Dies iraeに空の魔王ぶっ込んでみた   作:ノボットMK-42

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私は歴史の知識が豊富ではないので所々におかしな所が多々あると思いますがご了承をば


Act.01-B

1945年、ドイツの敗北は決定的なものになった。

 

 元より戦況が悪化の一途を辿っていた我が国は押し寄せるソ連の物量の前に為す術を持たず、戦線は次々と崩壊し、遂には首都ベルリンの包囲を許してしまう。

 

 いずれこうなることは分かっていた。

 

 私一人が怪物になったところで戦争に勝てるものか。

 

 元よりこの力は戦争に勝つためではなく、私がこの手を届かせられるだけの同朋達を守りたいが為に手に入れたものだった。

 

 それでも取り溢した命も沢山あった。失う度に耐え難い苦しみに見舞われた。

 

 それを押し殺して再び戦場に赴き、多くの敵を打倒して来た。

 

 時には書類を偽造して戦果を他人のものにすることもあった、何度も撃墜された、高射砲が私の座っていた操縦席を直撃し右脚を持っていかれた。

 

 本当に色々なことがあった。

 

 己に課した責務を私は果たせていたのか、ハッキリとは分からないが、少なくとも悔いは残さぬよう戦ったと胸を張ることは出来る。

 

 先程、部下達に投降を命じ米軍が占拠する基地に向かわせた。相手方の対応からして悪いようにはされないだろう。

 

 私は彼等と共には行かなかった、やらねばならないことがあったから。

 

 向かう先は首都ベルリン。恐らくソ連による包囲線が敷かれ、今頃は火の海と化しているであろう我らが守るべき帝都。

 

 私が向かった所で状況が変わることはない、よしんば赤軍を滅ぼし尽くしたとて首都が落ちた事実に変わりはない。

 

 ドイツは負けた、千年帝国の夢はスタートラインから数メートル先で呆気無く潰えたのだ。

 

 この戦争が終われば我々は世界の敵の誹りを受け、戦士の誇りは踏みにじられ、罪無き国民達は憎しみの捌け口とされる。それが敗者たる我らへと与えられる報酬だ。

 

 無慈悲ではあるが仕方のない事。どれだけ命懸けで戦った所で、戦争は勝てなければ意味が無い。

 

 故にベルリンが焼かれ同朋達が徹底的に蹂躙されながら死に行くのは、この世の理と照らし合わせれば当然の事であるのだろう。

 

 しかし、指を咥えてそれを享受出来る程、私は聞き分けの良い人間ではない。

 

 この身は同朋達を守る為にある、今までもそう努めて来たつもりだ。

 

 例え無意味だろうと、ベルリンを包む炎に薪をくべるかの如く己の命を投げ打つこととなろうとも構わない。

 

 これは私の単なる我儘、自己満足に過ぎんのだ。

 

 同朋を守りたいという願い、彼らの死を享受出来ないという意地、全ては私個人のちっぽけな感情から弾き出された身勝手な考えだ。

 

 少し前に離ればなれになった相棒、ガーデルマンも言っていた「貴方は勝手に突き進んだ挙句勝手に一人で死んでいく人だ」と。

 

 まったくもってその通り、流石は我が親友、寸分違わぬ評価である。

 

 そうとも、私の行動は全て私の勝手に基づいていた。

 

 幾度となく命令に逆らってきたのも、子供の我儘のような身の程知らずの願いを抱いたのもそうだ。

 

 私は自分勝手に生きて、自分勝手に死ぬ。最初から最後までそんな人生だった、それだけのことだ。

 

 これから行く戦場に勝利は無い、既に我々は敗北してしまっているのだから当然だ。私がやろうとしているのは所詮負け犬の最後の悪足掻き。

 

 だがそれで良い。

 

 死に間際に何も出来なかったと己を責めずに済むのならば、それだけでも私にとっては価値のあること、ベルリンを己の墓標にすることになろうとも構わない。

 

 そうすれば私は後悔を残す事無く己の生に幕を下ろせる筈だから。

 

 覚悟は決めた、後は最後の戦場に辿り着くだけ。

 

 そう腹を括った私の前に広がったのは―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ…これは……!?」

 

 

 ――――――そこには地獄があった。

 

 生きとし生ける者全てが死に絶えた世界。

 

 兵士は愚か逃げ遅れた市民の一人に至るまで皆死んでいる。

 

 男も女も若者も老人も関係なく、ただ平等な死が与えれ、嘗て栄えた街並みはただの瓦礫の山と化している。

 

 それだけならば予想は出来た、こうなっても仕方が無いと納得がいっただろうが、私の前に広がっているコレはあまりにも違っていた。

 

 街の壊され方にしても異常。爆撃されたにしても、それこそ家一つ残さず全てが残骸となっており、いくらなんでもここまで徹底的な破壊を行うなど不可能。

 

 そして、そこかしこに散らばっている死体にはソ連軍のものも多く含まれていた。

 

 首都に残っていた部隊が決死の抵抗をした?馬鹿な、それで片方が掃討されるのならばともかく、両者が全滅するような事態など起こるものか。

 

 明らかに強大な武力を持った第三者が現れ独軍も赤軍も見境無しに殺しまくったような惨状が広がっていた。

 

 誰が、何故、どうやって?

 

 そんな疑問が脳裏で渦を巻く、私は半ば放心状態に陥っていた。

 

 せめて側で共に戦いたかった彼等。最期の時くらいは英雄の雄姿を見せてあげたかったのにそれすら叶わなくて、誰一人例外無く無残な死に様を晒している。

 

 異様な浮遊感が私を襲った、絶望感と言い換えても良い。

 

 またこれだ。私が恐れていた喪失感、もうこんなのは嫌だと思っていたのに、この期に及んで私を苦しめるのか。

 

 もう立っていられなかった。その場でへたり込み、両手を地につけ項垂れる。

 

 喪った。

 

 またも喪った。

 

 看取ることすら出来なかった。

 

 もう同朋達が最後にどんな顔をしていたのかも、何を思っていたのかも分からない。

 

 まるで初めからそんな連中いなかったかのように皆遠い場所へと行ってしまったのだ。

 

 一人だけ取り残されたような孤独感と無力感が私を支配した。

 

 

「くそぉ…!畜生……っ!!」

 

 

 やり場の無い怒りを拳に乗せて叩きつける、人外の膂力で殴られた瓦礫の積もった地面が小さく砕ける。

 

 微かな破砕音すらも大きく響き渡るほどの静寂の中で、私は顔を上げ、空を睨み付けた。

 

 地上から立ち昇る炎で紅蓮に染まった空に浮かぶ十字。あれが何なのか、そんなことは分からないしこの際興味も無い。

 

 ただ今の私に重要なのはこのベルリンを、我らの都と愛すべき同朋達を惨たらしく塵殺せしめた下手人に然るべき報いを受けさせてやることだった。

 

 金具の先に杖を取り付けただけの簡素な義足が軋む程に強く大地を踏みしめ立ち上がる。

 

 恐らく私は今見るに堪えないような憎悪に染まり切った顔をしていることだろう。だが今は、今だけは己の無様を咎めはしない。

 

 憎き怨敵を誅するその時まではこの激情に身を委ねよう。

 

 その矢先、探し人達は自ずから私の眼前へと躍り出た。

 

 視界に映る幾つかの人影を捉えた時、私の故国と同朋達の為の戦争は幕を下ろした。

 

 そして新たに、無益なことこの上ない怨念返しの始まりを告げる号砲が鳴り響いた。




一応はまだ序章なので少し駆け足気味です

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