「な、何だよこれ......」
吹兎、キリト、アルゴはパーティを組んで第10層、ソウルソサエティの最前線を攻略していた。
ソウルソサエティは東西南北各80地区で構成されている。3人は吹兎の特効効果も駆使して突き進み、ついに未だ他のプレイヤーの誰も見た事のない未到区にまで足を踏み入れた。
次はどんなフィールドかと胸を躍らせていた三人が見たのは──衝撃的な光景だった。
「本当にNPCか......?」
フィールドにはモンスターである虚と、流魂街の住人であるNPCが配置されている。これまでの地区では他の層とNPCの行動アルゴリズムは基本的には変わらなかったが──ここの層は明らかに違った。
「何でNPCがモンスターをキルしてんだよ......」
顔色一つ変えずに流魂街の住人がモンスターを殺戮している。
「何でNPC同士で殺し合ってんだよ......」
手に持った斧などを用いてところどころでNPC同士で殺し合っている。
「何ダここは......」
「まるでこの世の地獄だ......」
治安など最早あってないようなもの。欲しいものがあれば実力で奪い尽くす。奪われた弱者は息絶えて倒れるだけ。子どもが嬲り殺されてても何の反応も示さない周囲の大人。盗みは相手にバレないようにするのではなく堂々と強盗。綺麗な水など無に等しく泥水をすする人々。──見慣れた光景だ。
西流魂街80地区、叫喚。──吹兎の生まれ故郷である。
「(......帰ってきてしまった)」
「帰ってきたぞ!」という故郷を懐かしむ言葉でも、「やっと帰ってきた......!」という安心感からくる言葉のいずれでもない。
この男、本心からこの場を嫌悪していた。吹兎は死神を目指して叫喚を出た時から──この場所に一度も近づきすらしてこなかった。
「(茅場晶彦ォォォォォ!!)」
吹兎はこのデスゲームに閉じ込められて以来、初めて茅場晶彦に対して殺意を向けた。
「ウォォォォッッ!!」
吹兎は雄叫びをあげて突撃する。その勢いは凄まじく、モンスターを次々に屠っていく。
「お、おい! 待てフキト!」
「待つんダ! フー坊!」
パーティメンバーのキリトとアルゴは慌てて着いていく。
──────
「おいおいマジかよ......」
「オレ達、ただ着いてきただけだったナ」
吹兎はあの後も一人特攻し、キリトとアルゴはその後ろを置いていかれないように着いていく事しかできなかった。そして──ボス部屋まで辿り着いた、辿り着いてしまった。
「一人突っ走ってごめん。何かスキルのヒントは......掴めた?」
虚を数十体屠った事で、故郷に無理やり連れてきた茅場晶彦への怒りも冷め、吹兎は冷静さを取り戻していた。
だがキリトとアルゴが吹兎の背中だけ見てスキルのコツなど分かるはずもなく、二人は吹兎から目を逸らした。
「ボスの部屋だな。......偵察、行くか?」
「ボスモンスターはその守護する部屋からは絶対に出られないはずダ。ドアを開けるだけなら大丈夫と思うゾ。ニシシ、特ダネゲットダナ」
「僕も、異論はないよ」
三人は目の前のボス部屋を覗いてみる事を決定する。
「だけど流石に疲れているから少しだけ休憩させて」
「おや、既に先客がいたのか」
三人がボス部屋の前で休息を取っているとサッサッと砂を蹴る足音と共に身の丈ほどの大盾を持ったプレイヤーが近づいてきた事に気づく。そして三人はそのプレイヤーの事を知っていた。
「......ヒースクリフ」
最近出番が多いヒースクリフである。
「死神スキルのフキト君にソロのキリト君。そして情報屋のアルゴ君か。錚々たるメンバーだな。パーティを組んでいたのかな?」
「この前、死神スキルの実装の連絡があったでしょ? キリトとアルゴがそのコツを教えてって言ってきて......」
「(っていうかヒースクリフももしかしてそっち側の人間か......?)」
吹兎はパーティを組んだ理由を正直にヒースクリフに話したが、彼も死神スキルを知りたい一人なのではないか? と思い至り面倒臭い事にならない事を祈る。
