Dies iraeに空の魔王ぶっ込んでみた   作:ノボットMK-42

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色々と伏線立てときたかったんでやっぱり前篇後篇に分けました


Act.03-B

「それで、アレを引き入れたというのは?」

 

「ええ、事実です。彼は形だけ見れば此方側に下りました。」

 

「形だけ、か……。確かに、餌を目の前にぶら下げられれば紐の先ごと食い千切るような男なのだ。忠など望むべくもない」

 

 

 この世の者ではない化外が二人、髑髏で形作られた城の一室で語らっている。

 

 玉座に腰掛ける男は、背後で背を向けたまま何処か遠くへ呼びかけるようにしている男の所業を、訝しむことこそ無くとも僅かな驚きを以て受け止めていた。

 

 曰く、あのベルリンにて己と対等以上に渡り合った竜の男を向かい入れたのだという。

 

 黄金錬成の事をちらつかせたとは言え、その程度の事であの力の塊、破滅の権化ともいうべき男が素直に跪くとは思えない。

 

己は大願成就の為に現世から旅立った身、彼の男は己が地獄の果てに向かったと聞いたのならば身一つで追いすがって来るだろう。

 

 そんな者が今更自分に忠義立てなどするものか、元より他者へ心からの忠を捧げる種類の人間ではないのだから当然のこと。

 

 力を以て頂点に立つべく生まれた最強の生命、自分達と同じく世界の条理から外れた存在、即ち化外だ。そんなこの世のならざる者に付き従う主など不要。

 

 従うのはいつも己の意志と狂気(せいぎ)のみ。

 

 

「例の如く卿は何も教えなかったのであろう?」

 

「何分此方にやって来る直前の事でしたので時が無く、手短に済ませる必要があったのです。幾分か言いそびれたことがあるのは事実ですが、彼ならば私に教授せずとも答えに辿り着く事でしょう。教え甲斐の無いといえばそこまでですが。」

 

「白々しい事を言ってのけるものだ。それで、彼はどのようにしていた?」

 

「黒衣を纏ったまま、修羅悪鬼もかくやという目で此方を射抜いておられたよ。まるで深海の底に沈んだような心持でした。そこいらの矮小な存在では直視された途端に魂ごと潰れて壊れることでしょうな。」

 

「聞くまでも無く叛意は有り余っていると、それは重畳。ここに及んで素直にかしずかれでもすればどうするものかと思ったぞ。」

 

 

 ハンス・ウルリッヒ・ルーデル。

 

 聖槍十三騎士団の旅立ちの日、黒円卓につく者達の殆どを一蹴して己に迫った男。

 

 あの夜の事は今でも鮮明に思い出せた。

 

 地獄の窯の蓋が開かれた日に突然降って湧いた一夜限りの大戦争。

 

 大地は砕け、空は消え去り、己も敵も含めた森羅万象一切が塵と化していく混沌。

 

 それをこの胸に刻み込んだ鋼の悪竜との再戦を、金の獣は心底渇望していた。

 

 初めて全力で愛す(壊す)ことの出来た敵だ、これほどまでに心を躍らせる相手もいない。もしも彼が女性であったのならば愛の言葉でも紡いでいただろうか。

 

 それだけに、あの幕引きは己にとっても些か以上に不満を感じずにはいられなかった。恐らくそれは相手にとってもそうであっただろう。

 

 ならば次に相見える時は戦場だ。例えそこが争いなど縁遠い幻想郷であったとしても、自分達が(まみ)えれば、その瞬間には鉄風雷火の吹き荒れる阿鼻叫喚の地獄と化す。

 

 そこで繰り広げられる闘争はとても甘美なのだろう。自分は全力の(破壊)を全身で感じることが出来るのだろう。

 

 金の獣はその情景を思い浮かべ、小さく笑みを洩らした。楽しみで楽しみで仕方が無かった。

 

 

