さて、今話のアスナさんはこんな事しない!キャラ崩壊だ!と思う方もいらっしゃるかもしれません。個人的には序盤のアスナは精神的に色々不安定でかなりぶっ飛んだ事をする時もあるのでこういう側面もあるのでは?と思いました。
吹兎とアスナが同じ部屋に寝泊まりするようになって数日が経った。その間......全く、全然、これっぽっちも、何もなかった。
「(おかしいわ......)」
問題がない事は(アスナの杞憂)いい事であるはずなのだがアスナにとっては不服であった模様。
「(以前、フキト君が私の誘いを断ったのは女性にあまり免疫がなくて恥ずかしがっただけだと思ってたけどそんな素振り見た事もないもん。じゃあなんであの時フキト君は私の誘いを断ったの? 何か理由があるはず)」
アスナはこれまで吹兎が顔を赤らめたり顔を逸らしたりする場面を見た事がなかった。
「フキト君の赤くなった顔を絶対に拝んでやるんだから!」
こうして史上稀に見るほどに目的と手段を履き違えた作戦が立案された。
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「ねえねえフキト君」
「どうしたのアスナ?」
昼食の時間。吹兎とアスナは買ってきた弁当を宿で食べていた。
「(アスナ、行きまーす!)」
最初の作戦。名付けて『ご飯粒ほっぺについてるよ、とってあげる』作戦が開始された。
「フキト君。ほっぺたにご飯粒がついてるよ! とってあげる」
アスナはそう言って
......が、一向に吹兎が照れたりする様子は見れない。
「ん? どうかした?」
流石に長時間頬に手をやって見つめられれば問いたくもなる。
「ううん、なんでもないよ。ごめんね」
アスナは引き下がる他なかった。
『ご飯粒ほっぺについてるよ! とってあげる』作戦 失敗
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「ねえねえフキト君。手相占いって知ってる?」
昼食も食べ終えて休憩している時にアスナが話を持ちかけた。
「聞いた事はあるよ」
「ちょっと見てあげるよ」
その言葉を受けて吹兎はアスナに対して
「えっと......フキト君の今は......」
一説には左手の手相は現在の自分、そして右手は持って生まれた才能を示していると言われている。アスナは手相の事など知らない。でなければ今の吹兎の手相を知るために右手を鑑定する事などあり得ないのだから。
言うまでもなくこれもアスナの作戦である。
『手相を見るようにして手を握って赤面させちゃおう』作戦が開始された。
アスナが吹兎の右手を包み込むようにして握る。そして手のひらを見ながら横目で吹兎の表情を確認する。
(全く照れた様子はないわね......)
長い時間手を握っているだけでは先ほどと同じように不審に思われてしまう。そう考えたアスナは(全く根拠がない)鑑定をし始める。
「えっとね......フキト君は生命線が高いみたい。100歳くらいまで長生きできるよ!」
間違いである。既に吹兎の年齢は100を超えている。鑑定が本当ならもう吹兎は生きられない......。
「それとね、家の管理をもうちょっとした方がいいみたい」
幸か不幸かそれは合っていた。問答を繰り返しながらアスナは吹兎の表情を伺うが......
