Dies iraeに空の魔王ぶっ込んでみた   作:ノボットMK-42

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流石に話の流れ可笑しかったので外伝みたいなことにしました。


Act.??-01

 懐かしい夢を見た。

 

 まだ大戦中の時の事だ。

 

 きっと私にとっては当時最大の失態である右脚の切断に至った事件。

 

 

 1945年 2月8日

 

フランクフルト・アン・デア・オーダー近郊において、ソ連軍の対空砲が私の乗っていた機体の機首、丁度操縦席がある部分を直撃し、機首が丸ごと持っていかれる所をほぼ活動位階並みの霊的装甲しか持っていなかった私の身体が砲弾を受け止めた。

 

 パイロットの方が攻撃を弾くなど馬鹿げた話だが実際に起こってしまったものは仕方が無い。とはいえ私も決して無傷ではなかったが。

 

 もう一度言うが当時の私は形成を使えるのに霊的装甲は活動位階並みという非常にアンバランスな状態にあった。

 

 元々私の装甲というものが非常に薄いものであるからか、或いは私が殆ど勘でエイヴィヒカイトを使っていたからなのかは分からないが、対空砲を諸に喰らった私は右脚を丸ごと吹っ飛ばされた。

 

 後に知ったことだが成り立ての活動位階ならば至近距離で銃弾を喰らえば死ぬ程度の頑強さしか持たないらしい。

 

 銃弾でも死にかねない状態で砲弾など受けようものならただでは済むまい。寧ろ足だけで済んだのは僥倖と言えるだろう。

 

 そして、私もそうだが機体も結局ただでは済まなかった。

 

 一撃で機体をバラバラにされるようなことこそ無かったものの、対空砲の直撃を喰らって無事でいられる筈もなく、大きくバランスを崩してその間にもう一発被弾、左翼が炎上した。

 

 確かその時こんなやり取りをしたと思う。

 

 

「なぁ、ガーデルマン。」

 

「なんすか?今忙しいんで簡潔に済ませてください。」

 

「うむ、どうやら右脚が無くなってしまったらしいんだ。」

 

「何馬鹿なこと抜かしてんですか。足が吹っ飛んだ奴が悠長に話なんて出来る訳ねぇでしょう。牛乳飲んでないから禁断症状でも出始めやがりましたかこの中毒者。」

 

「あ~…何というか、普通はそうなんだがな?私の場合は少し勝手が違うというか何というk「そんなことより左翼がめっさ燃えてんですけど。さっさと不時着しましょうよ」オイ、それを先に言えよ。」

 

 

 相棒からの提案があった頃には既に機体は半ばコントロールを失いつつあった。不時着、ないしは墜落必至の状況。

 

 あえなく私のスツーカは不時着して爆発炎上した。ガーデルマンは遥か前方に放り出され、私は派手に火の手をあげる機体の中に身動き出来ないまま取り残され炙られる羽目になった。

 

 意識が朦朧としていたせいでハッキリとは思い出せないが、ガーデルマンが私を操縦席から引きずり出してくれていなかったら、その後に適切な応急処置を施してくれていなかったら、私はあの時点で黒焦げか出血多量であの世送りになっていたことだろう。

 

 こういうことは前々から何度かあった。

 

 私は渾名が付くくらいには出撃回数と被撃墜数を重ねてしまっている自信(?)がある。

 

 何度も撃墜されて、その度に負傷しなかったことなど皆無に等しいし、本来は医者である筈のガーデルマンが持つ知識や技術に助けられた回数は一度や二度ではない。

 

 同朋と戦友達を守らねば、救わねばと思って飛び続けた私にとって、此方の方が守られ救われていた存在、それが彼だった。

 

 だからこそ彼の事は心から信頼していた。

 

 彼と共にあるのならば勝てない戦いなど無かった。超えられない苦難など無かった。

 

 だから彼だけは一切心配することなく背中を預けられたし、他の仲間達には絶対にやらないような無茶でも安心して任せられた。

 

 典型的な例が、足を失って流石に入院を余儀なくされた時の事だ。

 

 私はイワンの戦車共を暫くブッ潰せないことが悔しくて病室のベッドの上でみっともなく涙を流していた。

 

 

 病院は嫌いだ。ここは私にとっては監獄も同然。

 

 医者という名の看守が入院期間(懲役期間)を宣告して私を閉じ込めようとする。

 

