[CONGRATULATIONS!!]
大ボスがポリゴン片に変わった後に現れたそのメッセージを見て場は歓喜に沸いた。サービス開始から一ヶ月にしてようやく第一層がクリアされたのだ。それは全体の百分の一でしかないが、全プレイヤーに対してクリアは不可能ではないという希望を確かに与えるものだろう。
もし最後にクリアしたプレイヤーが吹兎ではなくキリトであったらキバオウなどのプレイヤーが騒ぎ立てていたかもしれないがその心配はない。吹兎は知らないが彼らはベータテスターというものを過敏に嫌っている。だが目の前の吹兎は...ボスの攻撃を完全に捌ききった事から一瞬ベータテスターかと思ったが、身につけているのは初期装備であり、極め付けはソードスキルを全く使用していない事から誰もが吹兎がベータテスターかどうかについて......
「「((ないな))」」
と断言した。
戦闘力はともかくゲームとしての強さは明らかにこの場にいる誰よりも吹兎は下だったのである。場が盛り上がる中、一人のプレイヤーが吹兎に近づく。
「君は俺を糾弾しないのかい?」
場が盛り上がった事で吹兎にかけるディアベルの言葉は他のプレイヤーには聞こえない。ボスをクリアし、冷静になればあの時ディアベルがラストアタックボーナス狙いで単騎突撃した事は明らかである。それは他の攻略メンバーへの裏切りに近いものであった。
「俺の身勝手で君に迷惑をかけた。俺のせいで君は死にかけた」
それは一つの贖罪のように、ディアベルは心の内を話し出した。
「今回のレイドは複数のギルドの集まりだった。ドロップボーナスもこれからの攻略の上で豪華なものだ。ラストアタックのために団結が崩れる可能性があった。ボス討伐の後にドロップアイテムの事で揉める可能性もあった。だから全体の指揮を取った俺が一旦獲得し、その後配分する事で穏便に済ませる事ができると...本気で思っていた。
...だが君を巻き込んでしまった時、俺の心にあったのが本当にそれだけなのか...分からなくなってしまった...。シミュレーションを十分にしたとしても予想外の事が起こるかもしれない。それなのに俺は先走った。俺は...みんなのためにしたのか...自分のためにドロップアイテムを取りに行ったのか...今じゃ分からなくなってしまったんだ...」
その嘆きを聞いて吹兎は...菩薩のような笑みを浮かべていた。別にディアベルを許した訳ではない。ただ...
「(レイド? ドロップボーナス? ラストアタック?)」
知らない単語が多すぎて理解できなかったのである。メッセージをようやく送れるようになったとは言え、現代文明のゲームの事など全く分からないおじいちゃんのようであるから。
「結果として犠牲は0に抑えられた。あんたの攻撃で彼は窮地に立たされたが...それでも最悪の事態は起こらなかった」
ディアベルに対して何も言えない吹兎に代わってエギルがそう答えた。そしてやり取りの途中からキバオウ含めて多くのプレイヤーがその会話に聞き入っていた。
「...正直ディアベルはんがラストアタック狙っとったとか聞いて驚いたが...あんたがいなかったらこの層クリアできんかったのも事実や。ディアベルはん...第一層クリア、おめでとう」
──────
「お前なんて動きだったんだよ...」
「そうよ! 私より速かったじゃない!」
ディアベルをキバオウに持っていかれた事によって吹兎はキリト、アスナの元に帰っていった。アスナはボスの攻撃の際にフードが取れてしまったようでその素顔を晒していた。
「アスナ。フキトはサービス開始日からソードスキルこそは使えなかったがすごい体捌きをしていたんだ」
「ねえ、ちょっと前から聞きたかったんだけどさ。なんで私の名前知ってるの? 私、名乗った覚えないんだけど」
尚、吹兎は今初めて彼女の名前がアスナである事を知った。前回は流れるようにキリトが言ったためよく聞き取れなかったのである。
「この辺に自分の名前以外が書かれたHPゲージ見えるだろ?」
キリトが指差した場所を吹兎とアスナは見る。そして...
「「あっ」」
Kirito, Asuna, Fukitoと書かれていた。
──────
「それよりお前さん、ラストアタックボーナスで手に入ったアイテムはもう確認したか?」
色黒の男、エギルが吹兎にそう話しかける。ディアベルがああしてまで取りたかったラストアタックボーナス。それを一目見ておきたいのだろう。吹兎は(キリトに教えてもらいながら)アイテムストレージからアイテムを取り出す。どうやら防具のようで、吹兎は装備してみる。ついに初期装備からの脱却である。
「着物か。SAOじゃ初めて見るな」
ベータテスターとしても、このSAOで最高の知識を持つキリトでも和装は初めて見るようである。
「黒の着物...。一見地味に見えるけど奥ゆかしいわね」
実家が名家であり、着物を着る経験があったアスナから見てもデザイン面は全く問題なかったようである。
「家内が着物をよく着るが...あまり見た事ないタイプだな」
見た目は明らかに外国人ではあるが親日家であり、生粋の日本人よりも着物の造詣に深いエギルでもあまり見た事がないタイプだったようである。そして吹兎もサービス開始時に茅場から受け取った手鏡で自分の姿を見るが...
「......」
「(どうして?)」
そこに写っていたのは斬魄刀を加えればまるで三席の時のような格好であり、その着物は死覇装以外の何物でもなかった。
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