仮想世界に立つ冬空の死神   作:マイケルみつお

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現世でSAOが発売されるような近代化した時代なのに吹兎が十番隊隊長をしているように、一部元作とは違った歴史を歩んでいます。そこのところについてはALOに入るところで描きたいと思っています。


16話 コンビ復活

「なっ!」

 

第10層のボスモンスターである《メノス・グランデ》の唯一届く足部分にキリトが攻撃を与えたその瞬間、攻略メンバー四人の間で驚愕が走った。

 

「何だト!?」

 

今回のボス戦は討伐ではなく偵察が第一の目的。メノスが出現してから一旦4人は散開し、それぞれ各自でダメージを与えていた。

しかしキリト、アルゴ、ヒースクリフの何れもがソードスキルによる攻撃を試みても──HPの減少量が肉眼では捉えきれないほどに少ないダメージしか与える事ができない。

 

「セイッ!」

 

その中で唯一肉眼でもはっきりと確認できるほどのダメージを与えられているのは──死神スキルを持った吹兎だ。

彼は死神の力を使って跳躍し、空中に足場を作る事によって虚の弱点である頭部への攻撃を可能としていた。

 

「クソッ! 何とかして足を斬り落とせないのか!?」

 

死神スキルを持たないキリト達が敵の弱点を突く方法は──最早頭部への攻撃しか残されていない。

しかし跳躍できないために足を斬り落とすなどして頭部への攻撃を試みたが──上手くいかない。

 

「だるま落としか!? あんなに太いんだ。斬り落とせる訳ないだろ!?」

「(そういえば一護もそんな事していたってルキアも言ってたね......)」

 

変なところで元の世界の事を思い出した吹兎であったが、目の前の敵に意識を切り替える。

 

「(さっきキリトにメノスの攻撃が掠った時の事を考えてみれば──高い攻撃力が設定されているんだろうね。だけど現実通り動きが緩慢だから避けるのはそう難しくない)」

 

先ほど、ほんの少しメノスの攻撃が掠っただけでキリトのHPは大きく削られた。

それから計算してみると一撃で命を落とす、という事はなくともかなりのダメージを受ける事は覚悟しなければならない。

 

「(やはりこの層のモンスターは死神スキルがないと討伐できないのか? 伏線は至るところに張られていた)」

 

まともなダメージを与えるためには頭部に攻撃を与えなければならない。そして頭部にダメージを与えるためには死神スキルが必須不可欠。何度も慣れたクソ仕様だがこの層で起きた色々な出来事を勘案すれば──キリトは前々から抱いていた仮説に解を置く。

 

「(あのチュートリアルは確かに難しいが、しかし同じプレイヤーのフキトは会得できたんだ。あいつはチュートリアル以外に何もないとは言っていたが......必ずある)」

 

ない。

 

「フキト! 一旦退くぞ!」

「(死神スキルを身につけなければこいつには勝てない!)」

 

キリト達はメノスから距離を取ってから空中に立っている吹兎に呼びかける。本来、今回の目的はメノスの討伐ではなく偵察。死神スキルがなければ討伐は難しい、という事実を把握できた事だけでも十分に戦果はあっただろう。

 

「いや、僕はこのまま戦闘を継続する。キリト達は退いてくれ」

 

しかし吹兎が導き出した結論はキリト達と異なっていた。

 

「(僕以外のプレイヤーが死神スキルを身につける事はない。そして死神の力なくしてまともなダメージを与える事もできない。つまり──レイドを組んでから大人数で挑んでも......結果は変わらない)」

「ここで決めないと」

 

 

 

 

「どうするつもりだい? キリト君、アルゴ君。彼はこのまま討伐を続行するようだ」

 

キリトの呼びかけにも関わらず吹兎は撤退する様子を見せない。吹兎はこのまま置いておいてもきっと戦い続ける。ならば自分達はどうするか、ヒースクリフはキリトとアルゴに尋ねる。ヒースクリフに対する二人の返答は──

 

「どうするって......決まってるだろ?」

「フー坊を一人置いていく訳にはいかないからナ」

 

最初から決まっていた。

 

「それなら彼を援護しようか。ボスモンスターの意識をこちらに引き寄せたり結晶の準備をしておこう」

 

