Dies iraeに空の魔王ぶっ込んでみた   作:ノボットMK-42

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やっと投稿出来た……バイトが想像以上に過酷です。テスト期間も近いし。


Act.05-A

「おはようございます大佐!私、ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼンです!宜しくお願いします!」

 

 

 ハンス・ウルリッヒ・ルーデルの黒円卓加入初日の朝。

 

彼は日課の牛乳補給と体操を終え、適当にそこいらを散策していると一人の女性にばったり出会った。

 

 他のメンバーと同様に黒い武装親衛隊の軍服を纏っていることから、一目で黒円卓の一員であることが分かった。

 

 だがそれにしては妙に明るく快活で、聖槍十三騎士団という魔人の集団には大凡合致しない印象を受ける人物だった。

 

 おはようと挨拶されて黙りこくっているのは礼儀に反するので一先ず此方も挨拶を返し、そして君は誰かと尋ねれば冒頭の自己紹介へと繋がる。

 

 太陽のような眩しい笑みを浮かべる女性は、相棒曰く美的感覚云々以前に感覚野が纏めて腐っている自分にも美少女だと分かるくらいには整った顔立ちをしていて、プラチナブロンドの長髪を頭の後ろで一つに纏めたポニーテールは光を反射して輝いているようにも見えた。

 

 途中でお開きとなった顔合わせの時に一番印象に残っていたのが自分が殴り倒した白髪の男だっただけに同じ組織に属している者の雰囲気にこうも差があると多少なりとも驚いてしまう。

 

 とはいえ、他のメンバーも同じような荒くれの気質持ちだと適当に考えて先入観に囚われていたのも事実だが。

 

 

「先日は碌に挨拶も出来ずに申し訳ありませんでした。出来れば声だけでも掛けておきたかったんですけど、勝手に喧嘩吹っ掛けて一撃で伸されたどっかの馬鹿を運び出す仕事を押し付けられちゃってそんな暇もなかったんですよ。」

 

「そうなのか?と言うことは、そそくさと退室して行ってしまった他の面々は私が殴り倒した彼の看病にでも向かったのだろうか?」

 

「まさか!よりにもよってベイ中尉の為にそんな健気な事するような人がこの碌でなしの巣窟に居る訳ないじゃないですか。

私だって他の皆が逃げるように出て行ってたりしなきゃ、あんな脳筋バトルジャンキーを態々部屋に放り込んでいくなんて面倒な真似しませんよ。」

 

 

 膨れ面で不満を漏らしている彼女も言動からして碌でなしの一員と言うことになるのだが、少なくとも本人はそんなつもりは微塵も無いらしい。

 

 飽く迄も常識人として味方である筈の男を酷評すると言うのなら、遠慮が無いと言うか大した毒舌家である。

 

 

「あの~大佐、宜しければこの後お時間頂けますか?」

 

「む?構わんが何か用でもあるのか?」

 

「いえ!用って程の事でもないんですけど、少しお話し出来れば良いな~何て思っちゃったりして……」

 

「ああ、そういうことなら喜んで付き合おう。どうせ当分やることも無いんだ。私自身何をして時間を潰そうかと思っていた所なんだよ。」

 

 

 そう。こうして将来の敵としてやって来たはいいが開戦は当分先の事だ。それまでの間に黒円卓がやる事など、そこいらの人間を手当たり次第に殺して魂を積み重ねる事くらいしか無い。

 

 朝起きて牛乳飲んで、朝飯食って牛乳飲んで、昼飯食って牛乳飲んで、夕飯食って牛乳飲んで、シャワー浴びて牛乳飲んで寝ると言うルーチンワークをこなしてさえいればハンスもある程度の退屈は凌げるだろう。

 

 だが大戦中とは違い、現在に於いては間に挟む『出撃』という文字は存在せず、その時点で一連の流れには結局の所大きな空白が出来上がっている。よって、このループを以前通りに続けていくことは不可能、どの道暇な時間が出来てしまうなら同じことだ。

 

 ならばせっせと殺して魂を喰らっていくのか?それも否だ。例えソ連相手だろうがそんな下らん真似をする気は毛頭無い。

 

 既にドイツは負け、同朋達は大半が死に、帝国の敵と戦い続ける理由はもうとっくの昔に無くなってしまった。

 

 ソ連は未だ健在なれど、今更彼らをどうこうしようとなどと言う気も起きなかった。

 

 彼らは国の敵であって、自分が個人的に憎み、恨み、殺し尽す事を望むような対象ではないのだ。

 

 確かに彼らは同胞達を何人も殺し、或いは死に追い遣って来た憎き敵。胸の内に宿る強迫観念を刻む切っ掛けとなったヘンシェルの死もソ連との戦争によって齎されたものだ。

 

しかし、自分が憎めたのは結局のところ敵国の軍隊、殺した兵士、指導者であって国そのものではない。

 

