アインズ・ウールゴウンの事件簿   作:伊勢うこ

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思ったより多くの方に読んでいただけて嬉しいです。伊勢うこです。
今回で三話目。意外と続きましたね。
というわけで今回もどうぞお楽しみに。


老師と皇帝

 バハルス帝国 魔法省 最奥の塔

 

 帝国の魔法研究における要となっている魔法省。

 その中で最先端の研究を日々行い、あまり衆目に晒すべきではないような実験をも行っているのが、この塔の中。

 

 文字通り国家の機密となる計画が進められることもあり、出入りの規制は帝国内においてトップクラスに厳しい。

 騎士達が地上と上空から常に警戒しているため、侵入は困難を極める。

 

 

 その最深部に、塔と魔法省の支配者はいた。

 年老いながらも、己の高弟を従僕のように従え歩く様は王者のようであり、彼がこれまでにどれほどの畏敬の念をその身に集めてきたかを物語っていた。

 

 長い永い階段を下り終える。

 

 

 最奥の塔の、最奥の扉が開く。

 

 この先に入ることを許されているのはこの塔の主人である彼ーー帝国主席宮廷魔術師フールーダ・パラダインと、彼の弟子たちの中でも特に魔法の才に長けた者のみ。

 正確にはフールーダ以外は一人で入ることを許されず、彼の優秀な弟子達であっても彼の許しと同伴なしには入ることができない。

 否、入ろうとしない。

 

 ここまで厳正に出入りを制限されているのはこの先にある光景が機密情報扱いとなっていることもそうだが、それよりも中にいるモノの方が問題だからである。

 

 

 最奥の間は薄暗い。

 20m先のものを見ることも難しいほどに。

 

 ヒンヤリとしながらも、どこか張り詰めたような空気。

 一行は緊張感を孕んだまま、目的のものが見えるまで歩を進める。

 

 たった数歩進めるだけの時間が、やけに長く感じた。

 

 遂に、それの姿が見えてきた。

 薄闇に紛れるような、しかし隠しきれない程の威圧感。

 

 

 ーー死の騎士(デスナイト)

 

 

 かつてアンデッド多発地帯であるカッツェ平野に現れ帝国軍の一部を蹂躙し、フールーダとその弟子たちによって捕縛されたという。

 

 その推定難度は100を超えるとされ、都市を一体で崩壊させることも可能だという。

 しかも殺した対象をアンデッドに変える能力を持つという。

 伝説過ぎて、知られることの方が少ないアンデッド。

 

 人類の守護者と呼ばれる冒険者の最高峰、アダマンタイト級冒険者でも一体相手に勝利するだけで精一杯だろう。

 

 離れて見ただけで理解させられた。これらの話は、嘘でもなく誇張でもない。

 今は鎖に繋がれているが、今にも引きちぎってこちらに襲い掛かってきそうなーー

 

 弟子達が怯むなか、その師であるフールーダはさらに前に出た。

 

 こちらに気づき、唸り声を上げる屍の騎士。

 地獄の悪鬼が、そんな声音をするだろう。

 

 

 騎士の前に手をかざす。

 

 この騎士を支配するために独自に改良した、第六位階魔法。

 以前までは上手くいかなかった。

 だが、今ならば、あるいはーー

 

 「さぁ、死の騎士よ。我に服従せよ」

 

 これまでに無かった変化が起きた。

 

 唸り声をあげ、鎖を軋ませていた不死の騎士の身体が、その動きを止めた。

 頭を垂れ、腰を沈ませるように。

 縛られていなければ片膝を突き、忠誠を誓う姿勢をとっていただろう。死者ではなく、生者の騎士の如く。

 

 

 「おぉ・・・・・・!!」

 

 「おめでとう御座います、師よ!」「おめでとうございます!」「おぉ、師よ!」「流石でございます!」

 

 「遂にやりましたな、あの伝説のアンデッドを支配されるとはお見事です、師よ」

 

 ・・・・・・返事が、ない。

 

 「・・・・・・どうされましたか、師よ。お加減が優れませぬか?」

 

 だとすれば一大事だが、どうにも様子がおかしい。

 

 (ーー!まさか、アンデッドに精神攻撃をかけられたのでは!?)

