Dies iraeに空の魔王ぶっ込んでみた   作:ノボットMK-42

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やっと投稿出来た…

何と言うかいきなりスランプに陥ってしまいました。
詳細は活動報告の方で述べますが他の事を考えていたこともあり更新が非常に滞ってしまい申し訳ありません。


Act.06-B

 初めて会った時、彼は獣のような目で私に喰ってかかって来た。

 

 病的なまでに白い髪と肌、そして血のように紅い瞳が特徴的な男。彼が放つ鬼気はそこらの半端な狂人とでは比べものにならない程に強烈だった。

 

 更に印象的なのが、叩き伏せられ意識が薄れ行く中でも私への闘志を微塵も薄れさせなかったことか。

 

 咄嗟に繰り出した一撃に彼が耐え切っていれば間髪入れず再び襲い掛かって来たことは間違いないだろう。

 

 彼が何故そこまでして私を害そうと…否、殺そうとしたのかなどは明白。

 

 私見になるが、彼は戦いに小難しい理由を求める種類の人物ではない。それに加え私は彼等の面前で堂々と宣戦した不届き者なのだから排除してやろうという考えが飛び出すのは当然だろう。

 

 いっそ敬意を表する程に苛烈な闘志、そして主の敵を斃そうという忠誠心。獰猛な生き物ほど自分より強い生き物に対しては従順なものだ。後に知り得た彼のラインハルトに対する心服と畏怖の念からもそれを察することが出来た。

 

 だからこそ頻繁に彼が私に喧嘩を吹っ掛けて来るようになったのは当然の流れであったのかもしれない。

 

 勝ちの目は無いが放っておけるほど堪え性も無い。加えてあまり派手な殺し合いはヴァレリア辺りに禁じられたらしく本気を出すことも出来ず、せいぜいエスカレートし過ぎて形成で暴れる程度だろう。

 

 そこから先は誰かしらの制止が入るので彼としては全力を出せずに敗北を味わうか不完全燃焼のまま勝負そのものが流れてしまうかのどちらかなのだ。だからこそせめて回数だけでも積み重ねて気を紛らわせているのかもしれない。

 

 その度に叩きのめされていては返って苛立ちや不満も溜まってしまいそうなものだが彼としては動かずじっとしている方が耐え難い苦痛を伴うらしい。

 

 無謀だの落ち着きが無いだの言ってしまえばそこまでだが、彼の理屈を抜きにした“敵”と定めた相手に対する闘争心は私自身ソ連に対して同じような心境を抱いていた節もあって何処か共感してしまう面がある。

 

 ほんの少しでも共感を抱ける点があるからには邪険にするには決まりが悪く真面目に応戦していると言うのが現状だ。ベアトリスには盛大に呆れられたが戦うべき敵を前にして居ても立ってもいられない彼の気持ちは一度味わわねば分からない苦痛がある。

 

ただ、完全に理解の外であることといえば彼が戦いに対して異常なまでの執着と快楽を求めている部分だろうか?

 

 彼との喧嘩(?)を重ねてすぐ、私は彼がとても楽しそうな様子で戦っている事に気が付いた。彼はどうやらバトルジャンキーと呼ばれる性格の人間らしく、しかも筋金入りという言葉が頭につくほどに闘争や殺戮に対して悦と快楽を求める気質らしい。

 

 私も大戦中に生きた軍人なだけにその手の物騒な性質の人間には幾らか覚えがある。生来身についていた精神構造である者もいれば心的な傷やストレスによって変質した者もいた。彼の場合は間違いなく前者だと断言できる。

 

 そんな観点から見ても彼は現実社会には適応出来ない類の人間なのだと思う。言い方は悪いが荒くれ者、逸れ者という奴だ。

 

 だからこそ自分の欲求に忠実と言うか生き方が一貫しているようにも見て取れる。可笑しな言葉になるが“血生臭い清々しさ”とでも言うべきものを感じられるような戦いへの執着を彼は宿していた。

 

 方向性が激しく物騒ではあるものの自身に正直に生きている人物は嫌いではない。これは言うなれば元気が有り余っている生意気小僧でも相手にしているような心境か。

 

 このことをベアトリスと談笑している際にふと口洩らした時は更に呆れられていた。

 

 まぁ前置きが長くなったがそんな経緯で、恐らく二桁に達するであろう彼との喧嘩に今日もこうして勤しんでいる。

 

 

「何ボサッとしてんだ?余所見してるとうっかりブチ殺しちまうぜぇ!!」

 

 

 特徴的な高いトーンの声と共に繰り出された右拳。頭部を丸ごと吹き飛ばしてやると言わんばかりの強烈な一撃は私が身体を小さく右に逸らしたことで空を切る。

 