役割としてはメノスの注意を引き付ける役、引きつけられなかった場合霊圧を使う事ができない吹兎を守る役、そして両者を結晶等で援護する役の三つ。負担を考えてこの役をローテーションで回す事になった。

 

「分かった。それじゃあアルゴ、ヒースクリフ......行くぞ!」

 

──────

メノス、虚の弱点は言うまでもなく頭部。死神スキルを持った吹兎は霊圧を使用する事によって跳躍し、同じく霊圧を使用する事によって強力な一撃を与える事ができる。しかし現実とは違って吹兎の持つ霊圧の量は少ないため一定時間ごとに地に足をつき霊圧を回復しなければならない。

メノスはそれを理解したのか、吹兎が地面に足をつけてから本格的な攻撃を移行する。メノスによる攻撃を吹兎は霊圧を使用する事なく回避しなければならない。いくらメノスの動きが緩慢とはいえ他のプレイヤーでいうソードスキルなしに攻撃を捌く事は難しい。

 

「フキト! スイッチ!」

「フー坊! 今の間に霊圧を最大まで回復するんダ!」

「選手交代だフキト君。1巡目は私だ。キリト君、アルゴ君、打ち合わせ通りに」

 

1巡目。まず最初にヒースクリフがメノスを引きつける最も危険な役割を担当する。キリトは吹兎の守護役、アルゴは両者の遊撃と結晶の準備。

 

「ウォォォォォォ!!」

 

メノスは退いた吹兎を追うかのようにしていたが、ヒースクリフからの埒外の一撃を受け雄叫びを上げる。ダメージというダメージこそ入ってはいないがヘイトはヒースクリフの方に向いた。

 

「......すげぇ」

 

いくらメノスの動きが緩慢だといってもそれらを紙一重でかわし、ヘイトを自分に向け、そして雀の涙ほどとはいえ間髪入れずソードスキルの連撃を余裕を持って最後まで入れるヒースクリフの剣技に、キリトとアルゴは素直に称賛を送る。

 

「ヒースクリフ! 全快した! スイッチ!」

 

「了解した。スイッチ!」

 

霊圧の最大量が少ない事から全快までの時間は短い。ヒースクリフとスイッチし、吹兎が戦線に復帰する。

 

 

 

 

「(このままならアレは使わなくていいかな)」

 

いくらメノスの攻撃力が高かろうとその動きは緩慢なため、これまで何の危険も冒さずに順調にダメージを削る事に成功している。吹兎は席官に昇進したと同時に現在使っていない新たな力を入手したのだが未だそのスキルの確認もしておらず使うとすればぶっつけ本番になる事だろう。不確定要素も多い。

できる事なら使いたくないと思っているのだが、このままだと使わずに勝てそうだ。キリト達が援護してくれている以上、無理をする必要もない。

 

「セイッ!」

 

霊圧を消費し高く跳躍、霊圧の温存など気にせず最高火力でメノスの頭部を叩き斬る。先ほどまでのヒースクリフとは違って肉眼でも分かるほどはっきりとした大ダメージを与える事に成功した。

 

「ウォォォォォォォォ!!」

 

吹兎の攻撃に耐えかねたのか、メノスは足を振り上げて吹兎を蹴り飛ばそうとするが──

「甘い!」

 

先ほどのヒースクリフと同様、最低限の動きで交わしメノスに再び肉薄、

 

「ハァッ!」

 

最大のカウンターでもってメノスを再度叩き斬った。

 

 

 

 

ローテは三巡目。現在はキリトが引きつけ役、アルゴが吹兎を守りヒースクリフが遊撃役を担っている。

キリト達の援護のおかげで吹兎は常に最大火力での攻撃を繰り出せるようになり、既にメノスの残りHPはもう少しで半分を切るところまで追い詰めていた。

 

「(おかしい......)」

 

そんな中、キリトはある違和感を抱いていた。

 

「(あまりに弱すぎる)」

 

確かに攻撃力は高いが動きが緩慢なため簡単に避ける事ができる。そして死神スキルがなければ対処できないが一人いれば簡単に対処できる。実際に吹兎が死神スキルを会得している事でここまでメノスを圧倒している。

 

「(茅場の狙い的に、死神スキルは複数人が取得するように仕向けたいはずだ)」

 