「ああ、あれか。私も試してみたのだがどうにも難しくてね。そうだった、君が今のところ唯一の習得者だったね。しかし私はあんなチュートリアルだけでは習得できそうにない。諦めて普通のソードスキルに挑んでいるさ」
吹兎の予想は外れた。ヒースクリフは死神スキルについてそれ以上に尋ねてくる事はなかった。それはSAO
「(あ、あれが普通の対応なのか......)」
「(オレ達って......)」
自分達との対応の差にキリトとアルゴがショックを受けるほどにあっさりとしていた。
「そう言えばフキト君、キリト君、アルゴ君。今、私は最強のプレイヤーを集めたギルドを作っている。先日、アスナ君も加わってくれた。どうかな、君達も入ってくれると嬉しいのだが」
「お断りします」
ヒースクリフの問いかけに、最も早く断りを入れたのはキリトだった。
「俺は、ソロなので」
この世界では「ビーター」と呼ばれていないキリトであったが、それでも彼は人と深く関わる事を恐れていた。
「オレっちもキー坊と同じかな。ソロだからこそ、情報屋ができている訳ダシ」
キリトに続いてアルゴの返答もNOだ。
「僕も──そうだね。二人と同じかな」
そして最後の吹兎の答えも二人と同じだった。朝の散歩も最早必要ないほどにこの世界にプレイヤーは馴染んでいる。一見、ギルドを断る理由はないように思えるが──
「(ギルドに入ったら死神スキルの追求がもっとめんどくさくなりそう)」
吹兎は無い腹を探られる事が──実はかなり嫌だった。
「そうか......」
ヒースクリフが誘った三人が三人とも、彼の誘いを断った。何の成果もなしに彼もこのまま引き下がれる訳が無い。特に吹兎に至ってはアスナとの約束もあるのだ。
ただ1回断られただけで彼が納得する事はないだろうと三人は理解していた。
「なら仕方ないな。まあ気が変わったらまた声をかけて欲しい」
しかし三人の予想に反してヒースクリフは──あっさりとしていた。
「な、なあヒースクリフ。あんたラーメンはどんな味が好きだ?」
「何だね突然。......そうだね、こってりとしたものよりはどちらかと言うと薄味の方が好ましいな」
「「「(((やはりあっさり......あっさりさんだ!!!)))」」」
──────
吹兎達三人に加え、ヒースクリフを合わせた4人は十分な休息を終え、第10層のボス部屋に向き直る。
「転移結晶は持ったな? さっきも言ったが、ボスモンスターはその守護する部屋からは絶対に出られない。何かあったら、些細な事だとしてもすぐに撤退するぞ」
「今回のボスも今までのモンスターからしておそらく虚ダ。弱点はフー坊による攻撃と頭部ダ。オレッち達はフー坊の援護を中心に頭部に攻撃を与えていくゾ」
皆が皆、既に周知の事実であるが、キリトとアルゴが確認を促していく。
「それでは、そろそろ行くとするか」
ヒースクリフの問いかけに答え、先頭を歩いていた吹兎が両手を扉に押し当て慎重に、少しずつ力を加えていく。ギギッと錆びついた音をたてながら鉄の扉が開かれていく。
「............」
全員が抜刀し、全神経を研ぎ澄ませる。
「ッ! あれは!」
四人の中、キリトがいち早く異変に気づく。キリトが指差した先を見てみると──空間に大きなヒビが入っていた。
「......あれは」
空間のヒビは大きく縦に広がり──裂けた。そしてその裂け目から巨大な足が出てくる。
「で、デカい......」
「なんダあれハ......」
「............」
これまでの
空間の裂け目は更に大きくなり、そしてついに全身をその場に現す。
白の仮面を被り、大きな黒のマントのようなものを纏い、胸に大穴の空いた存在。
「......あいつは」
当然吹兎は目の前の存在を知っている。
『メノス・グランデ』。吹兎の世界でいうギリアンが第10層のボスモンスターだった。
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サチ
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生存
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