ダメ店主とヴァンパイア   作:丁太郎

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三話 鳩狩り-2

「鳩丸の仇を討とうと思う」

 

 

 届いた封書を読み終えるなり蒼太は考えをミディに伝えた。

 もし、鳩丸が自然の摂理で死んだのならこんなに強く思うことはなかっただろう。しかし、封書には伝書鳩が人為的に襲われていることが記されていた。

 ミディも同じようなことを考えていた。だが、一つ気にかかることがある。

 

 

「今回も帝国が何かしているみたいですけど……大丈夫ですか?」

 

 

 前回の地竜は帝国の実験体。ギルドによれば今回の件も何かしらの関与が疑われている。

 短い期間に立て続けに起きたということと、二人は共に帝国から追われる身ということを鑑みると、ミディには何かしらの罠と思えて仕方がなかった。

 

 

「俺も最初はそう思ったんだけど……どうやら俺たちが狙いじゃないっぽいんだ」

 

 

 そういって、蒼太は封書のある部分を指し示した。そこには、帝国の皇国に対する軍事侵攻との関連性が指摘されていた。

 

 

「確かガド帝国とユーリ皇国ってまだ戦争中だったよね」

「はい。今は休戦中だったはずです」

「ならやっぱり目的は皇国の通信断絶だ。それに罠にかけるって言っても多分向こうは俺たちが組合所属どころか皇国にいることすら知らないと思うんだよね」

「なんでそう思うんですか?」

「ギルドさんのおかげでミディの活動が隠蔽されてるってのもあるし、ミディも慎重でしょ? そこらへんを信じてるのもあるけど……」

 

 

 そこまで行ってから、蒼太は言いにくそうに声を落とした。

 

 

「けど?」

「ここに店があること誰も知らないじゃん? 辺鄙なうえに誰も知らないところに住んでたらちょっとやそっとじゃバレないと思うんだよ」

「確かにそうですね」

 

 

 言われてみればミディが街中に寄った時、一度たりとて「ザッカヤ」の名前、どころか城壁外の店についての噂を聞いたことがない。情報の一片すら無ければ、誰が調べられるのだろう。

 誰一人知らない店、という認めたくなかった事実を口にしたことで、蒼太は若干へこんでいた。

 

 

「で、でもそういう物珍しい怪しい店がソータさんのコンセプトだったわけじゃないですか。目論見通ってことですよね」

「まさかここまでとは思わなかったけどね……はは」

 

 

 ちなみに蒼太のイメージは某育成RPG金銀のタ○バシティの薬屋なのだが、かの店ほど有用な品を売っていない時点でなんともおこがましい話である。

 想像とはかけ離れた成果に思わず力なく笑う。

 ともかく、「ザッカヤ」から足が付くことは無いということは分かった。

 

 

「まあ今のところバレてる様子も無いし、戦争するなら余裕も無くなると思う。奴らに一泡吹かせるにはいい機会だと思うんだ」

「……結局最後のが本音だったりしませんか?」

「正直、頭にきてる」

 

 

 珍しく蒼太は怒気をにじませていた。

 今回の事ばかりではない。勝手にヴァルラヘイムに召喚された事、帝国で受けた理不尽な扱い、ミディへの非道な仕打ち。(だいたい自分の商才のせいだが)望まぬ隠遁生活もあって、鬱憤は溜まりに溜まっていた。

 そしてその気持ちはミディにも痛いほどよく分かっていた。

 

 

「意外ですね、ソータさんがそこまで言うなんて」

「許せないからって国相手に喧嘩売れるわけないからね。今回は俺でも邪魔できそうだからやる気が出てるっていうのもある」

(俺でも‥…?)

 

 蒼太の物言いに引っ掛かるところを感じたミディは、念のため確認する。

 

 

「……もしかして自分だけ協力しに行こうとは思ってませんよね?」

 

 

 彼女は蒼太という人物をよく知っている。ジト目で視線を向けると、案の定焦ったように言い訳が飛び出してきた。

 

 

「ほら、もし密偵とかいたらバレるし、そもそも相手がどんな手段で鳩狩りしているか分からないかし、だったらミディが直接働くよりも俺の魔力で間接的に協力したほうがいいかなって」

 

 

 蒼太の言い訳は、少しだけ彼女を苛立たせた。

 

 