死神スキルを会得する事によって得られる莫大な特典は13人まで用意されていた。

 

「(それなのに実際、フキト一人で圧倒している。そうだ、単純にこいつの戦闘力が低すぎるんだ。ボスモンスターのはずなのに)」

 

これまででも難関だった第10層のボスモンスターにしては手応えが無さすぎる。それがキリトが抱いた違和感だった。主観的だが第1層のモンスターよりも弱すぎる。

 

「(第1層......)」

「まさか!?」

 

キリトはある可能性に辿り着いた。第1層のボスモンスター、「イルファング・ザ・コボルドロード」はHPが少なくなると攻撃パターンが変わる。それによって死者こそ出なかったものの攻略は難航した。

 

「(もしかすればこいつもその類じゃないのか!?)」

 

キリトはようやくその事実に辿り着いたが──少し遅かった。

 

「キリト! 虚閃だ!」

 

メノスの攻撃は緩慢だという事で潜在的な油断をキリトは覚えており、また意識が思考の渦の中に囚われていたため、メノスがこれまでと違い口を大きく開けビームを溜めている状況に気づく事ができなかった。

 

「キリト!」

 

吹兎の慌てる声を横目に、紅蓮の光線がキリト目掛けて放たれた。

 

──────

「......これは」

 

ボス戦より少し前、キリトと共に巨大虚を倒し、平隊員から20席に昇格した時の事。

レベルアップの音と共にメニュー画面が開かれ特典が表示される。横から覗き見ていたキリトは家が貰えるというところに視線が釘付けになっていたが──吹兎の目は違うところに向いていた。

 

『斬魄刀の解放、始解について』

 

要約すると20席到達特典として始解を扱う事ができるというもの。現実でいえば20席のほとんどが始解を扱う事はできないが──この世界では席官=始解という概念らしい。力が上がるという事は本来喜ぶべき事なのだろうが......

 

「(やっぱり始解が使えるようになったからって反応してくれないよね)」

 

よく知る黒髪の少女の返事が聞こえなかったため吹兎の表情は陰を見せるのみだった。

 

死神にとっての斬魄刀とは、ただの道具ではなく自らの半身そのもの。自らの魂魄、魂を基とする相棒だ。

十番隊隊長である吹兎は当然自らの斬魄刀と対話、具象化に成功している。こうして念じても彼女と話せないという事はこの始解が所詮ゲームの中での一スキルに過ぎないという事。

死神の姿や浅打に限れば許容範囲内だったが始解となってくれば──偽物に嫌悪するのも仕方ない。

始解、といっても記憶の姿の外形をなぞっただけでその実、中には何も詰まっていないハリボテ。刀の柄を握ったところで彼女の声はおろか思念さえも何も伝わってこない。ただの金属を握っているような感覚。

 

「クソ......ッ!」

 

しかし姿だけは思い出の姿そのものという悪辣さ。吹兎はこの能力をこの世界では使わない事を誓った。

 

 

 

 

「キリト!」

 

しかし目の前、この世界に来てからできた友人が今に虚の親玉の攻撃に晒されようとしている。

メノスの蹴りが掠っただけでキリトのHPは大きく削られた。そんなパワーバランスで大虚の必殺技である虚閃をまともに喰らえばどうなってしまうか──火を見るより明らかだ。

今にメノスからそれは放たれようとしている。ここから全速力で急行し、キリトを抱えて避けるには時間が足りない。最早残された手は一つしかない。

 

「(キリトの命に比べたら──軽い)」

 

現実世界で幾度と経験した事の反復動作。何十回何百回と体験した記憶通りに斬魄刀の柄を強く握りしめていく。

 

「──断て 惜鳥(おしどり)──」

 

紫電一閃。メノスの虚閃を、吹兎は手にした大剣でもって断ち切った。

 

──────

「(ようやくか。そしてそれが君の始解か)」

 

キリトに対して虚が虚閃を放つ時、吹兎を含めた全員が慌てて行動を開始する中、男は口を弧状に歪めていた。

男はこのゲームの制作者でありながら()()()を保つために能力値の全てをAIであるカーディナルに委任していた。

 

「(見たところ、霊子結合を断つ能力か......?)」

 

