮説にしか過ぎない物の、理路整然されており、彼女にも思い当たる節は多々あった。とはいえ、同じことが起きないよう気を引き締め、フォローしてくれたお礼を伝えて、ミディは落ち着きを取り戻すことが出来た。そこまでは良かったのだ。
「そういえば、私の魔力だとどこまで硬くなりますか?」
そう、ひのきのぼうである。
話のタネとしてでなく、新しい商材としてそのポテンシャルを知る必要があった。
実際、ただ適当な枝を拾って来たとは思えないほどひのきのぼうは高性能である。殴ってよし、守ってよし、最硬の棒だ。
というわけで、ミディもひのきのぼうを使ってみることにした。別の棒に新しく魔力を込めて。
ところが、これが一向に硬化しない。なるにはなるのだが、頑丈な木材の域を出ないのだ。後で血を補給するということで、全魔力を込めてようやく鉄に近い硬度になったのである。魔力量では常人をはるかに凌駕する彼女をもってして、だ。
「……ソータさん以外に誰が使えるんですかこれ」
それが彼女の出した結論であった。
期待が大きかった商品なだけに、ここへきての新事実の落胆は大きい。
しかし、使える者が使えば有用なのもまた事実である。ひのきのナイフは、蒼太が言ったように解体を楽に進めてくれた。
あらかた近隣の村に運びやすいサイズに分けたところで、二人は手を止めた。
そして、示し合わせたように地竜の頭に集まる。
「一応聞くけど、魔力核は胴体にあったよね」
「はい。残骸も確認済みです」
魔物とその他の生き物とを大きく分ける要素こそが魔力核である。魔力核とは魔力にとっての心臓のような物で、ふつうの生物にも大なり小なりみられる。だが、魔物はその身に宿る魔力への依存度が高いが故に、魔力核の重要性が他の生物よりも極めて高い。彼らは魔力さえ残っていれば、心臓が貫かれようと、四肢を切られても、果てには頭を失っても、いずれ復活する。逆に魔力核さえ破壊してしまえば、五体満足だろうと死ぬ。
そのはずだった。
あの時、ミディは間違いなく地竜の核を破壊していた。にもかかわらず、再度動き出したのだ。
地竜の解体をしながら、二人は怪しい物がないか探していた。探知も惜しみなく使い、見落としの可能性も無くした。そして残ったのが頭である。
同じ失敗を繰り返さないよう、意識を研ぎ澄ましてミディが魔力探知を行う。
「もう反応はありませんが、念のため抑えはそのままにしておきます」
顎は彼女の陰によって真っ黒に覆われている。これならば万が一動き出しても何もできはしない。
鱗をはがし、甲殻を切り裂く。頭蓋をむき出したところで、蒼太はおかしなところに気づいた。
「なんだ、この穴……。ミディの槍?」
地竜の頭蓋には、まるで穿頭手術を施したような綺麗な穴が開いていた。
ミディの槍が開けた物かと確認すると、彼女は首を横に振る。前頭部が砕かれているあたり、そこを彼女の槍が穿ったのだろう。
解体には慣れてきたとはいえ、まだまだ蒼太の感性は日本人である。内心、吐きそうになりながら穴から脳内を覗き込んだ。
「……うぷっ……、あ、あった」
「これは……やっぱり地竜の魔力核ですか」
蒼太が摘まみ上げたのは、ミディが砕いた魔力核であった。念のため確認を取ると、間違いないと彼女は断言した。
渡された魔力核を眺めているさなか、ミディは違和感を覚えた。
「……? もしかして……」
「オロロロロロ」
「あの、酷でしょうけど、少し吐くの抑えて頂けますか? 魔力まで出てますから……」
「あい……おうっ……」
「……この魔力核、この地竜の物じゃありません。別の個体の物で……ほんのわずかに魔法の痕跡が感じられます」
「ウオロロロロロ」
「大丈夫ですか?」
違和感の正体、それは倒した地竜の魔力反応との不一致である。ミディには個体を識別するほど詳しくはないが、それでも別の魔力であると感じ分けることはできる。
いったい誰が、とは考えるまでもなかった。
ミディは蒼太の背中をさすりながら、山脈の向こうを睨んでいた。