 戦死者が出たのならより多く殺してケジメをつけ、他の犠牲が出る前にその場にいる敵を殺し尽した。ヘンシェルの件もその後の連続出撃の中でとりあえずの区切りはつけたのだから未だに彼らの死を引きずって殺しの言い訳にするのは同朋達への非礼に他ならない。

 

 無論それしきで彼らを完全に許すことなど出来まいが、彼らを一人の余さず殺してやりたいなどというご苦労な発想に至る程なのかと言われれば怪しい所だ。

 

 『ソ連人民最大の敵』何ぞと大仰に渾名されても、そこにソ連がいるからという理由で共産主義と無実の国民に怒りをぶつけるのは門違いだ。

 

 恐らく自分がそんな事を考える対象はたった一人、或いは二人だけだから。

 

 そうして浮かんでくる怨敵の姿。

 

 一人は枯れ果てて擦り切れた影絵の男、もう一人は何処までも強大で圧倒的な黄金の獣。

 

 紅蓮に染まった空を背にして此方を見下ろす奴らの姿は脳裏に焼き付いていて、すぐにでも思い浮かべられてしまって忌々しいことこの上ない。

 

 恐らくソ連にも、黒円卓の面々にも大した殺意が湧かないのは一様に奴が原因なのだろう。

 

 自分の殺意は全て奴に向けられていて、意識の大半も同じ方向を向いているから他の憎しみがどうしても薄まりがちなのだ。

 

 誰彼構わず暴れ回るよかまだマシだが奴に釘付けになっているのは自分の意志が奴に囚われているように感じて酷く不愉快だった。

 

あとどれ程に奴への殺意を燻らせておかねばならないのか、そう考えるだけで腹の底から湧き出る苛立ちが空気を軋ませる――――――

 

 

「大佐?大佐!大佐ってばー!どうしたんですか急に黙り込んで。ちょっと無視しないで下さいよ!大佐~!」

 

 

――――――その前に此方へ呼びかける声によって現実へと引き戻される。脳裏に浮かんだ蛇と獣の微笑は消えていた。

 

 代わりに視界に飛び込んで来たのは思い浮かべていた男のソレと同じ色で、それでいて何処までも違っている金色の髪を伸ばした女性の顔。

 

 そうだった、彼女が話をしたいと言って来たのだった。会話の途中で白昼夢を見るなど礼を失する行為、或いは呆けた老人のようではないか。

 

 

「すまない。どうにも寝起き牛乳の量が少なめだったらしくてな、どうにも頭が冴えんのだ。」

 

「寝起き牛乳って何ですか?普通の牛乳と何の違いが……」

 

「寝起き牛乳は寝起き牛乳だ。朝起きてすぐに飲む、きっかり500mlの牛乳の事だ。

これさえあれば朝の気怠さなどイワンの戦車の如く簡単に吹っ飛ぶのさ。」

 

「ちょっと待って下さい500って何ですか500って。明らかに世間一般のコップに入る量じゃありませんよねソレ?しかも例えが妙に物騒なんですけどこの人!」

 

 

 はぐらかす為に発した言葉が存外に興味を引いたらしい。

 

 しかし自分自身、嘘は言っていないがそれほど特別な事を言った覚えも無い。

 

 故にベアトリスの喰い付き様はハンスには当たり前の事に一々驚くという理解し難い反応であり、対する彼女は突然飛び出した如何にも“らしい”発言に驚き半分感心半分と言った所。

 

 例えるならば有名人の名言を本人の口から直接聞いたような感覚だろう。

 

 

「兎に角、このまま突っ立ってて面倒な人に見つかったら色々と台無しにされちゃいそうですし、朝っぱらから何ですけど私の部屋で良いですか?」

 

「む?それは良いのか?色々と拙いんじゃないのか。

異性の部屋に連れ込まれるのは既成事実とか既成事実とか既成事実とかを作るような事態に発展する切っ掛けになりかねない兆候だから気をつけろと教えられたのだが。」

 

「ちょっと待ってください何ですかその恐ろしいお持ち帰り理論は!?一体何処の馬鹿がそんなこと教えやがったんですか?」

 

「相棒のガーデルマンだよ。彼は色々な事を私に教えてくれたのさ。

お世辞にも私は物を知っているとは言えん無知蒙昧という奴だからな。私の知識の七割は彼に教えて貰った事であると断言出来る。」

 

 

 いやぁ他にも何を教わったかな~

 

 などと言わんばかりにハンスは笑う。だがそれは、聞く側にとってはとてつもなく不吉な予感を覚えさせる類のもので、少なくとも当人のように笑いごとで済ませられるのか甚だ不安である。

 

 彼が教わったという知識、それを教えたのは一人の男であり、更に初っ端から飛び出した言葉がかなりアレだ。

 

 他もまともでないとは決まっていないが、言いようの無い不安が拭えない。自分から誘ったと言うのにベアトリスは何か早まった行いをしたような心境に晒されていた。

 




そういえば閣下の創造の名前と魔名がダサかったので直しました。

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