仮想世界に立つ冬空の死神   作:マイケルみつお

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本来は霊圧だけではなく霊力、霊子など複雑ですがカーディナルはそれらを全て霊圧と表記しています。


9話 僕は幽霊

 十層が解放されたその日。全アインクラッドのプレイヤーに衝撃が走った。新スキルの実装というアナウンスが運営から流されたのだ。スキルの名は...死神スキル。スキルの説明動画が流される。

 

アインクラッドができるより前の世界の創世期。世界は三つに分かれており、そのバランサーが死神であるというプロローグから始まり、死神スキルでできる事が次々に説明されていく。

 

死神スキルを身につけたプレイヤーはHPゲージとは別に時間と共に自動回復する霊圧ゲージというものを持っており、それを使用する事によってあらゆる事ができるようになる。死神スキルを得ると貰える斬魄刀という刀に霊圧を纏わせれば攻撃力が上昇し、四肢に纏えば体術が向上する。足裏に使えばより速く移動する事ができる。

 

そしてプレイヤーが最も魅力に思ったのは霊圧を空中に固めて宙に立つ事ができるというもの。無論これらを使用している間は断続的に霊圧を使用する事になるがそれでも魅力的な機能であった。空を飛ぶとは少し違うがそれでもリアルの日常では決して感じることができない感覚。死神スキルを使えばソードスキルが使えなくなるといったデメリットもあったがそれでもプレイヤーは死神スキルを使いたいと強く思い、多くのプレイヤーがチュートリアルに勤しんだ。

 

死神スキルを習得するためにはチュートリアルを完了する必要があるが、そのチュートリアルは全プレイヤーが受ける事ができるものだった。スキルの習得に特殊な条件はなかったのである。

 

ある者はより強さを求めて、ある者は攻略組と肩を並べるため、そしてある者はより強い好奇心から死神スキルのチュートリアルを受けた。...が、誰一人としてチュートリアルを突破できた者はいなかった。本職(吹兎)以外は。

 

チュートリアルの難易度は明らかに異常であった。既存のソードスキルのような体勢指定などではなく「身体の内からエネルギーを練り出すように」といった曖昧模糊な指示や「横隔膜をこの程度上げるように」など理不尽で不可能な指示であったからだ。

 

即座にプレイヤーはこのスキル実装を運営の冷やかしであると結論づけて放棄した。

 

「......」

 

護廷十三隊の死神である吹兎は容易に習得できたがしかし不満といった表情であった。なぜ不満だったのか? 容易すぎたからである。チュートリアルで示された行動や動きというものは真央霊術院で学ぶような教科書通りの動きではない。あれらは全て、吹兎の霊圧を練る時の動作であった。

 

例え同じ死神でも幼馴染のルキアや桃。そして上司だった浮竹でも恐らくできないであろう。あれは吹兎が自分のために最適化した動きであり、吹兎の癖のようなものだからである。

 

「(だからこそ気に入らない)」

 

死覇装や尸魂界の景観だけであれば茅場が何かしらの霊能力者である可能性もあった。

 

「(人間でも霊能力者なら斬れたが...)」

 

恐らく被ったナーヴギアとやらで吹兎の記憶を覗いたのだろう。実際吹兎の考えは正しい。尤も吹兎の記憶を覗いたどころでアインクラッドのクエスト生成などを執り仕切っているカーディナルは霊圧というものを知覚する事はできなかったためその時の吹兎の筋肉の動きなどでスキルを実装したのである。

 

死神スキルをオンにすれば服装は自動的に死覇装に着替えさせられ武器は自動的に斬魄刀に持ち替えさせられる。ソードスキルは一切使えなくなり、霊圧ゲージの量などを決めるレベルも数字ではなく席次で表せられるようになる。最初は平から始まり撃破数などで経験を積めば20席、19席と上がっていきその都度霊圧ゲージも増えていくという仕様である。

 

元々ソードスキルなど全く使えず、また死神として本来に近い動きができるため吹兎は常時死神になる選択をした。従来の感覚で戦ってもすぐに霊圧が尽きてしまうという悩みこそあったが、ソードスキルがない頃より吹兎は輝いた。

 

「私にもコツ教えてよ!」

 

「俺も頼む!」

 

アスナと、ボス攻略会議でもないのに顔を出したキリトが唯一チュートリアルを突破した吹兎に対してコツを教わりにくるのはある種当然な成り行きであった。

──────

 「なんであの説明だけでできるのよフキトくん!」

 

吹兎は二人には説明動画以上のコツなんてないと言ったのだがアスナは諦められずにこうして食い下がっている(キリトは既に明日またコツを聞きにくるからな! と宣言している)。

 

「いや、だから僕もあの動画以外に何かヒントがある訳じゃないよ。感覚的というか...たまたまできちゃったっていう方が近くて」

 