 

 不味い、と感じすぐさま師に精神支配を解除する魔法をかけようとしーー

 

 

 

 「フハハハハハハハハハハハハハハハ!!!あーーーーっハハハハハははははははハハハハハハハハ!!!!!!」

 

 

 

 「「「「!!?」」」」

 

 狂喜。フールーダの耳には、弟子たちの賛辞など聞こえていなかった。

 

 ーー素晴らしい!!実に素晴らしいぃ!!!

 

 数十年ぶりに、己の魔法の段階が上がることを感じた。

 長年の目標の一つとしていた、このアンデッドを操ることに成功することで。

 

 この先一生ないだろうとさえ思っていた。

 自分は魔法の深淵を見るどころか、死の騎士を操れぬまま、年老いて死んでいくのだろうと。

 

 だが、今の己はどうだ。

 やったのだ。誰も成し遂げられなかった、あの怪物を支配して見せた。

 ずっと停滞していた魔導の道。深淵に、また一歩近づくことが出来た。

 

 師となる人物が居らず、無駄足を踏むこともあった。

 魔法の為に、己の寿命を伸ばした。

 深淵を見るまでは、死ぬわけにはいかない。寿命などで、諦めてなどいられなかった。

 

 教え子たちが己より効率的に魔法を修めていく様子に、嫉妬した。

 己が彼らくらいの年の頃は、比べることも烏滸がましい程遅々とした速度で魔法を学んでいた。

 自分にも師が居ればと、何度思ったことだろう。

 

 他人に教授するばかりだった。

 魔法の深淵を見るのは己ではなく、彼らの役割なのではないかと思い始めた頃。

 

 フールーダは、運命の子と出会った。

 

 アインズ・ウールゴウンというその生徒は、魔法学院に入学する前から既に第一位階の魔法が使えていた。

 確かに優秀だが、過去に例を見ない程ではない。

 将来優秀な魔法詠唱者に成るだろう、程度にしか当時は思っていなかった。

 

 変化があったのは、数年後。

 

 アインズが学生の身でありながら第二位階に到達したという。

 

 当時の常識として、あり得ないことだった。

 

 学院生は大抵第一位階を行使できる状態で卒業を迎える。

 これは入学時点で第一位階に達していたものも同様である。

 魔法の位階を上げるということは、それ程までに生易しいものではない。

 

 卒業後も長い年月を魔法に掛け第二位階に到達し、第三位階に到達するのはさらに困難を極める。

 これが第三位階が凡人の到達点と言われる所以。

 才能ある物でも第四位階、それ以上は英雄の領域と呼ばれ、天に愛された者たちのみが到達する。

 

 凄まじい速度で魔法の位階を上げた少年。

 フールーダは直ぐに彼の下を訪れた。

 どうやってそれ程早く位階を上げたのか。

 

 

 全ては、己の野望のためにーー

 

 

 

 「ーーよ。師よ!ご無事ですか!?」

 

 弟子の一人の声が聞こえた。

 どうやら喜びのあまり意識が遠いところに行っていたようだ。

 

 「んんっ・・・・・・問題ない。心配は無用だ」

 

 周囲からほっと安堵した声が漏れた。

 

 「これで、死の騎士の支配は成功と相成った。私はこれより報告に行く」

 

 「どちらに?」

 

 主席魔術師の彼が直接報告に赴く相手など、決まっている。

 

 

 「無論、皇帝陛下の下へだ」

 

 

 

 

 帝都の中心にある帝城では、現在宮廷会議が行われていた。

 

 参加しているのは宮廷官僚や宮廷魔術師、一部の貴族。軍の将軍からも数名。

 そして帝国最強の騎士である「四騎士」と、彼らの護衛対象ーー

 

 ーーバハルス帝国皇帝 ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。

 

 かつて親族すら手にかけ皇帝として君臨し、以降も貴族を粛清し続けたことから「鮮血帝」の異名をとり恐れられる、若き絶対支配者。

 優秀であれば平民でも取り立て、またその君主としての能力の高さとカリスマから、歴代の皇帝の中で最も優秀とされている。

 

 絶対王政を完成させた才人はふむ、と資料を手に一息ついた。

 

 「今年の戦争も、例年通りのものになりそうだな」

 