 以前はこのまま私が彼の顎に掬い上げるようなアッパーを叩き込んで決着だったのだが流石に同じ手は通用しないようだ。

 

 此方が打撃の体勢に入るよりも拳を引き戻しながら左足を突き出してくる。鳩尾狙いの蹴り。喰らったらちょっと痛そうだ。

 

 咄嗟に攻撃の為に拳を固めていた左手を防御に回すことで蹴りを遮るが、間髪入れずに拳の乱打が襲って来た。

 

 不規則に繰り出される拳の雨嵐は人外の膂力も合わさって驚異的な威力を持っており、彼の腕が風を切る太い音が引っ切り無しに響く。

 

 それらを躱し、防ぐこと10秒弱。首元狙いで飛んで来た手刀を左手で掴むと同時に思い切り引き寄せる。

 

 突然怪力で引っ張られたことで体勢を崩した相手が私と接触する瞬間に、腕を引き寄せたことで左半身を引いた姿勢のまま身体を激突させた。

 

 全身の重量を乗せた当て身をまともに喰らって吹き飛んだ相手を見下ろしつつ、先程の蹴りで靴底と触れた袖を軽く叩いて汚れを落とす。

 

 

「なぁヴィルヘルム。今日はここらで終いにしないか?そろそろシャワー浴びて牛乳飲みたいのだが。」

 

「なんだよ釣れないこと言ってねぇでもうちっと付き合えや。折角盛り上がって来たトコなんだからよぉ」

 

「むぅ…君はその“ちっと”とやらが些か以上に長いからな~。落とし処も決めないままズルズルと続けるのは小気味良くないと思うぞ。」

 

 

 仰向けの体勢からむくりと立ち上がり、一切揺らがない闘志を宿した目を私に向けた。剥き出しの殺意は私が喧嘩と認識しているものが決して彼にとっては生温いお遊びではないという意志表示か。

 

 これまでの経験から言えば彼は完全に意識を落とされない限りは何度でも立ち上がって来る。その根性は大したものだが時間を取られて生活習慣を崩されがちな此方としては若干困りものだ。

 

 そろそろ真夜中と言える時間になってしまう。『夜更かしするんじゃありません』とガーデルマンに口を酸っぱくして言われていた身としてはさっさと自室に戻りたいのが本音だ。

 

 

「だったらいつもみたいに思いっきり殴って気絶させちゃえば良いじゃないですか。そうすればさっさと切り上げられると思いますよ大佐。」

 

「おいヴァルキュリア、余計なこと吹き込んでんじゃねえよ。外野は黙ってろ。」

 

「ついさっき盛大に人の邪魔してくれた方に邪魔者扱いされたくありません。そっちこそとっとと降参するなり伸されるなりして下さいよ。」

 

 

 横から投げやりな意見を飛ばしてきたのは木に背中を預けた姿勢で仏頂面をしているベアトリスだった。彼女の私室で談笑している所を中断される形になったせいかこうして外に出て一戦交え始めた時から終始不機嫌そうにしている。

 

 ヴィルヘルムに付き合っておいて何だが彼女には悪いとは思っている。しかし敵対心を煽る行為をしたからには適当にあしらうのは決まりが悪い。こちらから啖呵を切っておきながら『気が向かないから後にしてくれ』と言わんばかりの態度は個人的に気に入らないのだ。

 

 とは言え女性をほったらかしにして殴り合いに興じるのが頂けないのも事実。『女性よりも野郎との用事を優先する奴は魔法使い直行』とガーデルマンも言っていた。

 

 “魔法使い”聞いただけでも怖気が走る言葉だ。魔法使いとは即ち魔術師と同じ意味であり、魔術師と言えば真っ先に思い浮かぶのはあの忌々しい影絵の姿だ。女性を放っておいたとしてもどういう過程を経ればそうなるのか、などはサッパリ分からんが奴と同類になるなど死んでも御免である。

 

 

「次は本気で殴るぞヴィルヘルム。これ以上は彼女にも悪い。」

 

「んだよ女の言うことは素直に聞くってか?ヴァルキュリアと言い昔の相棒と言い親の言うこと聞くだけのガキかよ。お利口さんぶるなんぞテメェにはクソほども似合ってねぇんだよリュツィフィール。」

 

「ヴィルヘルム。何度も言うがその名で呼ばないでくれるか?クソッタレにつけられたクソのような名など耳にしたくもないんだ。だから私を呼ぶ時は本名で呼んでくれ。それなら呼び捨てでも何でも良い。」

 

 

 何度目になるかも分からない訂正の要請も鼻で笑われた。察するに改める気は無いらしい。

 

 今ヴィルヘルムが口にしたのは魔名というものだ。要は黒円卓に於ける渾名のようなもの。名づけるのはカール・クラフトで、これには付けられた人物の本質や力の一端が暗示されている。