「まるで子供のように喜んでおられる。それほどまでに彼の者との戦は待ち遠しいのですかな?」

 

「そうだな。このような感情を覚えたのも久方ぶりなのだ。甲斐も無く浮かれるのも仕方なかろう?」

 

「然り、真に然り。私とて驚愕と歓喜に満ちていることは否定できませぬ。故に私も求めるのですよ、獣と竜の喰らい合いを。

このまま事が思惑通りに進めば貴方は更に高みへと上り詰めた存在として生み落とされる。

その時までに、竜もまた二度目三度目の新生を遂げている事でしょう。幸いにして、都合の良い贄もある、手も回した故、後は時の歯車の回るがまま。」

 

「新たな枷、或いは楔、或いは礎か。確かに、私や卿に魂を売り渡していない者同士、寄り添うことは分からんでもない。傷の舐め合いにばかりかまけていては此方としても面白くないが。

何にせよ、やはり卿は趣味が悪いとしか言い様が無い。アレの側に置いておけば、まっとうでない魂だろうが振り落とされて消えるのみだぞ。」

 

 

 獣が脳裏に浮かべたのは、狂気に染まった黒円卓にあって、多少はマシな性根をしていると言える一人の女性。

 

 爪牙の狂気の程度など正直どうでも良いが、この先アレが竜にとって重要な役割、その一端を担うのだ。ともなれば多少は興も乗るというものである。

 

 

「死を背負い、死を想い、それでいて何者をも翼に乗せる事無い。

何者をも寄り付かせずに飛翔する孤高なる竜よ。精々次こそ喪わぬように励むと良い。私の朋友は悪辣であるからな。

差し当たり、都合の良い席を見繕う必要があるか。とは言え、既に埋まっている席では卿は収まりきらぬだろう。巨大であるというのも考え物だな、我が敵よ」

 

 

 敢えて周りにも聞こえる声量でひとりごちた獣を背にして、影絵の男は自分の思い描いた歌劇を虚空に投影していた。

 

 そこには肉と骨まで抉れる勢いで皮を脱ぎ捨てようとする哀れな竜がいた。

 

 失い、喪い、その度に己を責めて心を痛める。そして奪った者と守れなかった己に怒り狂い更に大きく強くなっていく。

 

 やがて何もかも無くした彼は夢と現の狭間で新たな形を見出し、そして……

 

そこまで行った所で歌劇は元の虚空に戻ってしまった。

 

 それはつまり、そこから先はメルクリウスですら想像出来ない、ないしは望外の事態になり得ることを予期したから。

 

 幾度と無く回帰を繰り返した自分ですら見通せない竜の行く末。その先は全くの未知だ。

 

 

「君は私の筋書を軽々と飛び越える。それは存外に私が君を知らぬからか、それとも君が私の考えていたよりも外れた存在であるからか。

驚きだよ、私が脚本を書き直すことになるなど思いもよらなかった。故にもっと引き出させてくれ、君の深層にあるものを。その為に戦乙女と呪われた血統を供物としようではないか。

願わくば君の怒りと絶望が、この恐怖劇を華やかに飾らん事を。」

 

 

 

 

 双首領が現世から旅立った後、聖槍十三騎士団に一人の男が加わった。

 

聖槍十三騎士団黒円卓第0位。ハンス・ウルリッヒ・ルーデル=リュツィフェール

 

存在し得ない地位を与えられた嘗ての敵、現在の敵。

 

 黒円卓にあって席を持たぬ、そこに居るようでいていないも同じ、始まる前から敵となることを定められた悪鬼羅刹達の恋人(怨敵)よ。

 

 君の背負った空白が果たして何を意味しているのか、それをいずれ知ると良い。

 

 己の配役を知った時、君は彼女を引き立てる最高の脇役になってくれることであろうから。

 

 

 

 さぁ、次なる恐怖劇(グランギニョル)へと備えるのだ。

 

 




魔命がアレだったので変えちゃいました

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