 ハンモックのベッドの上で寝転がって居る暇など無いと言うのに、呑気に療養しろなどと私にほざくのだ。

 

 何と恐ろしい事か、何と愚かしいことか。

 

 故に私が病院に一週間以上留まったことなど無い。大抵の場合は自力で抜け出してさっさと出撃するのだ。今回とて例外ではない。

 

 私は通り掛かった人物に頼んで(脅して)簡素な義足を用意させた。

 

 金具の先に杖を付けただけの安物だが無いよりマシだ。こんなでも操縦は出来る。

 

 こちらの準備は整った。次は相棒を迎えに行く。

 

 彼の病室に入った時、彼は酷く気怠そうな目で私を見ていた。今回に限らずいつもの事だが。

 

 

「休んでいる暇は無いぞガーデルマン、すぐに出撃だ!」

 

「出撃て……一応言わせて貰いますけど、僕って肋骨三本骨折してるんですよ。

普通は出撃どころか下手に動く事すら憚られる怪我人な訳でしてね?貴方も右脚がそんなザマじゃ操縦なんて「足はまだ一本ある、この程度で操縦出来なくなるほど落ちぶれちゃいないともさ!」そりゃ貴方はぶっちゃけ同じ人類なのかどうかも疑わしい不思議生命体ですけど私は生身の人間なんですよ。

だから「心配いらん!君がこの程度の事でくたばる筈がないだろう?さぁ行くぞ!」ちょ、おま……!?」

 

 

 彼を担いで病院を抜け出し格納庫に向かう。

 

 片脚が義足になっている人物が大の男を担いで来たのだから当然のように奇異な視線を向けられたがそれが私であると判明するや否や誰もがすぐに視線を元の位置に戻してせっせと動き始める。

 

 空いている機体は無いかと尋ねた技術士官にも同じような反応をされ、私達は邪魔をされることなく機体に辿り着くことが出来た。あれだけの理解者に恵まれるとは私の人望とやらも捨てたものではないらしい。

 

 盛大に悪態を垂れ流しながらも後部座席に座ったガーデルマンに続き、私も操縦席に身を滑り込ませる。

 

 お互いに深手を負った身だが、不思議と今回の出撃では撃墜されるどころか銃弾一発かする予感も無い。

 

 そして、イワン共に右脚の返礼をすべく私達は飛び立った。

 

 いつからか不満しか感じなくなっっていた空が今だけはとても穏やかなものに感じる。

 

 恐らくそれは私の背後で控えてくれている彼のお蔭なのだろう。

 

 自分の背中を心配しなくても良い、邪魔が入る心配が無いと言うのはこうまでも心安らぐものなのだ。

 

 そう、彼がいたから私はあの大戦において胸の内に巣食う魔物を封じ込めていられたのだろう。

 

 彼と逸れ、血に染まったベルリンを前にした時に私はそれを強く認識した。

 

 軍人としての責務であったり自分に課した使命であったり単なる強迫観念であったりと、その源は様々な形であったが、私を縛り付けていたものが根こそぎ吹っ飛んだ瞬間、私は別のナニカに変貌した。

 

 エルンスト・ガーデルマンという名の楔が引き抜かれたハンス・ウルリッヒ・ルーデルは最早首輪を外され野に放たれた怪物だ。

 

 きっと本能のままに暴れて壊して自由になろうとしただろう。それこそが私の魂が望んでいる事なのだから。

 

 だが、私の理性と心はそれを望まない。強迫観念と僅かに残された弱弱しいことこの上ない心がそれは嫌だと叫び続けていた。

 

 だから私は新たな()を無意識に探したのだろう。

 

 そこで一人の女性を思い浮かべて、私は何処かホッとしながら、とても申し訳ないような心境を噛み締めていた。

 

 悪竜を繋ぎ止める気高い戦乙女の楔。それが引き抜かれた時、私は再びあの激情に呑まれるのだろう。

 

 二度目の脱皮、果たして次はどんなカタチに変貌してしまうのか。

 

 それがどんなモノにせよ、次の新生が終わった後、ハンス・ウルリッヒ・ルーデルという存在は、恐らく――――――

 

 これは水銀の蛇が敷いた悲劇のオペラ。

 

 このまま奴に踊らされ続ければ、私はきっと彼女も喪うことになる、ガーデルマンのように。

 

 だから親友よ、君への未練()はこの辺でお終いにしよう。

 

 きっとこの馬鹿げた祭りが終わった頃には何もかもが元の流れに帰る筈だから。


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