「「......」」
吹兎が手鏡を使うとキリトとクラインは目を丸くして彼を見る。胡散臭い浦原喜助の見た目は真っ直ぐな面持ちの吹兎へと変わる。
「吹兎...」
「お前...」
キリトとクラインは吹兎の変貌を見て同じ感想に至ったようで...
「「アバター作るセンスねぇな」」
浦原の見た目が悪い訳ではない。むしろいい。だが、あの胡散臭さはどうにかならなかったのか? と吹兎のセンスのなさに二人は苦笑した。
「諸君は今、なぜと思っているだろう」
「「!!」」
吹兎は当然意識を外さなかったがキリトとクラインは吹兎のその変貌で一瞬忘れていた。まだ茅場の演説の途中であり、自分達がこのアインクラッド世界に閉じ込められているという事を。
「なぜソードアートオンライン、及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんな事をしたのか、と」
「(真っ先に思い浮かぶのは意識の解放と引き換えに身代金を...。この状況は身体こそそのままだが構図はまさに営利誘拐だ。それも従来のものよりも犯人が捕まるリスクが低い。人質に素顔を見られるリスクもないし...)」
吹兎は茅場の目的を脳をフル回転させて推理する。
「私の目的は既に達せられている。私はこの世界を創り出し、鑑賞するためにソードアートオンラインを開発した」
「(違った)」
吹兎の推理は一ミリも掠る事なく外れていた。
「そして今、全ては達成せしめられた。...以上でソードアートオンラインの正式チュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る」
そう言って茅場は姿を消した。...そしてようやく全プレイヤーが正しく状況を理解した。訪れるのは当然...
「いや...いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うわああああああああああ!!」
「ここから出してくれぇぇぇ!!」
パニックである。そのパニックの中...
「ちょっと来いフキト、クライン」
キリトに二人は手を引かれる。
「よく聞け、二人とも。俺はすぐに次の村へと向かう。お前らも一緒に来い」
「え?」
「......」
この世界では吹兎という例外はいるがレベルの数字によって強さは決まる。この世界での死が現実世界での死を意味するのなら効率良くレベルを上げることが現実の命を長らえる事に直結する。キリトは元ベータテスターである。効率の良い狩場も知っている。
「始まりの街周辺のフォールドはすぐに狩り尽くされるだろう。効率良く稼ぐためには次の村を拠点にした方がいい。俺は道や危険なポイントは全て知ってるからレベル1でも安全に辿り着ける」
キリトはSAOでできた友達を見捨てる事などしたくなかった。
「でも俺は他のゲームでもダチだった奴と徹夜で並んでSAOを買ったんだ。そいつらもさっきのフィールドにいるはずだから...置いてはいけねぇ」
しかしクラインはその申し出を断った。
「(フキトは動きがいい。戦闘の勘と体捌きは俺よりも上だ。だがソードスキルを使えなければそれも限界が来る。今の俺ではフキトとクラインだけで守るのは精一杯だ。あと二人...いや一人増えただけでも守りきれるとは...)」
キリトのその考える顔を見て、キリトよりも長く生きているクラインは彼の考えが読み取れた。
「悪りィ。お前にこれ以上世話になる訳にはいかねぇよな。だから俺のことは気にしないで二人で先に行ってくれ! 俺だって前のゲームじゃギルドの頭張ってたんだ。オメェに教わったテクで何とかしてみせるぜ! 何、なにかあったらメッセ飛ばすからよぉ!」
そう言ってクラインは広場の方へと走り去っていった。徹夜で並んだ仲間を探しに行ったのか、あるいはキリトとフキトに気を遣ったのか。
「...じゃあ行くぞフキト」
あまり時間に猶予がある訳ではない。キリトは急いで向かうよう、吹兎に急かす。だが...
「ごめん。僕も行けないよ。僕は広場の周辺のモンスターを倒すよ」
吹兎も首を横に振った。
「なっ! 何でだ!? 街の周辺のモンスターは強さの割に経験値は大した事は...」
「だからだよ」
冬空吹兎は護廷十三隊の隊長である前に一人の死神である。死神として人間とは守らなくてはならない存在である。そして全ての魂魄は等しく守らなければならない。経験値が少ないのなら、腕の立つ人間はそのエリアで狩りをしないだろう。そして広場を見渡せばあのパニック状態。死人がどれだけ出るのかも分からない。
「確かにあのパニック状態だと弱いモンスターでも足を取られるかもしれない。でもそれでお前の生存確率を下げる必要はないだろ!」
キリトが言ってる事は正論だ。綺麗事を言ったところで誰かを蹴落とさなければ生存すら厳しくなるのがこの世界だ。誰かを蹴落とさなければならないのは現実世界でも同じだがこの世界ではその比はまるで違う。...だが吹兎は正義感から綺麗事を言ってる訳ではなかった。
「今、自分可愛さで助けられたかもしれない命を見捨てて生き残ったとしても...明日の僕はそれを笑うだろうからさ」
最初に刀を握った時から覚悟はできている。こんなふざけた世界に閉じ込められて、自分の力も十分に発揮できない状況だったとしても...人間を守るためなら自分の命すら投げ出す事ができるのが死神だ。SAOに閉じ込められたのは1万人という大人数ではあるが、そんな覚悟を持った人間など吹兎一人だけだろう。
そしてこれはキリトに対して判断を鈍らせて罪悪感を持たせかねない事だとも吹兎は分かっていた。
「僕はこの混乱で死ぬ人を一人でも減らす。だからキリトはレベルを上げて、一日でも早くこのゲームをクリアしてみんなを解放してくれ」
それがキリトに責任を持たせる行為だとしても、罪悪感を持たせるよりはいい。そして戦士に命の心配をするのは最大の侮辱である。
「ああ!」
キリトの目には強い魂が宿った。
「じゃあお前も何かあったらメッセージ送ってこいよ!」
「...メッセージって何?」
このいい雰囲気をぶち壊すのは吹兎の機械音痴であった。
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