吹兎と赤髪の青年、クラインは黒髪の青年、キリトにゲームを教わるため野原に出ていた。
「最初はクラインからだ。フキトもそれでいいな?」
「大丈夫」
「(どうやらこのゲームは戦闘も要素の一つらしいな)」
吹兎はこのゲームが戦闘メインだという事を知らなかった。
「(なんで戦闘の時に全く関係ない動きをしてるんだ?)」
吹兎はソードスキルというものを知らなかった。
「じゃあ次はフキトな。クラインと同じようにあの青イノシシ倒してみろ。なんかあったら横で訂正するから」
キリトにそう言われ、吹兎は先ほどクラインが倒したイノシシと対面する。
「(どうせやるなら戦闘以外がしたかったけど...)」
そうは言うも、これが終わったらキリトが戦闘以外の事も教えてくれるだろうと思い、イノシシに剣を向ける。
「(浅打よりも、そして当然惜鳥よりも短い。刀...というより短剣だね)」
吹兎は自らの獲物の間合いを把握して、イノシシに向かって走る。
「えっ...お、おいキリト。あいつ...」
「あ、ああ。どうやらそのようだ」
クラインが先ほど使った、そしてキリト達プレイヤーがこれから使っていくソードスキルとは、所定のモーションをとる事によってシステムが自動で身体を動かして相手にダメージを与えるものである。そのシステム上の動きは通常の生身の動きのスピードと威力を上回る。
だが吹兎はつい先ほど浦原に薦められてこのゲームに入った存在。ソードスキルの事など知るはずがない。彼はただひたすらソードスキルではなく通常攻撃のみで攻撃を加える。ソードスキルを構えずに突進していく吹兎の様子に二人は向かい合い、吹兎がイノシシに飛ばされてから教えてやろうと笑った。
だが吹兎がイノシシに吹き飛ばされる気配はない。そして戦闘が続くにつれて二人の顔は引き攣り始める。
吹兎の攻撃、つまり通常攻撃の威力はシステム上、ソードスキルによる斬撃より劣っている。が、その速度はソードスキルに比肩、或いは上回っていた。間合いの取り方も上手く、必要最小限の動きで最大の成果を上げていた。
つまり彼は生身でソードスキルに近い動きをする事ができるという事であり、また戦い慣れているという事でもある。そして...イノシシがパリンと音を立ててポリゴン片になって消えた。つまりこれは吹兎が通常攻撃のみでモンスターを撃破した事を意味する。
弘法筆を選ばず。キリトとクラインには吹兎が歴戦の戦士であるように見えた。
「(始めたばかりでレベルも大した事ない。レベル差も大きく開いていないモンスターを通常攻撃だけで倒すなんて聞いた事ないぞ?!)」
キリトは内心で驚愕していた。
「キリト。あいつは倒したからそろそろ戦闘以外の楽しみとか教えて欲しいんだけど」
青イノシシを倒した吹兎は二人がいるところにまで戻ってそう言った。
「い、いやいやお前さん。ソードスキルの使い方もマスターしないで戦闘はもういいって...」
「ソードスキルって何?」
クラインの問いかけに答えた吹兎だったが、その返答によって場は静まり返る。
「お、お前何言ってるんだよ...?トリセツにも書いてたしネットで散々PV流れてたじゃねぇか。SAOプレイヤーじゃなくてもSNS上で話題になってたから知ってる奴は多いぞ?」
「???」
冬空吹兎は護廷十三隊の隊長である。彼が普段過ごす場所は現世ではなく尸魂界。そこにはネットもスマホも何もない。普段現世にあまり来ない吹兎からすればそれら単語は難解な鬼道の詠唱よりも意味不明な言葉にしか聞こえなかった。
「お、お前本当に知らねぇのか...」
吹兎に対して呆れた目を向けるクライン。彼の内心ではこいつ、本当に現代日本人なのか?といった疑問が生まれたが、それはあり得ないと切り捨てた。...正解であるにも関わらず。
「それよりキリト。戦闘以外でメインで楽しめるものはある?正直戦闘は別にいいかなって」
「(虚退治してるみたいで全然面白くないし)」
人間とは非日常を求めるものである。人間と書いたがそれは死神もそうである。普段戦闘などまるでしない現代日本人からしてみれば仮想世界で行われる戦闘は非日常溢れる楽しいものである。しかし死神の吹兎からすれば戦闘こそ日常的なものであり、仮想世界でも戦うのか...となるのは自然な事である。
「どうやらフキトはこのゲームの事を知らないようだけど...このソードアートオンライン、通称SAOは戦闘がメインだぞ」
「(やっぱりクソゲーだ...)」
SAOが豹変するより前にこのゲームをクソゲーだと唯一評した吹兎は早速元の世界に戻る事を決意した。
惜鳥は吹兎の斬魄刀です。
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