男は多くのプレイヤーをゲームマスターの視点からでしか見ていなかったが目の前の死神だけは対等なプレイヤーとして見ていた。

 

「(それと、基本性能も大きく向上するようだな)」

 

男は、死神が始解を会得するまでの記憶を見ていなかったのでその死神の斬魄刀を見るのはこれが初めてだ。始解をした事によって最大霊圧量も上がり、これまでと違ってメノスを圧倒していた。

 

和気開錠(わけのかいじょう)

 

霊子を断ち切るその死神の技はメノス相手には効果的で──先ほどまでキリト達ができなかった四肢の切断を成功させる。そして時間が経っても四肢が復活する様子はない。

 

「これで攻撃と機動力は削いだ。いくぞ!」

 

一方のメノスもHPが減った事によりプログラムが発動したのか、自らの生命に危機感を感じたのかの何れなのかは不明だが虚閃で応戦するようになる。だが......

 

「遅い!」

 

始解状態の吹兎の敵ではない。即死級の光線を地上方向に撃たせないように誘導しながらメノス本体に肉薄する。そして......

 

「和気開錠!」

 

メノスの仮面を縦に一閃、断ち切った。

 

残心を残した一撃を加えた後──メノスはこの層独特の黒色が混ざったポリゴン片に変わり消える。そして──

 

[CONGRATULATIONS!!]

 

次の層への道が開かれた。

 

 

 

 

「「............」」

 

キリトとアルゴは死にかけた事、そしてあまりの事に言葉を失っていた。そんな中、この中で唯一吹兎に言葉をかけられるのは──

 

「お見事だ。そして助かったよフキト君」

 

ヒースクリフだけだ。

 

「フキト君。死神スキルの使い心地はどうだい?」

 

「......? 悪くはないよ」

 

「そうか。それは......良かった」

 

ヒースクリフの言葉の意味を理解できなかった吹兎だったが......

 

「(もしかしてあっさりさん(ヒースクリフ)もこのスキルの事に興味を......?)」

 

遅れて真意を理解した(誤解)。

 

──────

「じゃ、じゃあ次の層をアクティベートしてくるよ」

 

次の層が開かれ、ヒースクリフから離れたかった吹兎は(誤解)速やかに次の層に行こうと提案する。

 

「俺は......先に行っててくれフキト」

「オレっちもダ」

 

本来であればいち早く次の層を見たかったであろう二人だったが、色々な事をまだ処理しきれておらずボス部屋に座り込んでいた。

 

「私ももう少しここにいよう。フキト君、アクティベートに行ってくれるかい?」

 

「分かった」

 

吹兎は内心でガッツポーズをした(誤解)。

 

 

 

 

吹兎は一人、次の層へのアクティベートに向かいながら考えていた。

 

「(次の層は──虚や悪霊系のモンスターは出てこないようだね)」

 

今はソロで活動している吹兎だったが、一層から十層まで元々はアスナとコンビを組んでいた。現在はアスナが幽霊を怖がって十層の攻略ができないだけの事。

次の層が悪霊系モンスターではないのならアスナとのコンビ再結成を阻む理由はない。

 

「(でもアスナ、またスキルの事詮索してくるのかな......?)」

 

未だアスナから厳しいスキルについての追及を受けてから日も浅い。今戻れば結果は目に見えている。

 

「(でももう全プレイヤーに知られているだろうからアスナ一人にどうこう考えるのは違うかな)」

 

アスナと別れてから死神スキルの特効効果などの情報が運営から全プレイヤーに出された。アスナ以外もこの情報は知っている。現にキリトやアルゴ、アスナ以外の知人からも大量のメッセージが送られてきている。アスナに対する懸念を吹兎は振り払った。アスナにコンビ復活の誘いの文面を完成させる。

 

「(あ)」

 

......が、吹兎は送信しようとする手を途中で止めた。

 

「(そういえばアスナ、ヒースクリフのギルドに入ったって言っていたね。それならコンビ復活は──迷惑かな?)」

 

吹兎は作成していた文面を破棄し、フレンドリストが公開されていたウィンドウを閉じる。コンビ再復活は──アスナの血盟騎士団加入によって阻まれた。




吹兎の斬魄刀「惜鳥」は霊子を断つ能力です。したがって......虚以外のモンスターに対しては何の力もありません()

サチ

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