「(やっぱりクソゲーだ...)」
戦闘がメインのゲームである事を知ってから、吹兎はもうこのゲームから立ち去る事を決めた。
「そういえば、どうやってこの世界から出るの?」
冬空吹兎は護廷十三隊の隊長である。そんな彼が現世のゲームの知識を知る訳が無い。彼はこの世界にログインしてからメニューの一つも開いてなかった。否、人差し指と中指を上から下に下ろす事でメニューが開ける事すら知らなかった。
「えっと、こうやってメニューを開いて...あれ?」
「ん? どうしたキリト?」
メニューを開いて吹兎に教えようとするがその途中で言葉を止めた。そんな様子にクラインはどうしたのかと尋ねる。
「クライン、お前もメニューを開いてみてくれ」
そう言われクラインもキリトと同様、メニューを開いてログアウトの画面がない事に気づく。
「フキト、お前もやってみてくれ」
キリトは吹兎にメニューの開き方も教え、吹兎もこの異常の対象になっているかを確かめる。
「ん? ってうわ、いきなり画面が?!」
吹兎は二人とは違うところで驚いた。そして吹兎が驚いたと同時に辺りが真っ白に包まれる。そして...
「「「!?」」」
三人は...否、全プレイヤーが広場に集められた。
──────
「プレイヤーの諸君。私の世界へようこそ」
開口、プレイヤーを一箇所に集めた犯人とされる者はそう言った。顔は隠されて分からないが男の声だ。
「私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ」
男がそう名乗るとプレイヤー達の熱は一段階高まった。
「キリト。カヤバアキヒコって?」
「お前SAOやってて茅場晶彦知らねぇのか!?」
「茅場晶彦はSAOを作った人間だ。でも滅多にメディアに顔を出す人間じゃなかったはずなんだが…」
吹兎の問いかけにクラインが驚き、キリトが答えた。茅場はプレイヤー達の興奮を気にせず更に続ける。
「プレイヤー諸君は既にメインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気づいていると思う」
それは吹兎が先ほどキリト、クラインと一緒に確かめた事だった。そして天才技術者と名高い茅場晶彦の耳にその異常が届いている。すぐにプログラムの修復が行われると誰もが思った。このアナウンスは不具合の謝罪なのだと誰もが信じた。
「しかし、これはゲームの不具合ではない。これはソードアートオンラインの本来の仕様である」
だが予想は、そして期待は裏切られる。多くのプレイヤーは彼の言ってる意味が分からない。まだ彼らがこの仮想世界に閉じ込められたとは気づいてない。護廷十三隊の隊長の吹兎はただ冷静に情報を集めていた。
「諸君は自発的にログアウトする事はできない。また、外部の人間によるナーヴギアの停止、或いは解除もあり得ない。もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号阻止が発する高出力マイクロウェーブが諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる」
その言葉でようやく物事の深刻さに気づく者が現れ始める。だが、大多数は依然としてこれをゲームのイベントか何かだと思い込んでいる。
「残念ながら現時点でプレイヤーの家族、友人などが警告を無視し、ナーヴギアを強制的に解除しようとした例が少なからずあり...その結果213名のプレイヤーがアインクラッド及び現実世界からも永久退場している」
「……」
「…213人だって?」
吹兎は手を口にあてて考え込み、キリトは犠牲者のあまりの数に信じられないといったような顔をする。
「信じねぇ! 俺は信じねぇぞ! っていうかフキト! 何でお前はそんなに余裕ぶってんだよ!」
「別に余裕な訳じゃない。ただ分析には冷静さがいる。クライン、今は感情を殺して頭を動かせ。…死ぬぞ」
「ッ!?」
恐慌状態の精神は一瞬、それより強いショックを与える事で正常となる。吹兎はクラインに一瞬殺気をぶつけて彼の恐慌を解いた。
茅場はプレイヤーに見えるように複数のモニターを展開する。それは様々なメディアによるこのソードアートオンラインについての記事であった。
「ご覧の通り、多数の死者が出た事も含めてこの状況をあらゆるメディアが繰り返し報道している。よって、既にナーヴギアが強制的に解除されるといった危機は限りなく低いだろう。諸君らは安心してゲーム攻略に励んでもらいたい。
しかし、十分に留意してもらいたい。今後、ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。HPがゼロになった時点で諸君らのアバターは消滅し...諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される」
その十分な情報によって全プレイヤーはようやく事態を飲み込んだ。が、理解したはいいものの感情がまだ事態に追いついていない。
「(...無理もないな)」
全員が未だ現実を受け止められず呆然とするのみ。
「諸君らが解放される条件はこのゲームをクリアするより他はない。現在君たちがいるのはアインクラッドの最下層の第一層。各層のフロアボスを倒す事によって上の層へと進む事ができる。そして...第百層にいる最終ボスを倒せばゲームクリアだ。そして最後に君たちのアイテムストレージに私からのプレゼントを用意してある。確認してくれたまえ」
茅場がそう言うとキリト、クライン含め全プレイヤーがアイテムストレージを確認しようとする。
「待て! 罠かもしれないのに敵の言葉をそう簡単に信じるな!」
吹兎は声を上げて周囲に警戒を促す。
「安心したまえ」
吹兎のその言葉に答えたのは茅場であった。
「即座に私を敵と認め、私の行動を一つずつ観察し情報を集め、そして掛けられた言葉を罠として疑う。実に素晴らしい。だが今回はその警戒は杞憂でしかない。そのアイテムは単純に君達が、この世界をより現実に感じてもらうためのものでしかない。それに君たちに危害を与えることが目的なら私にこのような回りくどい手段を採る必要はない。君たちの命は文字通り、私の掌の上にあるのだから。君の左隣の青年を見てみるといい」
茅場に指差された先には...先ほどまでとは全く容姿の違う男が立っていた。しかしその姿勢、立ち振る舞いから吹兎はすぐに彼がクラインであると悟った。
「(クラインと周囲のプレイヤーの様子からしてあの鏡は単純に見た目を現実世界のものにするものか)」
「キリト。アイテムストレージの開き方を教えてくれ」
「えっ? あ、ああ。お前機械音痴だったな。ここをこうして...こうすればいいんだ」
キリトにアイテムストレージの開き方を教わった吹兎は即座に手鏡を使った。
...吹兎は自分があの胡散臭い商人の姿である事が実は結構嫌だった。
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