 

 例えばヴィルヘルムならば串刺し公ことカズィクル・ベイ、ベアトリスならば戦乙女を意味するヴァルキュリア。そして私にはリュツィフィールと言う名が与えられた。

 

 暁の子、或いは堕天使ルシファーを意味するこの名はラインハルト又はカール・クラフトという神に逆らい敗北したことへの当てつけだと解釈している。おまけにロシア語である辺りからして盛大に皮肉を効かせてやがるのだから腹立たしいことこの上ない。

 

 話が逸れたが今はヴィルヘルムの事だ。

 

 これまで基本的に攻めの姿勢には入らず飛び込んで来た所を返り討ちにする程度の心構えで応戦していたが今度はそうはいかない。

 

 次は此方から攻める。そして長引く前に彼を卒倒させられるだけの攻撃を叩き込む。うっかり生死の境を彷徨うことになる程度の威力を出す心算で私は攻勢に出た。

 

 私の方から攻めかかるのは流石に今の状況から察していたのか、ヴィルヘルムは一切の動揺も見せないままに身体を屈めて攻撃態勢に入っている。普通ならこのまま不用意に攻撃すれば手痛いのをお見舞いされかねないが、それがどうやら彼は正面衝突をご所望のようだ。

 

 ここで搦め手に出るのも無粋というもの。私は足元が小さく抉れるほどの強さで突進した。一瞬で周囲の景色が背後へと流れていき、瞬き程度の時間で私は十メートル近くはあったヴィルヘルムとの距離を縮めていた。

 

 拳を握りしめる。頭上から振り下ろして頭頂部を殴りつける大ぶりの一撃だが相手に受け流すつもりは無いらしい。避ける事も防ぐこともしないのであれば是非もない。この一撃で叩き伏せるのみ。

 

 私の腕が鞭のようにしなり、ヴィルヘルムの頭部に叩き込まれる瞬間、私の顎に衝撃が走った。何事かと思えば彼の拳が見事に炸裂していた。どうやら私が踏み込んだ時から迎撃の体勢に入りカウンターの用意をしていたらしい。

 

 

「ヘッ…きかねえんだよ。このクソオヤジがぁ…!」

 

「そうらしい…なっ!!」

 

 

 私がデカい一発を繰り出すことを見越しての反撃は思惑通りに命中し脳を揺らす―――ことはなく、私は拳を顎にめり込ませたまま拳を振り下ろした。強引に振るった拳は威力をかなり殺されてしまっていたが決して貧弱なものではない。ヴィルヘルムのようなタフな相手でも卒倒させるだけの自信はあった。

 

 骨同士が激突する鈍い音が響く。彼はカウンターのアッパーを繰り出した姿勢のまま私の拳を頭蓋で受け止めていた。いつもならばこのまま彼の身体は拳の威力に負けて潰れた蛙の如くぺしゃんこになって倒れるのだが、どうやら私は彼の事を見くびっていたらしい。

 

 彼は相当重い一撃を受け取っておきながらも立っていた。二本の脚は頭部から伝わって来た圧力に押されて小さく笑っていたが、それでも決して折れずに身体を支えている。

 

 

「カハハッ!どうよ?いつまでも一撃で沈められるような貧弱野郎だと思うんじゃねえぞ…!」

 

「ああ、大した進歩だ。ならばこれは成長祝いとでも思っておいてくれ。」

 

 

 一度身を引いて後退すればヴィルヘルムは両手をだらんと垂らしたまま酔っぱらいのように身体を不規則に揺らしていた。直接頭部に叩き込まれた衝撃で視界が明滅し平衡感覚もほぼ死んでいる状態でも尚、ヴィルヘルムは挑発的に笑っていた。一歩ずつ貴様に近づいて行っているぞと私に告げるようにして。

 

 そんな彼への返答は無造作に突き出した右脚の蹴り。最後の最後で試みた反撃すらも強引に突き崩して靴底を押し付けるような蹴りがヴィルヘルムの鳩尾に炸裂し、彼は口から血を吐き出しながら吹き飛んだ。

 

 二転三転して地面を跳ね回り数十メートル以上遠くで漸く止まった彼に歩み寄れば未だにその表情は笑みを浮かべたままだ。さっきの蹴りもきかなかったとでも言いたいのか。思わず苦笑する。呆れるような感心するような複雑な心持ちだ。

 

 敵わぬと分かっていて幾度と無く挑み続けた果てに届かせた一撃は私に傷を付ける事が叶わなかった。にも関わらず彼の拳が振れた個所からは鈍い痛みが伝わっているように思えた。

 




やべぇ…書き方忘れちゃったよぅ…(ノД`)・゜・。

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