Dies iraeに空の魔王ぶっ込んでみた   作:ノボットMK-42

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相変わらずの低クオリティですいません


Act.00-B

 影絵の男、カール・クラフトが私の前に現れてから幾ばくか経った。

 

 奴は私に力を与えると言ったが、正直に言ってあんな得体の知れない男からの貰い物など碌な代物ではないだろう。

 

 即座に私は奴の申し出を突っ撥ねた。

 

 取り付く島もない様子の私に奴は不満を漏らすことなどせず、それどころか何処か楽しげな笑みさえ覗かせながら忽然と姿を消した。

 

 後に奴の事を私なりに調査してみたが、結局のところハッキリとしたことは分からなかった。

 

 ただ、過去に詐欺師として逮捕され、秘密警察長官のラインハルト・ハイドリヒに取り調べを受けていたことがあるらしい。

 

 あの野獣のような男の前に犯罪者として引っ立てられていながらよくぞ五体満足でいたものだ。

 

 経歴もそう、実際に会って感じたこともそう。

 

 奴は恐らくまともに付き合っていたら確実に良くないこと齎す類の人種だ。

 

やはり根拠は無いが、ただそんな確信が私の中にはあった。

 

 なのにどうしても頭から離れない、奴が私に与えると言った力の事が。

 

 それは確かに強大無比なものなのだろう、それがあれば私はより多くの敵を倒すことでより多くの同胞を守れるのだろう。

 

 これも所詮は直感によるものだが、あの得体の知れなさを思い出すと妙に納得出来てしまう自分がいた。

 

 だがしかし、その力を受け取ってしまったら、きっと私は大事なものを手放すことになる。そんな恐れが、申し出を受けることを憚らせた。

 

こうして考えてもみると可笑しな話である。

 

 根拠も無い確信に気を取られ、根拠の無い恐怖に怯えているなんて、これではまるでトチ狂った変人ではないか。

 

 そんなことでは駄目だ。今はただ目の前の戦いに集中せねばならない。

 

 あんな胡散臭さを塗り固めて作ったような男に一々気を割いていては出撃した側から敵の対空砲や戦闘機の餌食だろう。

 

 故にあの男の影を必死に振り払うようにして再び戦いに赴く、戦場の緊張感の中で余計なことは頭から摘み出されるのが道理だから。

 

 そうして私は何事も無かったかのように出撃し、また戦果を積み重ねた、夥しい死と勝利の上を悠々と飛び続けた。

 

 別に敵の死を悼んでやるだなんて酔狂な事はしないし、かと言って見方を変えれば私が単なる殺戮者であるという事実を否定することも無い。

 

 戦場で敵として会ったのならば命の取り合いをするのが当然、殺されることを許せるか否かは別として是非を問うのは門違いだから。

 

 ただ、私が蹂躙した大地から立ち昇る硝煙が、そこに混ざっているように感じる血霧が私が飛んでいる青空を曇らせているのが何故かとても嫌だった。

 

見下ろした大地に汚い染みのように広がる敵の残骸が機体越しにでも死臭を漂わせて来そうで気持ち悪かった。

 

 鬱陶しい敵の砲火を避けつつ奴らを根こそぎ叩き潰して飛ぶ日々、当然のことながらいつも無事に飛んでいられる訳じゃない、何度も撃墜されては死にかけた。

 

 それでも生還して次の日からはまた同じことを繰り返す。

 

 そうしている内、私は徐々に胸中に靄がかかったような形容し難い迷走感を覚えるようになった。

 

 それは空を飛んでいても、イワンの戦車を撃破して回っていても中々消えない不愉快な感覚だった。

 

 そこまで大きな感情でもないのだが、ささくれのように地味に気に掛かって落ち着かない。私は一体何が気にくわないというのか?

 

 このスツーカに乗って飛ぶことが至上の喜びであった筈なのに、何度出撃しても、何度空を駆けても私の心は一向に晴れなかった。何故?

 

 同朋を守る為に戦っている、仲間を守る為に敵を倒している、失いたくないから勝ち続けている。

 

 私は自分が正しいと思った事を為している筈なんだ、少なくともあの日の喪失感を味わうことは無くなったんだ。

 

 なのに何故こんなにも心が重いのか、空を飛ぶことが好きだったのに何故こんなにも満たされない?

 

 時を経ていくに連れて、そんな私の中に生じたささやかな疑問と苛立ちは少しずつ大きく育っていく。

 

 そんな折だった。私が総統からあの勲章を与えられたのは。

 

もう何度目かという勲章の授与があるとのことで、一時的にベルリン私はドイツ首都ベルリンへ赴いた。

 

そして私は総統から直々に黄金柏葉剣付ダイヤモンド騎士鉄十字勲章なる矢鱈と長い名前の勲章を受賞した。

 

 聞いたことも無いような勲章だったから、気になって後に調べてみたところ既存する勲章を粗方取り尽くしてしまった私の為に態々作られた勲章らしい。何ともご苦労な事である。

 

 それだけならば私としても誇らしい事であっただろう。

 

正直地位だの階級だの、イワンの戦車を撃破することに比べればゴミ屑に等しいとすら考えている私でも、他人に自分の成果を認められるのは悪い気はしない。

 

 しかし、次に総統の放った一言で、そんな僅かな喜びも消し飛んだ。

 

 

 『面と向かっては言いにくいが、もうこれ以上は飛ぶな』

 

 

 それは即ち飛行禁止の命令だった。

 

 初めは何を言われたのか分からなかった、何故そんな事を私が言われねばならないのか理解できなかったから。

 

 否、頭では分かってはいたのだ。

 

この戦争に於いて、私は戦果を挙げすぎた、味方にとっても敵にとっても私の存在は大きすぎたのだと。

 

 「ソ連人民最大の敵」それが敵側から私につけられた渾名。

 

 自惚れるわけではないが、私は空軍でも指折りの戦果を挙げ、いくつもの戦場で勝利を勝ち得て来たと自負している。

 

 同朋達がどれだけ私を頼りにしているのかもこれまで多くの人々と接していくことでよく理解していた。

 

そんな男が戦死でもしようものならばどれだけ士気に影響が出るだろうか?