「(これでも......全く動揺しないわね......)」
『手相を見るようにして手を握って赤面させちゃおう』作戦 失敗。
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それからも幾度となくアスナは作戦を実行し......失敗した。数日経っても何の成果も挙げられなかった。若干、アスナは自信を失いそうになっていた。
そんな時、アスナが起きるより先に目覚め、
「(そういえばフキト君。いつも私が起きた時にはいなくて......毎日何してるんだろう?)」
「ねえねえ、どこに行ってたの? フキト君」
アスナは早朝からどこかに行っていた吹兎が帰ってくるなりそう尋ねた。
「(あれ、てっきりアスナ知ってたと思ってたんだけど)」
吹兎の用事とは、言わずもがなパトロールである。しかしSAOのサービスが始まってからしばらくが経ち、情報も普及し皆も慣れてきたためHPが危険なプレイヤーと出会うことは稀である。したがって最早ただの散歩となりつつある。日の出前のフィールドを歩く事はとても気持ちよく当初の目的とは変わりつつも吹兎の日課は続いていた。
吹兎のその異常とも言える行動は第一層の時で既に有名になっていた。しかしアスナは第一層では自分を見失っておりボス戦までずっとフィールドに潜っていたためこの情報を知らなかった。
「(わざわざ言うような事でもないよね)」
吹兎は適当に話を濁した。
そしてその嘘を見抜けないアスナではなかった。
「(フキト君は何かを隠している)」
一瞬ストーカーする?という言葉が頭をよぎったが、しかし吹兎の実力はアスナよりも上。そして気配に関してはとても敏感である。もし、吹兎に疾しい事があるのならばアスナの尾行を許すはずがない。
「(それなら知っている人から話を聞くわ!)」
「それでオレっちに話を聞きにきたという訳カ」
アスナが話を聞きに向かったのはSAOの情報屋、アルゴの宿であった。
「アルゴさんなら知ってると思って」
「勿論知ってるゾ。......というか有名すぎるからアーちゃんも知っていると思ってたんだけどナ」
「(この前フー坊が秘密にしたのはアーちゃんの事だったのカ。確かにアーちゃんほどの美人と暮らしてたら他のプレイヤーからの嫉妬も凄そうだナ)」
アルゴは海老で鯛を釣るかのような情報の入手に内心でガッツポーズをした。
「フー坊は『冬空の死神』と一部では呼ばれている。名前の由来は掴めてないが、あいつの髪の色が雪を思わせるからだろうナ」
吹兎の髪の色は白であり、確かに雪を連想させる。
「第一層で茅場晶彦がデスゲームを宣告しただロ? その時会場は大パニックに陥っタ。パニック状態だとどんなに弱いモンスターでも足を取られる可能性があル。事実、多くのプレイヤーがこの時期に死んダ。」
アスナはその頃の自分を思い出す。自分も似たようなものだったと。唐突に自らの運命を捻じ曲げられ絶望し、ゲームクリアなど不可能だと思った上で死に場所だけは自分で決めると......自分の命を半ばどこかで諦めていた。
「ベータテスターやMMOの経験があった奴らは次の街へと向かっタ。勿論彼らを責める事はできない。この世界では文字通り命がかかってるからナ」
経験者達の命を犠牲にしてでも自分達を助けろ、と言うのはそれこそ傲慢なのかもしれない。
「だが、フー坊だけは違った。......いや、あいつはソードスキルも使えなかったからベータテスターでもMMO経験者でもないだろうが卓越した戦闘技術を持っていタ。次の街に行っても十分やっていけるだけの実力はあっただろうナ。しかし始まりの街の近くでHPの危険があるプレイヤーを助け続けた。
普通、モンスターの横入りはマナー違反ダ。ドロップアイテムはラストアタックをした人にしか入らないからナ。ただフー坊は得たドロップアイテムを全てその場に置いてから次の戦場に向かったんダ。自分のHPが赤ゲージに達していたとしてもそれは変わらず。
......正直、正気とは思えねぇナ」
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アルゴから吹兎の真実を聞き、アスナは考えていた。吹兎の存在の大きさに畏怖していた。そして話を聞くうちに絶望に打ちのめされていた自分に対して自己嫌悪に陥るようにもなっていた。
「どうして君はそんなに強いのよ!」
そしてその気持ちを吹兎にぶつけてしまった。
何に向けていいのか分からない感情がただひたすらアスナの中で大きくなるだけ。この世界をいち早く終わらせて一秒でも早く本来の自分に戻るんだと思っていた。それが正しいものだと考えていたのに吹兎はこの世界でも「自分」を持っていて、全てを否定されたかのように思ってしまった。
「......」
「私だってパーティメンバーよ?どうして何も話してくれなかったの?!」
吹兎に落ち度などない。それも全部アスナは分かっていたが、どうしても裏切られたという気持ちが胸の中で渦巻いていた。
「もし......フィールドで君が死んだら......もう私はどうしたらいいのよ......っ!」
アスナが今、自分を保てているのはパーティメンバーの吹兎の存在があったから。いくつかの作戦の結果が巡り巡ってアスナに、吹兎に対する安心感を持たせていた。異性でありながらこの人は安心できる、と。
「もう、こういう事は無しにして...お願い......」
ALO編以降、吹兎以外の死神を登場させるか?
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登場する
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登場しない