霊術院で教わる動作は教えやすさ、そして一般化に重点を置いて改良を重ねたものである。それであれば感覚を言語で伝える事はできるが今回のように、個人に最適化したものであれば話は違う。

 

「とりあえず、探索に行こうよ」

 

「分かったわ。でもまだ私、諦めてないから」

 

そう言ってから二人は居住区から出た。

 

「(安全圏の居住区が瀞霊廷でそれ以外が流魂街だね。しかしそれにしても...よく似ている。僕の記憶そのままだ)」

 

この街の設計は間違いなく吹兎の記憶から読み取っているため彼の記憶そのままである事は当然なのだがしかし正確に記憶を読み取ってるなと吹兎は感心した。勝手に記憶を覗かれた怒りはまだ消えていないが。

 

「そういえば...ちょっとポーションが足りないわね」

 

「それなら近くに店があるよ。着いてきて」

 

そう言ってから吹兎は何度も通った道を歩いて目当ての店にアスナを案内する。それは吹兎が死神になるまで世話になった、雛森と冬獅郎の祖母が経営していた店だ。

 

「(店員のNPCが店長の姿をしていたら本気で怒っていたけど......)」

 

店の造形はそのままでも店員は吹兎の知る老婆ではなく、フゥと息をついた。が、アスナは強烈な違和感に襲われた。

 

「ちょっと待ってフキトくん。ここに来たの初めてだよね? どうしてお店の場所が分かったの?」

 

吹兎とアスナ、キリトで街を開放した後すぐに死神スキルの説明が全プレイヤー向けに行われた。吹兎はすぐに使えるようになりアスナとキリトは今朝までそのコツを教わるようにせがんでいた。わざわざ宿代を払ってまで吹兎を引き止めた。彼がフィールドに出ている訳が無い。事実、吹兎はいつものパトロールを今日はしていない。

 

言える訳がない。この街は自分の記憶から再現したものであり、その記憶に従ってここまで来ただけだなんて、言える訳がない。

 

「......」

 

ポーションを買った後でも二人の間では微妙な空気が支配していた。特に言葉を発する事なく二人は歩を進める。その時、

 

「ウォォォォォ!」

 

ここはフィールド。安全圏の居住区ではなくモンスターが発生する。そして尸魂界でモンスターと言えば...虚である。

 

「えっとなになに...虚とはひっ! 悪霊?!」

 

フィッシュボーンD。図体は大きく顔は魚のような見た目で恐ろしいが強さは大した事がない。雑兵だ。

 

「ゆ、幽霊っ...?!」

 

が、強さは大した事なくともどうやらアスナは幽霊が苦手なようで虚を前に足を震えさせ怯えている。

 

「(この死神スキルとやらがどんなものか確かめるには丁度いいかな)」

 

アスナが無理なら吹兎が斬るしかない。吹兎は腰に差してあった浅打。霊術院の時に使っていたものと同じ感覚の刀を抜き跳躍。死神の時と同じ感覚で斬術を使用。霊圧ゲージが減るのを確認しながらもフィッシュボーンDを斬りつけた。が、虚が消滅する事はなかった。

 

「(霊圧があまりにも少なすぎる。平隊士よりも余裕でレベル低いよ...)」

 

普段と同じ感覚で霊圧を使用したため虚を斬りつけるよりも早く霊圧が尽きてしまい倒すまでのダメージを与える事ができなかった。

 

「(色々試してみたけど...瞬歩と鬼道も使えないね。これは霊圧が足りないからとかそんな感覚とは違うな)」

 

吹兎は霊術院の頃からある体質によって霊力は多かった。故に霊力を温存しながらの戦いというものをあまり経験した事がなかった。

 

「(でも感覚は掴めた。次は斬れる!)」

 

が、冬空吹兎は十番隊隊長。戦闘の経験は群を抜いている。すぐにその感覚にも慣れ...

 

「ハァッ!」

 

今度は寸前まで霊圧を使用せず斬術にて虚を斬り裂いた。倒された虚は水色のポリゴン片ではなく虚が浄化される時に生じる黒が混ざったポリゴン片となって消えた。

 

「...ッ! 幽霊なんて聞いてないよっ」

 

虚を倒した後、振り返ってみればアスナは自らの身体を守るように抱きしめ、目尻に涙を浮かべていた。

 

「とりあえず居住区に戻ろうか」

 

震えるアスナの手を引きながら居住区へと歩き出した。その道中。

 

「茅場晶彦も趣味が悪いわよね。幽霊なんて現実にはいない。あくまでゲームの中の存在なのに」

 

「いや、幽霊はいるよ?」

 

「えっ」

 

「(僕、幽霊だし)」




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