 「おそらくそうなるかと」

 

 内政官の一人が、皇帝の呟きに応えた。

 

 帝国は近年毎年隣国であるリ・エスティーゼ王国に対し戦争を仕掛けていた。

 最終的な狙いは相手の領土だが、この繰り返し行われた戦争の目的は収穫期に合わせた、王国の国力の低下。

 

 今すぐに王国を打倒したところで、統治するには足りないものも多い。

 よって小競り合いを仕掛け続け、相手の力をじわりじわりと削っていくことにしたのだ。

 

 しかし油断するわけにはいかない。

 向こうには周辺諸国最強と言われる戦士、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフがいる。

 

 その能力を無能な王国の王族や貴族の下ではなく、自分の下で振るって欲しいと勧誘した。

 失敗に終わったが、惜しいなと今でも思う。

 彼によって空けられた四騎士の席を、彼自身に埋めてもらおうと思ったのだが。

 

 加えてあの黄金の姫の存在。

 あれ自身には力はないが、生み出す政策は自分も驚かされる時がある。

 結局失敗に終わるのが大半だが、それすら狙い通りな気がして気に入らない。

 まぁあれが動いたところで、王国の軍が急に強くなることはないだろうが。

 

 

 思考が逸れた。

 ふと時計をみれば、思ったより時間が経っていた。

 

 会議が始まってはや数時間。疲れが見え始めてきた。頃合いだろう。

 少し休憩を挟もうとして、扉から入室を求めるノックが聞こえた。

 

 相手におおよその検討はついている。

 

 「入れ」

 

 皇帝の許可を得て入室したのは、彼にとって親代りとも言える老人。

 帝国主席魔術師、フールーダ・パラダイン。

 

 「遅かったな、爺」

 

 「申し訳ありません、陛下。少々長引きました」

 

 「構わんさ。こちらもちょうどキリの良いところだ」

 

 「左様でございますか」

 

 皇帝と臣下にしては軽いやりとり。

 

 

 「しかし不用心ですぞ、陛下。せめて間に取り継ぎの者くらいは挟まれませぬと。魔法の中には姿を変え成り済ますものも・・・・・・」

 

 「分かった分かった。魔法の講義はまた今度にしてくれ」

 

 一度始まったらなかなか終わらないものに付き合うほど、疲れていないわけじゃない。

 

 「それで、なんの報告に来たんだ?例のアンデッドの労働力の件か?」

 

 「そちらに関しましては近日改めてになるかと。今回は別件にございます」

 

 「別件?」

 

 「死の騎士の支配に成功いたしました」

 

 周囲がざわついた。特に宮廷魔術師の驚きようは顕著なものだ。

 

 デスナイト。確か、魔法省の奥にいる怪物だったか。

 軍に被害をもたらす程の化物。

 それの支配に成功したということは、帝国の戦力の増加を意味する。

 

 「嬉しそうだな、爺」

 

 「勿論でございます、陛下。これでようやく、彼の十三英雄を超えることができたのやもしれません」

 

 おぉ・・・・・・と歓声があがる。

 あの逸脱者がさらに強くなったと聞けば、驚かない帝国民はいないだろう。

 

 

 知らず、笑みが溢れる。

 

 「使()()()のか?」

 

 「今はまだ簡単な命令ならば。より完璧に操るには、もう暫しお待ち頂きたく思います」

 

 誰もが確信した。()()は、近い将来の話だと。

 

 

 「そうか。期待している」

 

 「陛下のご期待に沿えるよう、精進いたします」

 

 

 今年は荒れることになるだろう。

 その時世界はどう動くことになるのか。今はまだ、誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 「そういえば、何故今になって成功したのだ?」

 

 「アインズ・ウールゴウン?あぁ、聞いている。確かお前の弟子の一人で、魔法の講師をしているんだったか」

 

 「ほう。その者のお陰だとしたら、かなり優秀だな。貴族位を与えても良いくらいだ」

 

 「興味深いな。直接会って話すことはできるか?」

 

 「そうか。では頼んだぞ、爺」

 

 

 

 

 




(まさか今後の展開をろくに考えずに書いているとは誰も思うまい。クックックっ・・・・・・)
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