 

戦況が悪化の一途を辿っているドイツにとって私の死という凶報は決して無視できない大きさの衝撃を伴い同朋達の戦意を圧し折る事だろう。

 

 それを考えれば迂闊に出撃させることは出来ない。そんな考えあっての言葉なのだということは分かった。

 

だが、受け入れ素直に従えるのかと問われれば答えは当然 Nein/いいえ だ。

 

 同朋達が日夜前線で命を賭けている中、私だけ安全な場所に引き篭もるだと?そんなことが出来るものか。私はヘンシェルが死んだ時から命ある限り戦い続けることを誓ったのだ。

 

 私のあずかり知らぬ所で私の戦友が命を散らすかもしれない、その場に居合わせる事すら出来ない。

 

そんなことが起きぬように私は懲罰ものの軍規違反を立て続けに起こしてでも飛び続けてきた、今更我が身可愛さに引っ込むわけにはいかない。

 

 故に私は総統への無礼など百も承知で言い放った「もう二度と私に地上勤務をしろと言わないのならば、その勲章を受け取りましょう」と。

 

 先の言葉を全否定する返答に、総統も言葉を失う。

 

自分の発言を撤回するつもりは一切無い、これだけは譲るわけにはいかなかったから。

 

 しかし、どれだけ食い下がっても相手は総統、この国に於ける最高指導者だ。

 

英雄扱いされていたところで、単なるパイロットに過ぎない私の言葉と彼の言葉とでは重みというものが違う。

 

 再三度同じような内容の問答を交わした結果、私は勲章を受け取り、飛行禁止の命令もそのまま通されてしまった。

 

私は戦う権利は愚か、飛ぶ権利すらも奪われてしまった、それも他ならぬ味方に。

 

 更に命令を受けた後、私は首都ベルリンから出られないようにされてしまった。

 

 四六時中監視がつき私が命令を無視して飛び出していかないように厳重警戒態勢を取っている。

 

 監視要員にはゲシュタポまで動員されているときた。これではまるで犯罪者か何かではないか。

 

 何度か抜け出してやろうと思っていたが7、8回ほど捕まって連れ戻された辺りでとうとう部屋からも出られなくされてしまった。

 

 私にとって、この守るべき街は正しく牢獄と化していた。

 

 何故こんなことになったのか分からない。何故戦ってはならないんだ、何故飛んではいけないんだ。

 

 私は与えられた 部屋/牢屋 の中で毎日のように苦悩する。

 

 私が戦死しないようにだと?ふざけるな、そんなことは万が一にも起こらないし起こさせない。私が死んだら誰が私の戦友を守ると言うんだ。

 

 だから私は死なない、死ぬより先に目に映る敵全てを粉砕してみせる。

 

そうすれば私が死ぬことはないだろう?誰も犠牲にせずに済むだろう?だから私から空を奪わないでくれ。

 

 今でさえ命を賭けて飛ぼうとも取り溢してしまう命が沢山あるというのに、ここにきて飛ぶことすら出来なくなればより多くの戦友が命を散らすだろう。

 

 私はここでそれをただただ恐れて待つしかない。

 

 そんなのは嫌だ、耐えられない。

 

 守る為に戦えなくなるのは、飛べなくなるのは、絶対に嫌なんだ。

 

 みっともない慟哭だけが明かりもつけられていない真っ暗な部屋の中を反響する。

 

 窓の外は雨が降っており、まるで私の心境を表しているかのようだった。

 

 男の啜り泣く声と雨音のみが支配する部屋、そこに突然異物が紛れ込む。

 

 

「誰よりも自由への飛翔を渇望した君がこうして囚われ人となるか」

 

 

 それは今だけは死んでも聞きたくない声で

 

 

「中々の悲劇…否、喜劇と言うべきかな?」

 

 

 今だけは聞いてはいけない言葉で

 

 

「鉛のような翼で死者を背負い空を駆け、大地を蹂躙する様は正に世界樹の根を貪る悪竜の如く浅ましく矮小で、それでいて何処までも雄々しい。」

 

「戦友、力、名声、勝利。誰もが羨み称賛するモノを君は持っている。

そして持つが故に、抱えたもの全てを乗せた翼は次第に羽ばたくことすら満足に出来ぬほど重くなっていく。」

 

「ならば手に入れるつもりはないかな?持てる全てを背負ったまま、あの果てしなき蒼穹へと羽ばたけるだけの 力/翼 を」

 

 

 間もなく物語は始まりを告げる。

 

 この私、ハンス・ウルリッヒ・ルーデルの破滅に繋がる新たな戦争の火蓋が、切って落とされようとしていた。

 




基本的にルーデル閣下は強過ぎるせいで思い上がっちゃう悪い癖があります

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