「う、うわああああああ!!」
茅場の演説が終わった直後、会場は壮絶な大パニック状態であった。SAOではHPがゼロになれば現実の命も奪われる。そしてそのHPは主にモンスターの攻撃を受ける事で減少する。さて、会場が大パニックになった後、最初に誰が動いたか。言うまでもなく情報優位に立っていたベータテスター達であった。
彼らはこのゲームの経験値の上げ方を知っている。ある者は既に知っている狩場へ、ある者は次の街を拠点とするために広場から走り去っていった。
次に動いた者はベータテスターではないニュービーの中でもオンラインゲームをやり慣れた人達や、サービス開始前から情報を集めたりサービスが始まった後で情報をかき集めた者たち。彼らもベータテスターよりは一歩遅れる形とはなったがしかし彼らもベータテスターと同じように狩場へと向かうために広場から立ち去った。
結果、広場にはニュービーかつ、オンラインゲーム自体あまりやった事がない者たちが残った。多くの人間が広場から立ち去っていったが広場に残った者たちはその行き先が分からなかった。しかし深刻な顔をして広場から出ていく者たちの顔を見て、ここに留まる事はいけないという事は分かったらしい。
彼らはただパニックに駆られて一人、また一人と広場から逃げていった。広場を出て、フィールドに出るとそこにはモンスターが。しかし広場近くのこのモンスター達はレベルの割に経験値は大した事がない。初心者の彼らが広場に出た頃には経験者達の姿などどこにもなく、ただモンスターがいるだけであった。
「キャァァァ!!」
モンスターの内の一体、青いイノシシのような Frenzy Boar が一人の少女に向かって突進していった。普通の精神状態であれば初心者であっても難なくこのモンスターくらいは倒せるだろう。だが少女は酷いパニックに陥っている。眼前に迫るイノシシは少女にとってはまさに死の象徴であった。恐怖で少女の足は動かない。少女にできる抵抗は最早目を閉じて恐怖を和らげる事だけであった。
「シッ!」
SAOには痛覚はない。それでも吹き飛ばされれば何かしらの感覚は覚える。しかしどれだけ待っても少女に衝撃は伝わってこなかった。恐る恐る目を開くと...片手剣でイノシシに連撃を与えて...ポリゴン片に変えた男が立っていた。
「あの...」
「今、たくさんの人がモンスターに襲われている。ドロップアイテムはここに置いていくからあまり無理はしないで。混乱が収まるまで街に留まる事も一つの選択肢だから」
「あ、あの!」
男はイノシシを倒した後、少女の礼を受け取るよりも早く去っていった。
──────
SAOのゲームが始まって一ヶ月が経った。犠牲者も少なくなく
アインクラッドでその男の噂は有名だ。その男は主に初心者プレイヤーがモンスターに襲われてピンチの時に颯爽と現れて、ソードスキルを使わずに連撃を与えてモンスターを倒すというもの。
普通であれば他人の戦いに横入りする事はSAOではマナー違反とされる。経験値は関わった人間全てに等しく入るが、ドロップアイテムはラストアタックを決めた者に入るからである。
しかしこの男は自分が倒したモンスターのドロップアイテムを全てその場に置いてから立ち去るのである。そんな、割に合わない行動を例え連戦で自分のHPバーが赤色でも実行する狂気のプレイヤーの事が有名にならない訳がなかった。
そして彼の仕事もまた一段落がついたところだ。アルゴというプレイヤーが初心者向けにも情報を発信した事で初心者の死亡者が急激に減ったからである。今では一日の死亡者0も珍しくはない。無論、目に届く範囲でピンチのプレイヤーがいれば何も躊躇せずに助けに入るが、毎日フィールドを巡回する必要ももうないだろう。
吹兎もようやく攻略に取り掛かろうと、そう考えた。だがこの1ヶ月。ほぼ休みなく動いてきた彼の精神は...流石に疲れきっていた。
「少し休もう」
モンスターの襲撃を受ける事もない安全な街にサービス開始日以降初めて足を踏み入れ、彼は休息に入った。
聡明な皆様でしたらすぐ分かるかと思いますがこの襲われた少女。あの子です。別に大した伏線ではありませんがよろしくお願いします。
現在の吹兎ではソードスキルが使えないのでザコ敵でも一撃で倒せないのです()
原作の犠牲者の数は2000人。ベータテスターの全体が1000人だけど犠牲者はベータテスターが多かったという話なのでかなり強引ですがベータテスターの半分が死んだと解釈しました。吹兎の活動によってベータテスター達は救われていません。あまり今後の話で重要な部分ではありませんが一応。
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