「……では私はしばらく店番ですか? 一人で?」

「そ、そうなるかなー」

「嫌です。こんな誰も来ないようなところで一人留守番するつもりはありませんから」

「あの、本音漏れてません?」

「だいたい怒ってるならもっと分かりやすく怒ってください。なんで余計な気を回す余裕があるんですか。とにかく、私も鳩丸の仇討ちに参加します」

 

 

 本当に無駄な気づかいをする人だ、と改めてミディは感じていた。先の言い訳も全てではないだろう。恐らく、自分の憂さ晴らしに巻き込めないとか、そんなところか。

 水臭い、というのは言葉にせず、ミディは自分の気持ちを打ち明けた。

 

 

「いつも思うんですけど、私の魔力って全部ソータさんの血でできてるんです」

「はい。存じております」

「だからこういう時は、『血をやるから俺のために働け』ぐらい言ってくれたっていいんですよ。そもそもいつも血を頂いてるんですから、遠慮なんかしないで下さい」

「はい」

 

 

 こちらは特に珍しくもない剣幕で詰め寄る。すっかり威圧された蒼太は委縮して頷くことしかできなかった。

 前々から気になっていたことが言え、心なしか楽しそうにしていたミディだが、ふと我に返って

今後の行動を尋ねた。

 

 

「協力するって言っても具体的にはどうするつもりですか? ギルドさんになにか言われたわけではないんですよね」

「今のところは探索魔法の魔石を沢山提供するぐらいかな。あと俺たちが知っている情報を伝えたら何かしらできる対策も増えるでしょ」

「情報? なにか調べてたんですか?」

「いや、情報っていうか結論は推測なんだけど……」

 

 

 そう前置きしながらも蒼太は確信をもって話し始めた。

 

 

 

   *   *   *   *

 

 

 

「そうか! それで効率よく伝書鳩が狩れるのか!」

 

 

 次の日、組合で蒼太の推論を聞いたギルドは盲点だったと言わんばかりに膝を打った。

 隣ではミディが影魔法で複製した鳩丸を用意している。

 青太はその複製をギルドに渡しながら推測の根拠を提示した。

 

 

「ご覧いただいた通り、鳩丸に付けられた傷は爪痕に見えます。それに矢や魔法の痕は見られませんでした」

「だが、本当に生物を操ることができるのか?」

「この間ミディが倒した地竜は異常成長に加えて、死後も噛みついてきました。自律行動ならともかく既定の行動をさせるだけなら帝国の魔法技術だと……恐らく可能です」

 

 

 蒼太が帝国の実験材料として召喚されたことはギルドも把握していた。それだけに無下にすることはできない。

 

「……そうか。それがわかっただけでも儲けもんだ。わざわざ来てもらって悪かったな」

「いえ、話っていうのはもう一つあって……俺達も鳩狩りの件に関わらせて欲しい」

「……こっちとしては助かる話だが、いいのか? あまり表立って行動すると帝国にバレかねんぞ」

「その話はもうミディとしました。今のところ勘づかれている様子はないですし、組合の隠蔽も完璧です。それに、帝国をのさばらせておく方が後々には面倒なことになりますから」

 

 

 蒼太は行動を起こそうと持ったもう一つの理由を伝えた。皇国は東大陸内で帝国に対抗しうる国の一つである。仮に皇国が負けることがあれば帝国の覇権は確たるものとなり、彼らはまた逃避行する羽目になる。特に愛国心があるわけでもないが、蒼太には切実な思いがあった。

 即ち、

 

 

「俺は皇国以外の気候や文化で暮らせる気がしないんです。それにギルドさんほど俺たちに便宜を図ってくれる人がいるとは思えないですし、生活が脅かされると考えれば割と当然の判断だと思いますよ」

 

 

 帝国からの逃亡中、蒼太は痛いほど実感させられていた。一般人が何の準備もなく呑気に暮らせるほど自然は甘くないのだ。

 

 

「ははっ、確かに。お前がいたところは相当文明が発展しているらしいからな。いい加減ミラの世話になれや。その方が俺としても都合がいい」

「二、三日したら俺だけ速攻で追い出されそうですけど。……まあ大変ですがミディもいますし、なんとかやっていけそうです」

「そうか。だが、協力してくれるってんならしばらくはあいつの家に泊まれ。鳩丸が死んじまった以上、逐一呼び出すのは骨が折れる」

「わかりました」

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